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学園編
7. ご利益
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街の警備隊の建物を借りて、詐欺師の取り調べだ。
どうしてこんなことをしたのかと副隊長さんが聞いている横で、オレは大福くんに事情聴取だ。
『キュンキューン?(どうしてあの人と一緒にいるの?)』
『クーン(捕まっちゃったの)』
森の近く、小さな村のそばで隠れて暮らしていたのに、詐欺師に見つかり、捕まってしまった。それで使役獣契約をかけられて、逃げられなくなったけど、嫌なことは特にされていないらしい。ただ、好きなときに昼寝ができないことには文句を言いたいそうだ。狸って夜行性だったよね。
「俺の使役獣だ! 何をしようと俺の自由だ!」
『契約は切ったよ』
「契約はもう切れている」
「うそだ。ブロー、来い!」
使役獣契約があると命令に従ってしまう。けれど契約は無効にしたから、大福くんはオレにくっついたままだ。それを見て怒り狂っている詐欺師を、みんな白けた目で見ている。大福くんに愛情はなく、お金を生む存在を手放したくないんだろう。これが食い倒れツアー中にアチェーリで出会った使役獣の食パンくんなら、飼い主さんは「リンちゃんに嫌われた……」と泣き崩れている。
「神獣様の怒りに触れるようなことをしたのだ。当然だろう」
「くそっ」
もう一度大福くんに使役獣の契約魔法を飛ばしてきたので、それはオレが無効化した。ついでにこっそり、二度と魔法を使えないようにしておこう。それくらいなら、オレにかけられている制約にも反しない。愛情もなく契約するなんて、獣の守護者として許せない。
「ブローをどうするつもりだ……」
「それを判断するのは私たちではない」
そうだよ。これからどうしたいのかは、大福くんが決めることだ。
詐欺師はこのまま王都へと連れていって、騎士団のほうで取り調べるそうだ。どういう処分が下されるのかは分からないけど、オレの手前、軽くはできないだろう。大福くんが辛い思いをしていなかったので、正直どうでもいいんだけど、模倣犯が現れると困るから見せしめにされるんじゃないかな。
詐欺師も捕まったし、後は王都に向けて戻るだけなので、難しいことは忘れて宿のご飯を心置きなく楽しもう。
動物が二匹もいるので、今日は食堂ではなくお部屋にご飯を運んでもらった。こういうとき、騎士だとわがままがとおる。副隊長さんも一緒にご飯だ。
もぐもぐ、もぐもぐ。美味しいねえ。大福くんも美味しそうに食べている。オレと同じ料理で問題ないようだ。でもまたお腹がぽんぽこになるから食べ過ぎないようにね。
「王都に連れて帰ったとして、ブローはどうするべきでしょうねえ」
『野生に返すのはやめてね』
「確かに森の中では目立つな」
土魔法を持っているから、穴を掘って魔物や人間から隠れていたらしい。けれど、白色は目立ってしまう。こうして有名になった以上、また大福くんを探す冒険者も現れるだろう。
お腹もいっぱいになったので、大福くんに今後どうしたいか聞いてみると、このままいろんなところへ行きたいと言う。ずっと隠れるように暮らしてきたから、旅をするのが楽しいらしい。学園のペットになることも提案してみたけど、あちこち行ってみたいそうだ。子どもに可愛がられるペットもいいと思うんだけどねえ。
『いろんなところへ行くのが楽しかったって』
「そうなると、冒険者の使役獣がいいか」
「ですが、この見た目では今後も面倒に巻き込まれますよ。学園に置いておくのがいいのでは?」
『定住したくないんだって。フェゴの王子様は?』
「王族はよくないだろう。ルジェがフェゴに加護を与えたと勘違いされる可能性がある」
食い倒れツアーで出会ったフェゴの王子様は冒険者をしていて、その幼なじみは使役獣が欲しいからずっと探していると言っていたので、いいと思ったんだけどなあ。
