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3年目 オルデキア西部・マトゥオーソ編
【閑話】サクラの下、キミをおもう
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森の中、大きな木にたくさんの小さな花が咲いている。
キミはこの花を見て、「サクラみたいだ」と言っていた。サクラがどんな花かは知らないけれど、何かを懐かしむ顔をしていたから、きっと思い出のある花なんだろう。
この花を見ると、キミを思い出す。
もう一度、キミに会いたい。
ボクはただただキミに近づきたくて、キミのそばにいたかった。
だから、キミと一緒に仕事をすることになったときは、キミにいいところを見てほしくて、いつも以上に張り切ってボクに与えられた役目をこなした。
みんなはキミよりもボクのほうが優秀だといっていたけど、そんなことない。あれはボクの実力じゃない。ボクは横取りしただけなのに。本当はキミがいてくれたからできたことなのに、ボクがしたことだと思われてしまった。
そんなボクをキミは笑って許してくれた。
さらに、いろんなことも教えてくれた。頑張ればボクも人の役に立てるかもしれないという希望をくれた。
それだけでなく、ボクがピンチのときにはわざわざ助けに来てくれた。
キミとの出会いは、ボクを変えた。
与えられるものに甘えるだけでなく、挑戦してみる勇気をボクにくれた。
だからボクは、自分から一歩、新しい世界へと踏み出した。
「花の下にたたずむリンちゃん、とっても似合ってるよ。絵に描いてもらいたいなあ」
『ワン』
「頭に花びらが乗ってる。可愛いねえ。花びらもリンちゃんが好きなんだね」
ボクを「リンちゃん」と呼ぶご主人は、火を吹き出して壁を焦がし街の外に捨てられてしまったボクを拾ってくれた人だ。何日も食べていなくてお腹が空いていたボクに、ご飯を分けてくれた。家に連れ帰ってきれいに洗ってくれて、「可愛い」となでてくれた。家の中で火を吹き出してしまって、また捨てられるかもしれないとおびえたけど、「すごいねえ、リンちゃんは偉大な魔法使いだね」と褒めてくれた。大好きな大好きなご主人だ。名前を呼ばれるだけで、お尻がふりふりと揺れてしまう。ワフワフ。
ご主人の役に立ちたくて、ボクは草探しを始めた。ボクの鼻の良さを活かせるからと、キミが教えてくれた仕事だ。ご主人は頑張らなくてもいいって言ってくれたけど、ボクが頑張りたいんだ。
花の下に生えている草は前回見つけたときにご主人がたくさん褒めてくれた草だから、匂いをしっかり覚えている。草に鼻で触れて、見つけたことをご主人に知らせよう。
ご主人、お金になる草を見つけたよ。ワン。
「リンちゃん、もう薬草を見つけたんだね。賢いねえ」
『ワフッ』
褒めてもらえるのがうれしくてお腹を見せたら、優しくなでてくれた。ご主人はボクのしてほしいことをいつも分かってくれる。もっとたくさんなでて。ワフーン。
ボクをたくさんなでてくれた後、ご主人はボクの見つけた草を採って、「さあ帰ろう」と抱き上げてくれた。ご主人の腕の中は温かくてとっても安心する。
でもボクは、降ろしてほしいとご主人にお願いした。森の中では自分の足で歩くと決めたんだ。まだキミのように素早く走ったり登ったりできないけど、いずれは一緒に走り回れるようになりたい。ワオン。
「降りたいのかな? リンちゃん、自分で歩いて偉いね。木の根に気を付けてね」
『ウワン』
森の中を歩いている間、魔物が近づいてくる足音を拾うのもボクの仕事だ。自分の足で歩いて、自分の耳で音を拾って、ボクからご主人に教える。
ご主人、魔物がくるよ。気をつけて。
キミに会う前は、ご主人に連れられて入っていた森だけど、今はご主人と一緒に森に入ってる、そう思える自信がついた。ボクもご主人の役に立てている。今はまだ、ちょっとだけど。クーン。
森を出ると、ボクはご主人の腕の中だ。人の多いところでは、さらわれないように、ご主人が大事に大事に抱っこしてくれる。
ボクは一度、悪い人間にさらわれて、ご主人から引き離されてしまった。ご主人はボクを守ろうとして、悪い人間にひどい怪我を負わされた。それでもボクを取り戻そうと、必死で戦ってくれた。
どうして、近づいてくる悪い人間に気づけなかったのだろう。ご主人には聞こえないみたいだけど、ボクの耳には人間の足音がこんなにもはっきりと聞こえるのに。ボクがあのとき気づいてご主人に注意していれば、ご主人は怪我をしなかったのに。
だから、もう二度と悪い人間が近づいてこないように、ボクがしっかり見張るのだ。クンクン。
「リンちゃん、どうしたの? いい匂いがするのかな? 今日は串焼きの屋台が出てるよ」
