2 / 282
1巻
1-2
しおりを挟む
「隊長、リーネが助けろというので助けたのですが……」
「最近、野営地の近くで目撃されていたソーロか」
隊長も悩んだ結果、とりあえず目覚めるまではリーネに預けることに決めた。この小ささなら、何かあってもすぐに斬り捨てられる。
そう思いリーネのところに連れていくと、リーネはソーロの首をくわえて持ち上げ、そっと自分の足元に置いた。とても大切なものを扱うようで、かなり気を遣っているのが分かる。しかも隊長の馬までソーロを気にしている。このソーロ、何かあるのか?
考えても分からないので、とりあえず目覚めるのを待った。
目覚めたソーロは、隊長の足元に駆けよる。周りの騎士におびえながらも、隊長の足にすがりついた。
害のない様子にほだされたのか、隊長は面倒を見ようと決めたようだ。隊長に懐き、手から食事をもらい、後ろをついて回る様子は、さながら鳥のひなのようだ。隊長の膝から転げ落ちたり、何もないところでつまずいたり、かなりどんくさいようで、これで今までどうやって森の中で生きてきたのか分からない。誰かに飼われていたのだろうか。成長して魔物だと思われ手放されたとか?
そして、オッソにやられた足の傷はもう治っていた。まだ若く治りが早いといっても早すぎだ。
悪いものという感じはしないが、謎が多すぎた。
◇ ◇ ◇
目が覚めると、テントにウィオがいなかった。久しぶりに危険のないところだったので、ぐっすりと眠り、寝坊してしまったようだ。
ぐいーっと後ろに伸びて、それから前に伸びて、後ろ足をプルプルして、動き出す。
ウィオはどこ行っちゃったんだ。飼い犬、じゃなくて飼い狐を置いていくなんて、飼い主失格だ。
テントを出てウィオを探すと、馬に乗って森の奥に出かけるところだった。
『キャン!(オレも行く!)』
さっそうと馬に飛び乗れればかっこいいのだが、あいにくオレは段差が苦手だ。あんな高さまで飛び上がれるはずもない。
それでも置いていかれるのは嫌で、馬の足元にまとわりつくと、ウィオに怒られた。
「ルジェ、危ないだろう! 馬から離れろ!」
『ヒヒン、ヒヒーン(おいおい、踏まれるから気をつけろ)』
大丈夫だよ。ここのお馬さん、なんでかオレのことは守ってくれるから。ウィオの馬もオレを踏まないように、そして他の馬に蹴られないように、足の間に入れてくれている。
オレも一緒に行きたいとウィオに訴えると、昨日いろいろ教えてくれたお馬さんが首の後ろをくわえてオレを持ち上げ、ウィオに渡してくれた。
「これは、一緒に連れていけということか?」
『キャン』
「ダメだ。昨日襲われたような魔物がいるんだ。テントにいろ」
『キャンキャン』
手をなめて連れていってくれとお願いしても、ウィオは折れてくれなかった。帰ってきたら遊んでやるからとなだめられ、留守番の騎士に手渡される。仕方がない。仕事の邪魔はしちゃダメだよな。聞き分けのいい飼い狐として、大人しく待っていよう。
置いていかれて暇なオレは、留守番の騎士たちが仕事をしているのをぼんやり見ながら過ごす。といっても、どうやら留守番は休暇を兼ねているようで、食事を作ること以外、特にやることはなく、楽しいことが何も起こらない。外から眺めていたときもそうだった、とてものんびりとした午前中だ。
昼になると、オレにもご飯を出してくれた。今日は、味付けをする前にオレの分だけ取り分けてくれたようで、薄味だ。うん、こっちのほうがいい。昨日のも美味しかったけど、味覚が鋭くなっているのか、けっこう塩辛かったんだよな。
「美味しかったか?」
『キャン(うん)』
食べ終わったので、器をくわえて返しにいくと、受け取ってからなでてくれた。
「お利口だなあ。これもう、完全に飼い犬だろう」
『キャン(飼い狐だよ)』
このあと、調理に使った鍋や食器と洗濯ものを持って、留守番の半数くらいが川へ向かうことを、遠くから眺めていたオレは知っている。一緒に行って身体を洗いたい。勝手に行ってもいいんだろうけど、襲われるのが怖いから、守ってほしい。
一部の騎士たちが川へ移動し始めたので後ろをついていくと、途中で「一緒に来るか?」と誘ってくれた。ありがとう。
川では浅いところに入って、身体を洗おうと毛をぬらしてみる。けれど、もふもふの毛は防水性がばっちりなようで、なかなかぬれない。かといって深いところで溺れたり流されたりするのは怖い。水際でバタバタしていると、洗いものを終えた騎士が、「何やってるんだ?」と近づいてきた。
『キューン(身体を洗いたいんだよ)』
「もしかして水浴びしてんじゃないか?」
「全然ぬれてないぞ」
「よし、オレが一緒に洗ってやろう」
そう言ってひとりが服を脱いで川に入り、自分の身体を洗い終えてから、オレのほうに来る。洗ってくれーと近寄っていくと、手のひらでオレの毛をゴシゴシとこすった。石けんはないが、水だけでも毛についていた汚れがだいぶ落ちたはずだ。
「終わったぞ」と言われ、水から上がる。水を払うためにぶるぶるしたのに、ぐっしょりとぬれた毛からはなかなか飛んでいかない。水を含みにくい代わりに、一度ぬれると乾くのが大変なようだ。風邪ひかないよな?
「あはは、お前、本体そんだけかよ」
「実はめちゃめちゃ細いな」
「このまま野営地に連れて帰ろうぜ」
毛がぺちゃっとなって、ボリュームのなくなったオレを、騎士たちが笑っている。ムキになって水を払おうとして目が回り、こけてしまった。
「おい、気をつけろ。せっかく洗ったのに汚れるだろう」
「ほんとにどんくさいな」
そう言って抱き上げられる。
放せ! オレは、誇り高き飼い狐なんだ。飼い主のウィオ以外に抱っこされる気はない!
もがいても全くかなわず、腕から飛び下りることもできず、抵抗むなしくそのまま馬に乗せられる。そして野営地に戻ると、居残りの騎士にも笑われた。悔しいぞ。
結局、怪我を見てくれた人が、このままでは風邪をひくからと、風の魔法が得意な人にドライヤーの魔法版で毛を乾かさせ、怪我の様子を診ると言って包帯を巻きなおしてくれた。もう傷はないから包帯はいらないけど、こんなに早く治っちゃいけないみたいだから、とれないように気をつけよう。
水浴びをして疲れたのか、今まで危険があったから起きていられただけなのか、お昼を過ぎると眠くなる。飼い狐はお昼寝の時間なのだ。
留守番のお馬さんの近くの日当たりのいいところで、きれいになった自分の毛に頭を突っこんでまどろんでいたのに、周りの騒がしさに目が覚めた。何かあったみたいだ。
騒ぎの中心に向かうと、騎士が何人か怪我をしている。けっこう血が出ていて、まともに見るとまた倒れそうだ。血の匂いだけでもくらくらする。
あれ? ウィオはどこだ?
