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7章 クインス再訪編
6. 屋台
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翌日は4日に1日の休みの日なので、理沙は起きずにゆっくりと眠っている。
私は目が覚めたけど、年齢のせいじゃなく習慣だからよ。
理沙が寝ている間にターシャちゃんと話をしたいとロニアにお願いしたら、作戦会議に使っている部屋に案内された。
「昨日の夜はあの後眠れましたか?」
「あまり。ちょっと理沙が考えこんじゃったみたいで」
あの騒動でも部屋に来なかったターシャちゃんは何をしていたのかと思ったら、夜行性の魔物の観察に行こうとして止められていたそうだ。ターシャちゃんの護衛の人の苦労が偲ばれるわ。
目的のためなら脇目もふらずに突き進む。理沙もこれくらい我が道を行けばいいのに。
「クインスは、どこが残っていると言ってきているか知ってる?」
「トルゴードとの国境近くと王都の近くと聞いています」
「……後は王都の近くだけって言われていたのよ」
理沙を北の森の危険なところに近づけたくなかったのか、国境に近づけたくなかったのか。
「今更で本当に申し訳ないのだけど、王都行きはなしで、現地の人と接触しないようにってできるかしら」
「出来ますが、クインス行きそのものを中止したほうがいいのでは?」
「クインスの浄化を途中で放棄したことに責任を感じているから、行きたいみたいなの。でも無理そうなら連れて帰るとは言ってある」
「来るのが遅いと言われた件ですね」
あの後、理沙は心のバランスを崩してしまったし、トラウマになってしまったのだろう。
理沙が起きたら、ターシャちゃんから理沙の意志を確認してくれるようにお願いした。
実際に浄化するのは理沙なのだから、私が勝手に決めてしまう訳にはいかない。
「理沙にはこの世界の人の命に何の責任もないのに」
「理沙さんが、私は聖女なんだからみんな私の言うことを聞きなさい、というタイプならよかったんでしょうね」
そうよね。この状況を楽しんで、それこそ王子様で推しグループを作ってキャッキャできる性格なら、ここまで悩んだり傷ついたりしなかったでしょうね。
「ターシャちゃんならどうする?」
「我の前にひれ伏せ、と一度は言ってみたいですね」
真正の女王様がいた。
でもターシャちゃんはあまり人に興味がなさそうだから、言うだけ言ったら満足しそうね。女王様とは違うかしら。
「政子さんはどうしますか?」
「そんなの、逃亡一択よ」
責任ある立場になんてなりたくないわ。
私にそんな能力やカリスマ性がないことは嫌というほど分かってるから、その他大勢でいたいの。
北の森の砦での浄化は無事に終わり、街へと戻ってきた。
砦を出るときは、砦に常駐している騎士たちの盛大なお見送りがあった。「聖女様ー、ありがとうございましたー!」「また来てくださいねー!」と賑やかな声に、理沙も嬉しそうだった。
結局途中で街に帰ることもなくずっと砦にいたので、出迎えの賑やかさも、見送りの盛大さも、今はその気持ちがなんとなく理解できるような気がする。
あの砦では常に緊張を強いられて、娯楽がない。だから非日常をイベントとして楽しんでいるのだろう。
少しここでゆっくりしてから、クインスへと向かう。
その途中に国内で浄化する予定のところはいくつかあるけど、街道から大きくは外れない。それで国内は終わりだ。
私たちがこの街で休んでいる間に、クインスでの浄化の場所について、クインス側の人と決めてくれるそうだ。瘴気を感じるシーダ君をつれて、ジェン君がすでに国境へ向かっているらしい。
「理沙さん、もしよければ庭に出ませんか?」
「いいですけど」
ターシャちゃんが呼びに来たのだけど、何だろう。
特に予定もないので、庭でお茶でもするのかなと思ってついていくと、いつもは訓練場として使われているという広場に、屋台が出ていた。
顔を隠すようにベールをかけられたのは、このためか。
「街へは出ていただけないので、気分転換に」
「え、屋台呼んじゃったんですか?」
「はい。実際街に出ている屋台ですよ。今日のお昼は屋台のものというのはいかがですか?」
「いいですね!」
理沙が乗り気だ。
でも、実際の屋台ということは、今の街中の屋台はところどころ歯抜けになってるってことよね。住民の皆さんごめんなさい。
「ねえお母さん、これ、お好み焼き?」
「似てるわね」
「店主、これは中に何が入っていますか?」
「は、はい!や、野菜と肉が、入ってます」
ターシャちゃんが聞いてくれたけど、見た目はクレープのような生地で具を巻いたラッピングサンドイッチみたいな感じだ。野菜と肉は見ればわかるから、できればその種類を教えてほしかったんだけど、突然聖女様が目の前に来て緊張しているから無理そうね。
広場の隅には机も出ていて、そこで食べるようにしてくれているので、食べたいものをもらって、机へと運ぶ。
私たちだけだと食べにくいなあと思っていたら、私たちが取り終わって座ったところで、非番の護衛の騎士たちが屋台へと散っていく。
間に騎士もいるし、屋台からは遠いので、ベールは取っても顔は分からないだろう。
ちょっとしたお祭りっぽい雰囲気がしていて、ワクワクする。
「理沙、お肉が多いわね」
「そんなつもりはなかったんだけど、並べてみたら多かった。やっぱり屋台って匂いで惹かれるから」
「屋台で匂いって言うとイカ焼きね。食べたくなったわ」
「ターシャさん、お醤油開発してください」
