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精霊の愛し子編
43. 水の子の目標
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試験の合格発表当日。
学校の広場に張り出された合格者の番号を見て、受験生とその付き添いの人たちが一喜一憂している。
そうそう、オレのことをなめて変なうわさを流した国の受験生は全員不合格だ。
オレが言う前に、ウィオがその国の出身者全員を魔法学科も含めてバッサリ落とした。飼い主として飼い狐をバカにされるのは見過ごせなかったらしい。
ちなみに今その国のお城は大雪に埋もれている。関係ない庶民を巻き込まないようにきっちりお城の敷地内だけにしたけど、五日は続くから凍えないように頑張ってね。
本当はこういう甘い対応がダメなんだって分かってはいるんだけど、やっぱりさ、関係ない人は巻き込めないよ。
でも神様をコケにすると痛い目にあうってこと、忘れちゃダメだよ。
本来神に連なるものは、加護を与えた相手以外とは関わらないし気にもかけない。そういう制約があるわけじゃなく、単純に興味がないから眼中にないだけだ。
人との距離が近くなるほど、神獣の威信は保ち辛くなる。
オレが自らなめられる状況を作ってるってことはちゃんと理解してるんだけど、それでもオレは人と仲良くしたい。ウィオの飼い狐でいたいんだ。
とりあえず、どーでもいい奴らのことは記憶から締め出して、この後の今日のメインイベントに備えよう。
合格して喜びに踊っている子どもや、番号がなくて怒っている付き添いの人を学園長の部屋から眺めていたら、部屋がノックされた。
「氷の神子様、この度は水の神子様を学園に受け入れてくださってありがとうございます」
「遠くからよくおいでくださいました。カイ、試験はよくできていたぞ」
「ありがとうございます」
お客様は水の子と、お付きの神官たちだ。ウィオが呼んだ。
水の子の合格は最初から決まっているので、学科試験は補習が必要になるかの確認のためだったけど、もともと貴族の学校に行く予定だったのだから十分に合格点を取れていた。
「カイ、学科長に学園内を案内してもらいなさい」
「はい」
ウィオは神官たちと話があるので、水の子は学園内の探検だ。オレも行こう。
水の子の前で尻尾を振ると、「ルジェも行く?」と聞きながら抱き上げてくれた。火の子に会いにトゥレボルの教会へ行ったときは、水の子も一緒によく遊んでいたからね。
返事代わりに頬をペロっとなめると、くすぐったいよ、と笑っている。「ルジェはもうちょっと大きいと思ってた」って言うけど、それは水の子が成長したからだよ。背が伸びたね。
そんなオレたちを見て、神官が泣きそうな顔をしているのが目の端に映った。きっとオレがあのとき水の子のわがままをとがめたからだよね。もう怒ってないから安心して。
マダム先生がここが魔法学科の校舎で「こちらが訓練場です」と学園内を案内してくれているけど、実はまだ全部できてないんだよね。
ウィオとオレが住む予定の学園長の家もまだできていない。火の子が入学するのは三年後だからと後回しになっている。
「カイさん、茶色の目の受験生には会いましたか?」
「はい。土の神子様ですよね」
「そうですね。彼女はカイさんより二歳年上なのですが、一緒に入学しますので仲良くしてあげてくださいね」
土の子の学科試験は合格点に少し足りなかったけど、しっかりできていた。一年前まで読み書きもできなかったことを考えると、驚きの学習速度だ。
あの魔法合戦がよほど印象に残ったようで、魔法を使いこなせるようになりたいと高い意欲を持って頑張っている。きっと入学までには合格点に届くくらいに、さらに勉強をしてくるだろう。
一通り近場の施設を案内して、学園長室に帰る途中で、水の子はずっと聞きたかったんだろうことをマダム先生に質問した。
「あの、この国では、魔力が多いと嫌われるのですか?」
「私はこの国ではなく、マトゥオーソの出身なのですが、子どものころにそういうことはありますよ」
マトゥオーソもそうなんだ。
というよりも、トゥレボルが特殊なのだ。あそこに神の手で結界が張られることになった経緯は知らないけど、そうしてまでも守りたかった人がいたということだ。きっとその神の愛し子だったんだろう。
水の子は今回初めてトゥレボルから出て、宿などで相手の態度がトゥレボルと全く違うことに驚いたそうだ。
トゥレボル国内では神子様と大切にされたのに、マトゥオーソでもオルデキアでもただの子どもして扱われた。
それがうれしくもあり、不安でもあるのだ。火の子の過去を知ってしまったから余計に。
「この国には水の騎士と呼ばれるカイさんと同じ目も青色の騎士がいますので、皆さん慣れていると思いますよ」
「マトゥオーソにはいないのですか?」
「マトゥオーソにもいますが、皆宮廷魔術師になるので、あまり城から出ず、庶民が見る機会はありません」
国によりけりだなあ。この国では研究中心の魔術師よりも、騎士団に所属して魔物討伐に役立てることを期待される。
部隊長さんもウィオも、一応本人が選んだことになっているけど、実質は騎士になる以外の選択肢はなかった。火の子もそうなる可能性が高かったけど、この学園ができることでそれも変わるだろう。
「カイさんは将来何になりたいですか?」
「……分かりません。教会で言われたとおりにするつもりでした」
「ではこれからの六年間で、それを探しましょう」
「はい!」
マダム先生は、この案内の間の様子だけ見てもいい先生になりそうで、すごく安心できるね。
