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精霊の愛し子編
1. 火の子
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「ルジェ、家に帰らないか」
食い倒れツアーのためにウィオが生まれ育ったオルデキアを出ていろんな国を周るようになって三年目。
いつもなら冬前に帰ることが多いのに、まだ夏の終わり、家を離れてから半年もたっていないのに、冒険者ギルドで受け取ったお兄さんからの手紙を読んだウィオが、突然帰ろうと言いだした。
『いいけど、何かあった?』
「兄上が、精霊に愛されている子どもを養子に迎えた」
精霊に愛されている人というのは、ウィオのように髪だけでなく目にも属性の色が現れている人のことだ。国によって呼び方があったりなかったりする。
オルデキアでは精霊の声が聞こえる人のことを精霊の愛し子と呼んでいるようだけど、そういう意味では、目に属性の色が現れている人はみんな精霊の愛し子だ。
今、オルデキアで確認されている目に属性の色が現れている人は、騎士団第三部隊の部隊長さんとウィオだけだ。
『属性は?』
「火だ。庶民の家で持て余したようだ」
精霊に愛されている者の周りには精霊が集まり、積極的に力を貸す。それがまだ理性の効かない子どもであってもだ。
ウィオも子どものころは周りをよく氷漬けにしていたらしいが、引き取った子は火だ。おそらく家具に火がついたりして、周りに危険が及んで、育てられなくなったのだろう。
突然の帰省宣言でお父さんたちに何かあったのかと心配したが、お父さんたちはみんな元気だったので一安心だ。
『お兄さんがすぐに帰ってきてって言ってるの?』
「何も。ただ引き取ったと」
『じゃあさ、トゥレボルに戻って火の神子についての情報をもらわない?』
「そうだな、それがいいか」
一月前まで滞在していたトゥレボルでは精霊に愛されている者を神子と呼んで、生まれるとすぐに教会に集めて育てている。
神子といっても崇め奉られたりといったことはなく、専門施設で育てられているだけで、とても強い魔法が使えるので尊敬されている、くらいの感じだ。大人になった神子は教会の所属として辺境の農地の開拓を手伝ったりしているので、庶民からの人気は高い。
ウィオも氷の神子様だと屋台でちょっとオマケがもらえるくらいには歓迎されていた。
トゥレボルに戻り事情を説明して火の神子に関する情報をもらい、オルデキアのお屋敷へと馬車を走らせる。この三年で慣れた道だ。ウィオも冒険者が板についてきたけど、髪の色もあって見た目はいまだに貴族のお忍びっぽい。
着いてみるとお屋敷がちょっといつもと違う。何かが起きているようで、ウィオも少し警戒している。
慌てて出てきた執事さんが、教えてくれた。
「お帰りなさいませ。お出迎えが遅くなりまして」
「構わない。何があった」
「お嬢様が火傷をされました」
養子に迎えた子の魔力が暴走し、お姉ちゃんが肩から首筋に火傷をしてしまったそうだ。しかも、瘴気はないはずなのにポーションを使っても傷が治らず、お医者さんに来てもらったり、教会の人に来てもらったりとここ数日バタバタしていたらしい。
とりあえずお姉ちゃんに会いに行こうと、執事さんについて部屋に向かう。
お姉ちゃんの部屋には、お母さんとお兄さんと、憔悴したお義姉さんがいた。お姉ちゃんは、火傷の痛みと火傷から出た熱のために、うなされている。
お義姉さんがオレを見るなり、駆けよってすがりついてきた。
「ルジェちゃん、あの子の火傷を治してください。治らないの。何をしても治らないの。お願いします。お願いします」
「やめなさい! ルジェくん、何もしなくていい。忘れてくれ。妻はちょっと取り乱しているんだ」
「お願いします。女の子なの。火傷の痕があっては、将来が大変なの」
泣きながら頼むお義姉さんを、お兄さんがオレから引き離そうとしているが、お義姉さんも離されまいと必死だ。
お母さんもウィオも、オレの力を当てにすることには必ず反対するんだけど、今回は何も言えないでいる。
オレはお義姉さんの目を見て告げた。
『お義姉さん、ごめんなさい。できないの』
「どうして!」
『できないの。でも大丈夫だよ。成長したら痕は消えるから。ちゃんと消えるから。大丈夫だよ。大丈夫』
泣き崩れてしまったお義姉さんの手をなめて、そっと治癒の力を流し入れると、お義姉さんは気を失うように眠った。お姉ちゃんが心配で寝てないんだろう。これでちょっと気持ちが落ち着いてくれるといいんだけど。
眠らせたのでお部屋に連れていくようにお願いすると、お兄さんが連れて部屋を出ていったので、それを確認してからウィオがオレに聞いた。
「できないのか?」
『ここじゃなくて別のところでね。お兄さんにもちゃんと話すよ』
オレはお姉ちゃんの手をそっとなめて、傷に残る精霊の力を消した。これがなければ、ただの火傷だ。
火の子の魔力が暴走した結果だけど、実際に火をつけたのは精霊だから、精霊がつけた傷にはポーションも効かない。
『傷口を清潔に保って。もし高熱が出たら、いつでもいいから知らせて』