「農学部の友人がいてくれれば、適した豆と菌を探して作ってくれるんですが」
ターシャちゃんのお友達ってやっぱり研究一筋の人たちばっかりなのかしら。
私は目が覚めたけど、年齢のせいじゃなく習慣だからよ。
理沙が寝ている間にターシャちゃんと話をしたいとロニアにお願いしたら、作戦会議に使っている部屋に案内された。
「昨日の夜はあの後眠れましたか?」
「あまり。ちょっと理沙が考えこんじゃったみたいで」
あの騒動でも部屋に来なかったターシャちゃんは何をしていたのかと思ったら、夜行性の魔物の観察に行こうとして止められていたそうだ。ターシャちゃんの護衛の人の苦労が偲ばれるわ。
目的のためなら脇目もふらずに突き進む。理沙もこれくらい我が道を行けばいいのに。
「クインスは、どこが残っていると言ってきているか知ってる?」
「トルゴードとの国境近くと王都の近くと聞いています」
「……後は王都の近くだけって言われていたのよ」
理沙を北の森の危険なところに近づけたくなかったのか、国境に近づけたくなかったのか。
「今更で本当に申し訳ないのだけど、王都行きはなしで、現地の人と接触しないようにってできるかしら」
「出来ますが、クインス行きそのものを中止したほうがいいのでは?」
「クインスの浄化を途中で放棄したことに責任を感じているから、行きたいみたいなの。でも無理そうなら連れて帰るとは言ってある」
「来るのが遅いと言われた件ですね」
あの後、理沙は心のバランスを崩してしまったし、トラウマになってしまったのだろう。
理沙が起きたら、ターシャちゃんから理沙の意志を確認してくれるようにお願いした。
実際に浄化するのは理沙なのだから、私が勝手に決めてしまう訳にはいかない。
「理沙にはこの世界の人の命に何の責任もないのに」
「理沙さんが、私は聖女なんだからみんな私の言うことを聞きなさい、というタイプならよかったんでしょうね」
そうよね。この状況を楽しんで、それこそ王子様で推しグループを作ってキャッキャできる性格なら、ここまで悩んだり傷ついたりしなかったでしょうね。
「ターシャちゃんならどうする?」
「我の前にひれ伏せ、と一度は言ってみたいですね」
真正の女王様がいた。
でもターシャちゃんはあまり人に興味がなさそうだから、言うだけ言ったら満足しそうね。女王様とは違うかしら。
「政子さんはどうしますか?」
「そんなの、逃亡一択よ」
責任ある立場になんてなりたくないわ。
私にそんな能力やカリスマ性がないことは嫌というほど分かってるから、その他大勢でいたいの。
北の森の砦での浄化は無事に終わり、街へと戻ってきた。
砦を出るときは、砦に常駐している騎士たちの盛大なお見送りがあった。「聖女様ー、ありがとうございましたー!」「また来てくださいねー!」と賑やかな声に、理沙も嬉しそうだった。
結局途中で街に帰ることもなくずっと砦にいたので、出迎えの賑やかさも、見送りの盛大さも、今はその気持ちがなんとなく理解できるような気がする。
あの砦では常に緊張を強いられて、娯楽がない。だから非日常をイベントとして楽しんでいるのだろう。
少しここでゆっくりしてから、クインスへと向かう。
その途中に国内で浄化する予定のところはいくつかあるけど、街道から大きくは外れない。それで国内は終わりだ。
私たちがこの街で休んでいる間に、クインスでの浄化の場所について、クインス側の人と決めてくれるそうだ。瘴気を感じるシーダ君をつれて、ジェン君がすでに国境へ向かっているらしい。
「理沙さん、もしよければ庭に出ませんか?」
「いいですけど」
ターシャちゃんが呼びに来たのだけど、何だろう。
特に予定もないので、庭でお茶でもするのかなと思ってついていくと、いつもは訓練場として使われているという広場に、屋台が出ていた。
顔を隠すようにベールをかけられたのは、このためか。
「街へは出ていただけないので、気分転換に」
「え、屋台呼んじゃったんですか?」
「はい。実際街に出ている屋台ですよ。今日のお昼は屋台のものというのはいかがですか?」
「いいですね!」
理沙が乗り気だ。
でも、実際の屋台ということは、今の街中の屋台はところどころ歯抜けになってるってことよね。住民の皆さんごめんなさい。
「ねえお母さん、これ、お好み焼き?」
「似てるわね」
「店主、これは中に何が入っていますか?」
「は、はい!や、野菜と肉が、入ってます」
ターシャちゃんが聞いてくれたけど、見た目はクレープのような生地で具を巻いたラッピングサンドイッチみたいな感じだ。野菜と肉は見ればわかるから、できればその種類を教えてほしかったんだけど、突然聖女様が目の前に来て緊張しているから無理そうね。
広場の隅には机も出ていて、そこで食べるようにしてくれているので、食べたいものをもらって、机へと運ぶ。
私たちだけだと食べにくいなあと思っていたら、私たちが取り終わって座ったところで、非番の護衛の騎士たちが屋台へと散っていく。
間に騎士もいるし、屋台からは遠いので、ベールは取っても顔は分からないだろう。
ちょっとしたお祭りっぽい雰囲気がしていて、ワクワクする。
「理沙、お肉が多いわね」
「そんなつもりはなかったんだけど、並べてみたら多かった。やっぱり屋台って匂いで惹かれるから」
「屋台で匂いって言うとイカ焼きね。食べたくなったわ」
「ターシャさん、お醤油開発してください」
「農学部の友人がいてくれれば、適した豆と菌を探して作ってくれるんですが」
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