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3年目 スフラル編
【閑話】スフラル王国王都アーグワの冒険者 1
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俺はスフラル王国の王都アーグワで活動する冒険者、ガレンだ。
アーグワは水の都と呼ばれていて、湖を中心に発展したとてもきれいな街だ。湖の奥にある山は、薬草や植物の宝庫だ。
湖には魔物がいない。山にも奥に行かなければ強い魔物はいないので、山のヌシが魔物を狩っているといううわさがある。山のヌシの姿はよく分かっていない。魔物なのか動物なのか、あるいは神の使いなのか、正体は分かっていない。それでも、初心者が助けられたという話があるので、いるかいないか分からない山のヌシに、冒険者はみななんとなく敬意を払っている。
二年前、珍しい冒険者がアーグワに来た。銀色の髪、紫の瞳で氷の上級魔法が使える男と、その使役獣の銀色の狐だ。狐がチョモを気に入って食べたいからとこの国に来たらしい。
冒険者ギルドの受付リールにだまされるようにして城の水路の清掃の依頼を受けさせられていたが、実はオルデキアの元騎士で、しかも貴族だったので、後からギルド長が真っ青になりながら頭を下げたらしい。銀のは特に怒りもせず、俺たち地元の冒険者と一緒に山へ薬草採取に出かけ、屋台で飲み食いして、フェゴヘと旅を続けていった。
その銀のと狐の銀色コンビが二年ぶりにアーグワに現れた。
商会の護衛でフェゴに行った帰りにアーグワの街が見渡せる峠に通りかかったときだった。
「止まれ! 峠に馬車が止めてある」
「あんなところで何をしているんだ? この先に魔物がいるのか?」
「探ってくるから、ここで警戒していろ。ダーゴ、一緒に来てくれ」
こんなところに馬車を止める理由が分からない。魔物に襲われたのか、ここを通る馬車を襲う気なのか、とにかく普通ではない。
警戒しながら近づくと、そこにいたのは二年ぶりに見る銀色コンビだった。お前ら、何でこんなところにテント張ってんだよ。紛らわしい。ここは野営地じゃないし、こんな崖のそばで魔物に襲われたら危ないだろう。相変わらず常識の通じないやつらだ。
「銀の。久しぶりだな」
「狐、チョモを食べにきたのか?」
『キャン!』
狐がうれしそうに近寄ってきた。おーよしよし、二年たってもきれいな毛並みだな。きっと旅の間はずっと、いいもの食わせてもらってんだろうな。うらやましいぜ。
銀たちがこんなところにテントを張ってる理由は、アーグワの景色を見るためだった。前回来たときに見た夕日に照らされる街をもう一度見たいからと、ここで粘っているらしい。物好きだな。貴族の考えることは分からん。
「この後王都なら、また一緒に山に行こうぜ」
「ああ。明日には王都へ向かうつもりだ。その後行こう」
前回一緒に山に行ったが、狐が鼻で貴重な薬草を探してくれるので、買取価格もすごく良かったうえに、薬師ギルドからも感謝された。せっかく狐がきたんだから、もう一度貴重な薬草を手に入れたい。
ギルドで待ち合わせてもいいが、どうせ狐は屋台でチョモを食べまくるんだろうから、屋台広場での待ち合わせを約束して、商会の馬車へと戻った。
峠を下れば、街はすぐだ。
王都へ入る門は混んでいるが、いつものことだ。周りの護衛たちと情報交換をしながら列が進むのを待つ。峠を通ってきたやつらの間では、やっぱり銀のことが話題になっていた。
「なあ、峠のところに変なやついなかったか?」
「あー、あれな。知り合いの冒険者だ。ちょっと変わってるんだ」
「あんなところで何やってたんだよ」
「景色を見ているらしい」
「確かに景色はきれいだけど、テント張って見るほどか?」
俺たちにとっては見慣れた景色だが、オルデキアでは珍しいのかもしれないし、ただの貴族の酔狂かもしれない。あいつらに常識を当てはめてはいけない、というのは前回学んだ。
