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学園編
27. 弟から感謝の言葉
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「おじ上!」
「リュカ、おはよう。よく眠れたか?」
「はい」
「義姉上、おはようございます。エウリーチェ、オリュフェス、おはよう」
「おはようございます。叔父上」
帰ってきた翌朝、お義姉さんと子どもたちと一緒に朝ご飯だ。一番目のお兄さんは、すでにお仕事に出たらしい。
火の子はウィオを見つけて、うれしそうな、けれどホッとした顔をした。弟くんは、そんな火の子を見て肩をポンポンとたたいている。二人の間にわだかまりが残ってなくて何よりだ。
食卓につくと、手早く朝食が運ばれてくる。もちろんオレの分も薄味で作られた同じ料理だ。
「叔父様、薬草採取のことを教えてください。アチェーリ王国との間にある山ですよね。授業で習いました」
「不思議な植物がたくさんあった」
「姉上、どんな山なのですか?」
お姉ちゃんがあの山のことを話して聞かせてくれたけど、授業では、不思議なところで成り立ちはよく分かっていない、と説明されたそうだ。スフラル王国のアーグワの湖のように魔物がいないなら、神の関与を一番に考えるだろうけど、あの山はとんちき動植物があるだけなので、判断が難しいんだろう。まさか神様が実験して遊んでるなんて思わないだろうし。
みんなで和やかに、薬草採取や魚のことを話しているのを聞きながら、美味しい朝ご飯を食べる。もぐもぐ、うまうま。
料理長さんはまだ交易都市ナーバルで魚料理の修行中だけど、お屋敷に残った料理人さんたちの食事も美味しい。
きっと料理長さんが戻ってきたら、魚料理パーティーが開かれるんだろうなあ。今から楽しみだ。
食事が終わると、お姉ちゃんと弟くんは学校だ。お義姉さんは、お茶会の準備があるらしい。
それぞれがこのあとの予定に向けて準備を進める中、ウィオは火の子を話に誘った。
落ち着いて話せるようにと、火の子の部屋に案内されたので、オレも一緒に入ってウィオの足元に丸くなる。
お茶を置いて、使用人たちが部屋を出てから、ウィオが静かに切り出した。
「リュカ、不安をちゃんときいてやらなくて悪かった」
「おじ上はなにもわるくありません。私が……」
火の子は暴走を思い出したのか、下を向いてしまった。
「不安なときは、不安だと言ってほしい。私はまだリュカの気持ちを分かってやれない」
「そんなことありません」
「ある人に、学園長一年目は見習いだと言われた。まだいろんなことが上手くできない。だから、リュカに助けてほしい」
優しい顔で火の子に自分も完ぺきではないのだと話しているウィオは、初めて出会ったころに比べれば、周りの感情に敏感になった。きっとこれから学園の子どもたちと関わって、少しずつ子どもの気持ちに寄り添っていくのだろう。
「ヴィンセントがもうすぐ遠征に行く。だからその前に行って帰ってこようと急いで出発した。それを説明するべきだったな」
「そうだったんですね」
「不安だっただろう。すまない」
「……こわかったです」
「そうか」
絞り出すような声で、「兄上がやけどしなくてよかったです」と言った火の子の頭を、ウィオがそっとなでる。
「私も子どものころ、私の兄上、リュカの父上を傷つけたことがある」
「おじ上も?」
そんなことがあったのか。ウィオは氷属性だから、鋭い氷でけがをさせたか、凍傷になったか、どっちかだろう。
ブラコン気味な一番目のお兄さんは、愛情を持ってなんだかんだとちょっかいをかけるけど、ウィオは二番目のお兄さんに比べてどこか一線を引いている気がしていた。それは過去のことが関係しているのかもしれない。
「それでも兄上は可愛がってくれた。いまでも仲がいいのは、見ていてわかるだろう」
「はい」
「オリュフェスに感謝を伝えなさい。私は昨日やっと伝えられた」
きっと昨夜、初めてお兄さんたちに、あらためてちゃんと感謝の言葉を伝えたんだろう。もちろん、その前からウィオの気持ちは伝わっていただろうけどね。それでも、口に出すのは大切だ。火の子も、謝ってはいるだろうけど、ありがとうは伝えてないんじゃないかな。
火の子がこの家に引き取られたころから、兄として火の子を守ろうと頑張っていた弟くんの存在は、きっと火の子の心を支えているはずだ。二人を見守っている、しっかりもののお姉ちゃんも。同じようにお兄さんたちに守られていたウィオだから、火の子の気持ちも分かるのだろう。
決意を込めてうなずいた火の子の横に座って、ウィオは背中をそっとなでた。いままでよりも、火の子との距離が近いし、身体に触れている時間が長い気がする。
何度も飛びついてなでてと言い続けたから、オレのことは気軽になでてくれるようになったけど、火の子や弟くんたちには触れようとしなかった。
もしかしたら、ウィオが子どものころ、お兄さんになでられて安心していたのかもしれない。それを昨日の話し合いで思い出したのかも。
ちっちゃいウィオがお兄さんたちによしよしされているところはきっと可愛いだろうなあ。と想像していたら、ウィオににらまれた。なんで!
あとで聞いたら、よからぬことを考えている顔をしていたって言われたけど、それどんな顔?
