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3章 トルゴード編
9. お披露目パーティー
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お城の大広間には、多くの人がいる。前回、クインスで行った時よりも多くの人だ。
色とりどりのドレスがとても華やかだ。
「隣国ローズモス王国の王太子殿下ご夫妻と、国王側妃です」
「あの人がターシャちゃんのお姉さん?」
「はい」
「わあ、すっごい美人」
前回と違い、今回は順番に周りの国の王族が理沙への挨拶に来ている。会話は横にいるこの国の王様と王妃様がしてくれるので、理沙とは本当に挨拶の一言だけだけど。
近寄ってくる一団がどこの国の人かは、ターシャちゃんが後ろから教えてくれる。
「ナスターシャ、素敵なドレスね」
「レリチア様、ありがとうございます。聖女様が選んでくださいました、聖女様の御国の衣装を模したドレスです」
王様たちとの話が切れたところで、ターシャちゃんのお姉さんがターシャちゃんに話しかけた。
それを聞いて、ローズモスの人たちがドレスを口々に褒めてくれる。こういう場では褒めるのがマナーらしいので、事前にターシャちゃんが教えてくれた通り笑顔で頷いている。
挨拶以外で理沙に直接話しかけないようにとお達しが出ているそうで、それで妹であるターシャちゃんのドレスから遠回しに理沙のドレスを褒めたらしい。外交って難しすぎる。
こういうところでは長話はしないものだそうで、簡単なやり取りだけで、次の国の人に変わった。理沙と話したい人を全員受け付けたらキリがないので、今回挨拶に来るのは他国の代表だけと決まっている。
さらに、挨拶の順番が、国の重要度の順番らしい。つまりローズモス王国が一番重要なのだ。
ターシャちゃんが国の場所とか特徴とか、魔物の多さとかいろいろ後ろで教えてくれているけど、よくそんなにたくさんの情報が覚えられるなと感心する。ターシャちゃんの頭の中には知識がぎっしりと詰まっていそうだ。
他国に浄化に行く必要があるなら早く終わらせたいという理沙の希望から、浄化に来てほしい国にはこのパーティーまでに要望を出すように言ってある。その要望から、トルゴードが順当だと思うものだけが私たちのところに伝えられた。浄化はほとんど必要ないのに、国に来てほしいがためだけに、浄化に来てくださいという国もあるらしい。
本来ならクインス王国が聖女の代理となって各国との交渉をするはずだったのところを、トルゴードが行ってくれている。でもそれに合わせてトルゴードも美味しい思いができるそうなので、面倒をかけていることは気にしなくていいらしい。
そして、最後の国の挨拶になった。会場中がこちらに注目しているのが分かる。
「聖女様、お久しぶりでございます。こちらがこの度王太子となりましたフィルス殿下です」
「初めまして、理沙です。レイさん、お久しぶりです。護衛ですか?」
「今日は父である宰相の代理です」
「え?レイ君って宰相のお子さんだったの?」
「いえ、宰相も変わりましたので」
騎士服じゃないと思ったら、宰相代理だった。イケメンレイ君が貴族の格好をしていると、レイ君が王太子と言われても信じちゃうくらいには王子様だ。
王太子が変わるのと一緒に宰相も変わったらしい。国内がバタバタしていて国王も宰相も来ることが出来ないので、レイ君が来たそうだ。
王太子は見覚えのない中学生くらいの若い子だ。クインスでのお披露目パーティーでは会ったかもしれないけど覚えていない。理沙も覚えがなさそうだ。
事前にクインスの人たちが来ていることは聞いていたし、パーティーに入れてもいいのかと理沙に確認があった。
理沙はあの元王太子が来ていないならいいと許可を出したので、こうして挨拶にも来ているけど、これ以上ない人選だろう。しかも、一団の後ろにローズがいる。ここでは話せないだろうけど、後で話をしたい。
と思ったら、理沙がローズに向けて小さく手を振った。それを受けて、ローズが頭を下げる。
「聖女様、お知合いですか?」
「ずっと私の身の回りのことをしてくれた人です。後で話せますか?」
「もちろんですよ」
なんだか周りが少し困惑しているのが分かる。王妃様も思わぬ事態に誰なのかと聞いてきたようだ。
理沙がクインスを出ることになった経緯は噂として広まってしまっている。それなのに、レイ君と親しげに話したり、ローズに手を振ったり、意外と仲が良さそうなので、噂が真実なのか迷っているのだ。
理沙はあの後男の人が近寄るのを怖がったので、男の人には距離を取ってもらっている。おそらくあの後一番理沙に近寄ったのはジェン君だ。
今も、王様と理沙の間には王妃様がいてくれるし、お客さんは十分に離れている。
本人はもう平気だとは言っているけど、試す機会もないので平気かどうかは分からない。
ただ、トルゴードに落ち着いてから、一度理沙が言ったことがある。クインスの浄化を中途半端にして逃げ出してきてしまったから、あの国の人が困っているんじゃないか、と。
国と、そこに住む人たちは、理沙の中では別なのだ。そしてレイ君やローズ、ミュラのように、助けてくれた人たちへの印象は悪くない。だからこそ、途中で逃げ出したことが引っかかっているのだ。
きっと理沙はクインスに浄化に行くだろう。甘いと言われるかもしれないけど、きっとクインスの人たちを見捨てられない。
