『もふもふ教に、新しい信者さんが増えましたー。ぱちぱち』
「もふもふ教？」
『うん。もふもふをたたえる宗教だよ。かけもち大歓迎』
「私も入信していいだろうか？」
「陛下」
「もふもふ教を国教にしたい」
「陛下、お待ちください。そのような決定を、独断でされては」
「宰相、もう決めた。マイスウィートエンジェルを広報担当にする」
「公私混同はお控えください！」
『ウィオ、どうしよう。なんか揉めてるんだけど』
「これは私たちが聞いていい話ではない。聞かなかったことにしよう」
『王様と宰相のけんかの原因がうさぎさんだなんて、知られるわけにいかないよねえ』

「ルジェ様、どうぞ頭をあげてください。ご信頼いただけるほどには、精進がまだまだ足りないということです」
『そんなことないよ！　ほら、状況が状況だったから、さすがの執事さんでも忘れちゃうと思ったんだ』
「いかなるときも、ルジェ様のお食事は最優先事項です」
『あ、あの、それは最優先にしてもらわなくて、大丈夫なので。オレにとって食事は嗜好品なので。無理しないで！』
「いいえ、たとえこの世界が滅びようとも、美味しいお食事はご用意いたしますよ」
『世界が滅びても？　もしかして、新しい世界を作っちゃう感じ？』
「シェリスなら、ルジェのためにやりそうだな」

「だれか、干し肉を持っていないか？」
「かじりかけならありますが。狐、食べるか？」
「待ってください！　その御方は……」
「お嬢様？　いかがなさいました？」
『くんくん、塩辛そうだから、無理』
「すまない。これは食べないそうだ」
「金欠でちょっと安いのにしたら、狐でも食べないだと？！」
「最高級のものしかお口になさらないかと……」
「ルジェ、屋敷に帰るまで待て」
『ふえーん、ひもじいよー』

ミッションコンプリート！
がんばったから、ごほうびに美味しいご飯と、お風呂にブラッシングをお願いします！

誘拐犯の犯行動機をさぐる前に、まずはご飯、次にお風呂！
ゆっくり寝て、お庭を掘って遊んでから、それから考えよう。
緊急性と優先順位の問題だから、食い気が買ったんじゃないよ。

そうそう。ささっと帰って、美味しいご飯を食べて、あったかいお風呂で温まろう。
うんうん。解決を急いだのは、お姉ちゃんたちが辛い思いをする時間を少しでも短くするためだよ。
もちろん、オレがお腹が空いたからじゃないよ。分かってくれててうれしいなあ。
急に寒くなったから、おでんを食べて、温まってね。

『オレがしびれを切らす前に来てね』
「ルジェ、気をつけろよ」
『キャン』

「急いで救出に向かいますか。ちびっこが空腹で暴れだす前に」
「ヴィン、さすがにルジェでもそれはないと思う」
「どうだか。『美味しいご飯とお風呂のためにもう帰る、犯人は雪に埋めちゃえ』と言い出す可能性は全くないと？」
「……」

『ウィオ、馬車に戻る前に、ちょっとお屋敷まで行って、干し肉もらってくる。ついでにお姉ちゃんたちのご飯も』
「なるべく早く救出するから、それまで待て」
「ちびっこ、どっちがついでなんですか？　お嬢様たちはパンが一つしかないんですよね？」
『も、もちろん、お姉ちゃんたちのご飯を取りに行くんだよ。食べ盛りなのに、栄養が足りないからね。そのついでに、執事さんからオレの干し肉をもらうだけで。お姉ちゃんたちのためだよ！　キャンキャン！』
「はいはい、分かりました。そういうことにしますから、そんな必死にならないでください」
「分かったから、馬車に戻ってエウリーチェたちを守ってくれ」
『キュゥ』

『頑張るよー。みんなで無事に帰って、よくやったって褒めてもらうよ。だけど、ご飯って騒がなかったから偉いっていうのは違うと思うんだ。オレ、こんな非常時に騒いだりしないよ？　ちゃんと場はわきまえてるよ？』
「最初に干し肉と言ったのは誰だ？」
『騒いでないもん。聞いてみただけだもん』
「ちびっ子、ないと分かって、尻尾も耳も垂れていたのは、どこの狐でしたか？」
『お姉ちゃんたちのご飯を見たら、お腹空いちゃったの。きゅーん』
「ルジェ、食べなくても平気だろう。エウリーチェたちの食事をとるなよ」
『キャンキャン！　オレはそんなに意地汚くないのに、ひどい！』