ウィオの匂いを追うと、薬の匂いがきついテントにたどりつく。血の匂いがするし、怪我をしたのか? 飼い狐生活二日目で飼い主がいなくなるとか、ホントに勘弁してほしい。
意を決してテントに入ると、ウィオが手当てされていた。
『キャン!(ウィオ!)』
肩からお腹にかけてバッサリ斬られ、たくさん血が出ているし、意識がない。
やばい、血を見て倒れそうだ。
ぷるぷるしていると、治療が終わるまで出ていろと、赤毛の騎士にテントの外に連れ出された。
ウィオ、死なないよな?
心配だけど、できることはないし、お馬さんのところに向かう。不安なので誰かと話したいのだが、今のところオレが話せるのはお馬さんだけなのだ。
けれど、オレにいろいろ教えてくれたお馬さんは、横になっている馬に寄り添っていて、おしゃべりしようと言える雰囲気ではなかった。血の匂いがキツイ。馬も怪我をしたのか?
近寄って見ると、倒れていたのはウィオが乗っていた、今朝オレを足元にかくまってくれた馬だ。
『キューン(大丈夫?)』
『ヒーンヒンヒン(隊長と一緒に魔物にやられたのよ)』
ウィオの馬はチラッとオレを見て、また目を閉じる。だいぶつらそうだ。
血を直視しないようにしているが、傷の辺りに黒いモヤモヤがまとわりついているのが見える。
『クーンクーン(あのモヤモヤはよくないものだよね)』
『ヒーンヒヒーン(あれがあると傷が治らないのよ)』
『キャン(オレとれるよ)』
とは言ったものの、あの傷、つまり血をなめるのは嫌だ。どうしよう。息を吹きかけたら、飛んでいかないかな。物は試しだ、やってみよう。
『ヒューーーー』
大きく息を吸って、ロウソクを吹き消すように息を吹くと、なぜか雪が飛んだ。え、なんで? 傷が雪まみれになっている。
『キューン(ごめん、間違えた)』
「おい、何をやっている!」
『ヒヒーン!(邪魔しないで!)』
オレが雪を吹きかけたのを見て騎士が飛んできたが、お馬さんが阻止してくれている。次は成功させなきゃ。
あのときどうやったんだっけ。たしか、よくないものだからとれないかなと思ってなめたら、とれたんだよな。よくないものを吹き飛ばすイメージでやってみるか。今度こそ。
『フゥーーーー』
お、モヤモヤがちょっと薄くなった。これでいいみたいだ。
それから何度かフウフウすると、モヤモヤが消えた。
『キャン!(消えたよ!)』
『ヒーンヒン(ありがとう。主も助けてくれないか)』
もちろんだよ。オレの飼い主だからね。
よし、次はウィオだ。テントに急ごう。
バタバタしている騎士たちの足元を走り抜け、匂いのきついテントに入る。ウィオにも黒いモヤモヤがまとわりついていた。あの馬よりもウィオのほうが濃い。薬と血の匂いで頭がくらくらするが、助けなきゃ。
赤毛の騎士にまたテントの外に出されそうになったが、今度は捕まえようと伸びてきた手をすり抜けてウィオの横に陣取り、さっきの要領で息を吹きかけた。
『フゥーーーー』
お、薄くなったぞ。これならいけそうだ。消えるまで頑張ろう。馬よりもモヤモヤが濃いので、なかなか消えないけれど、この先の飼い狐生活がかかっているのだから、踏ん張りどころだ。
ときどき間違って雪を飛ばしながら、もう何回フウフウしたのか分からないくらい息を吹き出したところで、やっとモヤモヤが消えた。ウィオの胸元をふんふん匂いをかいでも嫌な感じはしない。
やったぜ。オレ、チート! これで、オレのぐーたら飼い狐生活は安泰だよね?
そう思ったところで、身体に力が入らなくなって倒れた。
その先の記憶はない。
◆ ◆ ◆
昨日は俺のチームがオッソを一体倒したが、住民によるとあと三体いるらしい。さっさと倒して王都へ帰りたい。
昨日、隊長のチームがオッソの最近の痕跡を見つけたので、今日は二チームともそこへ向かう。
準備をしていざ出発となったときに、あの狐がキャンキャン鳴きながら駆けてきた。どうやら一緒に行きたいようで、隊長の馬の足元にまとわりつく。
その狐を俺の愛馬のリーネがくわえて、隊長に渡した。馬たちはなぜかこの狐を守ろうとする。子どもだからか?
