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3年目 スフラル編

3. 再会

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 二年ぶりのアーグワ。まずは馬車とお馬さんを預けて、前回泊まった宿をとろう。
 ゴンドラのような舟で宿まで連れていってもらうこのシステム、アトラクションっぽくて好きだな。澄んだ水路をのぞき込んでいるオレに、船頭さんが笑っている。

「美味しそうな魚がいますか?」
『クーン』

 魚がいるかなと思ってのぞき込んでいるけど、食べる気はないよ。オレは魚好きだけど、魚をくわえるのはどちらかというと熊のイメージでしょう。もしかして船頭さんに、食いしん坊の狐として覚えられているんだろうか。
 その予想は当たっていたみたいで、舟で宿の玄関に乗りつけて受付に案内されたけど、オレたちはしっかり覚えられていた。やっぱり可愛いもふもふは印象に残るよね。

「お風呂付のお部屋をご希望で、そちらの使役獣には薄味でしたね」
「ああ、頼む。すぐに風呂を使いたいのだが」
「ご用意いたします」
『キャン』

 やった。すぐにお風呂に入れるぞ。
 今日の夕食は屋台で食べるし、明日から山に行くかもしれないので、一泊朝食付きでお願いした。


 二年ぶりのアーグワの屋台のために、まずはウィオに洗ってもらって、身ぎれいにした。準備は万端だ。気合を入れて洗ってもらったので、少し時間がかかってしまって、外はもう日が暮れかけている。美味しい料理のためにきちんと身支度を整えないとね。

「来た来た、こっちだぞー」
「狐、待ってたぞ」

 屋台のある広場の一角に、むさくるしい集団がいると思ったら、手を振りながらオレたちを呼んでいる。前回の最後の宴会のときくらいたくさん冒険者が集まっているぞ。

「狐、今日は大きなリボンなのか」
「宴会の正装らしい」
『キャン』

 そうだよ。前回のように家族連れに注目されることもあるだろうから、今夜は赤い大きな蝶ネクタイなのだ。「いつものほうが可愛いんじゃないか?」って言ってるやつがいるけど無視だ。これは宴会芸のための舞台衣装としてわざわざお母さんに作ってもらって、今回初お披露目なのだ。
 まずはご挨拶に軽く雪をまこう。ピュー。オレに気付いた子どもたちから歓声があがったので、そっちに向かってヒューー。ルジェくんの登場ですよ、ピューーー。

「狐、ご機嫌だな」
「チョモを楽しみにしていたからな」
「おい、野郎ども。タレなしとタレありで、全部の屋台から集めるぞ。行け!」

 ウィオの隣に座っていた冒険者の号令で、各テーブル場所取りの一人を残して、他の人たちが一気にいろんな屋台へと散っていった。何その無駄のない無駄なチームワーク。いや、美味しい食べ物のためだから無駄じゃなくて重要だけど。
 残った人たちを見るとはなしに見ていたら、なんとなく見おぼえのある人が近づいてきた。でも山に一緒に薬草取りに行った冒険者じゃない。誰だろう。

「お、狐、覚えてるのか? 騎士様にばったり会ったから誘ったぞ。二年前にここで会っただろう」
「お久しぶりです。彼らの誘いに乗ってきてしまいました」

 騎士服じゃないからピンと来なかったけど、代官から逃げた先の街で会った、あのときの騎士さんたちだ。二年前はここで大騒ぎしていたら、確認にきたね。
 峠で会った冒険者たちが街に帰ってきてすぐ、見回りをしていた騎士さんに会ったので、オレたちが来ることと屋台で落ち合うことになっていることを知らせて、ついでにダメもとで誘ったら、参加することになったらしい。
 でも、こんなところにいていいんだろうか。首をかしげているオレに、騎士さん二人が戸惑っている。

「ルジェ、どうした?」
『お休みなのに、お仕事?』
「任務が終われば、まとまった休みを取るだろう」

 オレの見守りがお仕事だったら、こうしてお休みのふりをしてオレたちを見守るのもお仕事のうちだよね。多分オレたちの動向を知っておきたい騎士さんが、冒険者の誘いにちょうどいいと思って参加したんだろう。オレたちがこの国を出るまでお休みはなしなのかな。オレが言うことじゃないけど、働きすぎに気をつけてね。

「そうか、銀のも騎士だったよな。ってことは、元騎士と現役の騎士がそろってんのか」
「よし、騎士様も一緒に薬草取りに行こうぜ!」

 いやいや、騎士が冒険者なんてしないでしょう。と思ったら、二人とも冒険者として活動していたことがあって、ギルドカードも持っているらしい。
 オレたちの意見は全く聞かれないままに、騎士さんたちも交えて薬草取りに行くことが決まってしまった。
 オレたちが来る前にすでに飲んで酔っぱらってるのか、それともこれが素なのか。オルデキアでも冒険者が現役の騎士を誘うことがあるのか聞いてみたけど、合同討伐をすることはあっても、冒険者側から誘うことはないらしい。この国では騎士がより身近なのかな。

「ルジェ、いいか?」
『うーん、まあ二人ならいいんじゃない?』

 フェゴで王子様と騎士と森に入って、トラブルというか、オレたちのために騎士を危険にさらしかねない事態を招いてしまったので、オレの正体を知る人との行動には慎重になっている。でも楽しそうな冒険者たちに水を差すのも悪いしね。
 ウィオが後で騎士さんと話してくれることになったので、参加するかどうかの判断は騎士さんに任せよう。何かがあって困るのは、オレたちじゃない。騎士さんとこの国だ。現役騎士なら、急な任務で行けなくなったっていう言い訳も使える。
 それにたとえオレの正体を知らせなければならないような状況になっても、この冒険者たちになら問題は起こらないでしょ。「まじかー、狐、偉いのかー。このチョモ食うか?」って言われて終わりそうな気がする。

 それよりも、ぞくぞくと届くチョモにオレの意識は向いている。そのちびチョモ、初めてみた気がするけど新作かな? そっちは前回オレのお気に入りだったチョモだね。いい香りがしていて、期待に胸が高鳴るよ。
 せっかくなので、オレのワクワクを雪で表してみよう。ヒュー。こっちにもピュー。手を振ってくれている子どもに向かって、ヒューーー。
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