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3年目 オルデキア西部・マトゥオーソ編

8. ご褒美

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「昨夜、照明弾をあげたのは、お前たちか?」
「はい。ダンテール商会、ピエト商会、シーモン商会が中心になった隊商です。盗賊に襲われて、そのときにあげました」

 護衛隊長さんが代表して状況を説明してくれているけど、盗賊と聞いて、兵士がまたかって顔をした。あの盗賊は、あそこでよく悪さをしているっぽいぞ。

「実は盗賊を捕まえたのですが」
「何、どこにいる?」
「馬車に押し込んでいます」

 押し込むっていう表現がぴったりな、馬車の荷台にぎっちぎちに詰め込まれた盗賊たちをみて、兵士が絶句している。分かるよ、ちょっと見たくない絵面だよね。盗賊たちを降ろしたら馬車を丸洗いして天日干ししないと、商品を乗せたくない感じだ。
 オレたちの馬車が小さくて良かったよ。そうじゃなかったら、オレたちの馬車に盗賊が乗せられていたかもしれない。

 まずは街まで移動して、そこで詳しい話をすることになったんだけど、兵士たちは受け入れ準備を整えると言って、先に街へ戻っていった。ウィオを見て氷の騎士だと気づいたようで、護衛は十分にいると判断したらしい。


 街に着くと、警備隊だけでなく、隊商が到着すると知って待ち構えていた街の人で、門の周りがごった返していた。
 大手商会は人数も多く、行きつけの宿に事前にいつ頃着くという連絡をしてあるけれど、後ろからついてきている人たちは街に着いてから宿を探すことが多い。食事処に加えて、そういう人を狙った宿の呼び込みもいて、とってもにぎやかだ。活気があっていいね。
 オレたちの宿は、商会の人が取ってくれる。今夜は、宿の美味しいご飯を食べてゆっくりしたいし、ここまでの街で泊まった宿はどこもご飯が美味しかったので、今日も期待している。

 でもその前に、もう少しだけお仕事だ。
 三商会の責任者と護衛隊長、それにウィオが、盗賊たちの扱いを話し合うために警備隊の詰所に案内された。
 詰所に入ると、ウィオが冒険者だから、この街のギルド長も来てくれていた。

「あの盗賊は、隣のクリュゼ領が懸賞金をかけているので、おそらく受け取れるとは思う。だが、クリュゼ領まで連れてこい、と言われる可能性が高い」
「残党狩りは?」
「襲われたのがこちらの領なので、クリュゼはやらないだろう」

 うわあ。自分のところを拠点にしていても、悪さをしているのは隣の領だから、うちは関係ないと放置しているのか。警備隊の人もギルド長も、苦虫をかみ潰したような顔をしているから、歯がゆいんだろう。これでは領同士の仲も悪くなるはずだ。

「氷の騎士様、クリュゼ領まで盗賊を運んで、残党狩りをするように言っていただけたりはしないでしょうか……」
「今は依頼の最中なのでできません」
「我々は、ここで依頼を切り上げてもかまいません。街道の安全は、我々商人にとっても大切です」
「ギルドで依頼完了にできるぞ」

 なるほど。ギルド長が来ていたのはこのためだな。ウィオの元騎士という立場で圧力をかけてほしいのだろう。そのために、ギルドの依頼である護衛をここで終わらせるのだ。
 マトゥオーソで美味しいご飯が待ってるんだけど、街道の安全には協力するって去年決めたし、盗賊のせいで美味しいものの輸送が止まるのは避けたい。

『ウィオ、協力しようよ。オレ、マトゥオーソに着くのが遅くなっても待てるよ』
「私が行っても解決すると思えません。冒険者の言うことを聞きはしないでしょう。フォロン侯爵家からクリュゼ領主に言ってもらいましょう」

 断腸の思いで引き返すことを提案したけど、それでは解決しないとウィオに却下された。今までなんだかんだと理由をつけて盗賊の討伐をしないでいるのなら、例えウィオが有名な元騎士であっても、今は冒険者だからと耳を貸さない可能性が高いらしい。
 そこで必殺、権力で言うことを聞かせよう作戦だ。お父さんから隣の領に文句を言ってもらう。
 こういうことでウィオがお父さんに頼るのは珍しいから、きっとお父さんが張り切って隣の領主に対応するように言ってくれるはずだ。領主のメンツを潰しちゃうかもしれないけど、今までちゃんと対応してこなかった報いだ。
 警備隊の人もギルド長もそれで隣の領が動いてくれるのか半信半疑だけど、貴族間のことにはあまり口を出せないようで、無理やり納得してくれた。

「ところで、氷の騎士様に助けていただいたお礼をしたいのですが」
「気づいたのはルジェなので、ルジェに頼む」

 きたきた、オレのご褒美。美味しいものをお願いします!
 ウィオと契約していない商会の人たちを助けた場合は成功報酬ってことになってたから、今回のことでたくさん報酬がもらえるはずだ。この街の名物は何かなあ。情報通の商人なら、知る人ぞ知るっていう美味しいものを出してくれると信じてるよ。

「そちらの使役獣の身に着けているものや食べているものは、侯爵家でご用意されたものですよね。それに釣り合うものとなると……」
「氷の騎士よ、相場の金を受け取ってやれ。その使役獣にはおやつをやればいいだろう」
『キューン』

 そのおやつが重要なのに、オレがお屋敷の料理人が用意してくれた美味しいものを食べているから、そのあたりの適当なものではご褒美にならないってことで、お金になっちゃった。
 仕方がない。明日は一日お休みだから、この街の美味しいものを鼻で探して、そのお金で買ってもらおう。


――――――――――

「侯爵様は本当に動いてくださるだろうか。使役獣が迷惑を被ったと知れば必ず動いてくれると、氷の騎士は言っていたが」
「ギルド長、使役獣の背負っているリュックに使われているのは、貴重な魔物の素材でした。中には侯爵家の料理人お手製の干し肉が入っているらしいですよ。かなり可愛がっていらっしゃるのは間違いありません」
「なんで冒険者の使役獣なんかやってるんだ」
「マトゥオーソに美味しいものを食べに行くそうです。すでに王都のベルジュを予約してあるとか。使役獣が料理を気に入っているらしいです」
「狐も客なのか。確実に俺たちより良いものを食べてるな……」
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