でも確かに、王子様と幼なじみはちゃんと理解してくれるだろうけど、フェゴの王様がどんな人なのかは知らないから、どう受け取られるかは分からない。
『うーん、じゃあ王都のギルドに連れていって、誰か飼いたい人を探す?』
「それがいいか」
あそこのギルドは職員さん含めみんな、オレのことを可愛がってくれるから、大福くんのことも可愛がってくれるだろう。それに、ギルド長はオレの正体を知っているし、冒険者たちもウィオとオレのことをよく知っている。
ギルド長の仕事を増やしちゃうけど、許してね。
大福くんを連れて王都に向かっていると、いろんな人に声をかけられる。中でも多いのが――
「よく似てますねえ。氷の騎士様の使役獣も、神獣様の眷属ですか?」
「どちらも違う」
オレは神獣だし、大福くんはオレの眷属じゃないし、どっちも不正解。
オレたちは同じイヌ科だから、銀色と真っ白だとあまり区別がつかない。猫にも見えるし、スピッツにも見える。耳の大きさが違うくらいだ。
だけどすでに、白い生きものは神獣の眷属といううわさが広まっている。あの詐欺師、余計なことしてくれる。せっかくオレの正体がごまかせたと思ったのに、困ったなあ。やっぱりあのときの大きい狐は七色に光らせて、似ても似つかない姿にしておくべきだったかな。
「どちらも可愛いですねえ。触ってもいいですか?」
『キャン!』
「ルジェはいいが、ブローには触れないでくれ」
大福くんは少し怖がっているから、ウィオが触らないようにと注意してくれる。ここはオレが二匹分なでてもらおう。
「いい子だねえ。可愛いねえ。よしよし。どうぞ商談が成功しますように」
『キューン』
オレをなでている商人は、この後に大きな商談を控えているらしい。ご利益がほしいとオレをなでているけれど、本当に期待しているのではなく、ゲン担ぎみたいなものだろう。それが分かるから、大人しくなでられている。決しておやつに釣られたわけじゃないよ。
商売の神様は蛇だった気がするから、オレじゃご利益はないけど、応援するね。
どうしてこんなことをしたのかと副隊長さんが聞いている横で、オレは大福くんに事情聴取だ。
『キュンキューン?(どうしてあの人と一緒にいるの?)』
『クーン(捕まっちゃったの)』
森の近く、小さな村のそばで隠れて暮らしていたのに、詐欺師に見つかり、捕まってしまった。それで使役獣契約をかけられて、逃げられなくなったけど、嫌なことは特にされていないらしい。ただ、好きなときに昼寝ができないことには文句を言いたいそうだ。狸って夜行性だったよね。
「俺の使役獣だ! 何をしようと俺の自由だ!」
『契約は切ったよ』
「契約はもう切れている」
「うそだ。ブロー、来い!」
使役獣契約があると命令に従ってしまう。けれど契約は無効にしたから、大福くんはオレにくっついたままだ。それを見て怒り狂っている詐欺師を、みんな白けた目で見ている。大福くんに愛情はなく、お金を生む存在を手放したくないんだろう。これが食い倒れツアー中にアチェーリで出会った使役獣の食パンくんなら、飼い主さんは「リンちゃんに嫌われた……」と泣き崩れている。
「神獣様の怒りに触れるようなことをしたのだ。当然だろう」
「くそっ」
もう一度大福くんに使役獣の契約魔法を飛ばしてきたので、それはオレが無効化した。ついでにこっそり、二度と魔法を使えないようにしておこう。それくらいなら、オレにかけられている制約にも反しない。愛情もなく契約するなんて、獣の守護者として許せない。
「ブローをどうするつもりだ……」
「それを判断するのは私たちではない」
そうだよ。これからどうしたいのかは、大福くんが決めることだ。
詐欺師はこのまま王都へと連れていって、騎士団のほうで取り調べるそうだ。どういう処分が下されるのかは分からないけど、オレの手前、軽くはできないだろう。大福くんが辛い思いをしていなかったので、正直どうでもいいんだけど、模倣犯が現れると困るから見せしめにされるんじゃないかな。