結局、隊長に言い聞かされて、狐は大人しく留守番の騎士に手渡され、俺たちは出発した。
「隊長、あの狐を飼うんですか?」
「ルジェが望んでいる。それに、あれでは野生で生きていけないだろう」
「もともと村人にでも飼われていたんですかね」
名前まで付けて、隊長はずいぶん可愛がっているようだ。氷の騎士と言われている隊長が、まさか動物にほだされるとは思っていなかった。あの狐に対してはずいぶんと当たりが柔らかい。
その話は帰ってからだ、と隊長が切り上げたので、俺は魔物狩りに気持ちを切り替えた。
そろそろ昨日、隊長のチームが見つけた痕跡の辺りだ。
小動物が全くいない。これは、いるな。小隊全体に緊張が走る。
しばらくして、オッソ三体を見つけたと、合図があった。音で気づかれないように、ハンドサインだ。三体を取り囲むよう静かに展開し、隊長の合図で一斉攻撃を仕掛ける。
先制攻撃は中距離からの魔法だ。隊長は氷の上級魔法を一体に撃ちこんで、それだけで瀕死にした。さすがだ。俺も他の騎士と一緒に火の中級魔法を撃ちこむが、オッソの硬い皮に阻まれて瀕死にまではもっていけない。そこから、爪の攻撃に気をつけながら、剣で削っていく。
魔物の攻撃を受けると、傷口に瘴気が入り、浄化をしてもらわなければ治りが遅くなり、傷跡や後遺症が残る。浄化は教会の上級司祭しか使えず高額なため、魔物に大きな怪我を負わされると、騎士を引退するしかなくなる。
オッソの場合、爪でえぐられるので、中距離からの魔法で倒せない場合は、囲って背中側から攻撃するのがセオリーだ。なかなか時間がかかる。
爪に当たらないように、少しずつ少しずつ背中から斬りつけ、ようやく三体すべてを倒した。隊長が氷の上級魔法で一体を瀕死にさせていなければ、三体同時はきつかっただろう。
火の魔法が得意な者で魔物を三体とも燃やして、さあ帰ろうと全員馬に乗ったところで、すぐ近くに強い気配を感じた。合図がなくとも全員が剣を抜いたが、運悪く、一番魔物に近いところにいた新人の反応が遅れ、オッソの突進に対応できずにはじき飛ばされる。一早く反応した隊長がオッソに攻撃を仕掛け、俺たちも続いた。あとはいつものようにオッソを倒すだけだと思ったそのとき、飛ばされた新人の後ろに、今までで一番大きな、毛の色が違うオッソが現れる。
上位種だ。こいつのせいで気配が全く読めなかったのか。
新人が上位種の爪にやられそうになる。その瞬間、隊長が新人をかばって間に割って入り、オッソの爪を剣で受け止めきれずに斬られた。
「隊長!」
「二チームに分かれて、それぞれ囲め!」
斬られながらも指示を飛ばしたので、意識はしっかりしている。まずは目の前のオッソだ。
「こっちを早く片づけて、上位種に合流するぞ!」
皆、馬から降りて、多少の怪我は気にせず、とにかく早く倒すことに専念したおかげで、先に出たオッソは倒せた。傷跡が残るかもしれないが、後遺症が残るような怪我をしている隊員はいない。次は上位種だ。
倒したオッソは一旦放置して、上位種を相手にしているほうに合流する。隊長はかなりの深手を負ったのか、立ち上がれないでいた。早く治療をしなければマズい。だが、相手は上位種、少し近づくと爪が飛んでくるうえに、皮膚が異常に硬くて攻撃が通らない。攻めあぐねていたときに、隊長から「離れろ!」と指示がある。全員が離れたタイミングで、隊長が魔法を撃った。
「アイシクルランス!」
氷の太い槍が空から降ってきて、上位種に突き刺さり、地面に縫い付ける。
「今だ、魔法を撃て!」
皆に号令をかけながら、俺も火の魔法を撃った。早く隊長を野営地に連れて戻らなければと、全員が必死だ。
時間はかかったが、魔法で瀕死になった上位種は、最後に口の中に風の魔法を叩きこまれて、絶命した。それを見届けてから、隊長は崩れるように地面に倒れ伏す。
「隊長のチームは、隊長と馬を連れて、野営地に至急帰還しろ! 斥候を出して、治療の準備をさせておけ!」
隊長は心配だが、俺にはまだやることがある。オッソが残っていないか一帯を確認し、上位種ともう一体を燃やさなければならない。
隊長は野営地に戻ればすぐにも治療を受けられるはずだが、あそこでは簡単な治療しかできない。大丈夫だろうか。
片付けを済ませて野営地に戻ると、リーネは隊長の馬のところへ駆けていった。あいつらは番だから、心配だろう。俺は隊長がいるだろう医務のテントへ急ぐ。
中に入ると、狐が隊長を見て震えていた。出血もひどいし、動物とはいえ子どもが見てよいものではない。抱き上げてテントの外に出したが、抵抗はされなかった。
「隊長はどうだ?」
「傷が深いです。ここでは止血しかできません」
「そうか……」
ポーションをかけても、魔物につけられた傷にはあまり効かない。それでも、今あるポーションをすべて使う勢いでかけていき、なんとか血を止めた。医務官と協力して服を脱がせ、傷の周りを消毒し、包帯を巻いていく。
隊長は侯爵家の出身だから、教会で浄化を使ってもらえるだろうか。このままでは日常生活にも支障が出そうだ。
ここからは俺が指揮をとらなければならない。まずは野営地を撤収して、隊長がゆっくり休める街まで運ぶ必要がある。落ちこんでいる場合ではない。
なんとか気持ちを立て直して、テントを出ようとしたところに、狐が入ってきた。隊長の休養の邪魔にならないよう、傷口に触れて瘴気をもらってしまわないよう、狐を捕まえて外に出そうとしたが、手元をするりと抜けられる。どんくさいと思って油断した。
狐は隊長の横に陣取ると、四本の足を踏ん張って息を吹きかけ始めた。なんのいたずらだ?
「おい、何をしている!」
「副隊長、待ってください。おそらく浄化しています」
狐に手を伸ばした体勢で、驚きに固まる。
まさか、浄化だと? バカな。浄化は教会の上級司祭しか使えないはずだ。この狐、ただの狐じゃないのか? そういえば、灰色のような毛だったのが、今はきれいな銀色だ。
少しずつ瘴気が薄くなっているという医務官の言葉に、狐と隊長を見守る。
狐はときどき、息ではなく雪を吹き出して、不思議だという顔をしてからやり直した。すごい狐かと見直したのに、やっぱりどんくさい。
ずいぶん長い間、息を吹きかけていたが終わったようで、狐は隊長の胸元の匂いをかいで、満足そうな顔をした。そして、そのまま隊長の胸の上に倒れこむ。
「おい、大丈夫か?」
狐に触れてみるが意識がない。医務官が狐を抱え上げて確認したあと、慎重に隊長も診察した。
「狐は魔力切れでしょう。隊長は……、瘴気が消えています」
「そうか。よかった」
「副隊長、このことは」
分かっている。こんなことを知られたら、狐は教会に取り上げられてしまうだろう。隊長がさみしがる。それに、このどんくさい狐が教会で上手くやっていけるとは思えない。
まずはこれからやるべきことに集中しよう。隊員たちに隊長の容態が落ち着いたことを伝えて、帰還の準備をさせて。他の負傷した奴らも確認しなければならないし、隊長の馬も心配だ。
それに何より、小隊に箝口令を敷かなくてはならなかった。
◇ ◇ ◇
温かいお湯につかっているような、心地よいまどろみに身を任せていた。まだ寝ていたい。
「ルジェ、そろそろ起きてくれ」
『クゥーン(あと五分)』
オレはもう社畜じゃないんだ。ぐーたら飼い狐生活を満喫しているんだから、起こさないでくれ。
「ルジェ、美味しい肉があるぞ」
『キャン!(食べる)』
あれ、もぐもぐしているのに味がしない。
「夢の中で食べてるんじゃないですか。鼻先に肉を持っていったら食べそうですね」
「ルジェ、口を開けて」
あーん、と口を開けて待っていると、肉が口に入ってきた。あれ?
