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3年目 トゥレボル編
4. 魂の求めるもの
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お馬さんと温泉を楽しんだ後は、王都へは行かずにこのままスフラルを目指すことにした。
「神子様」と呼ばれるウィオが王都に行っちゃうと、教会が接触してくるんじゃないかとウィオが心配したのだ。オレたちの行動を妨げるようなことがあれば、オレが牙をチラ見せしてあげるけど、ウィオはそういう可能性があるところに行くこと自体を避けたほうがいいと思っているらしい。
王都に用事があるわけではないし、ウィオが行きたくないところに行く必要もないので、このまま南下することにした。冬の王都は飾り付けられていてきれいらしいけど、今はまだ夏前だからね。
『お馬さんがご機嫌だね。また温泉に入りに来ようね』
「ルジェが入りたいんだろう?」
『オレだけじゃないよ。オレも入りたいけど』
『ヒヒーン』
ほら、お馬さんも入りたいって。気持ちよかったもんね。
湯治についてはもっと広く知られてもいいと思う。そうしたら温泉付きの宿ができるかもしれないし。美味しいごはんと温泉、こんな幸せな組み合わせはなかなかないよ。
温泉でご機嫌なお馬さんはパカパカと軽快に進んでくれている。林を抜けて、少し小高い丘のようなところに出ると、オレの目の前には水と緑が広がっていた。
これってもしかして、もしかして!
『お米! ウィオ、お米がある! お米だよ!』
「ルジェ、どうした?」
『お米だって! お米だよ』
「オコメ?」
『昔のオレの主食だよ!』
わーい、お米だ。うれしくて踊っちゃう。お米、お米、お米~♪
水田だから、お米に違いない。違ったら泣いちゃう。
田んぼに張られた水とそこに生えた緑。まだ春だから田植えから時間がたっていないのか、緑は少ないけど、きっと秋になればみっちりと黄金が実るはずだ。想像しただけで、ワクワクしちゃう。お・こ・め~、あそれ、お・こ・め~、あよいしょ♪
ウィオは馬車の御者台で踊るオレを不審そうに見ているけど、お馬さんはオレの鼻歌に合わせて機嫌よく進んでくれている。
いざ行け、わが魂の求めるものの元へ! 栄光を手にする日は近いぞ!
丘を下り、水田の中の道を進んでいく。近くで見るとやっぱり稲に似てる気がするから、これはお米に違いない。ここで期待させておいて違うものでした、みたいなフェイントはないはず。
俺のウキウキっぷりにじゃっかん引きながら、ウィオは水田の中で作業をしている農夫さんのそばで馬車を止めてくれた。
「訪ねたいのだが、この作物はどこに行けば食べられる?」
「これは氷の神子様、パホでしたら、このあたりの宿でどこででも食べられますよ」
ウィオがどうやって食べるものなのか聞いてくれているけど、日本のお米じゃなくて、細長いほうのお米みたいだ。でもお米なら何でもいいよ。パエリア美味しいよねえ。
農夫さんによると、次の次の街に、ご飯が美味しいと有名な宿があるらしいので、そこに向かうことにした。
やったー、お米が食べられるぞ。わっしょい。
街というよりも村に近い規模の一つ目の街を通り過ぎ、ご飯の美味しい宿があるという街に入ろう。この街も小さな街だ。この街道はトゥレボルからスフラルへの抜け道に近いマイナーな道なので、街道沿いの街も大きくない。
「氷の神子様、ようこそマンタルへ」
門番にも神子様として歓迎されている。他の国では上級ランクということで歓迎されることはあるけど、ギルドカードも見ないうちに色だけで歓迎されているなんて、この国で「神子様」は本当に人気みたいだ。
街に入っても注目を集めているけど、好意的な視線ばかりだ。「氷の神子様だよ」と話している声が聞こえる。
「氷の神子様、お泊まりですか?」
「ああ。三泊したいんだが、使役獣のために食事を作ってもらえるか?」
「そちらの狐はどのようなものを食べるんでしょうか?」
「パホが食べたいらしい。薄味で作ってもらいたいんだが」
「おやまあ。狐っこがパホを」
宿の人によると、お肉と一緒に炊いたお米に甘辛いたれをかけて食べる料理を出すらしい。
それはカオマンガイっぽい炊き込みご飯じゃないかな。絶対美味しいはず。食べたい。ウィオの腕の中でバタバタと足が動いてしまって、宿の人に不審がられているけど、聞き分けの悪いペットじゃないよ。ただ美味しそうなご飯にちょっと我慢ができないだけだよ。
「すまない。楽しみにしていたので、待ちきれないようだ」
「狐っこ、たれなしでよければ出してあげるよ。でも部屋は汚さないでくれよ」
『キャン』
わーい、美味しい夕食が保証されたぞ。部屋はきれいに使うから、安心してね。
いつも以上に食事に前のめりになっているオレを、ウィオが白い目で見ている。
『ウィオ、ずっとパンなしの食事を想像してみてよ。たまには食べたくなるでしょう?』
「遠征ではそういうこともある。特に困らない」
『あー、食にかける情熱がそもそも違うのか』
ウィオは栄養になるなら何でもいいというようなところがあるから、例え話にも共感してもらえなかった。
「そんなに食べたいなら、父上にお願いして領で育ててもらうか?」
『気候が違うから無理だと思うよ』
久しぶりに出たよ、貴族の発言。できたものを取り寄せるのではなく、一から作ろうとするとは。水田ってそう簡単に作れないでしょう。
でもそれだけオレのお米愛を理解してくれてうれしい。
時々食べられればいいから、収穫したものとレシピを持って帰って、お屋敷の料理人さんに作ってもらおう。
「神子様」と呼ばれるウィオが王都に行っちゃうと、教会が接触してくるんじゃないかとウィオが心配したのだ。オレたちの行動を妨げるようなことがあれば、オレが牙をチラ見せしてあげるけど、ウィオはそういう可能性があるところに行くこと自体を避けたほうがいいと思っているらしい。
王都に用事があるわけではないし、ウィオが行きたくないところに行く必要もないので、このまま南下することにした。冬の王都は飾り付けられていてきれいらしいけど、今はまだ夏前だからね。
『お馬さんがご機嫌だね。また温泉に入りに来ようね』
「ルジェが入りたいんだろう?」
『オレだけじゃないよ。オレも入りたいけど』
『ヒヒーン』
ほら、お馬さんも入りたいって。気持ちよかったもんね。
湯治についてはもっと広く知られてもいいと思う。そうしたら温泉付きの宿ができるかもしれないし。美味しいごはんと温泉、こんな幸せな組み合わせはなかなかないよ。
温泉でご機嫌なお馬さんはパカパカと軽快に進んでくれている。林を抜けて、少し小高い丘のようなところに出ると、オレの目の前には水と緑が広がっていた。
これってもしかして、もしかして!