旅をしているという割には、旅に慣れている感じがしないし、元騎士らしいが合同で依頼を受けるときのルールも知らない。とてつもなく膨大な魔力を持っていそうだが、それを隠そうともしない。浮世離れしていて簡単にだませそうだ。そしてだまされたことにも気づかなさそうだし、だまされても気にしなさそうだ。多分、金に困ったこともないんだろう。
実際、ギルドの受付にいいように丸め込まれて城の掃除の依頼を受けさせられていたが、本人は気にしていなかった。あの受付リールは、他国の元騎士を身元も確かめずに王城にいれたということでクビになったが、もともと評判のよくないやつだったから誰もかばわず、辞めた後はこの街を出ていったということしか知らない。自分の出世のために他人を利用すると、いつかしっぺ返しが来る。地元の人間にはいい顔をして見せても、そんなやつは信用できない。冒険者なんて何よりも信用が大切なんだ。いざというときに命を預けられない相手を助けるわけがないだろう。
あの水路掃除の依頼は、報酬はよくないが、安全に確実に稼げる初心者やけが人救済のための依頼だ。だからベテランは基本的に受けないが、あのときは手が足りないのでヘルプ要請が出ていた。中堅どころはあの依頼を受けるくらいなら山に薬草を探しに行ってしまうから、俺たちベテランが恩返しのつもりで受けた。そこに銀のも押し込まれたのだ。まああの依頼のおかげで銀のと知り合えたから、あれは受けて正解だったがな。
翌日の朝、護衛依頼の完了報告にギルドへ行くと、前回銀色コンビと一緒に山に行った薬草専門パーティーを見つけた。ちょうどこれから山へ行くのに薬草関連の依頼が出ていないか見にきたところだった。
「二年前の銀色の狐、覚えてるか?」
「あの薬草探しが得意な狐か?」
「ああ。来てるぞ。多分今日到着する。山に誘ったが行くか?」
「行く。絶対行く。よし、今日は中止だ」
他にもあのとき一緒に山に行ったやつらを探したが、あのとき一緒に行った六つのグループのうち、三つは今依頼を受けていた。あの指導をしてほしいと言ってきたグループも今は山の中だそうだ。街にいるやつには今夜屋台に集合と伝言を残しておこう。
ギルドで少し興奮気味に話していたから、周りの興味をひいてしまったようだ。
「俺たちも連れていってくれないか?」
「俺たちも頼む」
「悪いな。また今度な。今回は少数精鋭で行くから」
前回銀色コンビとの薬草採取の後は、ちょっとした騒動になった。貴重な薬草をたくさん採ってきたから、納品した薬師ギルドが喜んだだけでなく、王宮の薬師まで出張ってきたのだ。それで追加の依頼も入って、ちょっとした薬草祭りが始まったが、狐の鼻がなければあれほどの成果はあげられず、時間とともに下火になった。
その薬草祭りがふたたび始まりそうで、もうけ話に敏感なやつらが同行を頼んできたのだ。今まで知られていない薬草の場所を知ることができれば、狐がいなくなってもそれなりに稼ぐことができる。
だが今回は、できれば前回よりもさらに山の奥へ行きたいし、トラブルを起こして銀色コンビがこの国に来なくなっても困るので、メンバーは厳選したい。前回参加したうちの今いる三グループが全部捕まらなかったら、信用できるグループを追加することにしよう。
ギルドを出て、明日以降の山に備えて街の中で買い物をしていると、前回屋台で宴会をしていたときに狐を見にきた騎士に会った。ピシっとした服を着てさっそうと見回りをする騎士に、街の女たちから熱い視線が飛んでいる。
「騎士様、二年前に来た銀色の狐、覚えてるか?」
「ああ。お前はたしか、一緒にいた冒険者だな」
「そうです。あの銀色コンビが来ますよ。峠で会いました」
「……そうか。今後の予定は聞いているか?」
「今夜屋台で一緒に宴会の予定なんで、よかったらどうぞ」
あの騎士、銀のが他の国の元騎士で貴族だからか、銀色コンビを気にしていた。ギルドがだましたこともあって、オルデキアとの関係を気にしているんだろうか。でも狐を見ていたから、実は動物好きかもしれない。あの狐は人懐っこくて可愛いからな。あのふわふわの毛、今回もたくさん触らせてもらおう。