いかなるときも居眠りと食いしん坊は譲れない。どんな時もブレない狐。
何をさせたくて、こんな強引な手段を取ったのか。まさか、ドラゴンのせい！？

『可愛い可愛い飼い狐のご飯を忘れるなんて、ひどいよ。非常時だから我慢するけどさ。早く迎えに来てね！』by ルジェ

王都の魔界化を阻止するための準備は万全！
だけど、ご飯は忘れられてしまいました。非常時だから、仕方ないよね。
早く迎えに来てもらって、お家に帰って美味しいものを食べましょう！

ウィオ、早くー！
狐さんがお腹が空いたって暴れだす前に！
もう飽きたから、じゃなかった、お姉ちゃんたちがかわいそうだからって力技でぜーんぶ解決しちゃう前に！

『違うってば。お姉ちゃんたちに食べてほしかったの。まあ、あのパンはあんまり美味しそうじゃなかったけど、そうじゃなくて、オレは子どものご飯は盗らないんだからー！』by ルジェ

ウィオ、副隊長さん、頑張って。
大変なときでも、食いしん坊の狐にパンを分けようとする優しい子どもたちのために。
狐さんがお腹を空かせる前に！

この事件がお姉ちゃんのトラウマになっちゃったら、魔王がたくさん降臨しちゃう。ガクブル。
ウィオ、いそげー！
そして飼い狐さんは、可愛がられスキルを駆使して、お姉ちゃんたちを癒すのだ！

お姉ちゃん、優しいよねえ。もっとたくさんなでてもらって、癒しになるよ。
だけど、一個訂正させてよ。
オレは、子どものご飯は盗らないの。美味しくなさそうだから断ったんじゃないから。
そこ、間違えないで！

そろそろ来てくれないと、狐さんがひと暴れしちゃう。
そうなると、お屋敷の魔王どころじゃない危機が、すぐそこに。
ウィオ、いそいでー！

どんな理由があろうとも、犯罪はダメ、絶対。
お家で待っている魔王様たちに、一族郎党滅ぼされそうな気がしますね……
ルジェ、三人をしっかり守ってね！

王都が魔界化しそうなので、狐さんだけは冷静でいてもらいたいところ。
未来は君にかかっている！

犯人の目的は思っていたものと違ったので、どうしようか迷うところです。
早く助けに来てほしいけど、今はお姉ちゃんたちのそばを離れないほうがよさそう。
もうちょっと見守って、何かありそうなら実力行使かな？？

『なんで頑張って奪還した後、ウィオに呆れられることが決まってるの！！』
「日ごろの行いだな」
『そんなことないよ。いつも全力で真面目だよ！　だよね、ウィオ？』
「……」

見られちゃったー！
走って逃げるには現実的ではないですよね。
ラスボスが姿を現さないように、できる狐が安全は守るので、救助を待っていてね。

犬じゃないけど、狐だけど、バレちゃった！
お姉ちゃんにオレだってことも、バレちゃった！
お姉ちゃんに何かあったら、お母さんたちが魔王になっちゃうから、その前に助けに来てー。

頑張るんだ、ルジェ。
魔王やラスボス大魔王候補がごろごろいるお屋敷での、美味しいご飯とお風呂付き生活のために。
すべては、お姉ちゃんの救出にかかっている！

「エウリーチェ、大丈夫か!?」
『ああ、助けに来てくれた貴方は、私の運命の人！』
「お前は、誰だ？」
『ウィオ、オレ、じゃなかった、私が分からないの？』
「人間の顔に、獣の耳。さては、魔物だな？」
『魔物って、ひどいよ！　飼い狐が分からないなんて、飼い主失格だよ？』
「ルジェ……？」
『ウィオに恋人ができないから、オレが美女になってあげたの。ウィオ、よ、男前！　大好き！』
「叔父様？　この方は、ルジェなんですか？」
「時と場合を考えず、ふざけることに全力というところはルジェだな」
『その評価、どういうことー！？』