願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉

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精霊の愛し子編

45. たからもの

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 ウィオのお仕事が終わるまでは、火の子と水の子と一緒に、ネウラの街の観光だ。
 ネウラの学園街はどこもかしこも工事中。国中の土魔法の使える人が集められて、間近に迫った開校に間に合わせるために急ピッチで工事が進んでいる。
 あちこちで土魔法が使われているので、土の精霊が張り切っている。土の子はこの様子を見たかな。いつか土の子もこういうところで活躍するのかもしれないね。

 学園街の見学を終えると、旧市街の街中の探検だ。お店をのぞいたり、いつもなら許されない屋台での買い食いをしたりして、楽しんでいる。
 オレも食べたいけど、薄味にしてもらわないと無理なんだよね。だから今日は我慢だ。

 教会から外に出ることのない水の子と、侯爵家のお屋敷から滅多に出ることのない火の子は、街の中の散策をとても楽しんでいる。
 オレは二番目のお兄さんがつけてくれた部下の人の肩に乗って、その様子を見ている。

 手をつないで好奇心のままにあちこち見て回り、これ美味しいねと言いながら串焼きを頬張っている姿は、どこにでもいる普通の子どもたちだ。
 水の子が自分の気持ちとどう折り合いをつけたのか、まだつけられていないのかは分からないけど、ここでの経験が水の子の世界を広げてくれるといいな。
 一年半前、火の子が水の子と話もできないままトゥレボルを出発したときはどうなるかと思ったけど、予想外に早く仲直りできてよかった。


 ウィオの仕事も一段落したので、王都に向けて移動する。

「カイ、ばしゃはもう平気?」
「うん。だいぶなれたよ」

 トゥレボルからオルデキアまで火の子は二十日弱で移動したけど、水の子は三十日近くかけてゆっくり移動してきた。でも本番のオルデキア遠征の前に、近場で何度も馬車に乗って慣らしたそうだ。
 最初は馬車酔いのこともあって学園への進学を反対していた教会の人たちも、何度も諦めずにお願いする水の子の熱意に負けたのだと、神官が教えてくれた。わがままを言うのではなく、火の子と同じ学園に行かせてほしいと頭を下げて頼む水の子に、行かせてあげるほうが水の子の将来のためになると判断したようだけど、何よりオレがいるっていうのが大きかったんだろう。

「この薬を飲むと、よわないんだ」
「へえ、すごいね」

 水の子が薄い緑色をしたポーションが入った瓶を取り出して見せた。火の子がその瓶を受け取っていろんな角度から興味深そうに観察している。

「身体に影響はないのですか?」
「はい。とても弱い薬ですので問題ありません」
『ちょっとだけ緊張を緩める薬だね。かなり弱いから心配ないよ』

 子どもに強い薬は心配だからとウィオが神官に質問しているので、オレもちゃんと見てみた。
 薬って言っているけど、ハーブティーに近い感じだ。大部分は薬の効果じゃなくて、薬を飲んだという安心感で酔わないやつだな。
 ウィオもそれを聞いて安心している。
 薬学科で子どもも安心して飲める薬を開発してもらうのもいいかもしれない。

 水の子の馬車酔いも心配しなくて良さそうなので、馬車に乗り込んで王都に向けて出発だ。
 旧ベラガ公爵領は王都のすぐ隣なので、二日でネウラから王都に着ける。今回は水の子のためにのんびり進むので三日を予定している。

 出発前に仕事を詰め込まれたウィオはお疲れで、馬車に乗り込んですぐに寝てしまった。
 ウィオに気を遣って小さな声で話していた火の子と水の子も、少々ではウィオが起きないと分かって普通に話し始めた。
 水の子がここまでくる間に体験したこと、火の子が王都で経験したことなど、再会してからずっと話していてもまだまだ話は尽きない。
 その合間に街道を行く商会の馬車を見つけて歓声を上げたり、歩いている冒険者を見つけて手を振ってみたり、見るものすべてが新鮮で楽しそう。


 王都について、侯爵家のお屋敷を見て、水の子がひるんでいる。
 敷地の広さで言えば教会のほうが断然広いけど、調度品の豪華さで言えばこのお屋敷のほうが上だ。教会も表の見えるところは豪華だけど、神子たちが住んでいる建物は清貧とまではいかなくても、装飾はあまりなく実用的な感じだ。

「お帰りなさいませ」
「シェリス、以前来る予定だったトゥレボルの水の神子カイと神官の方々だ。急で悪い」
「いえ。準備は整っております。トゥレボルの皆様、ようこそお越しくださいました。本日主人たちは皆出かけているため、お出迎えに出られず申し訳ございません」

 お兄さんたちはお城、お義姉さんたちはお茶会、子どもたちは学校でみんないないそうだ。
 火の子はちょっと寂しそうな顔をしてから、水の子の手を引いてお屋敷に入っていった。自分の部屋を見せようと張り切っている。
 ウィオは神官たちについていくようなので、オレは火の子についていこう。

「ここが私のへやだよ」
「わあ、広いね」

 トゥレボルの教会の部屋は、火の子の部屋の寝室よりも狭いから、そこしか知らない水の子は驚くよね。
 でもあっちが普通で、学園の寮も教会の部屋と変わらない感じだよ。

 火の子は部屋の隅に置かれている机に近づき、その上に乗せられている小さな箱を手に取った。木で作られた、宝箱が小さくなったようなデザインの箱。
 それを開けて、中にあるものを取り出した。

「カイとおそろいのペンダント、私のたからもの」
「リュカ……」
「はじめて会った日に、おへやを見せてあげるって手をつないでくれたでしょう。またすてられたのかもしれないって思っていたからうれしかった」

 そのペンダントは、ウィオが旅先で買ってふたりにプレゼントしたものだ。
 精霊を信仰している国には、属性の色を持って生まれた子どもにはその色の石をプレゼントするという風習があった。それを聞いたウィオが、赤と青の石のペンダントを買った。
 ウィオにおそろいにしようという意図があったのかは分からない。火の子と仲良くしてくれている水の子への感謝の表れだったのかもしれないし、ただ目の前で火の子にだけあげるのは可哀想だと思っただけかもしれない。
 でも、受け取ったふたりはとてもうれしそうにおそろいだねと言って喜び、世話係の神官が優しい顔で見守っていた。

「僕も持ってるよ。友達ができてうれしかったから」
「おそろいだね」

 水の子が首からペンダントを取り外して、宝石同士をこつんと合わせて笑った。

 あのとき、火の子をトゥレボルに向かわせたから、今こうして二人が友達になって一緒に笑っている。あれが最善の策だったかどうかは分からないけど、悪くはなかったみたいだ。
 お兄さんとお義姉さんが見たらきっと泣いちゃうね。
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