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精霊の愛し子編
22. プレゼン
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ウィオの企画書も形になって、本日のオレの仕事は終了した。
ってことで、遊ぶぞー。
「ルジェちゃん、もう終わったの?」
『キャン』
「ルジェ、あそぼうよ」
『キャン!』
弟くんと火の子と逆追いかけっこだ。二人がオレを捕まえに来るので逃げる。そんなに簡単には捕まらないよ。
庭を駆け回って、ときどき捕まりそうなギリギリまで近づいて、また逃げる、を繰り返す。そうやって逃げていたら、何回目かのギリギリまで近づいたときに、弟くんにダイビングキャッチされてしまった。
「つかまえた!」
『キャン』
「あに上すごい!」
「まあ、オリュフェス、捕まえられたの。すごいわね」
今までなら捕まらなかったのに、子どもの成長は本当に早いな。
お兄さんとお義姉さんは、火の子の四年間の成長を、手形の大きさでしか見ることができなかった。お屋敷の壁に額に入れられて飾られているその手形を、折に触れて眺めていたのだろう。
やっぱり毎日でなくても会える距離にいるほうがいいよね。ウィオ頑張れ。
本当に早めに帰ってきたお父さんを前に、お父さんの書斎で、ウィオのプレゼンが始まる。オレのほうが緊張するよ。
ちなみにオレは庭から屋敷に入るなり、執事さんにお風呂に入れられた。庭で弟くんたちと転げまわって汚したままでいるのは許されなかったのだ。お風呂で洗われ、風魔法で乾かされ、きれいにブラッシングされ、スカーフを付けなおされ、どこから見ても完ぺきな可愛い神獣様のでき上がりである。
ウィオと旅に出てからあんまり頓着していなかったけど、できる執事さんはオレの身だしなみに厳しいのだ。
「父上、魔法を教える学校を作りたいと思っているので、力を貸してください。内容をまとめましたので、まずはこれを見てください」
ウィオは資料をお父さんと執事さんに渡してから、なぜ学校を作りたいと思ったのか、から語り始めた。
「私は、成人するまで魔力の制御に自信が持てませんでした。何か言われるたびに、暴走させてしまうのではないかと不安でした。私の副官をしていたヴィンセントは、十歳で学校に通って初めて魔力操作を習い、そのころに級友とのいざこざで魔力を暴走させたそうです。リュカは貴族に引き取られなければ、魔法の使い方を習うことはなかったでしょう。トゥレボルでは、神子は尊敬の対象なので、級友から暴言を吐かれることはありませんが、その代わりに級友と遊ぶこともありません。リュカには、友人たちと学校生活を送らせてあげたい。そのために、国や教会から独立した、身分に関係なく学べる魔法に特化した学校を作りたいのです」
資料をもとに説明を進める。オレが見たときよりもさらに内容が濃くなっているので、オレが遊んでいる間も考えていたんだろう。
ウィオの説明がすべて終わって、それからしばらくお父さんは何かを考えていた。
「この資料をひとりで作ったのか」
「ルジェに教わりました」
『オレが教えたのは形式だけだよ。内容は全部ウィオがひとりで書いたよ』
「よくできている。よく考えたね」
褒められて、ウィオがうれしそうだ。頑張った甲斐があったね。
でもこれが始まりだ。
「聞いてすぐに思いつく問題点は二つ。国や教会から独立したというところと、資金だろう。ところで、ルジェくんはどれくらいかかわるのかな?」
「ルジェは関係ありません」
「ウィオラス、実情がどうであれ、ウィオラスがやることは神獣様も認めていることだと見なされるよ」
『何でもやるよ。必要なら国を一つもらってくるよ』
ウィオがわずかに目を見張ったけど、ウィオはオレの加護をちょっと甘く見すぎだ。
神獣は加護を与えた相手が望むなら、なんだってするよ。もちろん制約があるからできないこともあるけど、国をくれって言ったらくれる王様は探せば一人くらいはどこかにいるでしょ。
国はいらないかな、とお父さんが苦笑いしている。
続きはお兄さんたちが帰ってきてからになった。お父さんは計画にお兄さんたちも巻き込むようだ。
夕食後、サロンに集まって、ウィオが再度内容を説明した。
一番目のお兄さんが、ウィオラスがこんな資料を作れるようになるなんてって感動していたけど、趣旨はそこじゃない。何だかんだでウィオのことすごく可愛がってるよね。お母さんとお義姉さんがそんな兄バカ具合を見て笑ってる。
「国や教会から独立したっていうのが一番の難題だろうね」
「魔術師は国力ですから、他の国に人材や技術が流出するのは嫌がるでしょう。冒険者の養成学校にするのはどうですか? ウィオラスは冒険者ですし、国に属さない組織ですし」
「でも荒くれ物のイメージが強すぎて、人が集まるかな? ルジェくんは何か希望はないの?」
『オレは口を出さないよ。出しちゃったらトゥレボルの教会と一緒でしょ』
前世の知識も動員すれば、あれこれ案は浮かぶけど、これはウィオのやりたいことだから、ウィオが、人が、決めるべきだ。
その結果ウィオが、オレの威光を利用して国を黙らせるって決めたなら、全力で国に脅しをかけるけどね。
とは言え、そんなのはオレの空想の中だけで、実際は寮がある私立の学校を作るんだろうなと思っていたオレは、この世界をまだまだ理解していなかったようだ。