今までは大人しか指導したことはないはずだけど、子どもにも分かりやすく教えてくれそうだ。
学校の広場に張り出された合格者の番号を見て、受験生とその付き添いの人たちが一喜一憂している。
そうそう、オレのことをなめて変なうわさを流した国の受験生は全員不合格だ。
オレが言う前に、ウィオがその国の出身者全員を魔法学科も含めてバッサリ落とした。飼い主として飼い狐をバカにされるのは見過ごせなかったらしい。
ちなみに今その国のお城は大雪に埋もれている。関係ない庶民を巻き込まないようにきっちりお城の敷地内だけにしたけど、五日は続くから凍えないように頑張ってね。
本当はこういう甘い対応がダメなんだって分かってはいるんだけど、やっぱりさ、関係ない人は巻き込めないよ。
でも神様をコケにすると痛い目にあうってこと、忘れちゃダメだよ。
本来神に連なるものは、加護を与えた相手以外とは関わらないし気にもかけない。そういう制約があるわけじゃなく、単純に興味がないから眼中にないだけだ。
人との距離が近くなるほど、神獣の威信は保ち辛くなる。
オレが自らなめられる状況を作ってるってことはちゃんと理解してるんだけど、それでもオレは人と仲良くしたい。ウィオの飼い狐でいたいんだ。
とりあえず、どーでもいい奴らのことは記憶から締め出して、この後の今日のメインイベントに備えよう。
合格して喜びに踊っている子どもや、番号がなくて怒っている付き添いの人を学園長の部屋から眺めていたら、部屋がノックされた。
「氷の神子様、この度は水の神子様を学園に受け入れてくださってありがとうございます」
「遠くからよくおいでくださいました。カイ、試験はよくできていたぞ」
「ありがとうございます」
お客様は水の子と、お付きの神官たちだ。ウィオが呼んだ。
水の子の合格は最初から決まっているので、学科試験は補習が必要になるかの確認のためだったけど、もともと貴族の学校に行く予定だったのだから十分に合格点を取れていた。
「カイ、学科長に学園内を案内してもらいなさい」
「はい」
ウィオは神官たちと話があるので、水の子は学園内の探検だ。オレも行こう。
水の子の前で尻尾を振ると、「ルジェも行く?」と聞きながら抱き上げてくれた。火の子に会いにトゥレボルの教会へ行ったときは、水の子も一緒によく遊んでいたからね。
返事代わりに頬をペロっとなめると、くすぐったいよ、と笑っている。「ルジェはもうちょっと大きいと思ってた」って言うけど、それは水の子が成長したからだよ。背が伸びたね。
そんなオレたちを見て、神官が泣きそうな顔をしているのが目の端に映った。きっとオレがあのとき水の子のわがままをとがめたからだよね。もう怒ってないから安心して。
マダム先生がここが魔法学科の校舎で「こちらが訓練場です」と学園内を案内してくれているけど、実はまだ全部できてないんだよね。
ウィオとオレが住む予定の学園長の家もまだできていない。火の子が入学するのは三年後だからと後回しになっている。
「カイさん、茶色の目の受験生には会いましたか?」
「はい。土の神子様ですよね」
「そうですね。彼女はカイさんより二歳年上なのですが、一緒に入学しますので仲良くしてあげてくださいね」
土の子の学科試験は合格点に少し足りなかったけど、しっかりできていた。一年前まで読み書きもできなかったことを考えると、驚きの学習速度だ。
あの魔法合戦がよほど印象に残ったようで、魔法を使いこなせるようになりたいと高い意欲を持って頑張っている。きっと入学までには合格点に届くくらいに、さらに勉強をしてくるだろう。
一通り近場の施設を案内して、学園長室に帰る途中で、水の子はずっと聞きたかったんだろうことをマダム先生に質問した。
「あの、この国では、魔力が多いと嫌われるのですか?」
「私はこの国ではなく、マトゥオーソの出身なのですが、子どものころにそういうことはありますよ」
マトゥオーソもそうなんだ。
というよりも、トゥレボルが特殊なのだ。あそこに神の手で結界が張られることになった経緯は知らないけど、そうしてまでも守りたかった人がいたということだ。きっとその神の愛し子だったんだろう。
水の子は今回初めてトゥレボルから出て、宿などで相手の態度がトゥレボルと全く違うことに驚いたそうだ。
トゥレボル国内では神子様と大切にされたのに、マトゥオーソでもオルデキアでもただの子どもして扱われた。
それがうれしくもあり、不安でもあるのだ。火の子の過去を知ってしまったから余計に。
「この国には水の騎士と呼ばれるカイさんと同じ目も青色の騎士がいますので、皆さん慣れていると思いますよ」
「マトゥオーソにはいないのですか?」
「マトゥオーソにもいますが、皆宮廷魔術師になるので、あまり城から出ず、庶民が見る機会はありません」
国によりけりだなあ。この国では研究中心の魔術師よりも、騎士団に所属して魔物討伐に役立てることを期待される。
部隊長さんもウィオも、一応本人が選んだことになっているけど、実質は騎士になる以外の選択肢はなかった。火の子もそうなる可能性が高かったけど、この学園ができることでそれも変わるだろう。
「カイさんは将来何になりたいですか?」
「……分かりません。教会で言われたとおりにするつもりでした」
「ではこれからの六年間で、それを探しましょう」
「はい!」
マダム先生は、この案内の間の様子だけ見てもいい先生になりそうで、すごく安心できるね。
今までは大人しか指導したことはないはずだけど、子どもにも分かりやすく教えてくれそうだ。
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