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番外編

16. 執事さんとおでかけ 2

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 今夜は執事さんと一緒にお泊まりだ。
 オレがいるから本当はもっといい部屋にしたかったらしいんだけど、夕方に着いてからの変更は空きがなくて無理だったと謝られた。そんなの気にしないよ。食い倒れツアーの間にウィオと泊まっていた宿は、もっと安そうなところもあった。大切なのは、清潔なこと、ご飯が美味しいことだ。お風呂はあるとうれしいけど、なくても文句は言わない。

「ルジェ様、お庭でお身体を洗いましょう。石けんはございませんが、せめてお水で流すだけでも」
『石けんは持ってきたよ』

 ウィオに頼んでリュックに入れてもらったのだ。準備万端なオレに、執事さんも護衛さんも笑っているけど、執事さんと一緒なら洗ってもらえるチャンスは逃さない。石けんもブラシもあるし、替えのスカーフだって入れてもらっている。食い倒れツアー中、宿に泊まるときのお泊まりセットだ。ウィオも慣れているから、お泊まりセットと言えば通じる。

 執事さんが宿の人に頼んでくれたので、宿の庭で、タライに水を張って、執事さんがオレを洗ってくれている。食堂に入る許可ももらったので、食事の前にきれいにしよう。昨日の夜もお屋敷のお風呂で執事さんに洗ってもらって、今日は移動の馬車に乗っていただけなのであまり汚れてはいないけど、執事さんがマッサージをするように丁寧に触ってくれるので、とっても気持ちがいい。
 十分に泡立ててから水で流してくれているのだけど、オレのふわふわの毛がぺったりしているので、正体不明の謎生物になっていて、通りがかった宿のお客さんが不思議そうな顔で見ている。

「犬、ですか? お利口ですねえ」
『ワン!』

 宿の庭で水浴びなんて人間だと眉をひそめられるのに、許されるのは四つ足の利点だね。それに、大人しく洗われているだけでほめられるのも、四つ足の特権だね。オレ、ほめられて伸びるタイプだから、みんないっぱいほめてー。

 執事さんに洗ってもらって、乾かしてブラッシングしてもらったので、とってもさっぱりした。執事さんたちもお部屋で身体を拭いてから、宿の食堂で夕食だ。
 オレのご飯は、今日は煮込み料理で味付け済みだったから対応できず、サラダだけ出してもらえることになった。オレには机が高すぎるので、椅子の上にリュックから取り出したランチョンマットを敷いて、その上に今日の気分の干し魚を出してもらって、サラダを待っている。
 いい香りがして、オレたちの席に食事が運ばれてきた。執事さんたちのお皿をのぞき込むと、野菜の煮込み料理のようだ。ラタトゥイユとかそんな感じの見た目で、美味しそう。明日の朝食のスープは、味付け前に取り分けてくれるらしいから期待しよう。

「狐くん、あれはもう味をつけちゃったから、サラダで我慢してね。ごめんなさい」
『キャン』

 執事さんたちの食事を凝視しすぎたのか、お店の人が謝ってくれたけど、明日の朝食のための調査だったから、こちらこそ申し訳ない。オレの前には、生野菜をカットしたゴロゴロサラダ、ドレッシング抜きを置いてくれた。
 ではさっそく、いただきまーす。もぐもぐ。野菜がみずみずしくて美味しい。まだ日中は暑い中、一日移動して熱を持った身体が冷やされるようでいいねえ。しゃきしゃき。

「ルジェ様、いかがですか?」
『美味しいよ。執事さんたちも食べて』
「では我々もいただきます」

 いつもオレが食べるときは給仕をしてくれている執事さんだけど、今日のオレはただのペットだから、気を遣わなくていいよ。
 本日の干し魚は、料理長さんの新作なんだよね。いつもより小さめのお魚が干されているので、ちょっと大きめの煮干しみたいだ。前世の記憶からお出汁が出て美味しそうだと、見た目だけで期待しちゃうんだけどどうかな。かじかじ、がじがじ。固いけど、かめばかむほどうま味が増してくる。これは、お気に入りの干し魚のランキング上位に入りそうだ。

『執事さん、この新しい干し魚、美味しい!』
「それはようございました。たくさん作らせましょう」
『キャン』

 干し魚の次はお野菜を食べてと。干し魚で水分がほしいところに、野菜が合うねえ。もぐもぐ、しゃくしゃく、がじがじ。
 明日の朝食のためにも、美味しい果物のためにも、今夜は腹八分目にしておこう。

 執事さんたちのご飯が終わるのを待ちながら食堂の中を見ているけど、オレは食堂中の注目の的だ。でも、ウィオといるときとは見られている理由がちょっとが違う気がする。ウィオと一緒のときは冒険者の使役獣がお利口にしてて偉いって感じの声が聞こえてくるけど、今日は貴族のペットは可愛いなあって感じ。執事さんがいかにも貴族のお家の人って感じだからなんだろうな。

 寝るのは、執事さんのベッドの枕元だ。オレのためにベッドを一つくれようとしてくれたんだけど、二人部屋の二部屋しか空いていなかったから、そうなると誰かがベッドからあぶれてしまう。だったらオレが床で寝ると言ったんだけど、それは執事さんとしては許せないことだったから、執事さんのベッドの端っこを借りることで落ち着いた。森の中で寝てたりするから、別に床の上でもオレは平気なんだけどね。

「ルジェ様、ご不便をおかけして申し訳ございません」
『そんなに気を遣わないで。オレが勝手についてきただけなんだから』

 そんなに恐縮されちゃうと、おでかけについてきづらくなっちゃうから、気にしないでほしいな。
 そのかわりと言ってはなんだけど、全身をなでてください。くまなくお願いします。
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