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3年目 トゥレボル編

7. 討伐の合間のご飯

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 さて、仕事に精を出したら、次はお昼ご飯の時間だ。
 なんと今日は、出張屋台が出るのだ。オレのお米愛に応えて、というわけではなく、このヒル一斉退治の日には毎年屋台が出張してくるそうだ。
 ウィオが宿の人にお弁当を頼んだところ、屋台のことを教えてくれて、オレのための薄味を頼んでおくと言ってくれたので、用意されているはずだ。

 田んぼの中にある空き地が広場のようになっているところに屋台が出て、準備が整った。とてもいい匂いがしているので、みんな近くに集まってきている。
 さあ、ランチタイムの始まりだ。ということで、オレのお昼をください。

「頼まれていた狐の昼ごはんだよ。鳥のスープで炊いたパホだ」
『キャン!』

 これは、ピラフっぽいぞ。いい香りがしている。ウィオが地面にランチョンマットを敷いて、その上にピラフのお皿を置いてくれた。
 ウィオがまだ自分のご飯を用意していないから、お座りして待っているんだけど、よだれがたれちゃいそうだから、急いで。飼い主の許可なく食べるのは、お利口な飼い狐のすることではないから、我慢だ。

「狐くんはお行儀がいいんだねえ」
『キュン』

 通りがかった人が褒めてくれるので尻尾を振っていたら、ウィオがナシゴレンみたいな料理を持って帰ってきた。赤い色のご飯だから、きっとウィオの好きなピリ辛なんだろうけど、風下に座ってくれたからくしゃみもでない。
 ウィオのご飯もそろったところで、いただきまーす。もぐもぐ。

「狐くんはうわさ通り、パホが好きなんですねえ」
「だから今日の討伐も張り切っている」
『キャン!』
「狐くん、これも食べてみるかい?」
『キューン』

 出してくれたご飯は食べてみたいけど、味付けが濃そうなので食べられない。ウィオが薄味じゃないと食べられないのだと説明してくれると、それを聞いて今度は味付け前のご飯があちこちから届いて、オレのランチョンマットの上に並べられた。
 オレの可愛さで人気になっているっていうのもあるけど、みんなオレをだしにしてウィオに話しかけるチャンスを探している感じだ。ウィオにいきなり話しかけるのは、畏れ多いと思っているのかな。
 まあ、美味しいご飯が食べられるなら、なんでもいいよ。いただいちゃうね。ぱくぱく、こっちも、もぐもぐ。

「狐、どれが美味しい?」
『全部』
「全部だそうだ」

 甲乙つけがたいよ。ピラフも、パラパラチャーハンも、ライスサラダも、どれも美味しい。もぐもぐ。
 もちもちのお米があればなお言うことなしなんだけど、ないものねだりをしても仕方がない。今あるものを最大限に楽しもう。ぱくぱくもぐもぐ。

『ごちそうさまでした。美味しかったです。みんなありがとう!』
「満足したようだ」
「それはよかったです。お辞儀をしているのかな? お利口だねえ」

 氷の神子様の使役獣はお利口だから、ちゃんと美味しいごはんをもらったお礼も言えるよ。
 美味しいごはんを食べたから、この後も期待に応えて頑張るね。


 午後も、ウィオとオレは二手に分かれて、ヒルを凍らせてまわった。

「狐くん、こっち!」
『キャン』
「お手伝いして偉いねえ」

 呼ばれたところへ駆けつけて、ヒルを凍らせる。ピュー。

 屋台が引き上げた後の広場は、ヒルの回収場所になっている。ウィオとオレが凍らせたヒルを冒険者が回収して、剣でたたき割っているのだ。日頃のうっ憤を晴らしているのか、「ひゃっほー!」って感じでとっても楽しそうだ。
 自分の担当の田んぼのヒルを集め終わった人も、広場でたたき割るのに参加しているけど、スイカ割りみたいなノリになっている。
 凍らせるのも終わったので、ウィオと一緒に参加しよう。

「氷の神子様も、割りますか?」
「神子様、魔法を見せてください!」
「そこは剣だろう」

 お昼を一緒に食べて、なんとなく遠慮が取れたのか、ウィオにリクエストがきた。ウィオが腰の剣を抜いたから、応えてあげるみたいだ。
 まず剣で一匹を真っ二つにしてから、そのあと二つに分かれた両方に氷の矢を飛ばして、粉々にすると、見ていた人たちから歓声が上がった。魔法も剣も両方見せてあげるなんて、サービス精神旺盛だね。

「狐くんもやるかい?」
『キューン』

 やりたいけど、残念ながらオレは粉々にできないんだよねえ。それに凍っていても触りたくないので、遠慮しておくよ。

 最後はお祭りみたいになっていたけど、無事にヒル一斉討伐が終わった。
 オレたちへの報酬は、お米とレシピだ。お米はもみ殻がついたままなので、冬にオルデキアに帰るまで持ち運んでも問題ないだろう。テレビでしか見たことがない、俵でもらったよ。
 レシピも、宿と屋台だけじゃなく他のお店からも集めてくれたので、きっと冬の間毎日お米料理を出してもらっても飽きないはずだ。しかもお屋敷の料理人さんがオレの好みの味にアレンジしてくれるかも、と思うと今からよだれが出そうだ。じゅる。

「本当にこれで依頼料は足りているんでしょうか?」
『キャン!』
「十分だ、と言っている」
「そんなに気に入ってもらえて、この地の人間としてとてもうれしいですよ」

 お米はトゥレボル全土で食べられているけど、このあたりは有名なお米の産地なんだそうだ。これは毎年ヒル退治に来いという天啓に違いない。
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