「ルジェ、起きたか」
『クン?(ウィオ?)』
ウィオだ。おはよう。よく寝た。もっと肉をくれ。
起き上がって、ガツガツもぐもぐして、お腹が落ち着くと、我に返る。ウィオ、大怪我してなかったっけ?
『キャン、キューン(ウィオ、怪我は? 治った?)』
「急にどうした。もっと食べたいのか?」
『キャンキャン』
「違うのか。ルジェは十日眠ってたんだ。大丈夫か?」
え、オレ十日も寝てたの? それはよく寝たって感じるだろうなあ。飼い狐にしても寝すぎだし、盛大に寝坊したな。「ウィオの怪我は?」って聞いても分かってもらえないし、服の上から見ても分からない。だったら、服の中に潜りこんでみよう。
「こら、ルジェ、やめなさい」
「隊長の怪我が心配なんじゃないですか?」
「怪我の心配をしてくれているのか」
『キャン』
「もう大丈夫だ。ありがとう」
よかった。それならオレの飼い狐生活も安泰だ。ということで、肉のおかわりをもっとくれ。
食事が終わって、赤毛の騎士と治療してくれた人に、何が起きたのかを説明してもらう。どうやらオレのチートが火を噴きすぎたようだ。
ここは、王都に近い街の宿のウィオが泊まっている部屋で、明日には王都につくらしい。赤毛の騎士が副隊長で、治療してくれた人は医務官だ。医者とどう違うのか分からないが、知らなくても困らないだろう。二人とも、オレが人間の言葉を理解していることに驚いている。どうどう? オレすごいでしょ。
オレがやったフウフウは、浄化といって教会の上級司祭にしかできない。もしオレが浄化ができることが知られれば、教会に取り上げられるらしい。「教会に行きたいか?」と聞かれたが、お断りだ。オレはぐーたら飼い狐生活がしたいのだ。働きたくない。
いや、違うな。オレは飼い狐として、ペットとして、ご主人様を癒やすという大事な仕事に従事するのだ。教会で働いている場合ではない。
やだよー。飼い狐にしてよー、とすりついてアピールすると、ウィオは教会には渡さないと約束してくれた。
「でも、浄化がばれたら、教会に取り上げられませんか?」
「使役獣として契約してはどうでしょう?」
医務官が提案してくれて、ウィオも乗り気になる。けど、そもそも使役獣って何? オレが首をかしげたのを見て、ウィオが説明してくれた。
使役獣は人間と契約した動物や幻獣のことで、契約主は使役獣に命令できるらしい。契約の重ねがけはできないし、契約している使役獣を他の人が奪うのは禁止されているので、オレがウィオから離される可能性が低くなるそうだ。
契約は契約主からしか解除できず、使役獣は契約主の命令に逆らえなくなる。でもペットなら飼い主の言うことをちゃんと聞くのは当然だし、ウィオなら変な命令はしないだろう。
いいよ、と軽く了承すると、さっそく契約することになった。
ウィオが何か呪文を唱え、何もないところに魔法陣が浮かび上がって、オレのほうへ向かってくる。でも、これは受け入れてはダメだ。理由は分からないけど、本能がダメだと警告してくる。
『ウゥゥーーー』
突如うなりだしたオレにウィオが驚いているけど、この契約は受け入れられない。
目の前に来た魔法陣に消えろと願って息を吹きかけると、光がぱっと散って、本当に消えた。
「ルジェ、嫌なのか?」
『キャン、キャンキャン』
「嫌じゃないが、嫌?」
『キャン』
呆然としたウィオに質問される。オレの答えに三人は悩んだ。言葉で伝えられないのがもどかしい。契約が嫌なんじゃない。理由は分からないが、あの魔法陣が嫌なのだ。もしかして奴隷契約的なモノなんだろうか。
「契約することは受け入れても、あの契約は嫌ということでしょうか」
『キャン!』
「どうやらそのようだな。といっても、私は使役獣の契約はあの方法しか知らない」
「一般的なものですよね。王都に入る前に契約を済ませておいたほうがよさそうですが」
それでもあの魔法陣はダメだ。ぐーたら飼い狐生活のためであっても、ダメなのだ。
飼い主はウィオだけだよ、嫌なわけじゃないよ、と手にすりすりしながら主張しているのが、ちゃんと伝わるといいんだけどな。他に契約方法はないのかなあ。オレの飼い主はウィオだけですって契約がいいのに。
そう思いながらウィオの手の甲をなめると、その場所が光った。
『キャフン!?』
「隊長!」
「これは、なんだ?」
え、これ何? ウィオの手の甲に魔法陣みたいな紋様のあざができちゃったんだけど。
『ごめん。なんか分からないけど、ごめん。痛くない?』
「いや、平気だ」
「隊長、それはその狐がつけたのですか?」
「おそらくは。ルジェもよく分かってないようだ」
消えないかなと思ってなめてみたけど消えない。どうしよう、手の甲だし、けっこう目立つよね。本当にごめん。
「やはり、その狐、ただの狐ではないようですが……」
『ただの狐だよ、ウィオのペットだよ。悪い狐じゃないよ』
「ルジェ、大丈夫だ、分かっている」
「隊長、もしかして、その狐の言うことが分かるのですか?」
医務官が不思議そうに質問するが、ウィオにオレの言葉は通じない。通じると便利なのに。
「そういえば。ルジェ、お前の種族はなんだ?」
『え? オレの言うこと分かるの?』
「ああ、分かる。この印のおかげか? それで、お前の種族はなんだ?」
『ウィオの飼い狐!』
やった、言葉が通じる! これで飼い狐生活も安泰だ。ウィオ、大好きだよー。だから養って!! 喜びでウィオの膝の上でぐでんぐでんになっちゃう。お腹なでていいよ! 飼い主は触り放題だよ!
「隊長、なんて言ってるんですか?」
「……」
「隊長?」
「私の飼い狐、らしい」
ウィオの膝を堪能していると、半ギレした副隊長に顔の前まで持ち上げられた。
「バカ狐、ちゃんと質問に答えろ! お前の種族はなんだ」
『やだ! ウィオ助けて。オレは誇り高きウィオのペットなんだ。他の奴に抱っこされる気はない!』
「ヴィン、ルジェが嫌がっているんだが……」
「隊長、飼い主ならしつけも必要です。バカ狐、答えろ!」
『知らないよ。オレ、犬だと思ってたけど狐みたいだし。それより放せ!』
「ルジェも種族は分かっていないようだから、放してやってくれ」
「最近、野営地の近くで目撃されていたソーロか」
隊長も悩んだ結果、とりあえず目覚めるまではリーネに預けることに決めた。この小ささなら、何かあってもすぐに斬り捨てられる。
そう思いリーネのところに連れていくと、リーネはソーロの首をくわえて持ち上げ、そっと自分の足元に置いた。とても大切なものを扱うようで、かなり気を遣っているのが分かる。しかも隊長の馬までソーロを気にしている。このソーロ、何かあるのか?
