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3年目 トゥレボル編
8. 村に寄り道
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お米料理を堪能した後、スフラルを目指して南下している。
スフラルに近くなってくると森が増えて、魔物にも会うようになった。あのお米の街がお米の街でいられるのは、水が豊富というだけでなく、あのあたりに深い森がなくて強い魔物が出ないからなんだろう。
夏が近づいてきたので、遠くから眺める森の緑がきれいだ。
『前の街の人が言っていたのはあの村かな?』
「だろうな」
トゥレボルからスフラルへと抜けるこの道を進む馬車は少ない。ここではなくて、王都から南下する道のほうが、整備されていて馬車も多く、魔物も少ないと聞いた。便利で安全な道があるなら、そちらを通るだろう。
でもオレたちには、馬車が通ることのできる道さえあれば、他のことは関係ないので気にせず進んでいる。
いきなり村を訪ねて泊めてくださいというと警戒される可能性があるけど、この国ならきっと「氷の神子様」として小屋は貸してもらえる気がする。前の街の人もそう言ってくれたし。
そろそろ日が暮れるので、今日はあの村に泊めてもらおう。
「氷の神子様、いかがなされましたか?」
「突然すまない。スフラルを目指して旅をしているんだが、今夜一晩この村で過ごしてもいいだろうか?」
村に入って最初に見つけた人に声をかけると、ちょっと待ってほしいと言い残して、村の奥へと走っていった。
実は、お米の街でたくさんお米をもらったので、今は馬車の荷台に空きスペースがあまりないのだ。今までは馬車の荷台で寝ることが多かったんだけど、外にテントを張って寝ることになる。オレが結界を張るから、安全に問題はないけど、屋根があるとうれしいよね。
しばらく待っていると、さっきの人が、おひげのおじいさんを連れて戻ってきた。
「村長のダビです。氷の神子様、ようこそおいでくださった。ぜひわしの家へお泊まりください」
「使役獣もいるので、小屋の屋根の下を貸してもらえれば十分だ」
断ったんだけど、家に泊まってくれって村長さんがお願いするから、部屋を借りることになった。「氷の神子様を外で寝かせるわけにはいきません」という必死さを感じたので、固辞するのもよくなさそうだったんだよね。
でも、夕食だけは断ったよ。ちょうどこれから夕食って時間だから、オレたちがもらっちゃうと家族の分がなくなっちゃう。
村長さんの家の横に馬車を止めて、お馬さんを馬車から外して馬小屋へ連れていこう。
この村では共同で馬を保有しているようで、村の中心から少し離れたところに馬小屋があって、馬は持ち回りで世話をしている。
オレたちのお馬さんも、今夜はそこで寝てもらおうと思って連れていくと、ヒンヒンとお互いに挨拶を交わした後、置いてある草を一緒にもぐもぐと食べ始めた。村の馬は穏やかな子たちのようで、オレたちのお馬さんも受け入れてもらえたので、今夜はここで仲良く過ごしてね。
『ウィオ、水が少ないから出してあげて』
「分かった」
近くに井戸が見当たらないので、他の井戸か川からお水をくんできているんだと思うけど、重労働だよね。魔法で解決できるって楽ちん。
村の夜は早い。日の出とともに活動を始め、日が暮れるとご飯を食べて寝る。街灯がないので、暗い中で活動はできないからだろう。村の中でも家の外で活動している人の気配はない。
村長さんの家の横、馬車の荷台に座って干し肉をもぐもぐしていたら、小さな瞳がこちらを見ていることに気付いた。
「その犬は、みこさまの犬?」
「まほうがつかえるの?」
「狐だ。雪の魔法が使える」
村長さんのお家の子で、お兄ちゃんと妹ちゃんかな。ご飯の時間だと思うけど、もう食べ終わって出てきたのかな。
