巻き込まれたおばちゃん、召喚聖女ちゃんのお母さんになる

戌葉

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2章 城下編

4. 魔物

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 理沙が王城にいる間は私も王城に泊まって、前のように、いや、前よりも仲良く親子として過ごし、そして次の浄化の旅に出る理沙を見送った。

 今回の宿は、レイ君に頼んでちょっとランクを落としてもらった。本当は冒険者の泊まる宿に泊まってみたかったのだが、さすがに警備の関係で許可が出なかった。

 ここは主に商人とか裕福な庶民が泊まる宿のようだが、トイレはぼっとんだった。懐かしのぼっとん。理沙だけでなく祐也も見たことがないかもしれない。私の年代でも都会の人は知らないだろう。
 そんな宿に泊まり、午前中は日課となっている薬草採取に行き、午後は仲良くなった市場の奥様方と井戸端会議に花を咲かせる日々を過ごしていたある日、レイ君から明日は警備を外れると言われた。

「すみません、明日は家に戻らないといけないので、マサコさんの警備は他の者に任せます。明日の朝紹介します」
「分かったわ。お仕事頑張ってね」

 私に関する報告なら、私が王城に滞在している間にしていただろうから、貴族的な仕事か何かがあるのだろう。
 翌朝紹介されたのはパーム君という、レイ君よりも少し若い騎士だった。

「マーちゃん、今日は護衛が違うのか」
「レイ君は用事があるって。パーム君よ」

 パーム君は冒険者に話しかけられても返事をしないでお高くとまっている。レイ君がいなくなってから私に対しても高圧的だし、おそらく庶民をバカにしているのだろう。レイ君、残念ながら人選ミスね。
 でも割り切って仕事はちゃんとするだろうと思ったら、そんなこともなかった。相手によって態度を変えると、仕事上の信用を失うということを知らないのだろうな。若いな。

「おばさん、ここから離れないなら護衛はいらないよな」
「レイ君はいつも護衛してくれていたけど」
「ふん。ここなら危険なんかないだろ。昼には帰ってくる」

 そう言って森の奥のほうへと歩いて行った。

 仕方がないのでいつもより少し警戒しながらも薬草を採取する。
 今まで一度も魔物に会ったことがないので大丈夫だろうと油断していたのは、私もだ。
 そういうのをフラグと言うのだと、後日理沙に教えられた。

 近くで音がしたので、パーム君が帰ってきたのだろうと思ってそちらを見たら、そこにいたのは野犬だった。
 野犬といっても、なんだか凶暴そうで、禍々しく目が赤色に光っている。これが魔物なのだと、見たことがないのに分かった。
 恐ろしさに身動きができない。身を守るものは何もない。

「ぐるるぅぅ」
「誰か!誰か助けて!」

 助けを呼ぶが、パーム君がどこにいるかも分からない。
 ダメだ、こんなところで死んだら、理沙がひとりになってしまう。誰か助けて。

「そのまま動くな!」

 遠くから誰かが走ってくる音がするが、目の前の魔物から目を離したら飛び掛かられそうで、目をそらせなかった。

「ギャウッ!」

 気づくと、野犬に矢が刺さっていた。そして走りこんできた冒険者が刀でバッサリと魔物を切った。
 どこか現実味のない世界を見ながら、魔物の血も赤いのかと思ったところで我に返り、冒険者が私に声をかけていることに気付いた。

「マーちゃん、大丈夫か?!」
「あ、うん。助けてくれてありがとう」
「いつもの護衛はどうした」
「今日は別の人なんだけど」

 足が震えて立てない私の手を取って立たせて、血生臭いここから少し離れたところへと誘導された。
 仲間の冒険者が魔物を燃やしている。そうしないと、魔物がまた発生する原因になるらしい。

 だから武器は必要だと言っただろ、と言われるが、初心者でも倒せるあの魔物でも、正直あの時反撃できたとは思えない。身を守るためであっても、そもそも攻撃するということが選択肢にない、そんな世界に生きてきたのだ。
 ここは異世界なのだと否応なく突き付けられた。私の認識が甘かった。

 昼の馬車が来るまで、彼らが一緒にいてくれた。
 馬車が来る直前に戻ってきたパーム君に対して、助けてくれた冒険者が文句を言ってくれているが、パーム君は怪我がなかったんだからいいだろうと鬱陶しそうにするだけだった。
 私が報告して、自分の仕事の評価が下がるとは思わないのだろうかと考えて、気付いた。私の言うことを誰も真剣に受け止めないと思っているのだ。王城の中での私への認識がそうなんだろう。

 王城を出ると言った時に、宰相がホッとしていたことには気づいている。うるさく言う私がいなくなって、理沙を扱いやすくなったと思っているんだろう。
 でもあの子はそう簡単に操られたりはしない。そう思えたから理沙から離れたのだ。
 とことん舐められている。


 魔物に襲われた日の午後は、宿で大人しくしていた。さすがに出歩く気になれなかった。
 夕方、パーム君と護衛を交代したレイ君が心配してくれている。

「魔物に襲われたと聞きましたが、大丈夫ですか?」
「あーうん、怪我はなかったよ」

 魔物に襲われたことよりも、パーム君の態度のほうが大問題だと思うが、わざわざ私が教えてあげる必要もない。次に彼が護衛につくと言われたら、他の人をお願いすればいいだけだ。
 彼は今後どこかで痛い目を見るだろうけど、そんなの私の知ったことじゃない。

「明日の薬草採取はどうしますか?」
「行くよ」

 冒険者になりたいわけじゃないし、なれるとも思っていない。ただ現状、ほんのわずかであっても、私が収入を得られる手段がそれしかないのだ。
 今の生活の費用は王城から支払われている。それが理沙がこの国に協力する条件なので、一生ニートでいられる。
 でもそれは理沙の努力を搾取しているみたいで嫌なのだ。
 かといって、このままではいけない。冒険者なんていつまでも続けられないし、今日みたいなことがあって理沙をこの世界にひとり残していくわけにいかない。
 何か他の手段を早く手に入れなくては。

「ねえ、この宿と同じような宿に移ることはできる?」
「探しますので少し待ってください」

 もっとこの世界について知る必要がある。積極的に動いていこう。
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