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7章 クインス再訪編
3. 歓声
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トルゴード国内の通称北の森の近くを浄化しながら移動中だ。
これから北の森における魔物討伐の拠点となっている砦に移動して、その一帯の浄化を行う。
「この辺り、クインスの一番瘴気が濃かったところと同じくらい濃い気がする」
「そうなのね。浄化で疲れない?」
「うーん、ずっと続くならペースを落としたほうがいいかなあ」
「フィル君、予定の組み換えがあるかもしれないって隊長さんに伝えてもらえるかしら」
「畏まりました」
シーダ君が瘴気関連で忙しくなってからは私の護衛についてくれていることが多いフィル君に、予定変更の可能性があることを伝えてもらうように頼んだ。
フィル君は私たちの馬車のすぐ横を馬で移動しているので、窓を開けると話かけることができる。
いつ頃どこの街に行くというのは綿密に計画がたてられているようだから、もし予定が変更になったらいろいろ調整しなければならない。しかも今回はクインスへ行く予定があるので国を越えての連携も必要だ。
ここ北の森の近くに来てすぐ、理沙が体調を崩した。
ベイロールでのこともあったし、帰ってきてからお茶会に参加したり新しいことを始めていたし、疲れた出たのだろう。
3日お休みにしてゆっくり休んだら熱は下がったけど、まだ無理は禁物だ。
理沙は少し前から調子悪いと思っていたのに、旅の予定を変えると迷惑がかかると思って言い出せなかったらしい。
調子悪そうだなと思って声をかけても、平気というので様子を見ていたのだけど、結局熱を出してしまった。
ただその後の周りの慌てぶりが予想外で、トイレに行こうとベッドから1歩でも出ようならお医者さんが飛んでくるくらいに心配されたのだ。
理沙が「ねえ私なんか重病なの?命の危険があるの?」と私の聞いてくるくらいの対応だった。
もちろん心配だったけど疲れから熱が出たんだろうくらいの感覚でいた私も、何が起きているのかターシャちゃんに何度も確認してしまった。
実際のところは、理沙の初めての不調に、聖女様が倒れられたと周りが大騒動になっていただけだった。
思い出してみると、理沙がこの世界に来てから精神的なものを除けば、熱を出したり不調になったのは初めてだった。ついでに私も大きく体調を崩したことがなかった。
そのために私たちには神のご加護があって、そう簡単に体調を崩したりしないのだと認識されてしまっていたのだ。
それを聞いたときは、私たち普通の人間ですからと言う言葉が喉まで出かかったけど、なんとか飲み込んだ。彼らだって別に知らないわけじゃないのだし。
そんなことがあったので、理沙も私も次からは早めに言おうと心に決めた。
北の森は、クインスから続く森で、瘴気が濃くここから魔物がたくさん出てくる。
ベイロール訪問よりこちらの方が優先だったのではないか、移動距離を短くしたいと言ったせいで後回しになってしまったのではないかと理沙は心配していたけれど、この辺りには一般人はあまり住んでいないそうだ。
北の森のそれなりに近くで人が住んでいるところは、クインスから王都に続く道の周辺にあり、そこはこの国に来て最初に王都に向かいながら浄化した。ジェン君が浄化の予定を立ててくれた時点で考慮していてくれていたので、人が多く危険度も高いところはすでに浄化済みなのだ。
今向かっているところには、騎士や冒険者、砦の管理維持のための人しかいない。
森のすぐそば、高い塀に被われた砦に着くと、重そうな音をたてて門が開いた。いざというときに立てこもれるように、扉も分厚い。
馬車が入るとすぐに門が閉じられたが、門の周りでたくさんの騎士が警戒している。
この門を突破されると、砦の中の安全がなくなってしまう。ここは最前線なのだ。
理沙が馬車から降りると周りから拍手と歓声が上がる。
「聖女様ー!」「お待ちしてましたー!」という呼びかけに、理沙が驚いている。街で歓迎されることはあってもここまで熱烈でもないし、野太い声ばかりじゃない。
ちょっと引きつった笑顔で理沙が手を振ると、さらに歓声が大きくなる。
実際に魔物を相手にしている彼らには、理沙は救世主なんだろう。
建物に入り、カーラちゃんに案内されたのは、ビジネスホテルのツインより少し狭いくらいの部屋だ。狭いベッドが2つある。
「今後は頻繁に街へ戻るのと、砦でゆっくり時間をとるのと、どちらがよろしいですか?」
「砦にいて危険はないの?」
「危険はありませんが、快適さもありません」
人が多いところの危険度が下がったので、騎士は北の森の周辺に集められている。
この付近は5日ほど前に理沙が浄化し、その後に集中的に討伐したので、魔物は激減している。
ここを拠点に北の森の浄化を進めていくが、快適さを求めてここに泊まる日数を減らして頻繁に街に帰るか、移動距離を減らしてここに泊るか、どちらが理沙にとって負担が少ないのか。
「私は移動が少ないほうがいいです。お母さんは?」
「ここでの暮らしはどんな感じになるのかしら?」
「食事は騎士たちと同じものをお出しします。入浴設備はありませんが、お身体をお拭きいただけるようお湯を用意いたします」
