願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉

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精霊の愛し子編

12. 無慈悲な呪い(部隊長視点)

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 神獣様はとても人懐っこくお優しい。ウィオラスに懐く様子はまるで飼い犬のようだ。
 狐の使役獣に扮しているため、遠征の移動中は子どもたちに大人気だったが、そのときも子どもがどんなに失礼なことをしても怒らない。子どもの遊びに付き合って犬の真似事までしている。
 だから私たちは、神獣様はとても温厚で慈悲深いのだと勝手に判断していた。

 以前、神獣様を公爵家にご招待をしたが、それを知った兄に主導権を取られてしまい、王太子殿下のご参加も当日知らされた。事前に連絡もしないなど神獣様に失礼だと言ったが、兄には取り合ってもらえず、けれど穏やかな神獣様なら大丈夫だろうとどこかで私も思っていた。
 神獣様は王太子殿下と兄を目に入れた瞬間に魔力を放出し、ウィオラスを傷つけるなと圧をかけられた。王太子殿下には何とか建物内に避難していただき、神獣様の視界から外れることでお怒りが収まったのは幸いだった。
 そのようなことがあっても、帰りがけに巻き込んでしまったメイドたちへ謝罪される様子は、やはり慈悲深い神獣様だった。
 その後、城の庭で開かれたパーティーには屈託なく参加され、隊員たちと気軽に交流し、そして国外へと出発された。
 それからは、春から秋は国外をめぐり、冬はこの国で過ごされていた。

 あるとき、平民に目まで赤い子どもがいて、火の魔法を暴走させて教会に捨てられたという情報が入った。
 平民に強い魔法が使える子どもが生まれた場合は貴族が引き取るが、属性が火ということもあり暴走で被害を被ることを恐れて誰も名乗り出ず、侯爵家が保護に乗りだしアディロスの養子となった。
 養子となってから、火魔法の子どもはまた魔力を暴走させ、アディロスの長女が火傷をしてしまい傷が治らないという。私も過去の文献など参考になる情報はないか調べたが、魔力暴走で付いた傷は治りが遅いという記述しか見つけられなかった。
 そうしている間にウィオラスが旅先から帰ってきた。トゥレボルで火魔法の子の育て方の情報を教えてもらってきており、長女の火傷も快方に向かっているという。
 神獣様が治癒されたのか、トゥレボルの情報なのかは分からないが、対処方法があることが分かった。

 それを知り、兄が欲を出した。私の後継に火魔法の子どもをあてるために、侯爵家から引き取ると言いだした。
 どう考えてもあの家で愛されて育つほうが幸せだと思うので反対したが、あの家では国の戦力としてきちんと育てられるか怪しいと主張した。道具としてしか見ていない発言に不快感が湧き上がる。
 その情報が伝わったのか、フォロン侯爵家、そしてそこにいらっしゃる神獣様との仲がこじれることを憂慮された陛下から、公爵家で引き取ることは認めないという旨のお言葉をいただいた。王太子殿下からも、これ以上神獣様の不興を買うようなことをしないようにとの苦言が兄上に伝えられた。珍しく父もあまりやり過ぎるなと兄をいさめた。

 だがそれよりも一足早く、ウィオラスが火魔法の子どもを連れて国を出た。
 神獣様のご意向でトゥレボルに引き取られることがすでに決まっていたのだと、侯爵がトゥレボルの教会からの書状を出し、事後承諾になったことをわびた。貴族が国外へ住居を移すには陛下の許可が必要だが、神獣様のご意向のほうが当然優先される。
 余計なことをと兄は言っていたが、神獣様相手に不敬だとは思わないのだろうか。攻撃力のない神獣など恐るるに足りないなど、私なら口にするのも恐ろしい。前回の神罰を乗り越えられたからと油断しているのか。屋敷での騒動の折も、誰も傷つかなかったから許されているとでも思っているのか。


 時が流れ、火魔法の子どものことは思い出すこともなくなったある日、城の中心部にとんでもない魔力の反応を感じた。人には不可能な圧倒的な魔力。考えられるのは、神獣様だけだ。公爵家の庭で魔力を放出されたときなど比較にもならないほどの圧力。
 念のため部隊の者たちに城内の第一級警戒を発令して、騎士団長とともに魔力の元へ急ぎ駆けつけたところで見たのは、銀色に輝く神々しい、けれどとても寒々しい神狐だった。
 私たちは神獣様の本質を見誤っていたのだと、そのときやっと気づいた。

 いつもは柔らかな雰囲気をまとっていた神獣様が怜悧で研ぎ澄まされた白銀の剣のようで、いつものように「狐くん」などとは畏れ多くて話しかけられないほどの神威を感じる。
 格の違いをまざまざと見せつけられ、皆自然と頭が垂れる。

 なのに兄は、神と言えどしょせん獣だと、吐き捨てた。
 その場にいる者すべてが震え上がるほどの怒りが神獣様から発せられているのに、なぜ気づかない。しょせん獣などと、どこを見たら言えるのか。
 神獣様と対峙している兄を見ると、頬に黒い紋様が浮かんでいる。あれはとてもよくないものだと本能が警告してくる。

 神獣様は、私以外のベラガ公爵家の人間に呪いをかけたとおっしゃった。兄の子どもにもだ。あの神獣様が、子どもに対してそのようなことをなさるなど何かの間違いではと思ったが、後に確認してみるとまだ産まれたばかりの赤子までもが呪いを受けていた。

 慈悲深い神獣様の無慈悲な呪い。私たちが見ていたのは、神獣様の極僅かな面だけだったのだ。

 教会によると、呪いが消えるかどうかは本人のこれからの行いにかかっているのだという。
 清く正しく生きるなら、呪いはいずれ消える。だが、驕り高ぶったままでは呪いは魂へと根を張り輪廻からもはじき出される。挽回の余地を与えられているとも、試されているとも取れる。

 神を侮るなかれ。

 子どものころから教会で何度も聞かされていたその言葉を、まさか身をもって体験するとは。
 ベラガ公爵家は終わるだろう。神獣様の怒りを買った家をそのままにしておくなど、この国が神獣様を軽んじているとみなされてしまう。
 その引き金を引いたのが自分の兄であるということには、何も感じない。長年この国で権勢を誇る宰相家の嫡男として生まれ、すべては自分の思い通りになると増長した結果だ。身から出た錆としか言えない。
 子どものころから愛情など感じたこともない。魔力しか能がないと見下されていたのは知っていた。同じ立場なのに家族に愛されているウィオラスが羨ましくなかったと言えば嘘になる。

 私の妻子には申し訳なく思う。妻は私との間に魔力量の多い子を授かることを期待され、断ることもできず公爵家に嫁がされ、あげくその期待を裏切ったからと生家に帰された。呪いをかけられてはいなかったが、この事態には否応なく巻き込まれてしまうだろう。

 兄を側近として重用されていた王太子殿下の求心力も下がるだろう。
 一度神罰を下されているのだ。この国はまた荒れるかもしれない。
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