詐欺師も捕まったし、後は王都に向けて戻るだけなので、難しいことは忘れて宿のご飯を心置きなく楽しもう。
動物が二匹もいるので、今日は食堂ではなくお部屋にご飯を運んでもらった。こういうとき、騎士だとわがままがとおる。副隊長さんも一緒にご飯だ。
もぐもぐ、もぐもぐ。美味しいねえ。大福くんも美味しそうに食べている。オレと同じ料理で問題ないようだ。でもまたお腹がぽんぽこになるから食べ過ぎないようにね。
「王都に連れて帰ったとして、ブローはどうするべきでしょうねえ」
『野生に返すのはやめてね』
「確かに森の中では目立つな」
土魔法を持っているから、穴を掘って魔物や人間から隠れていたらしい。けれど、白色は目立ってしまう。こうして有名になった以上、また大福くんを探す冒険者も現れるだろう。
お腹もいっぱいになったので、大福くんに今後どうしたいか聞いてみると、このままいろんなところへ行きたいと言う。ずっと隠れるように暮らしてきたから、旅をするのが楽しいらしい。学園のペットになることも提案してみたけど、あちこち行ってみたいそうだ。子どもに可愛がられるペットもいいと思うんだけどねえ。
『いろんなところへ行くのが楽しかったって』
「そうなると、冒険者の使役獣がいいか」
「ですが、この見た目では今後も面倒に巻き込まれますよ。学園に置いておくのがいいのでは?」
『定住したくないんだって。フェゴの王子様は?』
「王族はよくないだろう。ルジェがフェゴに加護を与えたと勘違いされる可能性がある」
食い倒れツアーで出会ったフェゴの王子様は冒険者をしていて、その幼なじみは使役獣が欲しいからずっと探していると言っていたので、いいと思ったんだけどなあ。
でも確かに、王子様と幼なじみはちゃんと理解してくれるだろうけど、フェゴの王様がどんな人なのかは知らないから、どう受け取られるかは分からない。
『うーん、じゃあ王都のギルドに連れていって、誰か飼いたい人を探す?』
「それがいいか」
あそこのギルドは職員さん含めみんな、オレのことを可愛がってくれるから、大福くんのことも可愛がってくれるだろう。それに、ギルド長はオレの正体を知っているし、冒険者たちもウィオとオレのことをよく知っている。
ギルド長の仕事を増やしちゃうけど、許してね。
大福くんを連れて王都に向かっていると、いろんな人に声をかけられる。中でも多いのが――
「よく似てますねえ。氷の騎士様の使役獣も、神獣様の眷属ですか?」
「どちらも違う」
オレは神獣だし、大福くんはオレの眷属じゃないし、どっちも不正解。
オレたちは同じイヌ科だから、銀色と真っ白だとあまり区別がつかない。猫にも見えるし、スピッツにも見える。耳の大きさが違うくらいだ。
だけどすでに、白い生きものは神獣の眷属といううわさが広まっている。あの詐欺師、余計なことしてくれる。せっかくオレの正体がごまかせたと思ったのに、困ったなあ。やっぱりあのときの大きい狐は七色に光らせて、似ても似つかない姿にしておくべきだったかな。
「どちらも可愛いですねえ。触ってもいいですか?」
『キャン!』
「ルジェはいいが、ブローには触れないでくれ」
大福くんは少し怖がっているから、ウィオが触らないようにと注意してくれる。ここはオレが二匹分なでてもらおう。
「いい子だねえ。可愛いねえ。よしよし。どうぞ商談が成功しますように」
『キューン』
オレをなでている商人は、この後に大きな商談を控えているらしい。ご利益がほしいとオレをなでているけれど、本当に期待しているのではなく、ゲン担ぎみたいなものだろう。それが分かるから、大人しくなでられている。決しておやつに釣られたわけじゃないよ。
商売の神様は蛇だった気がするから、オレじゃご利益はないけど、応援するね。
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