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3年目 オルデキア西部・マトゥオーソ編
5. 暗闇から忍びよるもの
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馬車の荷台に入って、ぐっすり眠っていた。ぐっすり眠っていたのに、何かが気になって目が覚めた。何だろう。
隣を見ると、ウィオは寝ている。オレが結界を張っていて外の音は聞こえないので、気になったのは音じゃない。
荷台の入り口をふさいでいる布から頭だけを出して、周りの気配をうかがうけど、特に変わったことはない。今の見張り番たちが小さな声で話をしているのが聞こえるけど、それだけだ。その会話の内容も、他愛もない世間話だ。
月が雲に隠れているので、あたりは暗闇に沈んでいる。何が気になったのか分からないけど、森から魔物が出てくる気配はないし、変な夢でも見たのかなと思ってもう一度寝ようとした。
ジャリ。
とっても小さな音だけど、何かが土の上を歩いている音がする。
どこから音がしたのか、耳をすまして気配を探ると、警戒していた森とは反対側、街の側から何かが近づいてきていた。
『ウィオ、起きて』
「どうした? 何か食べたいのか?」
ウィオが寝ぼけている。いくら食いしん坊でも、そんなことで起こしたりしないよ。それともウィオがお腹が空いてるのかな?
でも今はそういう状況じゃないんだよ。
『街のほうから何かが忍び寄ってきてるよ』
「……盗賊か?」
『多分ね』
「見張り番は?」
『気づいてない』
ウィオが馬車から出れば、こちらが気づいたことを盗賊に知られるかもしれない。
迎撃体制を整える前に襲われると、最後尾にいる人たちが危ない。盗賊の可能性を考えていなかったわけじゃないけど、魔物が襲ってくる確率の方が高いので、注意は森側に向けられている。
街道の一番街側に止まっている馬車のいくつかは、もともと一緒に進んでいる三グループじゃない、勝手に後ろをついてきた旅人のはずだ。おそらく護衛はいないし、護衛対象じゃない。だからって見捨てられない。
ウィオは剣を腰に差して馬車から出て、一番街側でたき火を囲っている見張り番のところへ歩いて近づいた。オレも後ろからついていく。
「銀の。どうしたんだ?」
「使役獣が目を覚ましたから、散歩だ」
「狐、起きちゃったのか」
そうなんだよ、残念なことに起こされちゃったんだよ。近寄ると、首をこちょこちょとなでてくれる。気持ちいいけど、のん気になでられているわけにもいかないんだよね。
周りの馬車で寝ている人を起こさないように小声での会話だけど、こちらをうかがっている盗賊には聞こえているかもしれない。
ウィオがオレをなでている人の横に座ると、ささやくような声で告げた。
「騒がずに聞け。街側から盗賊がきている。使役獣が足音に気づいた」
「っ!」
『ウィオ、たくさん近づいてきてる』
ウィオが出てきたことで気づかれたかもしれないと思って、襲撃を早めるのかもしれない。
「目くらましのために照明弾を上げる。目を閉じろ」
「あ、ああ」
「ルジェ、いくぞ」
はーい。そろえた前足の間に頭を突っ込んで、目隠しだ。
盗賊が襲撃の準備を整える前に、邪魔をさせてもらおう。照明弾にひるんでいる間に、こちら側の全員を起こして迎え撃つ作戦だ。
ぴっかーん!