ウィオが返事をしたことで、近寄ってもいいと許可が出たと思ったのか、オレのそばに来て、なで始めた。オレはご飯の途中なんだけど、付き合ってあげよう。
子どもたちがなでやすいように、ゴロンと横になると、お腹をなでなでしてくれる。そうそう、上手、優しくなでてね。
「じいじがごはんがおわったから、おうちにどうぞって」
「そうか、ありがとう」
オレたちが外で待ってるから急がせちゃったのかもしれない。
ウィオがご飯を食べ終わったらお家に入れてもらうことにして、それまでオレは子どもたちの相手をしていよう。もうちょっと、お腹なでて。
「神子様、お待たせいたしました。今日はこちらの部屋をお使いください」
「世話になる」
『キャン』
「きつねは、あたしとねるの!」
妹ちゃんが自分の寝る部屋にオレを連れていこうとして、お父さんに止められた。オレを取られまいとする妹ちゃんは身体にも力が入って、子どもの短い腕でむぎゅっと抱きしめられているので、ちょっとお腹が苦しい。夕食をたくさん食べてなくてよかったよ。
妹ちゃんはオレが気に入ったようで、移動のときも自分が運ぶと言ってオレを抱っこして離さなかった。ペットを飼いたいお年頃なのかな。
オレはどちらでも構わないから、どうするかはウィオに任せようと思っていたんだけど、村長さんがウィオに返すようにと孫である妹ちゃんを必死に諭している。氷の神子様の使役獣を取り上げるなんてもっての外って感じだから、ここは大人しくウィオと寝たほうがよさそうだ。
でも妹ちゃんにはそんな難しいことは分からないから、今にも泣きそう。もふもふは罪作りだね。
『ウィオ、明日遊ぼうって伝えて』
「明日、起きたらルジェと遊んでやってくれ」
「ミヤ、明日遊ぶためにも、今日は神子様にお返ししなさい」
いやいやしていた妹ちゃんも、村長や両親だけでなく最後はお兄ちゃんにも説得されて、しぶしぶオレを離してくれた。いい子だね。
「孫がご迷惑をおかけしました」
「問題ない。ルジェはどこでも子どもに人気だ」
えへへ、オレは人気者なんだよ。もふもふが正義なのは、どの国でも、どの世界でも一緒だね。
スフラルに近くなってくると森が増えて、魔物にも会うようになった。あのお米の街がお米の街でいられるのは、水が豊富というだけでなく、あのあたりに深い森がなくて強い魔物が出ないからなんだろう。
夏が近づいてきたので、遠くから眺める森の緑がきれいだ。
『前の街の人が言っていたのはあの村かな?』
「だろうな」
トゥレボルからスフラルへと抜けるこの道を進む馬車は少ない。ここではなくて、王都から南下する道のほうが、整備されていて馬車も多く、魔物も少ないと聞いた。便利で安全な道があるなら、そちらを通るだろう。
でもオレたちには、馬車が通ることのできる道さえあれば、他のことは関係ないので気にせず進んでいる。
いきなり村を訪ねて泊めてくださいというと警戒される可能性があるけど、この国ならきっと「氷の神子様」として小屋は貸してもらえる気がする。前の街の人もそう言ってくれたし。
そろそろ日が暮れるので、今日はあの村に泊めてもらおう。
「氷の神子様、いかがなされましたか?」
「突然すまない。スフラルを目指して旅をしているんだが、今夜一晩この村で過ごしてもいいだろうか?」
村に入って最初に見つけた人に声をかけると、ちょっと待ってほしいと言い残して、村の奥へと走っていった。
実は、お米の街でたくさんお米をもらったので、今は馬車の荷台に空きスペースがあまりないのだ。今までは馬車の荷台で寝ることが多かったんだけど、外にテントを張って寝ることになる。オレが結界を張るから、安全に問題はないけど、屋根があるとうれしいよね。
しばらく待っていると、さっきの人が、おひげのおじいさんを連れて戻ってきた。
「村長のダビです。氷の神子様、ようこそおいでくださった。ぜひわしの家へお泊まりください」
「使役獣もいるので、小屋の屋根の下を貸してもらえれば十分だ」