「それなら移動するより楽そうね」
部屋も窓が小さいこと以外は特に問題はなさそうだ。
ここにいるのは長くても20日くらいの予定なので、5日滞在後に考えることにした。
これから北の森における魔物討伐の拠点となっている砦に移動して、その一帯の浄化を行う。
「この辺り、クインスの一番瘴気が濃かったところと同じくらい濃い気がする」
「そうなのね。浄化で疲れない?」
「うーん、ずっと続くならペースを落としたほうがいいかなあ」
「フィル君、予定の組み換えがあるかもしれないって隊長さんに伝えてもらえるかしら」
「畏まりました」
シーダ君が瘴気関連で忙しくなってからは私の護衛についてくれていることが多いフィル君に、予定変更の可能性があることを伝えてもらうように頼んだ。
フィル君は私たちの馬車のすぐ横を馬で移動しているので、窓を開けると話かけることができる。
いつ頃どこの街に行くというのは綿密に計画がたてられているようだから、もし予定が変更になったらいろいろ調整しなければならない。しかも今回はクインスへ行く予定があるので国を越えての連携も必要だ。
ここ北の森の近くに来てすぐ、理沙が体調を崩した。
ベイロールでのこともあったし、帰ってきてからお茶会に参加したり新しいことを始めていたし、疲れた出たのだろう。
3日お休みにしてゆっくり休んだら熱は下がったけど、まだ無理は禁物だ。
理沙は少し前から調子悪いと思っていたのに、旅の予定を変えると迷惑がかかると思って言い出せなかったらしい。
調子悪そうだなと思って声をかけても、平気というので様子を見ていたのだけど、結局熱を出してしまった。
ただその後の周りの慌てぶりが予想外で、トイレに行こうとベッドから1歩でも出ようならお医者さんが飛んでくるくらいに心配されたのだ。
理沙が「ねえ私なんか重病なの?命の危険があるの?」と私の聞いてくるくらいの対応だった。
もちろん心配だったけど疲れから熱が出たんだろうくらいの感覚でいた私も、何が起きているのかターシャちゃんに何度も確認してしまった。
実際のところは、理沙の初めての不調に、聖女様が倒れられたと周りが大騒動になっていただけだった。
思い出してみると、理沙がこの世界に来てから精神的なものを除けば、熱を出したり不調になったのは初めてだった。ついでに私も大きく体調を崩したことがなかった。
そのために私たちには神のご加護があって、そう簡単に体調を崩したりしないのだと認識されてしまっていたのだ。
それを聞いたときは、私たち普通の人間ですからと言う言葉が喉まで出かかったけど、なんとか飲み込んだ。彼らだって別に知らないわけじゃないのだし。
そんなことがあったので、理沙も私も次からは早めに言おうと心に決めた。
北の森は、クインスから続く森で、瘴気が濃くここから魔物がたくさん出てくる。
ベイロール訪問よりこちらの方が優先だったのではないか、移動距離を短くしたいと言ったせいで後回しになってしまったのではないかと理沙は心配していたけれど、この辺りには一般人はあまり住んでいないそうだ。
北の森のそれなりに近くで人が住んでいるところは、クインスから王都に続く道の周辺にあり、そこはこの国に来て最初に王都に向かいながら浄化した。ジェン君が浄化の予定を立ててくれた時点で考慮していてくれていたので、人が多く危険度も高いところはすでに浄化済みなのだ。
今向かっているところには、騎士や冒険者、砦の管理維持のための人しかいない。
森のすぐそば、高い塀に被われた砦に着くと、重そうな音をたてて門が開いた。いざというときに立てこもれるように、扉も分厚い。
馬車が入るとすぐに門が閉じられたが、門の周りでたくさんの騎士が警戒している。
この門を突破されると、砦の中の安全がなくなってしまう。ここは最前線なのだ。
理沙が馬車から降りると周りから拍手と歓声が上がる。
「聖女様ー!」「お待ちしてましたー!」という呼びかけに、理沙が驚いている。街で歓迎されることはあってもここまで熱烈でもないし、野太い声ばかりじゃない。
ちょっと引きつった笑顔で理沙が手を振ると、さらに歓声が大きくなる。
実際に魔物を相手にしている彼らには、理沙は救世主なんだろう。
建物に入り、カーラちゃんに案内されたのは、ビジネスホテルのツインより少し狭いくらいの部屋だ。狭いベッドが2つある。
「今後は頻繁に街へ戻るのと、砦でゆっくり時間をとるのと、どちらがよろしいですか?」
「砦にいて危険はないの?」
「危険はありませんが、快適さもありません」
人が多いところの危険度が下がったので、騎士は北の森の周辺に集められている。
この付近は5日ほど前に理沙が浄化し、その後に集中的に討伐したので、魔物は激減している。
ここを拠点に北の森の浄化を進めていくが、快適さを求めてここに泊まる日数を減らして頻繁に街に帰るか、移動距離を減らしてここに泊るか、どちらが理沙にとって負担が少ないのか。
「私は移動が少ないほうがいいです。お母さんは?」
「ここでの暮らしはどんな感じになるのかしら?」
「食事は騎士たちと同じものをお出しします。入浴設備はありませんが、お身体をお拭きいただけるようお湯を用意いたします」
「それなら移動するより楽そうね」
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