願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉

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学園編

1. 後始末

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 オレはルジェ。もふもふの可愛くてお利口な飼い狐。実は神獣なんだけど、いつもは正体を隠して魔法が使える動物である幻獣のふりをしている。
 オレの飼い主はウィオラス。オレはウィオと呼んでいる。オルデキア王国フォロン侯爵家の三男で騎士として活躍していたけれど、オレの加護をもらったのを機に騎士団を辞めた。侯爵家からも籍を抜いて冒険者になり、しばらくオレと一緒に世界各地の美味しいものを食べる旅をしていた。そして、魔力の多い子どもたちが学ぶ学園を立ち上げ初代学園長となり、昨日、開校式が終わったばかりだ。

 オレはその開校式で、この学園に、子どもたちが平等に仲良く学べる学園を作りたいというウィオの願いに、祝福を与えた。オレの正体をごまかすために、大きな翼の生えた狐に化けて。
 突然現れた神獣に会場は大騒動になって、開校式はそこで終わってしまった。学園のあるネウラ自治領の領主であるお兄さんと、学園長であるウィオのあいさつは終わっていたからいいよね。長ーい来賓のお話なんて、生徒たちは聞きたくなかったでしょ。

 今は、講堂に学生を集めて、入学式兼、昨日の騒動の説明会の真っ最中。
 オレは、学園長として生徒たちの前で話すウィオの足元にお座りして、生徒たちを見渡している。首元に制服を模したマントを巻いて、お利口な使役獣として。

「入学おめでとう。昨日は驚いたと思う。この学園は神獣の加護を得ている。それによって、君たちが不利益を被ることはない。安心して学んでほしい」
『キューン』

 神獣が現れ、祝福を宣言して花びらを降らせたことで、学園は神獣の加護を得ていると認識された。その説明をするはずだったんだけど、全く説明になっていない。
 ウィオ、それじゃあ子どもたちになんにも伝わらないよ。ここはマダム先生に通訳してもらおう。

「皆さん、魔法学科の学科長のゴベールです。学園長から説明がありましたが、この学園は、昨日の開校式に降臨された神獣様から加護をいただいています。大きな翼を持つ神獣様を、皆さんも見ましたね」
「はい」
「神獣様を見ることができるなど、とても恵まれたことです。その神獣様が加護をくださっているこの学園で学べることを、誇りに思いましょう。『中立で平等』を守り、お友達がどこの国から来たのか、貴族なのか平民なのか、魔法が使えるのか使えないのか、そういったお互いの違いに関係なく、仲良くしましょう。そして、学園の名に恥じぬよう、勉強に励みましょう」
「はい!」

 さすがマダム先生、説明が上手だねえ。オレも大きくうなずいちゃう。
 ウィオも学園長として、子どもに分かるように話すというスキルが必要だから、マダム先生に教えを受けたほうがよさそうだ。
 無理でしょうと思ったそこのあなた! オレも思っているけど、諦めたらそこで終わりだから。新米の教育者として、少しくらいは努力をしないとね。

 これから子どもたちはそれぞれの教室へと移動して、担任の先生から、今後の学園生活や授業についての説明がある。
 先生について移動していく子どもをたちを見送ったら、オレたちは、お兄さんのお屋敷へ戻る。昨日の大騒動の後始末だ。ちょっとオレが張り切っちゃったせいで、大変なことになってるんだよね。その後始末をどうつけるか、これから話し合う。

 お兄さんのお屋敷は学園都市を見下ろす岩山の上にあって、ネウラ自治領の行政施設とお兄さんの住処が一緒になっている。学園都市内に土地がないので、お屋敷だけ飛び出す形になった。
 学園のすみっこには学園長の家が作られる予定だが、ウィオがネウラに移り住むのは火の子が入学する三年後の予定なので、まだ着工されていない。そのため、オレたちはお兄さんのお屋敷に間借りしている。
 そのお屋敷へと学園から馬車で向かおうとしたが、途中で馬車が進めなくなった。