オレがいると、ウィオが心の内を口に出しずらいかもしれないと思い、オレは入り口の扉をカリカリして、外に控えている使用人さんに扉を開けてもらって外に出た。二人でゆっくり話すといいよ。
「リュカ、おはよう。よく眠れたか?」
「はい」
「義姉上、おはようございます。エウリーチェ、オリュフェス、おはよう」
「おはようございます。叔父上」
帰ってきた翌朝、お義姉さんと子どもたちと一緒に朝ご飯だ。一番目のお兄さんは、すでにお仕事に出たらしい。
火の子はウィオを見つけて、うれしそうな、けれどホッとした顔をした。弟くんは、そんな火の子を見て肩をポンポンとたたいている。二人の間にわだかまりが残ってなくて何よりだ。
食卓につくと、手早く朝食が運ばれてくる。もちろんオレの分も薄味で作られた同じ料理だ。
「叔父様、薬草採取のことを教えてください。アチェーリ王国との間にある山ですよね。授業で習いました」
「不思議な植物がたくさんあった」
「姉上、どんな山なのですか?」
お姉ちゃんがあの山のことを話して聞かせてくれたけど、授業では、不思議なところで成り立ちはよく分かっていない、と説明されたそうだ。スフラル王国のアーグワの湖のように魔物がいないなら、神の関与を一番に考えるだろうけど、あの山はとんちき動植物があるだけなので、判断が難しいんだろう。まさか神様が実験して遊んでるなんて思わないだろうし。
みんなで和やかに、薬草採取や魚のことを話しているのを聞きながら、美味しい朝ご飯を食べる。もぐもぐ、うまうま。
料理長さんはまだ交易都市ナーバルで魚料理の修行中だけど、お屋敷に残った料理人さんたちの食事も美味しい。
きっと料理長さんが戻ってきたら、魚料理パーティーが開かれるんだろうなあ。今から楽しみだ。
食事が終わると、お姉ちゃんと弟くんは学校だ。お義姉さんは、お茶会の準備があるらしい。
それぞれがこのあとの予定に向けて準備を進める中、ウィオは火の子を話に誘った。
落ち着いて話せるようにと、火の子の部屋に案内されたので、オレも一緒に入ってウィオの足元に丸くなる。
お茶を置いて、使用人たちが部屋を出てから、ウィオが静かに切り出した。
「リュカ、不安をちゃんときいてやらなくて悪かった」
「おじ上はなにもわるくありません。私が……」
火の子は暴走を思い出したのか、下を向いてしまった。
「不安なときは、不安だと言ってほしい。私はまだリュカの気持ちを分かってやれない」
「そんなことありません」
「ある人に、学園長一年目は見習いだと言われた。まだいろんなことが上手くできない。だから、リュカに助けてほしい」
優しい顔で火の子に自分も完ぺきではないのだと話しているウィオは、初めて出会ったころに比べれば、周りの感情に敏感になった。きっとこれから学園の子どもたちと関わって、少しずつ子どもの気持ちに寄り添っていくのだろう。
「ヴィンセントがもうすぐ遠征に行く。だからその前に行って帰ってこようと急いで出発した。それを説明するべきだったな」
「そうだったんですね」
「不安だっただろう。すまない」
「……こわかったです」
「そうか」
絞り出すような声で、「兄上がやけどしなくてよかったです」と言った火の子の頭を、ウィオがそっとなでる。
「私も子どものころ、私の兄上、リュカの父上を傷つけたことがある」
「おじ上も?」
そんなことがあったのか。ウィオは氷属性だから、鋭い氷でけがをさせたか、凍傷になったか、どっちかだろう。
ブラコン気味な一番目のお兄さんは、愛情を持ってなんだかんだとちょっかいをかけるけど、ウィオは二番目のお兄さんに比べてどこか一線を引いている気がしていた。それは過去のことが関係しているのかもしれない。
「それでも兄上は可愛がってくれた。いまでも仲がいいのは、見ていてわかるだろう」
「はい」
「オリュフェスに感謝を伝えなさい。私は昨日やっと伝えられた」
きっと昨夜、初めてお兄さんたちに、あらためてちゃんと感謝の言葉を伝えたんだろう。もちろん、その前からウィオの気持ちは伝わっていただろうけどね。それでも、口に出すのは大切だ。火の子も、謝ってはいるだろうけど、ありがとうは伝えてないんじゃないかな。
火の子がこの家に引き取られたころから、兄として火の子を守ろうと頑張っていた弟くんの存在は、きっと火の子の心を支えているはずだ。二人を見守っている、しっかりもののお姉ちゃんも。同じようにお兄さんたちに守られていたウィオだから、火の子の気持ちも分かるのだろう。
決意を込めてうなずいた火の子の横に座って、ウィオは背中をそっとなでた。いままでよりも、火の子との距離が近いし、身体に触れている時間が長い気がする。
何度も飛びついてなでてと言い続けたから、オレのことは気軽になでてくれるようになったけど、火の子や弟くんたちには触れようとしなかった。
もしかしたら、ウィオが子どものころ、お兄さんになでられて安心していたのかもしれない。それを昨日の話し合いで思い出したのかも。
ちっちゃいウィオがお兄さんたちによしよしされているところはきっと可愛いだろうなあ。と想像していたら、ウィオににらまれた。なんで!
あとで聞いたら、よからぬことを考えている顔をしていたって言われたけど、それどんな顔?
オレがいると、ウィオが心の内を口に出しずらいかもしれないと思い、オレは入り口の扉をカリカリして、外に控えている使用人さんに扉を開けてもらって外に出た。二人でゆっくり話すといいよ。
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