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3年目 オルデキア西部・マトゥオーソ編
14. 幻じゃなくなった果実
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「ルジェ、起きろ。空が白んできたから出発するぞ」
『あと五分』
ウィオが何か言ってるけど、もうちょっと寝たい。むにゃ。
なんだか地面がゆらゆらと揺れてるなあと思ったら、オレはリュックの中に入れられて運ばれていた。真っ暗だったから驚いたよ。
『ウィオ?』
「起きたか。方向はこっちであってるか?」
『キャン』
ウィオによると、オレが寝ぼけているからリュックに入れて運んでいるうちに、また寝ちゃったらしい。出発前、ウィオに言われて結界を解いたらしいんだけど、記憶にない。おかしいなあ、オレ、睡眠は必要ないはずなのに、なんで起きられないんだろう。不思議。
ちゃんと起きて、道案内をしよう。
周りに人は、いない。果物の香りは、ほのかにこの先からしている。よし。
問題ないので、朝食の干し肉をください。寝坊して図々しいのは百も承知でお願いします。
朝ご飯を食べて、今度はオレの先導で森の奥へと向かっている。
森の中の近くにいる人がだんだん増えてきた。このあたりに泊まりこんで探している人かもしれない。果物はもっと奥の方から香ってきている。この集団を避けて、こっそり回り込もう。
『ウィオ、少し左に進んで』
「近いのか?」
『果物じゃなくて人がね』
この先香りがしているあたりにも、人がたくさんいそうだ。どうしようかなあ。人がいないところにある実を探したほうが、騒ぎにならないよね。
ふんふん、ふんふん。こっちからもかすかに香りが漂ってくる。こっちには人がいなさそうだから、この香りの元を探そう。
『ウィオ、この先だよ。人はいないけど、実がついている木は多分一本しかないから、たくさんは採れない』
「私たちと商会の分があれば十分だろう。確かに香りがするな」
このあたりは崖が近いから、人があまり来ないようだ。魔物に出会って崖に追いつめられると危険だからかな。
匂いをたどっていくと、鈴なりとまではいかないけれど、全体に実をつけた木が目の前に現れた。
ウィオは慣れた手つきで手早く収穫して、オレが地面の上に吹き出した雪の上にきれいに並べた。
熟れて並んでいる果物って、すごく食欲をそそるよね。作業が終わるまで我慢だけど、お座りしている足が動いちゃう。
今回は目立たないために木の箱も持ってきていないので、大きなリュックの中に入れて持って帰る。オレの雪を緩衝材にして凍らせて、リュックの底から詰めるのだ。王都に戻る前に凍っちゃうけど、今回は凍らせたものでデザートを作ってもらおう。
ウィオの大きなリュックの底に雪を吹き出し、その上に果物を並べて、また雪を吹き出して、と重ねていく。それがミルフィーユのようだなと思ったら、ミルフィーユが食べたくなっちゃった。王都で作ってもらえるかなあ。
オレのリュックには、お馬さんにあげる分と今夜ウィオと食べる分を入れてもらった。もふもふの毛が緩衝材になるよ。
リュックに入らなかった分は、ここで食べていこう。
前回から丸二年。果物をむく手つきも慣れたものだ。前回はレストランの人が泣きそうだなと思った分厚さでむかれた皮も、今回は許容範囲だと思う。
口に入れると、二年前の感動を思い出すね。変わらず美味しいよ。
「美味しいな」
『やっぱり春は毎年まずここに来る?』
「毎年でも、何年かに一度でも」
ウィオが笑いを堪えられないって顔で、オレに任せるって言ってきた。どうせ美味しいものを食べるチャンスは逃したくない、食いしん坊ですよ。
さて、収穫も味見も終わったので、森から引き上げよう。
ウィオに背負わせてもらうと、甘くさわやかな香りに背中から包まれる。幸せの香りだ。
お馬さん、美味しい果物が届くから、もうちょっと待っててね。るんるん。
