巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

文字の大きさ
30 / 89
3章 トルゴード編

2. 今後の方針

しおりを挟む
 トルゴードに入って最初の宿泊は、そこの領主のお屋敷だった。
 理沙がパーティーが面倒だと言う話をしたのを伝えてくれたのか、領主は一言歓迎の挨拶をしただけでいなくなった。
 ここまでの移動で疲れているだろうからと、明日は1日ここで休みにしてくれる。

 理沙はやはりクインス王国を出るまでは緊張していたのか、ベッドに入るとすぐに眠ってしまった。
 ターシャちゃんに会えたのも、気が抜けた理由かもしれない。
 この世界に理解者がいる。それがこんなにも心強いことだとは思わなかった。

「ターシャさんと少し話したいんだけど、今からお部屋に伺うのは非常識かしら」
「お待ちください」

 そう言って女性騎士の一人が部屋を出て行ったと思ったら、ターシャちゃんが部屋に来てくれた。
 トルゴードが理沙の護衛につけてくれているのは、ちゃんとした女性騎士だ。そういうところにも、トルゴードの本気が見て取れる。

「ちょっとだけお話できるかしら?」
「理沙さんは」
「ぐっすりよ」

 理沙のために、理沙がいないところで話しておきたいことがある。でもその前に。

「ありがとうございました。貴女が宿に来て、何かあったら頼ってくれていいと言ってくれたから、こうしてこの国に来ることが出来たわ」
「私は、何故日本の記憶を持っているんだろうとずっと考えていました。もしかして、理沙さんのためにこの世界に生まれたのかもしれません」
「え?」
「とても不思議な縁で祖国から離れたトルゴードに来たのですが、そう思うと辻褄が合います。まあ正解はだれにも分かりませんが」

 聖女と乳母が黒目黒髪だと聞いてから、理由もなく、どうしても会いに行かなければならないと感じたそうだ。
 公爵家の若奥様が旅行など、いくら女性が活躍するこの国でもやはり普通ではないらしい。実は見えないところに護衛がたくさんいたそうだが、無事に帰れて本当によかった。

「旦那さんは日本のこと知っているの?」
「言っていません。ただでさえ変わり者と思われていますし、言っても信じてもらえると思えません」
「でも夫婦で隠し事をすると後が大変よ?」
「経験者の言葉には重みがありますね」

 ターシャちゃんは前世では結婚していなかったようだし、あまり男性にいい思い出がないのかしら。あの騎士様は、優しそうな方に見えたけど。

「理沙は、私を巻き込んでしまったことをとても後悔しているの。だから、私は私で何か生計を立てて行けるようになりたいの。私の歳でもできる仕事ってあるかしら?」
「私もトルゴードにはまだそこまで詳しくありませんので、義母に相談してみます。何もなければ、私の家で働いてください」
「ありがとう」

 とりあえず私の仕事は何とかなりそうで良かった。
 プライバシーのことを言ったからか、女性騎士は私たちから離れた部屋の隅にいてくれる。
 こういう気遣いを見せられると、トルゴードは信用しても大丈夫そうな気がしてくる。信用と言うのは本当に小さなことの積み重ねなのだな。


 私もぐっすり眠って、すっきりとした朝を迎えた。
 ゆっくりと朝食をいただいて、理沙とぼーっと庭を眺めていたら、ターシャちゃんが旦那さんと一緒に訪ねてきた。

「おはようございます。聖女様。改めましてトルゴード国内の魔物の討伐を担当する第二騎士団団長のジェンシャン・ウィロウです。マサコ殿は、どうお呼びすればいいでしょうか」
「マサコでも、マーサでも、お好きな呼び方で。冒険者にはマーちゃんと呼ばれていたわ」
「聖女様のお母様として振る舞われる場ではマサコ様、街ではマーサと使い分けられたほうがいいと思います」

 ターシャちゃんが提案してくれた通りに使い分けたほうが、トラブルも少ないだろう。理沙も、聖女様とリーザだ。

「何かご不便なことや、ご希望はございますか?」
「今回クインスの出国に関わった人たちが罰せられないようにしたいんだけど、何かできるかしら」
「でしたら、トルゴードから聖女様の感謝のお言葉を送りましょう。そうすればクインス王国も無下にはできません。王都に帰り次第手配します」

 ターシャちゃんの旦那様のジェン君は仕事ができる人らしい。

「それなんですが、ここは魔物が出る森の討伐の拠点になる街だと聞きました」
「そうですね」
「だったら、今浄化しちゃったらダメですか?」

 私たちは今王都に向かっているけれど、いずれ浄化のためにまたこの街に来る。だったら、浄化を済ませて王都に行くほうが効率が良いのだから、先にやりたいと理沙が言っている。

「理沙、先にこの国と条件の交渉をしてからのほうがいいんじゃない?」
「でも、何度も行き来するのは面倒だし、馬車は揺れるから」

 理沙の話をよくよく聞くと、クインスでは、慣れてからは近くの街を一度に周って済ませたいと言ったにもかかわらず、体調に考慮してとか行く先の都合とかで、一つの街だけで王都に帰ることが多かったらしい。
 馬車の乗り心地が良くないので、どうせなら近くの街はまとめて行きたいと、ジェン君に訴えている。

「それはおそらく、浄化の期間を引き延ばすためでしょう」
「浄化が終わったら自由にしていいと約束をしていたからね。ちゃんと期限を切っておくべきだったわ。理沙、ごめんね」

 トルゴードではそういうことがないように交渉の条件に入れようと、理沙がメモを取っている。
 本当に今回は自分で交渉するつもりのようで、馬車の中でターシャちゃんと話したことも、昨日寝る前にメモしていた。
 お母さんとしては、理沙の成長が嬉しいような、寂しいような。もうちょっと頼ってくれてもいいんだけど。

 ところで、感謝状を書こうとして発覚したのだけど、私たちはこの世界の文字が書けなかった。
 自動的に翻訳されているから読めるけれど書けない。しゃべれるのに何で書けないの。
 筆写の仕事ができるかと考えたこともあったけど、無理だった。今から新しい言語を覚えるなんて無理なお年頃なのだ。残念過ぎるわ。
しおりを挟む
感想 93

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

処理中です...