その時は、誰が何と言おうと、そんな理沙の優しさを誇りに思うと伝えてあげよう。
色とりどりのドレスがとても華やかだ。
「隣国ローズモス王国の王太子殿下ご夫妻と、国王側妃です」
「あの人がターシャちゃんのお姉さん?」
「はい」
「わあ、すっごい美人」
前回と違い、今回は順番に周りの国の王族が理沙への挨拶に来ている。会話は横にいるこの国の王様と王妃様がしてくれるので、理沙とは本当に挨拶の一言だけだけど。
近寄ってくる一団がどこの国の人かは、ターシャちゃんが後ろから教えてくれる。
「ナスターシャ、素敵なドレスね」
「レリチア様、ありがとうございます。聖女様が選んでくださいました、聖女様の御国の衣装を模したドレスです」
王様たちとの話が切れたところで、ターシャちゃんのお姉さんがターシャちゃんに話しかけた。
それを聞いて、ローズモスの人たちがドレスを口々に褒めてくれる。こういう場では褒めるのがマナーらしいので、事前にターシャちゃんが教えてくれた通り笑顔で頷いている。
挨拶以外で理沙に直接話しかけないようにとお達しが出ているそうで、それで妹であるターシャちゃんのドレスから遠回しに理沙のドレスを褒めたらしい。外交って難しすぎる。
こういうところでは長話はしないものだそうで、簡単なやり取りだけで、次の国の人に変わった。理沙と話したい人を全員受け付けたらキリがないので、今回挨拶に来るのは他国の代表だけと決まっている。
さらに、挨拶の順番が、国の重要度の順番らしい。つまりローズモス王国が一番重要なのだ。
ターシャちゃんが国の場所とか特徴とか、魔物の多さとかいろいろ後ろで教えてくれているけど、よくそんなにたくさんの情報が覚えられるなと感心する。ターシャちゃんの頭の中には知識がぎっしりと詰まっていそうだ。
他国に浄化に行く必要があるなら早く終わらせたいという理沙の希望から、浄化に来てほしい国にはこのパーティーまでに要望を出すように言ってある。その要望から、トルゴードが順当だと思うものだけが私たちのところに伝えられた。浄化はほとんど必要ないのに、国に来てほしいがためだけに、浄化に来てくださいという国もあるらしい。
本来ならクインス王国が聖女の代理となって各国との交渉をするはずだったのところを、トルゴードが行ってくれている。でもそれに合わせてトルゴードも美味しい思いができるそうなので、面倒をかけていることは気にしなくていいらしい。
そして、最後の国の挨拶になった。会場中がこちらに注目しているのが分かる。
「聖女様、お久しぶりでございます。こちらがこの度王太子となりましたフィルス殿下です」
「初めまして、理沙です。レイさん、お久しぶりです。護衛ですか?」
「今日は父である宰相の代理です」
「え?レイ君って宰相のお子さんだったの?」
「いえ、宰相も変わりましたので」
騎士服じゃないと思ったら、宰相代理だった。イケメンレイ君が貴族の格好をしていると、レイ君が王太子と言われても信じちゃうくらいには王子様だ。
王太子が変わるのと一緒に宰相も変わったらしい。国内がバタバタしていて国王も宰相も来ることが出来ないので、レイ君が来たそうだ。
王太子は見覚えのない中学生くらいの若い子だ。クインスでのお披露目パーティーでは会ったかもしれないけど覚えていない。理沙も覚えがなさそうだ。
事前にクインスの人たちが来ていることは聞いていたし、パーティーに入れてもいいのかと理沙に確認があった。
理沙はあの元王太子が来ていないならいいと許可を出したので、こうして挨拶にも来ているけど、これ以上ない人選だろう。しかも、一団の後ろにローズがいる。ここでは話せないだろうけど、後で話をしたい。
と思ったら、理沙がローズに向けて小さく手を振った。それを受けて、ローズが頭を下げる。
「聖女様、お知合いですか?」
「ずっと私の身の回りのことをしてくれた人です。後で話せますか?」
「もちろんですよ」
なんだか周りが少し困惑しているのが分かる。王妃様も思わぬ事態に誰なのかと聞いてきたようだ。
理沙がクインスを出ることになった経緯は噂として広まってしまっている。それなのに、レイ君と親しげに話したり、ローズに手を振ったり、意外と仲が良さそうなので、噂が真実なのか迷っているのだ。
理沙はあの後男の人が近寄るのを怖がったので、男の人には距離を取ってもらっている。おそらくあの後一番理沙に近寄ったのはジェン君だ。
今も、王様と理沙の間には王妃様がいてくれるし、お客さんは十分に離れている。
本人はもう平気だとは言っているけど、試す機会もないので平気かどうかは分からない。
ただ、トルゴードに落ち着いてから、一度理沙が言ったことがある。クインスの浄化を中途半端にして逃げ出してきてしまったから、あの国の人が困っているんじゃないか、と。
国と、そこに住む人たちは、理沙の中では別なのだ。そしてレイ君やローズ、ミュラのように、助けてくれた人たちへの印象は悪くない。だからこそ、途中で逃げ出したことが引っかかっているのだ。
きっと理沙はクインスに浄化に行くだろう。甘いと言われるかもしれないけど、きっとクインスの人たちを見捨てられない。
その時は、誰が何と言おうと、そんな理沙の優しさを誇りに思うと伝えてあげよう。
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