考えても分からないので、とりあえず目覚めるのを待った。
目覚めたソーロは、隊長の足元に駆けよる。周りの騎士におびえながらも、隊長の足にすがりついた。
害のない様子にほだされたのか、隊長は面倒を見ようと決めたようだ。隊長に懐き、手から食事をもらい、後ろをついて回る様子は、さながら鳥のひなのようだ。隊長の膝から転げ落ちたり、何もないところでつまずいたり、かなりどんくさいようで、これで今までどうやって森の中で生きてきたのか分からない。誰かに飼われていたのだろうか。成長して魔物だと思われ手放されたとか?
そして、オッソにやられた足の傷はもう治っていた。まだ若く治りが早いといっても早すぎだ。
悪いものという感じはしないが、謎が多すぎた。
◇ ◇ ◇
目が覚めると、テントにウィオがいなかった。久しぶりに危険のないところだったので、ぐっすりと眠り、寝坊してしまったようだ。
ぐいーっと後ろに伸びて、それから前に伸びて、後ろ足をプルプルして、動き出す。
ウィオはどこ行っちゃったんだ。飼い犬、じゃなくて飼い狐を置いていくなんて、飼い主失格だ。
テントを出てウィオを探すと、馬に乗って森の奥に出かけるところだった。
『キャン!(オレも行く!)』
さっそうと馬に飛び乗れればかっこいいのだが、あいにくオレは段差が苦手だ。あんな高さまで飛び上がれるはずもない。
それでも置いていかれるのは嫌で、馬の足元にまとわりつくと、ウィオに怒られた。
「ルジェ、危ないだろう! 馬から離れろ!」
『ヒヒン、ヒヒーン(おいおい、踏まれるから気をつけろ)』
大丈夫だよ。ここのお馬さん、なんでかオレのことは守ってくれるから。ウィオの馬もオレを踏まないように、そして他の馬に蹴られないように、足の間に入れてくれている。
オレも一緒に行きたいとウィオに訴えると、昨日いろいろ教えてくれたお馬さんが首の後ろをくわえてオレを持ち上げ、ウィオに渡してくれた。
「これは、一緒に連れていけということか?」
『キャン』
「ダメだ。昨日襲われたような魔物がいるんだ。テントにいろ」
『キャンキャン』
手をなめて連れていってくれとお願いしても、ウィオは折れてくれなかった。帰ってきたら遊んでやるからとなだめられ、留守番の騎士に手渡される。仕方がない。仕事の邪魔はしちゃダメだよな。聞き分けのいい飼い狐として、大人しく待っていよう。
置いていかれて暇なオレは、留守番の騎士たちが仕事をしているのをぼんやり見ながら過ごす。といっても、どうやら留守番は休暇を兼ねているようで、食事を作ること以外、特にやることはなく、楽しいことが何も起こらない。外から眺めていたときもそうだった、とてものんびりとした午前中だ。
昼になると、オレにもご飯を出してくれた。今日は、味付けをする前にオレの分だけ取り分けてくれたようで、薄味だ。うん、こっちのほうがいい。昨日のも美味しかったけど、味覚が鋭くなっているのか、けっこう塩辛かったんだよな。
「美味しかったか?」
『キャン(うん)』
食べ終わったので、器をくわえて返しにいくと、受け取ってからなでてくれた。
「お利口だなあ。これもう、完全に飼い犬だろう」
『キャン(飼い狐だよ)』
このあと、調理に使った鍋や食器と洗濯ものを持って、留守番の半数くらいが川へ向かうことを、遠くから眺めていたオレは知っている。一緒に行って身体を洗いたい。勝手に行ってもいいんだろうけど、襲われるのが怖いから、守ってほしい。
一部の騎士たちが川へ移動し始めたので後ろをついていくと、途中で「一緒に来るか?」と誘ってくれた。ありがとう。
川では浅いところに入って、身体を洗おうと毛をぬらしてみる。けれど、もふもふの毛は防水性がばっちりなようで、なかなかぬれない。かといって深いところで溺れたり流されたりするのは怖い。水際でバタバタしていると、洗いものを終えた騎士が、「何やってるんだ?」と近づいてきた。
『キューン(身体を洗いたいんだよ)』
「もしかして水浴びしてんじゃないか?」
「全然ぬれてないぞ」
「よし、オレが一緒に洗ってやろう」
そう言ってひとりが服を脱いで川に入り、自分の身体を洗い終えてから、オレのほうに来る。洗ってくれーと近寄っていくと、手のひらでオレの毛をゴシゴシとこすった。石けんはないが、水だけでも毛についていた汚れがだいぶ落ちたはずだ。
「終わったぞ」と言われ、水から上がる。水を払うためにぶるぶるしたのに、ぐっしょりとぬれた毛からはなかなか飛んでいかない。水を含みにくい代わりに、一度ぬれると乾くのが大変なようだ。風邪ひかないよな?
「あはは、お前、本体そんだけかよ」
「実はめちゃめちゃ細いな」
「このまま野営地に連れて帰ろうぜ」
毛がぺちゃっとなって、ボリュームのなくなったオレを、騎士たちが笑っている。ムキになって水を払おうとして目が回り、こけてしまった。
「おい、気をつけろ。せっかく洗ったのに汚れるだろう」
「ほんとにどんくさいな」
そう言って抱き上げられる。
放せ! オレは、誇り高き飼い狐なんだ。飼い主のウィオ以外に抱っこされる気はない!
もがいても全くかなわず、腕から飛び下りることもできず、抵抗むなしくそのまま馬に乗せられる。そして野営地に戻ると、居残りの騎士にも笑われた。悔しいぞ。
結局、怪我を見てくれた人が、このままでは風邪をひくからと、風の魔法が得意な人にドライヤーの魔法版で毛を乾かさせ、怪我の様子を診ると言って包帯を巻きなおしてくれた。もう傷はないから包帯はいらないけど、こんなに早く治っちゃいけないみたいだから、とれないように気をつけよう。
水浴びをして疲れたのか、今まで危険があったから起きていられただけなのか、お昼を過ぎると眠くなる。飼い狐はお昼寝の時間なのだ。
留守番のお馬さんの近くの日当たりのいいところで、きれいになった自分の毛に頭を突っこんでまどろんでいたのに、周りの騒がしさに目が覚めた。何かあったみたいだ。
騒ぎの中心に向かうと、騎士が何人か怪我をしている。けっこう血が出ていて、まともに見るとまた倒れそうだ。血の匂いだけでもくらくらする。
あれ? ウィオはどこだ?