『お米! ウィオ、お米がある! お米だよ!』
「ルジェ、どうした?」
『お米だって! お米だよ』
「オコメ?」
『昔のオレの主食だよ!』
わーい、お米だ。うれしくて踊っちゃう。お米、お米、お米~♪
水田だから、お米に違いない。違ったら泣いちゃう。
田んぼに張られた水とそこに生えた緑。まだ春だから田植えから時間がたっていないのか、緑は少ないけど、きっと秋になればみっちりと黄金が実るはずだ。想像しただけで、ワクワクしちゃう。お・こ・め~、あそれ、お・こ・め~、あよいしょ♪
ウィオは馬車の御者台で踊るオレを不審そうに見ているけど、お馬さんはオレの鼻歌に合わせて機嫌よく進んでくれている。
いざ行け、わが魂の求めるものの元へ! 栄光を手にする日は近いぞ!
丘を下り、水田の中の道を進んでいく。近くで見るとやっぱり稲に似てる気がするから、これはお米に違いない。ここで期待させておいて違うものでした、みたいなフェイントはないはず。
俺のウキウキっぷりにじゃっかん引きながら、ウィオは水田の中で作業をしている農夫さんのそばで馬車を止めてくれた。
「訪ねたいのだが、この作物はどこに行けば食べられる?」
「これは氷の神子様、パホでしたら、このあたりの宿でどこででも食べられますよ」
ウィオがどうやって食べるものなのか聞いてくれているけど、日本のお米じゃなくて、細長いほうのお米みたいだ。でもお米なら何でもいいよ。パエリア美味しいよねえ。
農夫さんによると、次の次の街に、ご飯が美味しいと有名な宿があるらしいので、そこに向かうことにした。
やったー、お米が食べられるぞ。わっしょい。
街というよりも村に近い規模の一つ目の街を通り過ぎ、ご飯の美味しい宿があるという街に入ろう。この街も小さな街だ。この街道はトゥレボルからスフラルへの抜け道に近いマイナーな道なので、街道沿いの街も大きくない。
「氷の神子様、ようこそマンタルへ」
門番にも神子様として歓迎されている。他の国では上級ランクということで歓迎されることはあるけど、ギルドカードも見ないうちに色だけで歓迎されているなんて、この国で「神子様」は本当に人気みたいだ。
街に入っても注目を集めているけど、好意的な視線ばかりだ。「氷の神子様だよ」と話している声が聞こえる。
「氷の神子様、お泊まりですか?」
「ああ。三泊したいんだが、使役獣のために食事を作ってもらえるか?」
「そちらの狐はどのようなものを食べるんでしょうか?」
「パホが食べたいらしい。薄味で作ってもらいたいんだが」
「おやまあ。狐っこがパホを」
宿の人によると、お肉と一緒に炊いたお米に甘辛いたれをかけて食べる料理を出すらしい。
それはカオマンガイっぽい炊き込みご飯じゃないかな。絶対美味しいはず。食べたい。ウィオの腕の中でバタバタと足が動いてしまって、宿の人に不審がられているけど、聞き分けの悪いペットじゃないよ。ただ美味しそうなご飯にちょっと我慢ができないだけだよ。
「すまない。楽しみにしていたので、待ちきれないようだ」
「狐っこ、たれなしでよければ出してあげるよ。でも部屋は汚さないでくれよ」
『キャン』
わーい、美味しい夕食が保証されたぞ。部屋はきれいに使うから、安心してね。
いつも以上に食事に前のめりになっているオレを、ウィオが白い目で見ている。
『ウィオ、ずっとパンなしの食事を想像してみてよ。たまには食べたくなるでしょう?』
「遠征ではそういうこともある。特に困らない」
『あー、食にかける情熱がそもそも違うのか』
ウィオは栄養になるなら何でもいいというようなところがあるから、例え話にも共感してもらえなかった。
「そんなに食べたいなら、父上にお願いして領で育ててもらうか?」
『気候が違うから無理だと思うよ』
久しぶりに出たよ、貴族の発言。できたものを取り寄せるのではなく、一から作ろうとするとは。水田ってそう簡単に作れないでしょう。
でもそれだけオレのお米愛を理解してくれてうれしい。
時々食べられればいいから、収穫したものとレシピを持って帰って、お屋敷の料理人さんに作ってもらおう。
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