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番外編
18. 執事さんとおでかけ 4
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今日もとってもいいお天気なので、たくさん休憩を取りながら進んでいる。秋なのに、ちょっと太陽が憎らしくなるくらいの暑さだ。
暑さが苦手なお馬さんのために、休憩時には護衛さんが川から水をくんでいたけれど、わざわざ水をくみにいかなくても、オレが桶に雪を出しておけば勝手に溶けて水になることに気づいてからは、野営地が見えたところで荷台の桶に雪を出している。四つ足なら、御者台と荷台の移動もお手のものだけど、馬車の後ろを見張っている護衛のお兄さんが心配してくれるから、合図して運んでもらっている。みんな過保護だなあ。運ぶときに、ひんやりしているオレを、なでたいだけなのかもしれないけど。
野営地について、いい感じに溶けた冷たい水をお馬さんたちの前に置いた後、執事さんたちも桶の水で手や顔を洗ったりしている。じんわりと汗ばむ陽気だから、さっぱりするんだろう。
お馬さんたちの背に乗って診察をしてから、雪を吹き出して涼を演出していたら、先に野営地で休んでいた人が近づいてきた。それを見て、執事さんと護衛さんがオレへの視界を遮る位置に移動して、オレを守る態勢に入ったのが分かった。
「突然すみません。そちらの使役獣の主はどなたでしょう」
「私ですが、何か」
「氷の魔法が使えるようですが、可能でしたら氷をいただくことはできますか? 我々の商会の御者が、暑さで倒れてしまいまして」
どうやら護衛のおじさんがオレの契約主ということにするらしい。執事さんとの間で目くばせとかもなくすぐに答えたから、あらかじめこういう事態を想定して決めていたみたいだ。でもウィオとオレってけっこう有名だと思っていたけど、オレだけだと氷の騎士の使役獣とは認識されないのかな。
相手はマトゥオーソから来た商会で、御者が暑くて気分が悪いと言って倒れたということだから、きっと熱中症だろう。涼しくなってきたから油断しちゃったかな。前世でさんざん熱中症の危険を教えられた身としては、協力するしかないでしょう。
『行くよ』
「ルジェ様」
『雪をあげるだけで、治癒はしないよ。身体を冷やせば、具合はよくなるはず』
重症だったら治癒魔法を使わないと無理だけど、それは見てから考えよう。でもウィオもいないこの状況で治癒魔法を使うほど、オレだって考えなしじゃない。執事さんに迷惑がかかることはしないから安心して。
オレの暫定契約主である護衛のおじさんの肩に飛び乗ると、執事さんが商会の人に案内するように言ってくれた。
馬車の影になるところに寝かされた御者さんは、立ちくらみを起こして倒れたけど、意識はあるようだ。熱中症の初期症状ぽいね。今年の夏は特に暑かったから、疲れが残ってしまったのかもしれない。それで、もう涼しくなったと油断したところにまた暑さがぶり返して、倒れちゃったんだろう。御者さんのそばに、こんもりと雪を出そう。フー、ピュー。これで身体を冷やしてあげて。
「これで身体を冷やしてください」
「ありがとうございます。御代はおいくらでしょう?」
その言葉に護衛のおじさんも執事さんもオレを見たけど、オレだってよく分からないよ。雪を吹き出すだけなら、食い倒れツアー中の宴会芸でいつもやってたから無料なんだけど。
結局相場もよく分からないので、オレのためのおやつで手を打つことになった。商品の中からビスケットをもらったので、後で食べよう。
野営地で人助けのイベントはあったけど、その後は順調に進み、次の村が見えてきた。この村は、ウィオが冒険者になりたてのころに、カリスタの森へ討伐に行った帰りに馬を助けた縁で、よく通っている。
前の村は一種類の果物だけを育てていたけど、この村はいろんな果物や野菜を育てている。風下にあたる道にまで、果物のいい香りがただよってきているから、これはちょうど熟した果物がもらえるんじゃないかな。
村に入ると、連絡もなく突然来た馬車に、村人たちが警戒していたけど、馬車に乗るオレに気づくと、気軽に声をかけてくれた。
「おや? 狐じゃないか。いつもの兄さんはどうしたんだ?」
『キューン』
「突然の訪問で申し訳ございません。当家の冒険者がいつもお世話になっております。本日は私が代わりに参りました」
「なんかよく分からないけど、野菜も果物もたくさんとれるよ」
『キャン!』
ありがとう! この季節にこの村を通ることは滅多にないから、まだ食べたことのない果物があるはず。何か分からないけどいい香りがしているので、きっと美味しいはず。
執事さんが今収穫できる野菜や果物がすべてほしいと言うと、「ちょっと待ってな」という言葉を残して、それぞれ別々に何かを取りに行ってくれた。
「ここにはよく通っていらっしゃったのですか?」
『前に馬を助けたら寄ってねって言ってくれたから。いろいろ食べさせてくれるんだ』
常連だから、お試しに食べさせてくれて、気に入ったものは旅の間に食べられる分だけ分けてくれる。ウィオが言い値で払うから、お得意さんってことで、村の人たちもあれこれ出してくれるようになった。
今回は、お屋敷に持って帰って料理もしてもらえるから、簡単に食べられるものだけでなく、いろんな種類をたくさん買うことができる。楽しみだなあ。何よりも、いい香りのしている果物を早く食べたい!