アーグワは水の都と呼ばれていて、湖を中心に発展したとてもきれいな街だ。湖の奥にある山は、薬草や植物の宝庫だ。
湖には魔物がいない。山にも奥に行かなければ強い魔物はいないので、山のヌシが魔物を狩っているといううわさがある。山のヌシの姿はよく分かっていない。魔物なのか動物なのか、あるいは神の使いなのか、正体は分かっていない。それでも、初心者が助けられたという話があるので、いるかいないか分からない山のヌシに、冒険者はみななんとなく敬意を払っている。
二年前、珍しい冒険者がアーグワに来た。銀色の髪、紫の瞳で氷の上級魔法が使える男と、その使役獣の銀色の狐だ。狐がチョモを気に入って食べたいからとこの国に来たらしい。
冒険者ギルドの受付リールにだまされるようにして城の水路の清掃の依頼を受けさせられていたが、実はオルデキアの元騎士で、しかも貴族だったので、後からギルド長が真っ青になりながら頭を下げたらしい。銀のは特に怒りもせず、俺たち地元の冒険者と一緒に山へ薬草採取に出かけ、屋台で飲み食いして、フェゴヘと旅を続けていった。
その銀のと狐の銀色コンビが二年ぶりにアーグワに現れた。
商会の護衛でフェゴに行った帰りにアーグワの街が見渡せる峠に通りかかったときだった。
「止まれ! 峠に馬車が止めてある」
「あんなところで何をしているんだ? この先に魔物がいるのか?」
「探ってくるから、ここで警戒していろ。ダーゴ、一緒に来てくれ」
こんなところに馬車を止める理由が分からない。魔物に襲われたのか、ここを通る馬車を襲う気なのか、とにかく普通ではない。
警戒しながら近づくと、そこにいたのは二年ぶりに見る銀色コンビだった。お前ら、何でこんなところにテント張ってんだよ。紛らわしい。ここは野営地じゃないし、こんな崖のそばで魔物に襲われたら危ないだろう。相変わらず常識の通じないやつらだ。
「銀の。久しぶりだな」
「狐、チョモを食べにきたのか?」
『キャン!』
狐がうれしそうに近寄ってきた。おーよしよし、二年たってもきれいな毛並みだな。きっと旅の間はずっと、いいもの食わせてもらってんだろうな。うらやましいぜ。
銀たちがこんなところにテントを張ってる理由は、アーグワの景色を見るためだった。前回来たときに見た夕日に照らされる街をもう一度見たいからと、ここで粘っているらしい。物好きだな。貴族の考えることは分からん。
「この後王都なら、また一緒に山に行こうぜ」
「ああ。明日には王都へ向かうつもりだ。その後行こう」
前回一緒に山に行ったが、狐が鼻で貴重な薬草を探してくれるので、買取価格もすごく良かったうえに、薬師ギルドからも感謝された。せっかく狐がきたんだから、もう一度貴重な薬草を手に入れたい。
ギルドで待ち合わせてもいいが、どうせ狐は屋台でチョモを食べまくるんだろうから、屋台広場での待ち合わせを約束して、商会の馬車へと戻った。
峠を下れば、街はすぐだ。
王都へ入る門は混んでいるが、いつものことだ。周りの護衛たちと情報交換をしながら列が進むのを待つ。峠を通ってきたやつらの間では、やっぱり銀のことが話題になっていた。
「なあ、峠のところに変なやついなかったか?」
「あー、あれな。知り合いの冒険者だ。ちょっと変わってるんだ」
「あんなところで何やってたんだよ」
「景色を見ているらしい」
「確かに景色はきれいだけど、テント張って見るほどか?」
俺たちにとっては見慣れた景色だが、オルデキアでは珍しいのかもしれないし、ただの貴族の酔狂かもしれない。あいつらに常識を当てはめてはいけない、というのは前回学んだ。
旅をしているという割には、旅に慣れている感じがしないし、元騎士らしいが合同で依頼を受けるときのルールも知らない。とてつもなく膨大な魔力を持っていそうだが、それを隠そうともしない。浮世離れしていて簡単にだませそうだ。そしてだまされたことにも気づかなさそうだし、だまされても気にしなさそうだ。多分、金に困ったこともないんだろう。