『ワンワン』
食べたい食べたい食べたい。美味しそうだよ。あっちからすごくいい匂いがしてるよ、ご主人。
お願いすると、ご主人が串焼きを二本買って、一本をボクにくれた。ありがとう。パクン。
串焼きを食べ終えると、ご主人はボクを抱いたまま、ギルドに入った。
ギルドは、森の中で手に入れたものを持っていくと、お金に換えてくれるところだ。それに、ご主人のお友達がたくさんいて、いつも美味しいものをくれるのだ。キュンキュン。
「おお、今日も薬草がたくさんだな」
「リンちゃんが見つけてくれたんだ。すごいだろう」
「わんこ、偉いなあ。ご褒美にこれをやろう」
『クゥーン』
とってもいい匂いがしているけど、がまんだ。お利口な使役獣はご主人の許可がないものは食べないものだと、キミが教えてくれた。食べたいけど、食べちゃダメ。キューン。
「どうした? 干し肉は好きだっただろう。食べないのか? 具合が悪いのか?」
「最近、俺の許可を待ってから食べるんだ。天才だろう。リンちゃん、がまんできてお利口だねえ。どうぞ、お食べ」
『ワッフ』
いい匂いにヨダレが出そうなのをがまんしていたら、ご主人が許可をくれた。ご主人はボクにとっても優しい。さっきの串焼きとは違う味で美味しい。お肉大好き。キャフン。
「リンちゃんが見つけてくれた薬草を売ったお金で、可愛い首輪を買いにいこうか。ルジェくんがしていたような首輪が見つかるかな」
『キャン』
「リンちゃんはルジェくんが大好きだね。冬はオルデキアにいるらしいから、会いに行く?」
『ワンワン!』
行きたい! 会いたい!
いくつ寝たら冬になるのかな。待ちきれないよ。ワオーーーン。
冬になったら、大好きなご主人と一緒に、キミに会いに行くよ。
キミのおかげで、ボクの世界は広がった。いろんなことができるようになって、ご主人も前よりももっと褒めてくれるようになった。
ボクの成長をキミに見てもらいたい。
それに、あのときキミのご主人がくれたお肉がとっても美味しかったから、もう一度食べたい。
草を見つけたら美味しいものをもらえるってキミが教えてくれたから、あのお肉をたくさんもらえるように頑張ってるよ。ワン!
――――――――――――
桜ともふもふの組み合わせは、幸せの象徴。
新たな門出を迎える方にエールを。ワンワン!
少しお休みするよという方には柔らかな春の日差しが届きますように。ワフン。
変わらず忙しいよという方は食パンくんのもふもふを想像で堪能して乗り切ってください。ワッフワフ。
キミはこの花を見て、「サクラみたいだ」と言っていた。サクラがどんな花かは知らないけれど、何かを懐かしむ顔をしていたから、きっと思い出のある花なんだろう。
この花を見ると、キミを思い出す。
もう一度、キミに会いたい。
ボクはただただキミに近づきたくて、キミのそばにいたかった。
だから、キミと一緒に仕事をすることになったときは、キミにいいところを見てほしくて、いつも以上に張り切ってボクに与えられた役目をこなした。
みんなはキミよりもボクのほうが優秀だといっていたけど、そんなことない。あれはボクの実力じゃない。ボクは横取りしただけなのに。本当はキミがいてくれたからできたことなのに、ボクがしたことだと思われてしまった。
そんなボクをキミは笑って許してくれた。
さらに、いろんなことも教えてくれた。頑張ればボクも人の役に立てるかもしれないという希望をくれた。
それだけでなく、ボクがピンチのときにはわざわざ助けに来てくれた。
キミとの出会いは、ボクを変えた。
与えられるものに甘えるだけでなく、挑戦してみる勇気をボクにくれた。
だからボクは、自分から一歩、新しい世界へと踏み出した。
「花の下にたたずむリンちゃん、とっても似合ってるよ。絵に描いてもらいたいなあ」
『ワン』
「頭に花びらが乗ってる。可愛いねえ。花びらもリンちゃんが好きなんだね」
ボクを「リンちゃん」と呼ぶご主人は、火を吹き出して壁を焦がし街の外に捨てられてしまったボクを拾ってくれた人だ。何日も食べていなくてお腹が空いていたボクに、ご飯を分けてくれた。家に連れ帰ってきれいに洗ってくれて、「可愛い」となでてくれた。家の中で火を吹き出してしまって、また捨てられるかもしれないとおびえたけど、「すごいねえ、リンちゃんは偉大な魔法使いだね」と褒めてくれた。大好きな大好きなご主人だ。名前を呼ばれるだけで、お尻がふりふりと揺れてしまう。ワフワフ。
ご主人の役に立ちたくて、ボクは草探しを始めた。ボクの鼻の良さを活かせるからと、キミが教えてくれた仕事だ。ご主人は頑張らなくてもいいって言ってくれたけど、ボクが頑張りたいんだ。
花の下に生えている草は前回見つけたときにご主人がたくさん褒めてくれた草だから、匂いをしっかり覚えている。草に鼻で触れて、見つけたことをご主人に知らせよう。
