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精霊の愛し子編

21. ウィオのやりたいこと

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 その日の夜、火の子が寝た後で、ウィオはお兄さんとお義姉さんに騎士団でのことを話した。

「エウリーチェに火傷をさせた日のことは断片的ですが覚えているようです。あと、おかあさんに化け物だと言われたと」
「私はそのようなことは言っていません!」
「違います、生みの親です。義姉上のことは、母上と言っていましたので」

 お兄さんもお義姉さんも、なんてひどいと言っているけど、教会に置いていったってことは少なくとも火の子が生きていくことを望んだのだと思う。
 そう考えると、やっぱりトゥレボルのような施設は必要なのかもしれない。

「また誰かに火傷をさせるのが怖いそうです。おそらくその結果、捨てられるのが怖いのではないかと思います。一度話してみてください」
「しかし、話すことであの子が傷ついたらと思うと」
『腫れ物扱いされていることを、子どもは敏感に感じ取るよ。ウィオが懐かれているのは、良くも悪くもそういう機微を理解しないからだと思う』

 オレの発言にお兄さんたちが微妙な顔をしたけど、ウィオにその機能が搭載されていないのはお兄さんたちだって分かっているはずだ。初期不良なのかアンインストールされたのかは分からないけど。
 無理やり話させる必要はないけど、何があっても見捨てたりしないと安心させてあげることは必要だよ。
 トータルで見ると、ウィオのほうが火の子と長く接している。けれど、あの子の親はお兄さんたちだ。


 部屋に戻ると、ウィオが改まって切り出してきた。

「ルジェ、やりたいことができたから冒険者をやめると言ったら、怒るか?」
『なんで? 怒らないよ』
「世界中の美味しいものが食べたいのだろう?」

 最近ときどき考え込むことがあるなと思っていたら、やりたいことを見つけたようだ。
 流されるままに生きてきたウィオにやりたいと思うことができたなら、それが最優先だ。美味しいものはけっこう食べたし、いろんなところにも行ったしね。

『ウィオのやりたいことのほうが優先だよ。何がやりたいの?』
「魔法の学校を作りたい」
『火の子のための学校?』
「ああ」

 教会や国に属しない組織で、精霊に愛されている子どもや、魔力量の多い子どもなど、魔力が暴走する可能性のある子どもたちが、周りから疎外されることなく、同年代の子どもと育っていける場を作りたい。
 それがウィオの見つけた夢だった。

『もちろん全力で応援するよ』
「心強いな」

 大丈夫、神獣様がついているんだから、必ず成功するよ。


 次の日の朝、ウィオは仕事に行く前のお父さんに、話したいことがあるので時間を取ってほしいとお願いした。
 それを聞いたお父さんが、仕事を休みにして今すぐ聞くと言いだしたので、それはオレが止めた。まだ何も具体的にまとめていないのに、話せることなんてない。
 今日は早めに仕事を切り上げて帰ってくるというので、それまでに企画書を作らなければ。

 今日の火の子は一日外出しない。お屋敷でお義姉さんと子どもたち三人でお庭ピクニックをするというので、ウィオも庭を見ながら作業だ。
 初めのころはウィオが近くにいるのかときどき確認していた火の子も、最近ではあまり気にしていない。
 一度だけ、お呼ばれした先の小さなお茶会で暴走しかけたので、オレが抑えた。お茶会に招待されていた同年代の子どもに、元平民であること、暴走で火傷をさせたことを持ち出してバカにされ、それに耐えていたところに、お姉ちゃんのことを傷モノだと言われ、抑えきれなかった怒りと魔力に反応して火の精霊が動きかけたのだ。けれど、それを聞いた弟くんがガチギレして、火の子の手を取って帰ろうとしたことで冷静になったようなので、オレが抑えなくても暴走はしなかっただろう。そのときのことが少しだけ自信になったようだ。
 今も弟くんと仲良く庭で、昆虫を探している。

 さて、ウィオの企画書だが、騎士団でも書類は報告書しか書いたことがないので、オレが教えるしかない。

『いつ、どこで、誰が、誰に、なぜ、何を、どうやって、いくらで、っていうのをまとめるの。まずその言葉を書いて』
「いつ、どこで、と書くのか?」
『そう。一個ずつ離してね』

 ウィオが紙に6W2Hを書いたので、次はそれぞれの意味を説明していく。

『ウィオが学校を作りたい理由、それが「なぜ」の内容ね。いつから学校を始めたい?』
「リュカが十歳になる前」
『それが「いつ」。「誰に」は精霊に愛されている子や魔力量の多い子だよね。何歳から何歳までを想定している?』
「十歳から十七歳までだ」
『他に考えないといけないのは、どこで、誰が、何を、どうやって、いくらで、だね』
「分かりやすいな」
『オレが人として生きていたときに、使われていた方法だから』

 企画は専門外なんだけど、やりたい内容が通じればいいんだから6W2Hをそろえれば行けるはず。気楽に行こう。
 自分の名前とか家族の顔とかは覚えていないのに、こういうことは覚えている不思議。

 それから、空白部分を埋めるため、ウィオが考えていることを聞き出していく。
 場所は王都ではないどこか土地のある場所。理由は魔法の練習には広い場所が必要だが、王都にはすでに余っている土地がないからだ。
 教える内容は、魔法の使い方が必須だが、学校にするなら、その他何を教えるのか、それをちゃんと考えなければならない。とりあえず、貴族学校の内容から、貴族特有のものを抜いたものとする。
 そうすると、先生と教える方法は、先生を募集して、貴族学校を参考に決めていくことになる。魔法は騎士団での訓練も参考になるだろう。
 最後は学費だ。火の子のような庶民も受け入れたいから無償がいいというが、そうなると他から収入がないと維持費や給料が払えない。土地の購入費や建設費はウィオの冒険者で貯めたお金を使うとしても、冒険者をやめてしまえばその後はいつか底をつく。

「なるほど。無償にすると、費用をどうやって用意するかを考えないといけないのか」
『そういうのはお父さんのほうが得意だろうから、まずはウィオがやりたいことを全部書き出そうよ』
「そうだな」

 最初はオレが言ったことがパラパラと書かれていただけの紙に、ウィオは細かく書き込んで、余白がほとんどなくなるほど埋めた。最近いろいろ考えていたようだから、実は具体的に想像しているものがあったのかもしれない。
 でもこれだとちょっと情報が多すぎる。お父さんなら最後まで喜んで聞いてくれるだろうけど、今後のことを考えるともうちょっと簡潔にまとめて、それから細かく説明したほうがいいだろう。学校を作ると決まったら、ウィオが校長先生だ。プレゼンする機会があるだろう。

『ウィオ、それを、絶対に外せないもの、外したくないけど諦められるもの、あったらいいなっていうもの、に分けられる?』
「ああ」
『絶対に外せないものだけでお父さんに説明する簡単な資料を作って、それを見てもらいながら、他のものを説明したら、分かりやすいと思うよ』

 そして、一枚の紙にウィオが譲れないことを書き込んだ、企画書のようなものが完成した。箇条書きだけど要点はきちんとまとまってるし、作戦書みたいだけど、内容が通じれば良しとしよう。
 これで、お父さんがいつ帰ってきても大丈夫だ。
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