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精霊の愛し子編
4. 引き取った経緯
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翌日、お義姉さんから謝罪とともに、精霊の力を消してくれたことへの感謝の言葉をもらった。
「神獣様の力を当てにするようなことを言ってしまい、申し訳ございません。どのような罰でも受けます」
『じゃあ笑ってて。子どもたちがお屋敷の空気を感じて警戒してるから。どんなに大変でも笑ってて』
「はい。必ず。ありがとうございます」
お義姉さんを泣かせてしまった。どうしていいのか分からなくてウロウロしてしまう。
すりすりしたいけど、ドレスに爪をひっかけるのが怖くて近寄れないでいることに気づいたウィオが、抱き上げてお義姉さんに近づいてくれた。手をぺろっとなめると、お義姉さんが泣き笑いの表情でオレをなでてくれた。
自分でも甘いと思うけど、子どもを思う親の気持ちは温かいなと思ったから、それで罰するようなことはしないよ。
お義姉さんが落ち着いてから、火の子を引き取った経緯をお兄さんに説明してもらった。
火の子はこの国の小さな村で生まれ、気味悪がられながらも世話はされていたが、癇癪を起こしたときに部屋の中のものに火がついたことで、ついに親が育てることを放棄した。
近くの街の教会に置き去りにされ、教会経由でその話を聞いたお父さんとお兄さんが引き取ることを決めた。火の属性ということで、他の貴族は関心は示すも引き取るとは言わなかったらしい。部隊長さんの公爵家も静観している。
火の子が生まれた家に行って、養子にすることを告げて、荷物も引き取り、お金も払った。今後一切関わらないという契約を交わすためだ。庶民の家に魔力の強い子が生まれると貴族が養子にすることがあるが、成長して騎士や魔術師として大成すると援助しろと言ってくる親が一定数いるので、養子にする際は契約を交わすんだそうだ。
貴族になるには王様の許可が必要なので、王様に養子にする資料を提出して許可をもらったら、今度は教会で洗礼を受ける。それでやっと、この家の子どもになった。
お披露目は七歳になったときなので、まだだ。そして今年はお姉ちゃんのお披露目がある。それもあってお義姉さんは何としても火傷を治したかったのだろう。
火傷した理由は、お姉ちゃんの持っていたぬいぐるみだ。火の子がそれを欲しがって、けれどお姉ちゃんの一番のお気に入りなのであげなかったら、ぬいぐるみに火がついた。それで、ぬいぐるみがあたっていた肩から首を火傷してしまった。
『火をつけたのは火の精霊だよ。あいつら好戦的で困る。ウィオにもけんか売ろうとしたからね』
「ウィオラスに?」
『火の子がオレが欲しいと言ったから。ウィオからオレを取り上げるつもりだったのかな。ちょっと脅しておいた』
けんかっ早い迷惑な奴らだ。力の差は分かってるはずなのに、何がしたかったのやら。
「ぬいぐるみに火がついたのは、リュカがそう望んだのか?」
『違うよ。火の精霊が、欲しいと言ってるのに渡さないなら燃やしてしまえ、とでも思ったんじゃないかな。オレのことだって、火の子はただ犬がほしかったんだろうけど、火の精霊が面白半分にウィオから奪おうとしたんでしょ』
そう、何が面倒って、本人が望んでないのに、精霊が勝手をすることだ。
精霊は単体でもいたずらをすることがあるが、力に限りがあるのでそこまで大事にはならないことが多い。けれど今回のような場合、魔力自体は意図せずに火の子がばらまいているので、集まった精霊がそれを使って勝手に事象を起こすから大事になってしまう。成長するうちに魔力の制御を覚えればなくなっていくけれど、制御できるようになるまでは同じことが起きる。それまでオレはこの家にいたほうがいいかも。
ウィオと話して、いろいろ落ち着くまではお屋敷にいることにした。
火の子と遊ぶか、お姉ちゃんのお見舞いをする以外は、庭や部屋でのんびりしている。火の精霊が信用ならないので、オレはこのお屋敷を離れられない。
初日にプロレスごっこをしたのがよかったのか、オレは火の子に遊び相手として受け入れられた。オレと一緒なら弟くんも遊んでいいとお達しが出たので、三人で転げまわっている。
ウィオは騎士団からの呼び出しに応じて手合わせに行ったりしているが、冒険者の依頼は受けていない。
お姉ちゃんの傷はだいぶ治ってきたが、動くとまだ傷が痛むし傷口からの感染が怖いので、お屋敷で安静にしていなければいけない。退屈が紛れるかと思ってお見舞いに来ているが、ウィオはしゃべらないので、オレがなでてもらっている。
そんな中、部屋にウィオとオレと看病しているメイドさんだけになったとき、お姉ちゃんが意を決したような表情をしてウィオに質問した。
「おじさま、おじさまはリュカをなんとかできないの?」
「なんとかというのは」
「リュカはおじさまといっしょなんでしょう。私がけがをしてしまったから、リュカがどこかへ行かされるかもしれないって。リュカはわるくないのに。おじさまならリュカのまほうをなんとかできないの?」
「リュカはどこへも行かない。リュカの魔法はリュカが自分で何とかするしかないが、手伝いはしよう」
「ほんとにどこかに行かされたりしない?」
「ああ。君たちのお父様はそんなことはしないよ」
この家の子たちは本当に優しい。