実際、ギルドの受付にいいように丸め込まれて城の掃除の依頼を受けさせられていたが、本人は気にしていなかった。あの受付リールは、他国の元騎士を身元も確かめずに王城にいれたということでクビになったが、もともと評判のよくないやつだったから誰もかばわず、辞めた後はこの街を出ていったということしか知らない。自分の出世のために他人を利用すると、いつかしっぺ返しが来る。地元の人間にはいい顔をして見せても、そんなやつは信用できない。冒険者なんて何よりも信用が大切なんだ。いざというときに命を預けられない相手を助けるわけがないだろう。
あの水路掃除の依頼は、報酬はよくないが、安全に確実に稼げる初心者やけが人救済のための依頼だ。だからベテランは基本的に受けないが、あのときは手が足りないのでヘルプ要請が出ていた。中堅どころはあの依頼を受けるくらいなら山に薬草を探しに行ってしまうから、俺たちベテランが恩返しのつもりで受けた。そこに銀のも押し込まれたのだ。まああの依頼のおかげで銀のと知り合えたから、あれは受けて正解だったがな。
翌日の朝、護衛依頼の完了報告にギルドへ行くと、前回銀色コンビと一緒に山に行った薬草専門パーティーを見つけた。ちょうどこれから山へ行くのに薬草関連の依頼が出ていないか見にきたところだった。
「二年前の銀色の狐、覚えてるか?」
「あの薬草探しが得意な狐か?」
「ああ。来てるぞ。多分今日到着する。山に誘ったが行くか?」
「行く。絶対行く。よし、今日は中止だ」
他にもあのとき一緒に山に行ったやつらを探したが、あのとき一緒に行った六つのグループのうち、三つは今依頼を受けていた。あの指導をしてほしいと言ってきたグループも今は山の中だそうだ。街にいるやつには今夜屋台に集合と伝言を残しておこう。
ギルドで少し興奮気味に話していたから、周りの興味をひいてしまったようだ。
「俺たちも連れていってくれないか?」
「俺たちも頼む」
「悪いな。また今度な。今回は少数精鋭で行くから」
前回銀色コンビとの薬草採取の後は、ちょっとした騒動になった。貴重な薬草をたくさん採ってきたから、納品した薬師ギルドが喜んだだけでなく、王宮の薬師まで出張ってきたのだ。それで追加の依頼も入って、ちょっとした薬草祭りが始まったが、狐の鼻がなければあれほどの成果はあげられず、時間とともに下火になった。
その薬草祭りがふたたび始まりそうで、もうけ話に敏感なやつらが同行を頼んできたのだ。今まで知られていない薬草の場所を知ることができれば、狐がいなくなってもそれなりに稼ぐことができる。
だが今回は、できれば前回よりもさらに山の奥へ行きたいし、トラブルを起こして銀色コンビがこの国に来なくなっても困るので、メンバーは厳選したい。前回参加したうちの今いる三グループが全部捕まらなかったら、信用できるグループを追加することにしよう。
ギルドを出て、明日以降の山に備えて街の中で買い物をしていると、前回屋台で宴会をしていたときに狐を見にきた騎士に会った。ピシっとした服を着てさっそうと見回りをする騎士に、街の女たちから熱い視線が飛んでいる。
「騎士様、二年前に来た銀色の狐、覚えてるか?」
「ああ。お前はたしか、一緒にいた冒険者だな」
「そうです。あの銀色コンビが来ますよ。峠で会いました」
「……そうか。今後の予定は聞いているか?」
「今夜屋台で一緒に宴会の予定なんで、よかったらどうぞ」
あの騎士、銀のが他の国の元騎士で貴族だからか、銀色コンビを気にしていた。ギルドがだましたこともあって、オルデキアとの関係を気にしているんだろうか。でも狐を見ていたから、実は動物好きかもしれない。あの狐は人懐っこくて可愛いからな。あのふわふわの毛、今回もたくさん触らせてもらおう。
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