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3年目 トゥレボル編
2. 焼きトウモロコシ
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今夜は、牧場に泊めてもらうことになった。
オレとお馬さんが楽しそうに走り回っているからと、ウィオが交渉してくれたらしい。
お馬さんは、お外で馬仲間と一緒に夜を過ごし、ウィオとオレは飼育員さんが住んでいる家の一部屋を使わせてもらうことになった。家とお馬さんたちの夜の居場所は、石の壁に囲われた中にあって、魔物から守られている。
「ここは、近くに湯が湧いているから出来た牧場なんですよ」
「湯のためにか?」
「ええ。怪我をした馬が湯に入って治ったという言い伝えがありまして、それで騎士様が馬を連れてきているうちに、施設が出来ました。それが馬の生産牧場になったのです」
元は湯治の施設だったので、怪我をしてお仕事を引退した馬を受け入れているうちに、その馬同士で繁殖するようになり、牧場を作ったそうだ。温泉はこの牧場の奥にあって、街道は牧場を避けて通っているので、この牧場を通ると近道になるそうだ。
「氷の神子様は、どちらのご出身ですか?」
「オルデキアだ」
「また遠くからいらっしゃったのですね。何か欲しい素材でもあるのですか?」
「スフラルに行く途中だ。アーグワの都がきれいだったので、もう一度見に行こうと思っている」
他の飼育員も一緒に夕食を取りながら話しているけど、みんな「神子様」であるウィオのことに興味津々だ。
「オルデキアでは、神子様はどういったお仕事をされるのですか?」
「私は騎士だったが、今は冒険者だ」
聞いてみると、この国では「神子様」は生まれてすぐ王都の教会に集められて育ち、大人になると教会に所属して魔法を使った奉仕活動をしている。神から与えられた魔法をみんなのために使ってくれる「神子様」ってことらしい。
ここの魔物から馬を守るための壁も、かつて「土の神子様」が手伝って作られたそうだ。
だからウィオにも、最初からみんな好意的なのか。いきなり訪ねてきた冒険者を招き入れるなんて普通はしないのに、こうして泊まる場所だけでなく食事まで用意してくれた。そしてその食事も、他の職員の人たちも集まってパーティーっぽくなっている。この国では普通に生活していると「神子様」には会う機会がないので、有名人に会ったときのような反応をされているのだ。
オルデキアでは、上級魔法の使える騎士という扱いだったし、旅先では上級ランクの冒険者という扱いだったから、ちょっと新鮮だ。
普通のおうちではないけれど、宿泊施設ではないところのご飯に招かれているので、オレのための薄味の料理はない。それを求めるほどオレも図々しくはないよ。大人しくお屋敷で作ってもらった干し肉を食べている。もぐもぐ。
「ルジェ、このパンをもらうか?」
『それよりも、トウモロコシを焼いてほしいなあ』
「あの馬のおやつか」
ウィオ、そんな目で見ないでよ。焼いたら美味しいと思うんだもん。ほら、何事だってやってみないと成功も失敗もしないよ。挑戦してみよう。
「そちらの狐は面白いことを考えますねえ」
「食べものにはこだわりが強いんだ」
『キュウン』
ちょっとばかり食いしん坊なだけだよ。
ウィオにお願いしたのに、興味を持った飼育係の人がバーベキューセットみたいなものを用意してくれて、トウモロコシっぽいものを網の上で焼いてくれている。火が通って甘そうないい匂いがしてきたぞ。やっぱり焼くのが正解だったみたいだ。
冷ましてから、前足で挟んで押さえて、かじりつく。記憶にある焼きトウモロコシよりみずみずしさはないけど、甘くて美味しい。がじがじ。
「気に入ったみたいですね」
『キャン』
馬の飼育員の人たちだから、動物全般が好きなのか、オレが食べているところも優しい目で見守ってくれている。今度馬にも焼いてあげてみようかと話しているけど、オレの味覚は人に近いから、馬たちはどっちが好きかなあ。でもこの人たちなら、馬の反応をちゃんと見て、健康も考えてあげてくれるだろう。
怪我をしてここに預けられている馬以外で、怪我や健康に問題のある馬はいなかった。とっても大切にお世話されているのが分かって、オレもうれしい。
馬の怪我を治してあげたいけど、この人たちには少し治しただけでもバレちゃいそうだから、やめておこう。バレるのが困るんじゃなくて、なぜ治ったのかが分からなくて、今後の治療方針に影響が出るとよくないからね。
夜、寝る前にウィオに聞いてみた。
『神子様たちが集められている教会に行ってみる?』
「ルジェは教会に行きたくないだろう?」
『オルデキアでも行ってないのに、他の国で行かないほうがいいかなと思っているだけだよ。ウィオが行きたいなら行こう』
「特に必要は感じないな」
相手も冒険者なら一緒に依頼を受けようと言うこともできるけど、教会で奉仕活動をしているのなら、一時的であっても共に行動することもできない。
部隊長さんも「神子様」なので、ウィオは一人ぼっちというわけでもなかったし、今更仲間に会いたいって感じでもないのかな。
――――――――――――