ご主人、お金になる草を見つけたよ。ワン。
「リンちゃん、もう薬草を見つけたんだね。賢いねえ」
『ワフッ』
褒めてもらえるのがうれしくてお腹を見せたら、優しくなでてくれた。ご主人はボクのしてほしいことをいつも分かってくれる。もっとたくさんなでて。ワフーン。
ボクをたくさんなでてくれた後、ご主人はボクの見つけた草を採って、「さあ帰ろう」と抱き上げてくれた。ご主人の腕の中は温かくてとっても安心する。
でもボクは、降ろしてほしいとご主人にお願いした。森の中では自分の足で歩くと決めたんだ。まだキミのように素早く走ったり登ったりできないけど、いずれは一緒に走り回れるようになりたい。ワオン。
「降りたいのかな? リンちゃん、自分で歩いて偉いね。木の根に気を付けてね」
『ウワン』
森の中を歩いている間、魔物が近づいてくる足音を拾うのもボクの仕事だ。自分の足で歩いて、自分の耳で音を拾って、ボクからご主人に教える。
ご主人、魔物がくるよ。気をつけて。
キミに会う前は、ご主人に連れられて入っていた森だけど、今はご主人と一緒に森に入ってる、そう思える自信がついた。ボクもご主人の役に立てている。今はまだ、ちょっとだけど。クーン。
森を出ると、ボクはご主人の腕の中だ。人の多いところでは、さらわれないように、ご主人が大事に大事に抱っこしてくれる。
ボクは一度、悪い人間にさらわれて、ご主人から引き離されてしまった。ご主人はボクを守ろうとして、悪い人間にひどい怪我を負わされた。それでもボクを取り戻そうと、必死で戦ってくれた。
どうして、近づいてくる悪い人間に気づけなかったのだろう。ご主人には聞こえないみたいだけど、ボクの耳には人間の足音がこんなにもはっきりと聞こえるのに。ボクがあのとき気づいてご主人に注意していれば、ご主人は怪我をしなかったのに。
だから、もう二度と悪い人間が近づいてこないように、ボクがしっかり見張るのだ。クンクン。
「リンちゃん、どうしたの? いい匂いがするのかな? 今日は串焼きの屋台が出てるよ」
『ワンワン』
食べたい食べたい食べたい。美味しそうだよ。あっちからすごくいい匂いがしてるよ、ご主人。
お願いすると、ご主人が串焼きを二本買って、一本をボクにくれた。ありがとう。パクン。
串焼きを食べ終えると、ご主人はボクを抱いたまま、ギルドに入った。
ギルドは、森の中で手に入れたものを持っていくと、お金に換えてくれるところだ。それに、ご主人のお友達がたくさんいて、いつも美味しいものをくれるのだ。キュンキュン。
「おお、今日も薬草がたくさんだな」
「リンちゃんが見つけてくれたんだ。すごいだろう」
「わんこ、偉いなあ。ご褒美にこれをやろう」
『クゥーン』
とってもいい匂いがしているけど、がまんだ。お利口な使役獣はご主人の許可がないものは食べないものだと、キミが教えてくれた。食べたいけど、食べちゃダメ。キューン。
「どうした? 干し肉は好きだっただろう。食べないのか? 具合が悪いのか?」
「最近、俺の許可を待ってから食べるんだ。天才だろう。リンちゃん、がまんできてお利口だねえ。どうぞ、お食べ」
『ワッフ』
いい匂いにヨダレが出そうなのをがまんしていたら、ご主人が許可をくれた。ご主人はボクにとっても優しい。さっきの串焼きとは違う味で美味しい。お肉大好き。キャフン。
「リンちゃんが見つけてくれた薬草を売ったお金で、可愛い首輪を買いにいこうか。ルジェくんがしていたような首輪が見つかるかな」
『キャン』
「リンちゃんはルジェくんが大好きだね。冬はオルデキアにいるらしいから、会いに行く?」
『ワンワン!』
行きたい! 会いたい!
いくつ寝たら冬になるのかな。待ちきれないよ。ワオーーーン。
冬になったら、大好きなご主人と一緒に、キミに会いに行くよ。
キミのおかげで、ボクの世界は広がった。いろんなことができるようになって、ご主人も前よりももっと褒めてくれるようになった。
ボクの成長をキミに見てもらいたい。
それに、あのときキミのご主人がくれたお肉がとっても美味しかったから、もう一度食べたい。
草を見つけたら美味しいものをもらえるってキミが教えてくれたから、あのお肉をたくさんもらえるように頑張ってるよ。ワン!
――――――――――――
桜ともふもふの組み合わせは、幸せの象徴。
新たな門出を迎える方にエールを。ワンワン!
少しお休みするよという方には柔らかな春の日差しが届きますように。ワフン。
変わらず忙しいよという方は食パンくんのもふもふを想像で堪能して乗り切ってください。ワッフワフ。
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