それはお父さんやお兄さんから受け継がれたもので、ウィオはその優しさに心を守られていたんだろう。
火の子がこの家で居場所を見つけることを祈ろう。
「神獣様の力を当てにするようなことを言ってしまい、申し訳ございません。どのような罰でも受けます」
『じゃあ笑ってて。子どもたちがお屋敷の空気を感じて警戒してるから。どんなに大変でも笑ってて』
「はい。必ず。ありがとうございます」
お義姉さんを泣かせてしまった。どうしていいのか分からなくてウロウロしてしまう。
すりすりしたいけど、ドレスに爪をひっかけるのが怖くて近寄れないでいることに気づいたウィオが、抱き上げてお義姉さんに近づいてくれた。手をぺろっとなめると、お義姉さんが泣き笑いの表情でオレをなでてくれた。
自分でも甘いと思うけど、子どもを思う親の気持ちは温かいなと思ったから、それで罰するようなことはしないよ。
お義姉さんが落ち着いてから、火の子を引き取った経緯をお兄さんに説明してもらった。
火の子はこの国の小さな村で生まれ、気味悪がられながらも世話はされていたが、癇癪を起こしたときに部屋の中のものに火がついたことで、ついに親が育てることを放棄した。
近くの街の教会に置き去りにされ、教会経由でその話を聞いたお父さんとお兄さんが引き取ることを決めた。火の属性ということで、他の貴族は関心は示すも引き取るとは言わなかったらしい。部隊長さんの公爵家も静観している。
火の子が生まれた家に行って、養子にすることを告げて、荷物も引き取り、お金も払った。今後一切関わらないという契約を交わすためだ。庶民の家に魔力の強い子が生まれると貴族が養子にすることがあるが、成長して騎士や魔術師として大成すると援助しろと言ってくる親が一定数いるので、養子にする際は契約を交わすんだそうだ。
貴族になるには王様の許可が必要なので、王様に養子にする資料を提出して許可をもらったら、今度は教会で洗礼を受ける。それでやっと、この家の子どもになった。
お披露目は七歳になったときなので、まだだ。そして今年はお姉ちゃんのお披露目がある。それもあってお義姉さんは何としても火傷を治したかったのだろう。
火傷した理由は、お姉ちゃんの持っていたぬいぐるみだ。火の子がそれを欲しがって、けれどお姉ちゃんの一番のお気に入りなのであげなかったら、ぬいぐるみに火がついた。それで、ぬいぐるみがあたっていた肩から首を火傷してしまった。
『火をつけたのは火の精霊だよ。あいつら好戦的で困る。ウィオにもけんか売ろうとしたからね』
「ウィオラスに?」
『火の子がオレが欲しいと言ったから。ウィオからオレを取り上げるつもりだったのかな。ちょっと脅しておいた』
けんかっ早い迷惑な奴らだ。力の差は分かってるはずなのに、何がしたかったのやら。
「ぬいぐるみに火がついたのは、リュカがそう望んだのか?」
『違うよ。火の精霊が、欲しいと言ってるのに渡さないなら燃やしてしまえ、とでも思ったんじゃないかな。オレのことだって、火の子はただ犬がほしかったんだろうけど、火の精霊が面白半分にウィオから奪おうとしたんでしょ』
そう、何が面倒って、本人が望んでないのに、精霊が勝手をすることだ。
精霊は単体でもいたずらをすることがあるが、力に限りがあるのでそこまで大事にはならないことが多い。けれど今回のような場合、魔力自体は意図せずに火の子がばらまいているので、集まった精霊がそれを使って勝手に事象を起こすから大事になってしまう。成長するうちに魔力の制御を覚えればなくなっていくけれど、制御できるようになるまでは同じことが起きる。それまでオレはこの家にいたほうがいいかも。
ウィオと話して、いろいろ落ち着くまではお屋敷にいることにした。
火の子と遊ぶか、お姉ちゃんのお見舞いをする以外は、庭や部屋でのんびりしている。火の精霊が信用ならないので、オレはこのお屋敷を離れられない。
初日にプロレスごっこをしたのがよかったのか、オレは火の子に遊び相手として受け入れられた。オレと一緒なら弟くんも遊んでいいとお達しが出たので、三人で転げまわっている。
ウィオは騎士団からの呼び出しに応じて手合わせに行ったりしているが、冒険者の依頼は受けていない。
お姉ちゃんの傷はだいぶ治ってきたが、動くとまだ傷が痛むし傷口からの感染が怖いので、お屋敷で安静にしていなければいけない。退屈が紛れるかと思ってお見舞いに来ているが、ウィオはしゃべらないので、オレがなでてもらっている。
そんな中、部屋にウィオとオレと看病しているメイドさんだけになったとき、お姉ちゃんが意を決したような表情をしてウィオに質問した。
「おじさま、おじさまはリュカをなんとかできないの?」
「なんとかというのは」
「リュカはおじさまといっしょなんでしょう。私がけがをしてしまったから、リュカがどこかへ行かされるかもしれないって。リュカはわるくないのに。おじさまならリュカのまほうをなんとかできないの?」
「リュカはどこへも行かない。リュカの魔法はリュカが自分で何とかするしかないが、手伝いはしよう」
「ほんとにどこかに行かされたりしない?」
「ああ。君たちのお父様はそんなことはしないよ」
この家の子たちは本当に優しい。
それはお父さんやお兄さんから受け継がれたもので、ウィオはその優しさに心を守られていたんだろう。
火の子がこの家で居場所を見つけることを祈ろう。
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