気づいたら学園都市を作ることになっていた。なんでだ。
ってことで、遊ぶぞー。
「ルジェちゃん、もう終わったの?」
『キャン』
「ルジェ、あそぼうよ」
『キャン!』
弟くんと火の子と逆追いかけっこだ。二人がオレを捕まえに来るので逃げる。そんなに簡単には捕まらないよ。
庭を駆け回って、ときどき捕まりそうなギリギリまで近づいて、また逃げる、を繰り返す。そうやって逃げていたら、何回目かのギリギリまで近づいたときに、弟くんにダイビングキャッチされてしまった。
「つかまえた!」
『キャン』
「あに上すごい!」
「まあ、オリュフェス、捕まえられたの。すごいわね」
今までなら捕まらなかったのに、子どもの成長は本当に早いな。
お兄さんとお義姉さんは、火の子の四年間の成長を、手形の大きさでしか見ることができなかった。お屋敷の壁に額に入れられて飾られているその手形を、折に触れて眺めていたのだろう。
やっぱり毎日でなくても会える距離にいるほうがいいよね。ウィオ頑張れ。
本当に早めに帰ってきたお父さんを前に、お父さんの書斎で、ウィオのプレゼンが始まる。オレのほうが緊張するよ。
ちなみにオレは庭から屋敷に入るなり、執事さんにお風呂に入れられた。庭で弟くんたちと転げまわって汚したままでいるのは許されなかったのだ。お風呂で洗われ、風魔法で乾かされ、きれいにブラッシングされ、スカーフを付けなおされ、どこから見ても完ぺきな可愛い神獣様のでき上がりである。
ウィオと旅に出てからあんまり頓着していなかったけど、できる執事さんはオレの身だしなみに厳しいのだ。
「父上、魔法を教える学校を作りたいと思っているので、力を貸してください。内容をまとめましたので、まずはこれを見てください」
ウィオは資料をお父さんと執事さんに渡してから、なぜ学校を作りたいと思ったのか、から語り始めた。
「私は、成人するまで魔力の制御に自信が持てませんでした。何か言われるたびに、暴走させてしまうのではないかと不安でした。私の副官をしていたヴィンセントは、十歳で学校に通って初めて魔力操作を習い、そのころに級友とのいざこざで魔力を暴走させたそうです。リュカは貴族に引き取られなければ、魔法の使い方を習うことはなかったでしょう。トゥレボルでは、神子は尊敬の対象なので、級友から暴言を吐かれることはありませんが、その代わりに級友と遊ぶこともありません。リュカには、友人たちと学校生活を送らせてあげたい。そのために、国や教会から独立した、身分に関係なく学べる魔法に特化した学校を作りたいのです」
資料をもとに説明を進める。オレが見たときよりもさらに内容が濃くなっているので、オレが遊んでいる間も考えていたんだろう。
ウィオの説明がすべて終わって、それからしばらくお父さんは何かを考えていた。
「この資料をひとりで作ったのか」
「ルジェに教わりました」
『オレが教えたのは形式だけだよ。内容は全部ウィオがひとりで書いたよ』
「よくできている。よく考えたね」
褒められて、ウィオがうれしそうだ。頑張った甲斐があったね。
でもこれが始まりだ。
「聞いてすぐに思いつく問題点は二つ。国や教会から独立したというところと、資金だろう。ところで、ルジェくんはどれくらいかかわるのかな?」
「ルジェは関係ありません」
「ウィオラス、実情がどうであれ、ウィオラスがやることは神獣様も認めていることだと見なされるよ」
『何でもやるよ。必要なら国を一つもらってくるよ』
ウィオがわずかに目を見張ったけど、ウィオはオレの加護をちょっと甘く見すぎだ。
神獣は加護を与えた相手が望むなら、なんだってするよ。もちろん制約があるからできないこともあるけど、国をくれって言ったらくれる王様は探せば一人くらいはどこかにいるでしょ。
国はいらないかな、とお父さんが苦笑いしている。
続きはお兄さんたちが帰ってきてからになった。お父さんは計画にお兄さんたちも巻き込むようだ。
夕食後、サロンに集まって、ウィオが再度内容を説明した。
一番目のお兄さんが、ウィオラスがこんな資料を作れるようになるなんてって感動していたけど、趣旨はそこじゃない。何だかんだでウィオのことすごく可愛がってるよね。お母さんとお義姉さんがそんな兄バカ具合を見て笑ってる。
「国や教会から独立したっていうのが一番の難題だろうね」
「魔術師は国力ですから、他の国に人材や技術が流出するのは嫌がるでしょう。冒険者の養成学校にするのはどうですか? ウィオラスは冒険者ですし、国に属さない組織ですし」
「でも荒くれ物のイメージが強すぎて、人が集まるかな? ルジェくんは何か希望はないの?」
『オレは口を出さないよ。出しちゃったらトゥレボルの教会と一緒でしょ』
前世の知識も動員すれば、あれこれ案は浮かぶけど、これはウィオのやりたいことだから、ウィオが、人が、決めるべきだ。
その結果ウィオが、オレの威光を利用して国を黙らせるって決めたなら、全力で国に脅しをかけるけどね。
とは言え、そんなのはオレの空想の中だけで、実際は寮がある私立の学校を作るんだろうなと思っていたオレは、この世界をまだまだ理解していなかったようだ。
気づいたら学園都市を作ることになっていた。なんでだ。
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