暑さが苦手なお馬さんのために、休憩時には護衛さんが川から水をくんでいたけれど、わざわざ水をくみにいかなくても、オレが桶に雪を出しておけば勝手に溶けて水になることに気づいてからは、野営地が見えたところで荷台の桶に雪を出している。四つ足なら、御者台と荷台の移動もお手のものだけど、馬車の後ろを見張っている護衛のお兄さんが心配してくれるから、合図して運んでもらっている。みんな過保護だなあ。運ぶときに、ひんやりしているオレを、なでたいだけなのかもしれないけど。
野営地について、いい感じに溶けた冷たい水をお馬さんたちの前に置いた後、執事さんたちも桶の水で手や顔を洗ったりしている。じんわりと汗ばむ陽気だから、さっぱりするんだろう。
お馬さんたちの背に乗って診察をしてから、雪を吹き出して涼を演出していたら、先に野営地で休んでいた人が近づいてきた。それを見て、執事さんと護衛さんがオレへの視界を遮る位置に移動して、オレを守る態勢に入ったのが分かった。
「突然すみません。そちらの使役獣の主はどなたでしょう」
「私ですが、何か」
「氷の魔法が使えるようですが、可能でしたら氷をいただくことはできますか? 我々の商会の御者が、暑さで倒れてしまいまして」
どうやら護衛のおじさんがオレの契約主ということにするらしい。執事さんとの間で目くばせとかもなくすぐに答えたから、あらかじめこういう事態を想定して決めていたみたいだ。でもウィオとオレってけっこう有名だと思っていたけど、オレだけだと氷の騎士の使役獣とは認識されないのかな。
相手はマトゥオーソから来た商会で、御者が暑くて気分が悪いと言って倒れたということだから、きっと熱中症だろう。涼しくなってきたから油断しちゃったかな。前世でさんざん熱中症の危険を教えられた身としては、協力するしかないでしょう。
『行くよ』
「ルジェ様」
『雪をあげるだけで、治癒はしないよ。身体を冷やせば、具合はよくなるはず』
重症だったら治癒魔法を使わないと無理だけど、それは見てから考えよう。でもウィオもいないこの状況で治癒魔法を使うほど、オレだって考えなしじゃない。執事さんに迷惑がかかることはしないから安心して。
オレの暫定契約主である護衛のおじさんの肩に飛び乗ると、執事さんが商会の人に案内するように言ってくれた。
馬車の影になるところに寝かされた御者さんは、立ちくらみを起こして倒れたけど、意識はあるようだ。熱中症の初期症状ぽいね。今年の夏は特に暑かったから、疲れが残ってしまったのかもしれない。それで、もう涼しくなったと油断したところにまた暑さがぶり返して、倒れちゃったんだろう。御者さんのそばに、こんもりと雪を出そう。フー、ピュー。これで身体を冷やしてあげて。
「これで身体を冷やしてください」
「ありがとうございます。御代はおいくらでしょう?」
その言葉に護衛のおじさんも執事さんもオレを見たけど、オレだってよく分からないよ。雪を吹き出すだけなら、食い倒れツアー中の宴会芸でいつもやってたから無料なんだけど。
結局相場もよく分からないので、オレのためのおやつで手を打つことになった。商品の中からビスケットをもらったので、後で食べよう。
野営地で人助けのイベントはあったけど、その後は順調に進み、次の村が見えてきた。この村は、ウィオが冒険者になりたてのころに、カリスタの森へ討伐に行った帰りに馬を助けた縁で、よく通っている。
前の村は一種類の果物だけを育てていたけど、この村はいろんな果物や野菜を育てている。風下にあたる道にまで、果物のいい香りがただよってきているから、これはちょうど熟した果物がもらえるんじゃないかな。
村に入ると、連絡もなく突然来た馬車に、村人たちが警戒していたけど、馬車に乗るオレに気づくと、気軽に声をかけてくれた。
「おや? 狐じゃないか。いつもの兄さんはどうしたんだ?」
『キューン』
「突然の訪問で申し訳ございません。当家の冒険者がいつもお世話になっております。本日は私が代わりに参りました」
「なんかよく分からないけど、野菜も果物もたくさんとれるよ」
『キャン!』
ありがとう! この季節にこの村を通ることは滅多にないから、まだ食べたことのない果物があるはず。何か分からないけどいい香りがしているので、きっと美味しいはず。
執事さんが今収穫できる野菜や果物がすべてほしいと言うと、「ちょっと待ってな」という言葉を残して、それぞれ別々に何かを取りに行ってくれた。
「ここにはよく通っていらっしゃったのですか?」
『前に馬を助けたら寄ってねって言ってくれたから。いろいろ食べさせてくれるんだ』
常連だから、お試しに食べさせてくれて、気に入ったものは旅の間に食べられる分だけ分けてくれる。ウィオが言い値で払うから、お得意さんってことで、村の人たちもあれこれ出してくれるようになった。
今回は、お屋敷に持って帰って料理もしてもらえるから、簡単に食べられるものだけでなく、いろんな種類をたくさん買うことができる。楽しみだなあ。何よりも、いい香りのしている果物を早く食べたい!
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