ウィオの匂いを追うと、薬の匂いがきついテントにたどりつく。血の匂いがするし、怪我をしたのか? 飼い狐生活二日目で飼い主がいなくなるとか、ホントに勘弁してほしい。
意を決してテントに入ると、ウィオが手当てされていた。
『キャン!(ウィオ!)』
肩からお腹にかけてバッサリ斬られ、たくさん血が出ているし、意識がない。
やばい、血を見て倒れそうだ。
ぷるぷるしていると、治療が終わるまで出ていろと、赤毛の騎士にテントの外に連れ出された。
ウィオ、死なないよな?
心配だけど、できることはないし、お馬さんのところに向かう。不安なので誰かと話したいのだが、今のところオレが話せるのはお馬さんだけなのだ。
けれど、オレにいろいろ教えてくれたお馬さんは、横になっている馬に寄り添っていて、おしゃべりしようと言える雰囲気ではなかった。血の匂いがキツイ。馬も怪我をしたのか?
近寄って見ると、倒れていたのはウィオが乗っていた、今朝オレを足元にかくまってくれた馬だ。
『キューン(大丈夫?)』
『ヒーンヒンヒン(隊長と一緒に魔物にやられたのよ)』
ウィオの馬はチラッとオレを見て、また目を閉じる。だいぶつらそうだ。
血を直視しないようにしているが、傷の辺りに黒いモヤモヤがまとわりついているのが見える。
『クーンクーン(あのモヤモヤはよくないものだよね)』
『ヒーンヒヒーン(あれがあると傷が治らないのよ)』
『キャン(オレとれるよ)』
とは言ったものの、あの傷、つまり血をなめるのは嫌だ。どうしよう。息を吹きかけたら、飛んでいかないかな。物は試しだ、やってみよう。
『ヒューーーー』
大きく息を吸って、ロウソクを吹き消すように息を吹くと、なぜか雪が飛んだ。え、なんで? 傷が雪まみれになっている。
『キューン(ごめん、間違えた)』
「おい、何をやっている!」
『ヒヒーン!(邪魔しないで!)』
オレが雪を吹きかけたのを見て騎士が飛んできたが、お馬さんが阻止してくれている。次は成功させなきゃ。
あのときどうやったんだっけ。たしか、よくないものだからとれないかなと思ってなめたら、とれたんだよな。よくないものを吹き飛ばすイメージでやってみるか。今度こそ。
『フゥーーーー』
お、モヤモヤがちょっと薄くなった。これでいいみたいだ。
それから何度かフウフウすると、モヤモヤが消えた。
『キャン!(消えたよ!)』
『ヒーンヒン(ありがとう。主も助けてくれないか)』
もちろんだよ。オレの飼い主だからね。
よし、次はウィオだ。テントに急ごう。
バタバタしている騎士たちの足元を走り抜け、匂いのきついテントに入る。ウィオにも黒いモヤモヤがまとわりついていた。あの馬よりもウィオのほうが濃い。薬と血の匂いで頭がくらくらするが、助けなきゃ。
赤毛の騎士にまたテントの外に出されそうになったが、今度は捕まえようと伸びてきた手をすり抜けてウィオの横に陣取り、さっきの要領で息を吹きかけた。
『フゥーーーー』
お、薄くなったぞ。これならいけそうだ。消えるまで頑張ろう。馬よりもモヤモヤが濃いので、なかなか消えないけれど、この先の飼い狐生活がかかっているのだから、踏ん張りどころだ。
ときどき間違って雪を飛ばしながら、もう何回フウフウしたのか分からないくらい息を吹き出したところで、やっとモヤモヤが消えた。ウィオの胸元をふんふん匂いをかいでも嫌な感じはしない。
やったぜ。オレ、チート! これで、オレのぐーたら飼い狐生活は安泰だよね?
そう思ったところで、身体に力が入らなくなって倒れた。
その先の記憶はない。
◆ ◆ ◆
昨日は俺のチームがオッソを一体倒したが、住民によるとあと三体いるらしい。さっさと倒して王都へ帰りたい。
昨日、隊長のチームがオッソの最近の痕跡を見つけたので、今日は二チームともそこへ向かう。
準備をしていざ出発となったときに、あの狐がキャンキャン鳴きながら駆けてきた。どうやら一緒に行きたいようで、隊長の馬の足元にまとわりつく。
その狐を俺の愛馬のリーネがくわえて、隊長に渡した。馬たちはなぜかこの狐を守ろうとする。子どもだからか?
結局、隊長に言い聞かされて、狐は大人しく留守番の騎士に手渡され、俺たちは出発した。
「隊長、あの狐を飼うんですか?」
「ルジェが望んでいる。それに、あれでは野生で生きていけないだろう」
「もともと村人にでも飼われていたんですかね」
名前まで付けて、隊長はずいぶん可愛がっているようだ。氷の騎士と言われている隊長が、まさか動物にほだされるとは思っていなかった。あの狐に対してはずいぶんと当たりが柔らかい。
その話は帰ってからだ、と隊長が切り上げたので、俺は魔物狩りに気持ちを切り替えた。
そろそろ昨日、隊長のチームが見つけた痕跡の辺りだ。
小動物が全くいない。これは、いるな。小隊全体に緊張が走る。
しばらくして、オッソ三体を見つけたと、合図があった。音で気づかれないように、ハンドサインだ。三体を取り囲むよう静かに展開し、隊長の合図で一斉攻撃を仕掛ける。
先制攻撃は中距離からの魔法だ。隊長は氷の上級魔法を一体に撃ちこんで、それだけで瀕死にした。さすがだ。俺も他の騎士と一緒に火の中級魔法を撃ちこむが、オッソの硬い皮に阻まれて瀕死にまではもっていけない。そこから、爪の攻撃に気をつけながら、剣で削っていく。
魔物の攻撃を受けると、傷口に瘴気が入り、浄化をしてもらわなければ治りが遅くなり、傷跡や後遺症が残る。浄化は教会の上級司祭しか使えず高額なため、魔物に大きな怪我を負わされると、騎士を引退するしかなくなる。
オッソの場合、爪でえぐられるので、中距離からの魔法で倒せない場合は、囲って背中側から攻撃するのがセオリーだ。なかなか時間がかかる。
爪に当たらないように、少しずつ少しずつ背中から斬りつけ、ようやく三体すべてを倒した。隊長が氷の上級魔法で一体を瀕死にさせていなければ、三体同時はきつかっただろう。
