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書籍化記念

6. 安全教室

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 騎士ローランドの仲間たちと魔物の戦いは、魔物同士も戦い始める大乱戦になった。
 オレは魔物たちと追いかけっこを楽しんでいたけど、なぜか魔物と協力した魔法使いに捕まえられてしまった。「捕まえたぞー!」とオレを高々とかかげ、たくさんの拍手をもらった魔法使いがご満悦だったから、まあいいんだけど。
 そして、なんだかよく分からない全員参加の勝ち抜き戦が始まって、騎士ローランドが勝って終わった。
 ものすごく遠回りしたけど、最後は台本どおりにしてくれたらしい。

 観客の興奮も最高潮の中、大トリの登場だ。

「さて、最後は賢者です。賢者は、騎士団第三部隊の部隊長カエルラです。対する魔物は、我らがウィオラス小隊の隊長ウィオラスです。水の賢者対、氷の魔物。さあ、賢者は無事に魔物を倒すことができるのか? 皆さん、賢者への応援をお願いします!」

 部隊長さんがフードを降ろして、水色の髪をさらすと、大きな歓声が上がった。有名な水の騎士と氷の騎士の登場とあって、大人たちも舞台に釘づけだ。

 賢者はウィオの予定だったから、セリフもなしにして、戦闘以外は何もしないに台本にしていたけど、昨日の練習をたまたま見に来た部隊長さんにお願いしたら出てくれることになったのだ。
 じゃあ派手にしちゃおうってことで、相手の魔物をウィオにして、さらに順番も変えて賢者が大トリになってるけど、もはや誰も気にしていない。

 その中で始まったのは、戦闘ではなく、魔法のろうだ。
 ウィオが氷魔法で魔物の氷像を出現させると、部隊長さんが水魔法で氷をくだいてみせる。派手だから、子どもたちの食いつきがすごい。
 十分な距離は取ってあるけど、戦いに興奮した子どもたちが身を乗り出してくるので、もしものときのために客席との間に結界を張った。
 そのときに気付いたけど、客席の後ろに近衛このえ団長さんがいる。ってことは、あのフードをかぶっている人は王様だな。
 次から次へと作り出される魔物の氷像を、部隊長さんが砕いていくので、みんな舞台に釘づけで、王様には気づいていない。

 しばらくウィオが作った氷像を部隊長さんが魔法や剣で砕いていたが、ウィオが狼の魔物であるロボの氷像を三体作ったところで、部隊長さんが攻撃をやめた。

「この魔物は、街道に現れることがあります。足が速いですが、木登りはあまり得意ではないので、出会ったら高いところに登りましょう」

 そう言って、剣でバッサリと氷像を斬ると、今度はウィオが大きな芋虫のような魔物の氷像を出現させた。
 いつのまにやら即席の魔物対策教室が始まっていた。オレが考えた脚本じゃないから、部隊長さんとウィオで決めたのかな。古代の知識を持つ賢者っていう設定に先生役はぴったりだ。

「この魔物は足が遅いので、走って逃げて、近くの家や馬車に入って隠れましょう」
「はーい!」

 さっきまでの派手な戦闘のおかげで、子どもたちも魔物から逃げ方も飽きずに聞いてくれている。交通安全教室みたいだ。
 しばらくいろんな魔物の氷像を出しては、逃げ方の説明が続いた。

 最後に、ウィオがいろんな種類の魔物の氷像を出して、それを部隊長さんが水魔法で一気に砕くと、子どもたちが大きな歓声が上がった。クライマックスにふさわしい派手さで、会場が今までで一番盛り上がっている。
 この後ウィオが倒れれば終わりなんだけど、ちゃんと倒されたフリができるかな、と見守っていたら、部隊長さんがこっちを見た。

「アリシャンドラ、とどめを」
『ギャオ!』

 台本にないけど、呼ばれたから行こう。ウィオを倒せばいいんだよね。
 部隊長さんの肩に飛び乗って、大きく息を吸って、雪を吹き出した。ピューーーー!
 それを見て、ウィオがパタッと倒れてくれた。雪はウィオのところまで届いてないけど、意図は分かってくれたようだ。演技としては赤点をつけられそうだけど、たくさんの氷魔法を披露したから、大目に見てあげて。

「ついに、魔物は賢者とアリシャンドラによって倒されました! みなさん、大きな拍手を!」

 わーっと上がった歓声と拍手に、部隊長さんが手をあげてこたえている。
 ウィオも魔物役を頑張ったよ。倒れたままなので、起こしにいこう。

『終わったよ。起きて。後ろで王様が見てるよ』
「だから、部隊長がルジェを呼んだのか」

 ああ、なるほど。部隊長さんは王様に気付いて、オレの見せ場を作ってくれたのか。

 出演者全員が舞台に並んだところで、中心に立つローランドの肩に乗って尻尾を振ると、観客からたくさん拍手が飛んでくる。
獅子しし、よくやったぞ」という声も聞こえるから、部隊長さんの目論見もくろみは成功だ。
 ありがとう。みんな、ありがとう。演技もできて台本も書けるお利口なぎつねのルジェくんを覚えておいてね。

「やがて、街が出来上がり、街の人たちは騎士ローランドと獅子のアリシャンドラに感謝して、ローランドを新しい国の王として選びました」

 賢者役の部隊長さんが、紙の王冠をローランド役の騎士にかぶせると、周りの騎士たちが「よっ、王様」とはやし立てる。それを見て、客席からも「王様ー!」と掛け声が飛んでいる。
 実は客席の後ろに本物の王様がいるけど、ローランド役の騎士はしばらくはあだ名が王様になりそうだね。

 せっかくの大団円、紙吹雪の代わりに空に向かって雪を吹き出すと、ウィオも小さな氷の欠片を降らせてくれて、キラキラしている。他の騎士たちもファイアーボールを頭上に打ち上げたりと、舞台上がとてもにぎやかだ。

 騎士たちは子どもたちが喜んでいるのを見て笑顔だ。子どもたちは口々に楽しかったと言ってくれているから、きっと帰ったらチャンバラごっこをするだろう。それから、魔法ごっこも。「僕は騎士」とか「私は賢者」とかやるはず。

 後から聞いたところ、お城での再演を希望する声も出ていたらしい。でもそれは、騎士の仕事ではないと騎士団長さんが断ってくれたんだとか。
 よかった。あれは、子どもたちに騎士を身近に感じてもらう企画であって、貴族に見せるためのものじゃない。神獣であるオレが出ているからと再演を希望した人もいるだろうし。

 そんな思惑はさておき、好評だったのは本当で、魔物の特徴を分かりやすく子どもたちに教えたのが高く評価されていた。遠征先で子どもたちに見せてはどうかという話が出ているらしい。
 それはいいかも。第三部隊の遠征先は、魔物の被害にあっているところだ。王都にいる子どもたちよりも、魔物の知識が必要だろう。実際に魔物と戦っている騎士の話なら、子どもたちも興味を持つはずだ。


 こうして、オレのデビュー舞台は、大成功のうちに幕を閉じた。
 肩書に、脚本家と役者が加わったよ。本番は脚本からだいぶ変わっちゃったけど、アドリブもできるくらいしっかりした脚本が作れていたってことで、合格でしょう。
 舞台の依頼、待ってます! 連絡は侯爵家まで。報酬は美味しいものがいいな♪



――――――――――――

みなさまの応援のおかげで、書籍が無事発売となりました。
ご購入いただいた方もいらっしゃって、感謝の念がつきません。本当にありがとうございます。

次からは、学園編の連載を開始いたします。
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