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1章 召喚編

4. 交渉

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 食事とお風呂をいただき、理沙ちゃんと一緒にふかふかのベッドで眠った翌日、普通に目が覚めた。我ながら図太いな。
 キングサイズ相当なんだろうベッドだったので、これなら一緒に寝ても蹴ったりしないだろうということで理沙ちゃんと一緒に寝た。誰かに何か言われたら、理沙ちゃんが知らない場所でひとりだと不安で眠れないから、と説明することにしている。

「おはよう。眠れた?」
「なんとか、少しだけ」
「もしかして私のいびきで眠れなかった?」
「違いますよ」

 やっと理沙ちゃんが少しだけ笑ってくれた。

 理沙ちゃんは朝食も少ししか口にしなかったけれど、それでも少しは食べたことに安心した。私は、普通に食べている。こういう時なのにお腹がすく自分の食欲にちょっと感心してしまうが、死ななければきっと何とかなる。

 朝食後、王様と話がしたいと伝えたところ、部屋に来たのは宰相だった。彼が代表して話をするようだ。

「聞きたいことが2つ、お願いが2つあります。聞きたいことは、私たちの生活の保障についてと、聖女の仕事についてです。お願いは、まず、こちらの国や世界についての講義をお願いします。そういう本があればそちらも。それから、画家の方に描いて欲しいものがあります」

 先にどういう要求がいくつあるのかを伝えてから話すと、相手は聞いてくれやすい。これは私が営業職に就いた最初の頃に先輩から言われたことだ。

 宰相からの答えは、私たちの生活の面倒は死ぬまで国が責任を持ってみるということだった。かかる費用も全て国がもつ。聖女の仕事は、各地に行って祈るための浄化の旅に出ることらしい。ただ1か月行って帰ってくる、といった感じで、ずっと旅暮らしではないそうだ。その時には護衛に騎士団がつく。

「過去の聖女の記録を見せてください」
「それは……」
「見せられない何かがあるのですか?」
「いえ、手配します」

 見せられるけど見せたくないということは、見られると印象の悪くなることが書いてあるのだろう。
 聖女の祈りが発動したかどうかは、キラキラと輝くので見てわかるそうだ。その祈りを発動できるまでの時間は人それぞれで、記録にある3人の場合、最短で当日、次が1か月、最長で1年だった。それは召喚されて喜んだか、嘆いたかの差なんじゃないかと想像するけど、記録を見ればわかるだろう。
 聖女の祈りが命を削ることはないと言っているが、これは本当かどうかわからない。何歳まで生きたのか聞きたいが、その答えが本当かの判断もできない。だったら原本を見せてもらいたい。幸い字は読めるようだし。

 もっと渋られると思ったのにあっさり開示してくれることに内心驚いていたけど、どうやら昨日の報酬は何かという発言がかなり効いているようだ。
 泣き落としというか、感情に訴えても応じてもらえそうにないので、持てる情報を開示して協力を要請するという方針を、あの後王様と話し合って決めていた。召喚されたことに対して決していい感情を持っていないことに気付いたのだ。

 この世界や国についての講義は、明日から朝食後、昼食までの間に毎日行われることになった。7日に1回休みを取ったほうがいいかと思ったけど、目途が立つまでは休みなしで急いだほうがいいと、理沙ちゃんと相談して決めた。

「それで、画家ということですが」
「肖像画を模写してほしいのです。まずは何か作品を見せてください。それでどの方にお願いするか決めます」
「模写、ですか。分かりました。数日中にお持ちします」

 昨夜、眠れない理沙ちゃんはスマホの家族の写真を見て泣いていた。けれど、スマホはいつかバッテリーが切れてしまう。だからその前に、その写真を絵にしてもらおう。

 こちらの要求の回答が終わったところで、宰相から昨日の質問の回答があった。理沙ちゃんは何を得られるのか、という質問の答えだ。

 一生の生活を保障する。
 浄化が終わった後は好きなことをしていい。
 望むなら王族との結婚も可能。

 最後の答えで評価がマイナスになった。

「王族との婚姻は、そちらにしかメリットがないと思いますが?我々の一番の要求は、元居たところに帰ることです。それが叶わない願いであるというのに、出てきた答えがそれですか。再検討をお願いします」
「申し訳ございません」

 この世界なら、王族との婚姻は憧れなのだろうけど、私たちは身分制度のない世界で育っているのだ。
 最初からこの回答を受け入れるかは保留にするつもりだったけど、ちょうどいいマイナスポイントが出てきたので、突き返させてもらおう。過去の聖女たちの記録を読んでから判断したい。

 最後に宰相から侍女を紹介された。昨日から食事を持って来てくれている人だ。

「聖女様の身の回りのお世話を担当するものの責任者のローズです。何かありましたら彼女にお知らせください」
「彼女の権限は?」
「権限と申しますと?」
「例えば王族の方がお嬢様に会わせろと乗り込んでいらしたときに、彼女にはそれを断る権限があるのですか?」

 身分社会がよく分からないけど、庶務課の平社員には、取締役が乗り込んできたときに止める権限はない。理沙ちゃんが嫌がっているのに、相手が王族だからと味方されるなら、最初からいないほうがいい。

「……、聖女様の周りのものには、聖女様の命令が最上位であることを改めて周知します」
「私の言葉はお嬢様の言葉だということも、徹底してください」
「分かりました」

 別に無理を言うつもりはないが、不服を訴えなければ了承したと取られても困る。なんとなく中世ヨーロッパっぽいから、日本のように察する文化ではないと思って進めているけど、要求が多すぎると煙たがられるのは望みじゃない。まだ2日目では判断が難しい。

「政子さん、すごかったです」
「最初に舐められると、あれこれ要求されそうでしょう。でも条件によっては協力する気はあるのだというのも見せないとだし。上手くいっているといいんだけど」

 仕事よりも気を使った。仕事は、まあ正直失敗しても死にはしないが、ここは下手をすると命が危ない。
 めんどくさい聖女だから始末して次を呼ぼう、などと思われないように匙加減が難しい。やりすぎていないといいのだけど。
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