森を出てお馬さんと合流したら、宿へ向かおう。ここで果物を出すと騒動になっちゃうから、宿についてからにしよう。宿はもちろん、いつものところだ。
「ウィオラス様、いらっしゃいませ。ですが、今回は王都をご予約では?」
「時間が余ったので、少し森に。明日王都に戻る。急だが今日は泊まれるか?」
「もちろんでございます」
入り口で馬を預けた人から連絡があったのか、いつもオレたちの対応をしてくれる客室係さんが応対してくれた。
ただ、前に泊まったお部屋は空いていなくて、少し狭い部屋になるそうだ。狭いと言っても広いけどね。
「こちらでよろしいですか? ルジェ様のお風呂はすぐにご用意いたします」
『キャン』
何も言わなくてもオレのお風呂の準備をしてくれるプロフェッショナル、さすが。
「レリアの実をご提供したことが話題となりまして、昨年に続いて今年もこの時期は満室が続いております。お二方のお陰でございます」
「今年もレリアの実が売り出されているのか?」
「はい。冒険者ギルドが指揮をとって収穫が行われているそうです。わずかではございますが手に入れることができましたので、本日ご提供いたしましょうか?」
「いや、必要ない」
これはオレたちが採りに行ったって分かって聞いてるよね。というか、オレのリュックからいい香りがしているんだから、バレバレだ。
あのとき、果物の近くに集まっていた集団はギルドが集めたグループで、熟れる前に収穫されないようにしているんだろう。横からかっさらっちゃったけど大丈夫だろうか。
『もしかして、許可なく採っちゃダメだった?』
「どうかな。ギルドを通さない売買を禁止しているのか?」
「控えてほしいと連絡を受けております」
うーん、これでデザートを作ってほしかったんだけど、困ったなあ。ギルドとの対立は避けたいよね。
ウィオはオレのリュックから果物を二つ取り出して、客室係さんに渡した。
「これで何かデザートを作ってもらえるか? 代金は払う。ギルドには私が話す」
「畏まりました。素敵なリュックですね」
『キャン』
リュックを褒められた。わーい。
『あと五分』
ウィオが何か言ってるけど、もうちょっと寝たい。むにゃ。
なんだか地面がゆらゆらと揺れてるなあと思ったら、オレはリュックの中に入れられて運ばれていた。真っ暗だったから驚いたよ。
『ウィオ?』
「起きたか。方向はこっちであってるか?」
『キャン』
ウィオによると、オレが寝ぼけているからリュックに入れて運んでいるうちに、また寝ちゃったらしい。出発前、ウィオに言われて結界を解いたらしいんだけど、記憶にない。おかしいなあ、オレ、睡眠は必要ないはずなのに、なんで起きられないんだろう。不思議。
ちゃんと起きて、道案内をしよう。
周りに人は、いない。果物の香りは、ほのかにこの先からしている。よし。
問題ないので、朝食の干し肉をください。寝坊して図々しいのは百も承知でお願いします。
朝ご飯を食べて、今度はオレの先導で森の奥へと向かっている。
森の中の近くにいる人がだんだん増えてきた。このあたりに泊まりこんで探している人かもしれない。果物はもっと奥の方から香ってきている。この集団を避けて、こっそり回り込もう。
『ウィオ、少し左に進んで』
「近いのか?」
『果物じゃなくて人がね』
この先香りがしているあたりにも、人がたくさんいそうだ。どうしようかなあ。人がいないところにある実を探したほうが、騒ぎにならないよね。
ふんふん、ふんふん。こっちからもかすかに香りが漂ってくる。こっちには人がいなさそうだから、この香りの元を探そう。
『ウィオ、この先だよ。人はいないけど、実がついている木は多分一本しかないから、たくさんは採れない』
「私たちと商会の分があれば十分だろう。確かに香りがするな」
このあたりは崖が近いから、人があまり来ないようだ。魔物に出会って崖に追いつめられると危険だからかな。
匂いをたどっていくと、鈴なりとまではいかないけれど、全体に実をつけた木が目の前に現れた。