そんな擬音がぴったりな照明弾が夜空にあがった、はずだ。オレは見てないけど、不意を突かれて盗賊たちが右往左往している音や悲鳴がするので、すごく明るかったんだろう。じっと隊商を注視していたところにこの光は、目が痛いだろうなあ。
ウィオが「盗賊だ、起きろ!」と叫びながら街側に向かっているので、オレは一番盗賊に近いところにいる人を起こそう。
一気に駆けだして、馬車の御者台で横になって寝ていた人の手にかみつく。
「痛いっ!」
『キャンキャンキャン!』
「な、なんだ?!」
寝起きで状況が分からないかもしれないけど、敵襲だから護衛たちがいるほうへ逃げて。
まだ動き出さないけどひとまず起きたので、今度は近くの馬車の人を起こすために吠えながら馬車の間を走り回る。見張り番の声とオレの鳴き声で、野営地全体が大騒ぎになってるので、さすがにみんな起きるだろう。
気づくとウィオがすぐそばまで走ってきていて、盗賊がいるあたりの地面を氷で覆った。アチェーリの闇オークション摘発のときに一回やっていたけど、今回は屋外の広範囲だ。夜だから、溶かしてしまえばバレないかな。
ウィオの氷の範囲から外れた盗賊が野営地を襲おうとしているけど、そっちは見張り当番が迎え撃っているから大丈夫だろう。起きてきた各グループの護衛が戦えない人たちを避難させているし、野営地内は平気そうだ。
盗賊たちがかまどのある簡易調理場を通って野営地に入ろうとしているけど、そこを壊したら許さないよ。
オレはウィオを助けようと盗賊たちが氷漬けになっているところまで追いかけてきたけど、四つ足でも氷の上を走るのは一苦労で、上手く進めない。
街へ逃げられないように街道をふさいでおいて、野営地を囲って襲撃しようと展開しているから、組織だった大きな盗賊団かもしれない。
でも、臭いよ。この盗賊たち、何日お風呂に入ってないのよ。もしかして、オレが起きたのってこの臭さだったのかな。
『あ、馬で逃げようとしているやつがいるよ』
「今は放っておけ」
馬の走り去る音がしているけど、逃げたやつらは後回しだ。
これだけ騒いだから魔物が来るかもしれない。氷漬けになっている盗賊から仲間や隠れ家が割れるだろうから、今は森の魔物に備えるほうがいいそうだ。
まずはこの盗賊たちを拘束だ。ウィオ一人だと大変なので、護衛たちに手伝ってもらおうと声をかけると、野営地内に入り込んだ盗賊を取り押さえ終わって手が空いた護衛たちが、ロープを持って集まってきてくれた。
「うわっ、いてっ!」
「おい、どうした。あっ! ここ地面が凍ってるぞ。気をつけろ」
ウィオを助けようと駆けつけてきた護衛が、氷で滑ってこけた。
今更だけど、野営地のまわりをスケートリンクにしちゃえば、盗賊が勝手に自滅してくれたんじゃない?
隣を見ると、ウィオは寝ている。オレが結界を張っていて外の音は聞こえないので、気になったのは音じゃない。
荷台の入り口をふさいでいる布から頭だけを出して、周りの気配をうかがうけど、特に変わったことはない。今の見張り番たちが小さな声で話をしているのが聞こえるけど、それだけだ。その会話の内容も、他愛もない世間話だ。
月が雲に隠れているので、あたりは暗闇に沈んでいる。何が気になったのか分からないけど、森から魔物が出てくる気配はないし、変な夢でも見たのかなと思ってもう一度寝ようとした。
ジャリ。
とっても小さな音だけど、何かが土の上を歩いている音がする。
どこから音がしたのか、耳をすまして気配を探ると、警戒していた森とは反対側、街の側から何かが近づいてきていた。
『ウィオ、起きて』
「どうした? 何か食べたいのか?」
ウィオが寝ぼけている。いくら食いしん坊でも、そんなことで起こしたりしないよ。それともウィオがお腹が空いてるのかな?