火の魔法が得意な者で魔物を三体とも燃やして、さあ帰ろうと全員馬に乗ったところで、すぐ近くに強い気配を感じた。合図がなくとも全員が剣を抜いたが、運悪く、一番魔物に近いところにいた新人の反応が遅れ、オッソの突進に対応できずにはじき飛ばされる。一早く反応した隊長がオッソに攻撃を仕掛け、俺たちも続いた。あとはいつものようにオッソを倒すだけだと思ったそのとき、飛ばされた新人の後ろに、今までで一番大きな、毛の色が違うオッソが現れる。
上位種だ。こいつのせいで気配が全く読めなかったのか。
新人が上位種の爪にやられそうになる。その瞬間、隊長が新人をかばって間に割って入り、オッソの爪を剣で受け止めきれずに斬られた。
「隊長!」
「二チームに分かれて、それぞれ囲め!」
斬られながらも指示を飛ばしたので、意識はしっかりしている。まずは目の前のオッソだ。
「こっちを早く片づけて、上位種に合流するぞ!」
皆、馬から降りて、多少の怪我は気にせず、とにかく早く倒すことに専念したおかげで、先に出たオッソは倒せた。傷跡が残るかもしれないが、後遺症が残るような怪我をしている隊員はいない。次は上位種だ。
倒したオッソは一旦放置して、上位種を相手にしているほうに合流する。隊長はかなりの深手を負ったのか、立ち上がれないでいた。早く治療をしなければマズい。だが、相手は上位種、少し近づくと爪が飛んでくるうえに、皮膚が異常に硬くて攻撃が通らない。攻めあぐねていたときに、隊長から「離れろ!」と指示がある。全員が離れたタイミングで、隊長が魔法を撃った。
「アイシクルランス!」
氷の太い槍が空から降ってきて、上位種に突き刺さり、地面に縫い付ける。
「今だ、魔法を撃て!」
皆に号令をかけながら、俺も火の魔法を撃った。早く隊長を野営地に連れて戻らなければと、全員が必死だ。
時間はかかったが、魔法で瀕死になった上位種は、最後に口の中に風の魔法を叩きこまれて、絶命した。それを見届けてから、隊長は崩れるように地面に倒れ伏す。
「隊長のチームは、隊長と馬を連れて、野営地に至急帰還しろ! 斥候を出して、治療の準備をさせておけ!」
隊長は心配だが、俺にはまだやることがある。オッソが残っていないか一帯を確認し、上位種ともう一体を燃やさなければならない。
隊長は野営地に戻ればすぐにも治療を受けられるはずだが、あそこでは簡単な治療しかできない。大丈夫だろうか。
片付けを済ませて野営地に戻ると、リーネは隊長の馬のところへ駆けていった。あいつらは番だから、心配だろう。俺は隊長がいるだろう医務のテントへ急ぐ。
中に入ると、狐が隊長を見て震えていた。出血もひどいし、動物とはいえ子どもが見てよいものではない。抱き上げてテントの外に出したが、抵抗はされなかった。
「隊長はどうだ?」
「傷が深いです。ここでは止血しかできません」
「そうか……」
ポーションをかけても、魔物につけられた傷にはあまり効かない。それでも、今あるポーションをすべて使う勢いでかけていき、なんとか血を止めた。医務官と協力して服を脱がせ、傷の周りを消毒し、包帯を巻いていく。
隊長は侯爵家の出身だから、教会で浄化を使ってもらえるだろうか。このままでは日常生活にも支障が出そうだ。
ここからは俺が指揮をとらなければならない。まずは野営地を撤収して、隊長がゆっくり休める街まで運ぶ必要がある。落ちこんでいる場合ではない。
なんとか気持ちを立て直して、テントを出ようとしたところに、狐が入ってきた。隊長の休養の邪魔にならないよう、傷口に触れて瘴気をもらってしまわないよう、狐を捕まえて外に出そうとしたが、手元をするりと抜けられる。どんくさいと思って油断した。
狐は隊長の横に陣取ると、四本の足を踏ん張って息を吹きかけ始めた。なんのいたずらだ?
「おい、何をしている!」
「副隊長、待ってください。おそらく浄化しています」
狐に手を伸ばした体勢で、驚きに固まる。
まさか、浄化だと? バカな。浄化は教会の上級司祭しか使えないはずだ。この狐、ただの狐じゃないのか? そういえば、灰色のような毛だったのが、今はきれいな銀色だ。
少しずつ瘴気が薄くなっているという医務官の言葉に、狐と隊長を見守る。
狐はときどき、息ではなく雪を吹き出して、不思議だという顔をしてからやり直した。すごい狐かと見直したのに、やっぱりどんくさい。
ずいぶん長い間、息を吹きかけていたが終わったようで、狐は隊長の胸元の匂いをかいで、満足そうな顔をした。そして、そのまま隊長の胸の上に倒れこむ。
「おい、大丈夫か?」
狐に触れてみるが意識がない。医務官が狐を抱え上げて確認したあと、慎重に隊長も診察した。
「狐は魔力切れでしょう。隊長は……、瘴気が消えています」
「そうか。よかった」
「副隊長、このことは」
分かっている。こんなことを知られたら、狐は教会に取り上げられてしまうだろう。隊長がさみしがる。それに、このどんくさい狐が教会で上手くやっていけるとは思えない。
まずはこれからやるべきことに集中しよう。隊員たちに隊長の容態が落ち着いたことを伝えて、帰還の準備をさせて。他の負傷した奴らも確認しなければならないし、隊長の馬も心配だ。
それに何より、小隊に箝口令を敷かなくてはならなかった。
◇ ◇ ◇
温かいお湯につかっているような、心地よいまどろみに身を任せていた。まだ寝ていたい。
「ルジェ、そろそろ起きてくれ」
『クゥーン(あと五分)』
オレはもう社畜じゃないんだ。ぐーたら飼い狐生活を満喫しているんだから、起こさないでくれ。
「ルジェ、美味しい肉があるぞ」
『キャン!(食べる)』
あれ、もぐもぐしているのに味がしない。
「夢の中で食べてるんじゃないですか。鼻先に肉を持っていったら食べそうですね」
「ルジェ、口を開けて」
あーん、と口を開けて待っていると、肉が口に入ってきた。あれ?
「ルジェ、起きたか」
『クン?(ウィオ?)』
ウィオだ。おはよう。よく寝た。もっと肉をくれ。
起き上がって、ガツガツもぐもぐして、お腹が落ち着くと、我に返る。ウィオ、大怪我してなかったっけ?