ウィオは慣れた手つきで手早く収穫して、オレが地面の上に吹き出した雪の上にきれいに並べた。
熟れて並んでいる果物って、すごく食欲をそそるよね。作業が終わるまで我慢だけど、お座りしている足が動いちゃう。
今回は目立たないために木の箱も持ってきていないので、大きなリュックの中に入れて持って帰る。オレの雪を緩衝材にして凍らせて、リュックの底から詰めるのだ。王都に戻る前に凍っちゃうけど、今回は凍らせたものでデザートを作ってもらおう。
ウィオの大きなリュックの底に雪を吹き出し、その上に果物を並べて、また雪を吹き出して、と重ねていく。それがミルフィーユのようだなと思ったら、ミルフィーユが食べたくなっちゃった。王都で作ってもらえるかなあ。
オレのリュックには、お馬さんにあげる分と今夜ウィオと食べる分を入れてもらった。もふもふの毛が緩衝材になるよ。
リュックに入らなかった分は、ここで食べていこう。
前回から丸二年。果物をむく手つきも慣れたものだ。前回はレストランの人が泣きそうだなと思った分厚さでむかれた皮も、今回は許容範囲だと思う。
口に入れると、二年前の感動を思い出すね。変わらず美味しいよ。
「美味しいな」
『やっぱり春は毎年まずここに来る?』
「毎年でも、何年かに一度でも」
ウィオが笑いを堪えられないって顔で、オレに任せるって言ってきた。どうせ美味しいものを食べるチャンスは逃したくない、食いしん坊ですよ。
さて、収穫も味見も終わったので、森から引き上げよう。
ウィオに背負わせてもらうと、甘くさわやかな香りに背中から包まれる。幸せの香りだ。
お馬さん、美味しい果物が届くから、もうちょっと待っててね。るんるん。
森を出てお馬さんと合流したら、宿へ向かおう。ここで果物を出すと騒動になっちゃうから、宿についてからにしよう。宿はもちろん、いつものところだ。
「ウィオラス様、いらっしゃいませ。ですが、今回は王都をご予約では?」
「時間が余ったので、少し森に。明日王都に戻る。急だが今日は泊まれるか?」
「もちろんでございます」
入り口で馬を預けた人から連絡があったのか、いつもオレたちの対応をしてくれる客室係さんが応対してくれた。
ただ、前に泊まったお部屋は空いていなくて、少し狭い部屋になるそうだ。狭いと言っても広いけどね。
「こちらでよろしいですか? ルジェ様のお風呂はすぐにご用意いたします」
『キャン』
何も言わなくてもオレのお風呂の準備をしてくれるプロフェッショナル、さすが。
「レリアの実をご提供したことが話題となりまして、昨年に続いて今年もこの時期は満室が続いております。お二方のお陰でございます」
「今年もレリアの実が売り出されているのか?」
「はい。冒険者ギルドが指揮をとって収穫が行われているそうです。わずかではございますが手に入れることができましたので、本日ご提供いたしましょうか?」
「いや、必要ない」
これはオレたちが採りに行ったって分かって聞いてるよね。というか、オレのリュックからいい香りがしているんだから、バレバレだ。
あのとき、果物の近くに集まっていた集団はギルドが集めたグループで、熟れる前に収穫されないようにしているんだろう。横からかっさらっちゃったけど大丈夫だろうか。
『もしかして、許可なく採っちゃダメだった?』
「どうかな。ギルドを通さない売買を禁止しているのか?」
「控えてほしいと連絡を受けております」
うーん、これでデザートを作ってほしかったんだけど、困ったなあ。ギルドとの対立は避けたいよね。
ウィオはオレのリュックから果物を二つ取り出して、客室係さんに渡した。
「これで何かデザートを作ってもらえるか? 代金は払う。ギルドには私が話す」
「畏まりました。素敵なリュックですね」
『キャン』
リュックを褒められた。わーい。
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