執事さんから、お姉ちゃんを看病しているメイドさんに伝えてもらって、オレたちは部屋を出た。
食い倒れツアーのためにウィオが生まれ育ったオルデキアを出ていろんな国を周るようになって三年目。
いつもなら冬前に帰ることが多いのに、まだ夏の終わり、家を離れてから半年もたっていないのに、冒険者ギルドで受け取ったお兄さんからの手紙を読んだウィオが、突然帰ろうと言いだした。
『いいけど、何かあった?』
「兄上が、精霊に愛されている子どもを養子に迎えた」
精霊に愛されている人というのは、ウィオのように髪だけでなく目にも属性の色が現れている人のことだ。国によって呼び方があったりなかったりする。
オルデキアでは精霊の声が聞こえる人のことを精霊の愛し子と呼んでいるようだけど、そういう意味では、目に属性の色が現れている人はみんな精霊の愛し子だ。
今、オルデキアで確認されている目に属性の色が現れている人は、騎士団第三部隊の部隊長さんとウィオだけだ。
『属性は?』
「火だ。庶民の家で持て余したようだ」
精霊に愛されている者の周りには精霊が集まり、積極的に力を貸す。それがまだ理性の効かない子どもであってもだ。
ウィオも子どものころは周りをよく氷漬けにしていたらしいが、引き取った子は火だ。おそらく家具に火がついたりして、周りに危険が及んで、育てられなくなったのだろう。
突然の帰省宣言でお父さんたちに何かあったのかと心配したが、お父さんたちはみんな元気だったので一安心だ。
『お兄さんがすぐに帰ってきてって言ってるの?』
「何も。ただ引き取ったと」
『じゃあさ、トゥレボルに戻って火の神子についての情報をもらわない?』
「そうだな、それがいいか」
一月前まで滞在していたトゥレボルでは精霊に愛されている者を神子と呼んで、生まれるとすぐに教会に集めて育てている。
神子といっても崇め奉られたりといったことはなく、専門施設で育てられているだけで、とても強い魔法が使えるので尊敬されている、くらいの感じだ。大人になった神子は教会の所属として辺境の農地の開拓を手伝ったりしているので、庶民からの人気は高い。
ウィオも氷の神子様だと屋台でちょっとオマケがもらえるくらいには歓迎されていた。
トゥレボルに戻り事情を説明して火の神子に関する情報をもらい、オルデキアのお屋敷へと馬車を走らせる。この三年で慣れた道だ。ウィオも冒険者が板についてきたけど、髪の色もあって見た目はいまだに貴族のお忍びっぽい。
着いてみるとお屋敷がちょっといつもと違う。何かが起きているようで、ウィオも少し警戒している。
慌てて出てきた執事さんが、教えてくれた。
「お帰りなさいませ。お出迎えが遅くなりまして」
「構わない。何があった」
「お嬢様が火傷をされました」
養子に迎えた子の魔力が暴走し、お姉ちゃんが肩から首筋に火傷をしてしまったそうだ。しかも、瘴気はないはずなのにポーションを使っても傷が治らず、お医者さんに来てもらったり、教会の人に来てもらったりとここ数日バタバタしていたらしい。
とりあえずお姉ちゃんに会いに行こうと、執事さんについて部屋に向かう。
お姉ちゃんの部屋には、お母さんとお兄さんと、憔悴したお義姉さんがいた。お姉ちゃんは、火傷の痛みと火傷から出た熱のために、うなされている。
お義姉さんがオレを見るなり、駆けよってすがりついてきた。
「ルジェちゃん、あの子の火傷を治してください。治らないの。何をしても治らないの。お願いします。お願いします」
「やめなさい! ルジェくん、何もしなくていい。忘れてくれ。妻はちょっと取り乱しているんだ」
「お願いします。女の子なの。火傷の痕があっては、将来が大変なの」
泣きながら頼むお義姉さんを、お兄さんがオレから引き離そうとしているが、お義姉さんも離されまいと必死だ。
お母さんもウィオも、オレの力を当てにすることには必ず反対するんだけど、今回は何も言えないでいる。
オレはお義姉さんの目を見て告げた。
『お義姉さん、ごめんなさい。できないの』
「どうして!」
『できないの。でも大丈夫だよ。成長したら痕は消えるから。ちゃんと消えるから。大丈夫だよ。大丈夫』
泣き崩れてしまったお義姉さんの手をなめて、そっと治癒の力を流し入れると、お義姉さんは気を失うように眠った。お姉ちゃんが心配で寝てないんだろう。これでちょっと気持ちが落ち着いてくれるといいんだけど。
眠らせたのでお部屋に連れていくようにお願いすると、お兄さんが連れて部屋を出ていったので、それを確認してからウィオがオレに聞いた。
「できないのか?」
『ここじゃなくて別のところでね。お兄さんにもちゃんと話すよ』
オレはお姉ちゃんの手をそっとなめて、傷に残る精霊の力を消した。これがなければ、ただの火傷だ。
火の子の魔力が暴走した結果だけど、実際に火をつけたのは精霊だから、精霊がつけた傷にはポーションも効かない。
『傷口を清潔に保って。もし高熱が出たら、いつでもいいから知らせて』
執事さんから、お姉ちゃんを看病しているメイドさんに伝えてもらって、オレたちは部屋を出た。
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