断ったんだけど、家に泊まってくれって村長さんがお願いするから、部屋を借りることになった。「氷の神子様を外で寝かせるわけにはいきません」という必死さを感じたので、固辞するのもよくなさそうだったんだよね。
でも、夕食だけは断ったよ。ちょうどこれから夕食って時間だから、オレたちがもらっちゃうと家族の分がなくなっちゃう。
村長さんの家の横に馬車を止めて、お馬さんを馬車から外して馬小屋へ連れていこう。
この村では共同で馬を保有しているようで、村の中心から少し離れたところに馬小屋があって、馬は持ち回りで世話をしている。
オレたちのお馬さんも、今夜はそこで寝てもらおうと思って連れていくと、ヒンヒンとお互いに挨拶を交わした後、置いてある草を一緒にもぐもぐと食べ始めた。村の馬は穏やかな子たちのようで、オレたちのお馬さんも受け入れてもらえたので、今夜はここで仲良く過ごしてね。
『ウィオ、水が少ないから出してあげて』
「分かった」
近くに井戸が見当たらないので、他の井戸か川からお水をくんできているんだと思うけど、重労働だよね。魔法で解決できるって楽ちん。
村の夜は早い。日の出とともに活動を始め、日が暮れるとご飯を食べて寝る。街灯がないので、暗い中で活動はできないからだろう。村の中でも家の外で活動している人の気配はない。
村長さんの家の横、馬車の荷台に座って干し肉をもぐもぐしていたら、小さな瞳がこちらを見ていることに気付いた。
「その犬は、みこさまの犬?」
「まほうがつかえるの?」
「狐だ。雪の魔法が使える」
村長さんのお家の子で、お兄ちゃんと妹ちゃんかな。ご飯の時間だと思うけど、もう食べ終わって出てきたのかな。
ウィオが返事をしたことで、近寄ってもいいと許可が出たと思ったのか、オレのそばに来て、なで始めた。オレはご飯の途中なんだけど、付き合ってあげよう。
子どもたちがなでやすいように、ゴロンと横になると、お腹をなでなでしてくれる。そうそう、上手、優しくなでてね。
「じいじがごはんがおわったから、おうちにどうぞって」
「そうか、ありがとう」
オレたちが外で待ってるから急がせちゃったのかもしれない。
ウィオがご飯を食べ終わったらお家に入れてもらうことにして、それまでオレは子どもたちの相手をしていよう。もうちょっと、お腹なでて。
「神子様、お待たせいたしました。今日はこちらの部屋をお使いください」
「世話になる」
『キャン』
「きつねは、あたしとねるの!」
妹ちゃんが自分の寝る部屋にオレを連れていこうとして、お父さんに止められた。オレを取られまいとする妹ちゃんは身体にも力が入って、子どもの短い腕でむぎゅっと抱きしめられているので、ちょっとお腹が苦しい。夕食をたくさん食べてなくてよかったよ。
妹ちゃんはオレが気に入ったようで、移動のときも自分が運ぶと言ってオレを抱っこして離さなかった。ペットを飼いたいお年頃なのかな。
オレはどちらでも構わないから、どうするかはウィオに任せようと思っていたんだけど、村長さんがウィオに返すようにと孫である妹ちゃんを必死に諭している。氷の神子様の使役獣を取り上げるなんてもっての外って感じだから、ここは大人しくウィオと寝たほうがよさそうだ。
でも妹ちゃんにはそんな難しいことは分からないから、今にも泣きそう。もふもふは罪作りだね。
『ウィオ、明日遊ぼうって伝えて』
「明日、起きたらルジェと遊んでやってくれ」
「ミヤ、明日遊ぶためにも、今日は神子様にお返ししなさい」
いやいやしていた妹ちゃんも、村長や両親だけでなく最後はお兄ちゃんにも説得されて、しぶしぶオレを離してくれた。いい子だね。
「孫がご迷惑をおかけしました」
「問題ない。ルジェはどこでも子どもに人気だ」
えへへ、オレは人気者なんだよ。もふもふが正義なのは、どの国でも、どの世界でも一緒だね。
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