「願いの守護獣」の「精霊の愛し子編」の前、火の子に出会う少し前のお話です。
オレとお馬さんが楽しそうに走り回っているからと、ウィオが交渉してくれたらしい。
お馬さんは、お外で馬仲間と一緒に夜を過ごし、ウィオとオレは飼育員さんが住んでいる家の一部屋を使わせてもらうことになった。家とお馬さんたちの夜の居場所は、石の壁に囲われた中にあって、魔物から守られている。
「ここは、近くに湯が湧いているから出来た牧場なんですよ」
「湯のためにか?」
「ええ。怪我をした馬が湯に入って治ったという言い伝えがありまして、それで騎士様が馬を連れてきているうちに、施設が出来ました。それが馬の生産牧場になったのです」
元は湯治の施設だったので、怪我をしてお仕事を引退した馬を受け入れているうちに、その馬同士で繁殖するようになり、牧場を作ったそうだ。温泉はこの牧場の奥にあって、街道は牧場を避けて通っているので、この牧場を通ると近道になるそうだ。
「氷の神子様は、どちらのご出身ですか?」
「オルデキアだ」
「また遠くからいらっしゃったのですね。何か欲しい素材でもあるのですか?」
「スフラルに行く途中だ。アーグワの都がきれいだったので、もう一度見に行こうと思っている」
他の飼育員も一緒に夕食を取りながら話しているけど、みんな「神子様」であるウィオのことに興味津々だ。
「オルデキアでは、神子様はどういったお仕事をされるのですか?」
「私は騎士だったが、今は冒険者だ」
聞いてみると、この国では「神子様」は生まれてすぐ王都の教会に集められて育ち、大人になると教会に所属して魔法を使った奉仕活動をしている。神から与えられた魔法をみんなのために使ってくれる「神子様」ってことらしい。
ここの魔物から馬を守るための壁も、かつて「土の神子様」が手伝って作られたそうだ。
だからウィオにも、最初からみんな好意的なのか。いきなり訪ねてきた冒険者を招き入れるなんて普通はしないのに、こうして泊まる場所だけでなく食事まで用意してくれた。そしてその食事も、他の職員の人たちも集まってパーティーっぽくなっている。この国では普通に生活していると「神子様」には会う機会がないので、有名人に会ったときのような反応をされているのだ。
オルデキアでは、上級魔法の使える騎士という扱いだったし、旅先では上級ランクの冒険者という扱いだったから、ちょっと新鮮だ。
普通のおうちではないけれど、宿泊施設ではないところのご飯に招かれているので、オレのための薄味の料理はない。それを求めるほどオレも図々しくはないよ。大人しくお屋敷で作ってもらった干し肉を食べている。もぐもぐ。
「ルジェ、このパンをもらうか?」
『それよりも、トウモロコシを焼いてほしいなあ』
「あの馬のおやつか」
ウィオ、そんな目で見ないでよ。焼いたら美味しいと思うんだもん。ほら、何事だってやってみないと成功も失敗もしないよ。挑戦してみよう。
「そちらの狐は面白いことを考えますねえ」
「食べものにはこだわりが強いんだ」
『キュウン』
ちょっとばかり食いしん坊なだけだよ。
ウィオにお願いしたのに、興味を持った飼育係の人がバーベキューセットみたいなものを用意してくれて、トウモロコシっぽいものを網の上で焼いてくれている。火が通って甘そうないい匂いがしてきたぞ。やっぱり焼くのが正解だったみたいだ。
冷ましてから、前足で挟んで押さえて、かじりつく。記憶にある焼きトウモロコシよりみずみずしさはないけど、甘くて美味しい。がじがじ。
「気に入ったみたいですね」
『キャン』
馬の飼育員の人たちだから、動物全般が好きなのか、オレが食べているところも優しい目で見守ってくれている。今度馬にも焼いてあげてみようかと話しているけど、オレの味覚は人に近いから、馬たちはどっちが好きかなあ。でもこの人たちなら、馬の反応をちゃんと見て、健康も考えてあげてくれるだろう。
怪我をしてここに預けられている馬以外で、怪我や健康に問題のある馬はいなかった。とっても大切にお世話されているのが分かって、オレもうれしい。
馬の怪我を治してあげたいけど、この人たちには少し治しただけでもバレちゃいそうだから、やめておこう。バレるのが困るんじゃなくて、なぜ治ったのかが分からなくて、今後の治療方針に影響が出るとよくないからね。
夜、寝る前にウィオに聞いてみた。
『神子様たちが集められている教会に行ってみる?』
「ルジェは教会に行きたくないだろう?」
『オルデキアでも行ってないのに、他の国で行かないほうがいいかなと思っているだけだよ。ウィオが行きたいなら行こう』
「特に必要は感じないな」
相手も冒険者なら一緒に依頼を受けようと言うこともできるけど、教会で奉仕活動をしているのなら、一時的であっても共に行動することもできない。
部隊長さんも「神子様」なので、ウィオは一人ぼっちというわけでもなかったし、今更仲間に会いたいって感じでもないのかな。
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「願いの守護獣」の「精霊の愛し子編」の前、火の子に出会う少し前のお話です。
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