でも今はそういう状況じゃないんだよ。
『街のほうから何かが忍び寄ってきてるよ』
「……盗賊か?」
『多分ね』
「見張り番は?」
『気づいてない』
ウィオが馬車から出れば、こちらが気づいたことを盗賊に知られるかもしれない。
迎撃体制を整える前に襲われると、最後尾にいる人たちが危ない。盗賊の可能性を考えていなかったわけじゃないけど、魔物が襲ってくる確率の方が高いので、注意は森側に向けられている。
街道の一番街側に止まっている馬車のいくつかは、もともと一緒に進んでいる三グループじゃない、勝手に後ろをついてきた旅人のはずだ。おそらく護衛はいないし、護衛対象じゃない。だからって見捨てられない。
ウィオは剣を腰に差して馬車から出て、一番街側でたき火を囲っている見張り番のところへ歩いて近づいた。オレも後ろからついていく。
「銀の。どうしたんだ?」
「使役獣が目を覚ましたから、散歩だ」
「狐、起きちゃったのか」
そうなんだよ、残念なことに起こされちゃったんだよ。近寄ると、首をこちょこちょとなでてくれる。気持ちいいけど、のん気になでられているわけにもいかないんだよね。
周りの馬車で寝ている人を起こさないように小声での会話だけど、こちらをうかがっている盗賊には聞こえているかもしれない。
ウィオがオレをなでている人の横に座ると、ささやくような声で告げた。
「騒がずに聞け。街側から盗賊がきている。使役獣が足音に気づいた」
「っ!」
『ウィオ、たくさん近づいてきてる』
ウィオが出てきたことで気づかれたかもしれないと思って、襲撃を早めるのかもしれない。
「目くらましのために照明弾を上げる。目を閉じろ」
「あ、ああ」
「ルジェ、いくぞ」
はーい。そろえた前足の間に頭を突っ込んで、目隠しだ。
盗賊が襲撃の準備を整える前に、邪魔をさせてもらおう。照明弾にひるんでいる間に、こちら側の全員を起こして迎え撃つ作戦だ。
ぴっかーん!
そんな擬音がぴったりな照明弾が夜空にあがった、はずだ。オレは見てないけど、不意を突かれて盗賊たちが右往左往している音や悲鳴がするので、すごく明るかったんだろう。じっと隊商を注視していたところにこの光は、目が痛いだろうなあ。
ウィオが「盗賊だ、起きろ!」と叫びながら街側に向かっているので、オレは一番盗賊に近いところにいる人を起こそう。
一気に駆けだして、馬車の御者台で横になって寝ていた人の手にかみつく。
「痛いっ!」
『キャンキャンキャン!』
「な、なんだ?!」
寝起きで状況が分からないかもしれないけど、敵襲だから護衛たちがいるほうへ逃げて。
まだ動き出さないけどひとまず起きたので、今度は近くの馬車の人を起こすために吠えながら馬車の間を走り回る。見張り番の声とオレの鳴き声で、野営地全体が大騒ぎになってるので、さすがにみんな起きるだろう。
気づくとウィオがすぐそばまで走ってきていて、盗賊がいるあたりの地面を氷で覆った。アチェーリの闇オークション摘発のときに一回やっていたけど、今回は屋外の広範囲だ。夜だから、溶かしてしまえばバレないかな。
ウィオの氷の範囲から外れた盗賊が野営地を襲おうとしているけど、そっちは見張り当番が迎え撃っているから大丈夫だろう。起きてきた各グループの護衛が戦えない人たちを避難させているし、野営地内は平気そうだ。
盗賊たちがかまどのある簡易調理場を通って野営地に入ろうとしているけど、そこを壊したら許さないよ。
オレはウィオを助けようと盗賊たちが氷漬けになっているところまで追いかけてきたけど、四つ足でも氷の上を走るのは一苦労で、上手く進めない。
街へ逃げられないように街道をふさいでおいて、野営地を囲って襲撃しようと展開しているから、組織だった大きな盗賊団かもしれない。
でも、臭いよ。この盗賊たち、何日お風呂に入ってないのよ。もしかして、オレが起きたのってこの臭さだったのかな。
『あ、馬で逃げようとしているやつがいるよ』
「今は放っておけ」
馬の走り去る音がしているけど、逃げたやつらは後回しだ。
これだけ騒いだから魔物が来るかもしれない。氷漬けになっている盗賊から仲間や隠れ家が割れるだろうから、今は森の魔物に備えるほうがいいそうだ。
まずはこの盗賊たちを拘束だ。ウィオ一人だと大変なので、護衛たちに手伝ってもらおうと声をかけると、野営地内に入り込んだ盗賊を取り押さえ終わって手が空いた護衛たちが、ロープを持って集まってきてくれた。
「うわっ、いてっ!」
「おい、どうした。あっ! ここ地面が凍ってるぞ。気をつけろ」
ウィオを助けようと駆けつけてきた護衛が、氷で滑ってこけた。
今更だけど、野営地のまわりをスケートリンクにしちゃえば、盗賊が勝手に自滅してくれたんじゃない?
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