巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

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6章 ベイロール編

8. 聞き取り調査

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 ベイロールからトルゴードに戻って、いろいろなことが変わった。

 まず、理沙と私の部屋が別々になった。
 私は理沙の許可なく理沙の部屋には入らないことに決めている。
 祐也の部屋に勝手に入って掃除をして怒られていたけど、理沙もいずれは私に隠したいことができるだろう。
 私の部屋にはいつでも入っていいと言ってあるので、何か話したいことがあると、理沙が部屋に来ることが多い。

 それから、理沙が貴族の女の子たちとお茶会をするようになった。友達を作ろう作戦だ。
 今理沙が仲が良いと言える若い子はターシャちゃんだけだ。
 けれどターシャちゃんは前世の記憶と合わせると私と同年代になってしまうので、若い子と言っていいのかちょっと分からない。
 それにターシャちゃんは私とも仲が良いので、私とは関わりのないところでの交友関係には入らない。
 理沙の世界を広げるという意味では、私が会ったことのない、私に話が伝わる可能性のない友人も必要だろう。

 理沙は聖女という身分に関係のない友達が欲しいようだけど、それはこの身分社会では難しいかもしれない。
 かといって何もしなければこのまま友達もできないので、多少のことには目を瞑って友人を作ることにしたそうだ。
 その決定に私は関わっていない。

「友達を作りたいからお茶会をしたいんだけどどう思う?」
「いいと思うよ」

 それがその時に交わした言葉だ。

 ちなみに理沙の推しグループを作る作戦は既に頓挫しそうになっている。
 ベイロールでの出来事がトルゴードの貴族にも伝わっているようで、ターシャちゃんのもとには帰国と同時に売り込みが殺到しているらしい。
 現状理沙に一番近いのがターシャちゃんだから、あわよくば理沙の恋人になりたい人たちが、お見合い候補にいかがですかと公爵家を通して売り込んでくるそうだ。
 その中からマー君王子に似た人を理沙に紹介すると、ありもしない希望を与えることになるし、それで勘違いをして理沙に迫られても困る。
 そのため推しグループ作戦は、メンバー集めの前に企画が凍結されてしまった。
 多分このままなかったことになるのだろう。

 ターシャちゃんもここまでの反応があると思っていなかったらしい。
 理沙はこの国の貴族と全く関わろうとしてこなかったから無理なんだろうと諦めていたところに、ベイロールでの話が伝わってこれはもしかしたらもしかするのではと、理沙と釣り合う年齢で独身の子どもがいる貴族は皆浮足立った。

「なんだか周りの視線がちょっと煩わしい」
「そういう時は下を向いて悲しそうにしていれば、勝手に解釈してくれるはずよ」

 理沙が周りのその期待にすごく戸惑っていたので、アドバイスしておいた。
 実際、気丈にしてはいるけど、時々悲しそうな顔をしている。
 それが失った恋への感傷なのか、自分の立場へのやるせなさなのか、どういう感情なのかは分からないけど、辛い思いをしたのは確かだ。


 理沙と離れた私は何をしているかというと、日本についての聞き取り調査に付き合っている。
 昼間は文字の練習をするかロニアと話すくらいしかやることがないので、何かお城で手伝えることはないかと聞いたら、それならば日本の話を聞きたいと言われたのだ。
 職業体験のときに、調薬も演奏も経験があることに驚かれたけれど、そのことを知った偉い人から機会があれば日本について知りたいという要望が来ていたらしい。
 ターシャちゃんも知っていることではあるけど、ターシャちゃんはターシャちゃんで忙しくて時間が取れない。
 それで今回私のところに話が来た。

「人が生まれてから死ぬまでを順に聞いていきたいと思います。まず、子どもはどのようにして生まれるのでしょうか」
「十月十日女性のお腹の中で育って、生まれてきます」
「産むのは家ですか?」
「産院です」
「産院とは?」

 こんな感じで質問に答える形で話しているんだけど、そもそも病院とは何かとか、何科があるのかとか、脱線するから全く進まない。
 ターシャちゃんなら多分もっと系統立てて説明できるんでしょうけど、私の話もあちこち飛ぶし、聞くほうもその都度分からないことで止めるから、何の話をしていたのか分からなくなるほどだ。
 初日の聞き取り調査は、戸籍の話になったところで終わった。
 この先どれくらいかかるのか、想像もつかない。

 けれど何かしらこの国に貢献できていると思うと気分が軽くなる。
 私の話がどれくらい役に立つかは分からないけど、それでも何もしていない時とは心持がかなり違う。
 私自身が何もしていない現状にかなり焦っていて、それを感じたターシャちゃんが職業体験を手配してくれたりして、それが余計に理沙を追い詰めてしまったことに気づいた。
 聞き取り調査は当分続きそうだけど、同じことを繰り返さないように、これが終わる前に次の仕事のめどを立てておこう。


「理沙、今日のお茶会はどうだった?」
「うーん、今日は仲の悪い人たちが参加していて、お互いバチバチしてた」

 対立する派閥の子たちかしらね。
 裏で陰険なことをしているよりはマシだけど、見ているほうは気まずいし、あまり見たいものじゃない。
 それに聖女様の前でそんなところを見せるのは賢明とは思えないわ。

「巻き込まれないように気を付けてね」
「うん。お母さんは?」
「やっと幼稚園に入園したわ」
「入園おめでとう」

 あはは、ありがとう。祐也の入園式を思い出すわね。
 先はまだまだ長いし、そろそろクインスに向けて出発するから中断するし、成人するのはいつになることやら。
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