『キャン、キューン(ウィオ、怪我は? 治った?)』
「急にどうした。もっと食べたいのか?」
『キャンキャン』
「違うのか。ルジェは十日眠ってたんだ。大丈夫か?」
え、オレ十日も寝てたの? それはよく寝たって感じるだろうなあ。飼い狐にしても寝すぎだし、盛大に寝坊したな。「ウィオの怪我は?」って聞いても分かってもらえないし、服の上から見ても分からない。だったら、服の中に潜りこんでみよう。
「こら、ルジェ、やめなさい」
「隊長の怪我が心配なんじゃないですか?」
「怪我の心配をしてくれているのか」
『キャン』
「もう大丈夫だ。ありがとう」
よかった。それならオレの飼い狐生活も安泰だ。ということで、肉のおかわりをもっとくれ。
食事が終わって、赤毛の騎士と治療してくれた人に、何が起きたのかを説明してもらう。どうやらオレのチートが火を噴きすぎたようだ。
ここは、王都に近い街の宿のウィオが泊まっている部屋で、明日には王都につくらしい。赤毛の騎士が副隊長で、治療してくれた人は医務官だ。医者とどう違うのか分からないが、知らなくても困らないだろう。二人とも、オレが人間の言葉を理解していることに驚いている。どうどう? オレすごいでしょ。
オレがやったフウフウは、浄化といって教会の上級司祭にしかできない。もしオレが浄化ができることが知られれば、教会に取り上げられるらしい。「教会に行きたいか?」と聞かれたが、お断りだ。オレはぐーたら飼い狐生活がしたいのだ。働きたくない。
いや、違うな。オレは飼い狐として、ペットとして、ご主人様を癒やすという大事な仕事に従事するのだ。教会で働いている場合ではない。
やだよー。飼い狐にしてよー、とすりついてアピールすると、ウィオは教会には渡さないと約束してくれた。
「でも、浄化がばれたら、教会に取り上げられませんか?」
「使役獣として契約してはどうでしょう?」
医務官が提案してくれて、ウィオも乗り気になる。けど、そもそも使役獣って何? オレが首をかしげたのを見て、ウィオが説明してくれた。
使役獣は人間と契約した動物や幻獣のことで、契約主は使役獣に命令できるらしい。契約の重ねがけはできないし、契約している使役獣を他の人が奪うのは禁止されているので、オレがウィオから離される可能性が低くなるそうだ。
契約は契約主からしか解除できず、使役獣は契約主の命令に逆らえなくなる。でもペットなら飼い主の言うことをちゃんと聞くのは当然だし、ウィオなら変な命令はしないだろう。
いいよ、と軽く了承すると、さっそく契約することになった。
ウィオが何か呪文を唱え、何もないところに魔法陣が浮かび上がって、オレのほうへ向かってくる。でも、これは受け入れてはダメだ。理由は分からないけど、本能がダメだと警告してくる。
『ウゥゥーーー』
突如うなりだしたオレにウィオが驚いているけど、この契約は受け入れられない。
目の前に来た魔法陣に消えろと願って息を吹きかけると、光がぱっと散って、本当に消えた。
「ルジェ、嫌なのか?」
『キャン、キャンキャン』
「嫌じゃないが、嫌?」
『キャン』
呆然としたウィオに質問される。オレの答えに三人は悩んだ。言葉で伝えられないのがもどかしい。契約が嫌なんじゃない。理由は分からないが、あの魔法陣が嫌なのだ。もしかして奴隷契約的なモノなんだろうか。
「契約することは受け入れても、あの契約は嫌ということでしょうか」
『キャン!』
「どうやらそのようだな。といっても、私は使役獣の契約はあの方法しか知らない」
「一般的なものですよね。王都に入る前に契約を済ませておいたほうがよさそうですが」
それでもあの魔法陣はダメだ。ぐーたら飼い狐生活のためであっても、ダメなのだ。
飼い主はウィオだけだよ、嫌なわけじゃないよ、と手にすりすりしながら主張しているのが、ちゃんと伝わるといいんだけどな。他に契約方法はないのかなあ。オレの飼い主はウィオだけですって契約がいいのに。
そう思いながらウィオの手の甲をなめると、その場所が光った。
『キャフン!?』
「隊長!」
「これは、なんだ?」
え、これ何? ウィオの手の甲に魔法陣みたいな紋様のあざができちゃったんだけど。
『ごめん。なんか分からないけど、ごめん。痛くない?』
「いや、平気だ」
「隊長、それはその狐がつけたのですか?」
「おそらくは。ルジェもよく分かってないようだ」
消えないかなと思ってなめてみたけど消えない。どうしよう、手の甲だし、けっこう目立つよね。本当にごめん。
「やはり、その狐、ただの狐ではないようですが……」
『ただの狐だよ、ウィオのペットだよ。悪い狐じゃないよ』
「ルジェ、大丈夫だ、分かっている」
「隊長、もしかして、その狐の言うことが分かるのですか?」
医務官が不思議そうに質問するが、ウィオにオレの言葉は通じない。通じると便利なのに。
「そういえば。ルジェ、お前の種族はなんだ?」
『え? オレの言うこと分かるの?』
「ああ、分かる。この印のおかげか? それで、お前の種族はなんだ?」
『ウィオの飼い狐!』
やった、言葉が通じる! これで飼い狐生活も安泰だ。ウィオ、大好きだよー。だから養って!! 喜びでウィオの膝の上でぐでんぐでんになっちゃう。お腹なでていいよ! 飼い主は触り放題だよ!
「隊長、なんて言ってるんですか?」
「……」
「隊長?」
「私の飼い狐、らしい」
ウィオの膝を堪能していると、半ギレした副隊長に顔の前まで持ち上げられた。
「バカ狐、ちゃんと質問に答えろ! お前の種族はなんだ」
『やだ! ウィオ助けて。オレは誇り高きウィオのペットなんだ。他の奴に抱っこされる気はない!』
「ヴィン、ルジェが嫌がっているんだが……」
「隊長、飼い主ならしつけも必要です。バカ狐、答えろ!」
『知らないよ。オレ、犬だと思ってたけど狐みたいだし。それより放せ!』
「ルジェも種族は分かっていないようだから、放してやってくれ」
898
お気に入りに追加
7,503
あなたにおすすめの小説

私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

【完結】私の見る目がない?えーっと…神眼持ってるんですけど、彼の良さがわからないんですか?じゃあ、家を出ていきます。
西東友一
ファンタジー
えっ、彼との結婚がダメ?
なぜです、お父様?
彼はイケメンで、知性があって、性格もいい?のに。
「じゃあ、家を出ていきます」

私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。

公爵令嬢はアホ係から卒業する
依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」
婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。
そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。
いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?
何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。
エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。
彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。
*『小説家になろう』でも公開しています。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。

ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後
オレンジ方解石
ファンタジー
異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。
ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。