「学園長、この先馬車が続いていて、動きません」
「兄上に会うためか。学園に戻ってくれ」

 開校式に来ていた各国からの来賓が、神獣の正体を聞こうとお兄さんのお屋敷に詰め掛けて、馬車渋滞ができているらしい。朝早くに、お屋敷から学園に向かったときはいなかったから、オレたちが学園に着いてから、集まってきたのだろう。
 今日から学園は学生以外の立ち入りを禁止しているので、押しかける先はお兄さんのお屋敷しかない。

『どうするの? 今日は学園に泊まって、お兄さんに全部任せるの?』
「いや、このまま馬車で向かえば、取り囲まれる。私は戻って馬で行く。ルジェは」
『周りからは見えないようにするから、一緒に行くよ』

 ウィオはオレを巻き込みたくないんだろうけど、この事態はオレがちょっとやりすぎちゃったせいだから、ちゃんと後始末に付き合うよ。

 ウィオは学園に戻ると、冒険者の格好に着替えて、目立つ髪を布で隠して、お馬さんに乗った。食い倒れツアーに付き合ってくれたお馬さんは、王都と学園の往復でも活躍してくれている。ウィオが馬に乗るならオレはお馬さんの首筋に座るけど、今日はウィオのリュックの中だ。

「ルジェ、苦しくないか?」
『大丈夫』

 昨日の今日であまり目立つことはしたくない。あの翼の生えた狐はオレじゃないってことになっているけど、念には念を入れてね。

 馬車の横を通り抜けてお屋敷へと向かい坂を上っていくと、門のところで副隊長さんが押し問答していた。

「ですから、お約束のない方がいらっしゃっても、領主にお会いになることはかないません」
「私を誰だと思っているんだ!」

 この自治領は兵士を持たない。領といっても街一つだけなので、もともといる街の警備隊だけが領の兵力だ。そのため、この騒動が落ち着くまでは第三部隊が残ってこの街の治安維持にあたってくれる。
 馬に乗ったウィオに気づいた副隊長さんは、すぐ屋敷内に入るようにと合図をくれた。オレはリュックの口から頭の上半分を出して外を見ていたけど、万が一にも見つからないように、リュックの中へと潜り込む。ここに押しかけてきている人間の一部は、オレの正体も知っているはずだ。

 玄関前でも、同じような光景が繰り広げられていた。みんなアポなしで押しかけて会ってもらえなんて、どうして思えるんだろう。それほどまでに自分が優先されると思っているのだろうか。

「そこの冒険者、なんの用だ」
「領主の依頼のものを届けに来ました」
「裏に回れ」
「はい」

 真面目な顔の部隊長さんから、真面目な顔のウィオに質問があって、裏口へ回るようにと指示があった。ここでウィオの正体が分かったらとんでもない騒動になるから、部隊長さんが助け舟を出してくれた。

 裏口へと回って、行列を作っているお客さんからは見えないところまで進むと、やっとオレはリュックから出てウィオの肩に乗る。

『予想以上にたくんさん来てるねえ』
「ざっと見た感じ、マトゥオーソや近隣の王族はいなかったな」
『え、何で分かるの?』
「こういう場合、王族なら馬車に紋章が掲げられている。坂の途中で見た馬車にはなかった」

 さすが元騎士。高そうな馬車が並んでるなあと思っていたけど、紋章までちゃんと見ていたなんて。
 マトゥオーソは隣の国、そしてこのあたりで一番大きな国だ。もしマトゥオーソの王族がいたら、さすがに会わないわけにはいかない。いや、オレは会わなくてもいいんだけど、お兄さんは外交上、事を荒立てるわけにいかないのだ。王族がいないなら、並んでいる馬車は待たせておいてもまあ問題ないだろう。

『そういえば、お兄さんの家の紋章ってどんなの? 狐? もふもふ?』
「ふふっ。ルジェは反対しないだろうが、さすがに神獣を紋章には使えない」
『残念』
「学園のエンブレムに使ってあるだろう?」

 学園のロゴには狐が描かれているが、それは学園創設者で初代学園長であるウィオの使役獣がモチーフと公表されている。つまり、オレ。でも神獣じゃなくて、ただの幻獣。もふっとした尻尾がとっても可愛いので、それで満足することにしよう。
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