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3年目 オルデキア西部・マトゥオーソ編

1. 護衛依頼

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 食い倒れツアーも三年目。今年の目標は、トラブルを起こさないことだ。

 去年は闇オークションの摘発に首を突っ込んで、さらにドラゴンをタクシー代わりに使って大騒動を起こしてしまった。
 帰ったら、「今後ドラゴンに会いにいくときは、事前に知らせてくれるとうれしい」というタイロン国王からの控えめなお願いを、お父さんから伝えられた。タイロンに赴任中だった二番目のお兄さんに、ドラゴンがオレに会うために村に来たというのは伝えてあったから、そこからタイロンの王様に話が伝わって、オルデキアの王様経由でお返事が来たのだ。
 今あの村と街は、ドラゴン目当ての旅人を受け入れるための宿を急ピッチで作っているので、できあがったらぜひ来てほしい、というお誘いももらった。今行くと、ドラゴンが会いにきたいたずら狐として注目を集めそうなので、ほとぼりが冷めてから、オレがドラゴンに会えるように応援してくれたあの冒険者さんに会いに行こう。
 フェゴの王様は何も言ってきていないらしいので、多分オレたちのことは、王子様に任せるつもりなのだろう。

 ちなみに、お父さんたちのために落ちていたドラゴンの鱗の中からきれいなものをたくさん集めたんだけど、貴重すぎてもらえないと言われてしまった。王様を差し置いて貴族が持っているのはよくないけど、オレの取ってきたものをお父さんが王様に献上するのもおかしな話だから、もらわないのが一番らしい。
 お父さんたちがいらないなら、オレのせいで影響が出ちゃったフェゴのギルドに売ったらどうかなと思ったんだけど、騒動になるからダメだと、お父さんに全力で止められてしまった。どうやらオレは、ドラゴンの鱗の価値を過小評価しているようだ。
 仕方がないので、オレたちが使っているお屋敷の離れに置いてきた。キラキラしていて、お屋敷の装飾品にいいと思ったんだけどな。


 さて、今年の食い倒れツアーの最終目的地は、ウィオがもう一度行きたいと言ったスフラルに決めた。峠から見た水の都アーグワの景色がきれいだったので、もう一度見てみたいんだって。あの峠に何泊かして、のんびり景色を眺めるのもいいかもしれない。
 最初の目的地はお隣マトゥオーソの王都だ。マトゥオーソは美食の街ガストーには二年連続で行っているけれど、王都にはゆっくり滞在したことがない。王都に行くと、お城が近いから王様が何か言ってくるかもしれないけど、三年目ともなれば放っておいてほしいと分かってくれていると信じてる。
 そこからマトゥオーソの西、スフラルの北にあるトゥレボル王国を通って、スフラルへ行き、フェゴを通ってドラゴンに会ってから、オルデキアに帰る予定だ。

 マトゥオーソの王都で泊まる宿はすでに決まっている。ガストーのご飯がとっても美味しい宿の客室係さんが、系列店を紹介してくれた。オレたちの食事の好みも伝えておいてくれるって言っていたから、とっても楽しみだ。
 ものすごく人気店だから、できれば事前に予約を入れてほしいって言われているので、これからオルデキアを出発して向かいますって連絡してある。だから、途中のトラブルはお断り。

 実は今回、初めての試みで、オルデキアの王都から、マトゥオーソの王都まで、商会の護衛として移動する。そうすれば、途中で余計なことに首を突っ込んでトラブルにならないでしょう。
 今まで、道中で商会と一緒に行動することはあったけど、依頼として受けるのは初めてだ。前回は出発してすぐに商会に声をかけられたから、「今回は最初から依頼受けちゃえばいいんじゃない?」というオレの一言で決まった。自由はなくなるけど、マトゥオーソの王都までの道は一度通っているから、問題ない。
 ギルドに相談したら、氷の騎士を護衛に雇いたい商会はたくさんいると言われたので、条件を出させてもらった。難しい内容じゃなくて、自分たちの馬車で行くこと、ウィオがリーダーをしないこと、ご飯の美味しい宿を紹介してもらうことだ。その条件をもとに、手をあげた商会の中から一番条件の良いものを、ギルド長が選んでくれた。依頼を選ぶのは、いつもギルド長に頼りっぱなしだ。

「ダンテール商会の護衛隊長のイアンだ。氷の騎士が一緒とは心強いな」
「ウィオラスと呼んでくれ。護衛依頼は受けたことがないので、いろいろ教えてほしい」

 オレのための美味しい食料やお手入れグッズをたくさん積んだ馬車で、今回の依頼主である商会の倉庫へ行くと、護衛隊長が出迎えてくれた。後ろでは商会の人が出発準備に走り回っている。

 今回の隊商は、ダンテール商会が中心で、マトゥオーソ方面へ向かう他の商会の馬車も一緒に隊列を組んで進む。
 ダンテール商会は、オルデキアで一、二を争う大きさの商会なので、冒険者ではなく自前の護衛を抱えていて、足りないときにだけ応援で冒険者に頼んでいる。移動の少ない時期でも護衛にお給料を払う必要はあるけれど、どんな冒険者が依頼を受けるか蓋を開けてみるまで分からない、という博打要素は排除できる。
 今回は、去年のドラゴン騒動があってから初めての春で、魔物の動きが例年と同じかよく分からないので、いつもの護衛に加えて冒険者を少し雇おうとしていたらしい。そこにウィオの話が来たので飛びついたんだそうだ。上級ランクなので依頼料は高いけど、安心には変えられないし、何より指名依頼を受けないウィオと縁ができるというのが大きいのだと、ギルド長が事前に教えてくれた。

「水を補給してもらえるということで、最低限しか運ばないが、魔力は足りるのか? 全員分となると五十人くらいいるが」
「問題ない」

 旅の間、街の外で休憩したり野営したりするときのために水を運ぶが、街や水場があまりないところを通るときは、隊商となると馬車一台が水の樽で埋まるくらい必要になる。それをウィオが魔法で出すことになっている。
 これはウィオが依頼を受けることが決まってから、商会のほうから提案があり、水を減らすことができればそれだけいろいろ乗せられるから、護衛の仕事をしなくてもいいからお願いしたいと言われたのだ。商会とギルド長が話し合ってくれた結果、護衛も水の補給もすることに決まり、水の分は依頼料に上乗せになった。
 それで、護衛隊長が水の補給をして、魔力切れで戦えないなんてことにならないのか心配してくれているけど、ウィオの魔力はオレの加護があって尽きないから、問題ないよ。

 そこに、商会の今回の旅の責任者が通りかかった。

「氷の騎士様、今回はどうぞよろしくお願いします」
「ウィオラスと呼んでください」
「はい。出発してからあらためて挨拶させてください」

 そう言うと、出発準備へと戻っていった。出発してしまえば、道中で時間はあるから、今はとにかく準備を済ませるらしい。
 待ち合わせの時間よりちょっと早く来ただけなのに、これで本当に出発できるんだろうか。

「いつもこんな感じなのか?」
「ああ。これなら、予定通り出発できるはずだ」

 必要なものはもう積んであるはずなのに、毎回出発直前に、この隙間にあれを入れよう、こっちにはこれを入れようと、ギリギリまで走り回るらしい。
 ドタバタを見ながら、護衛の基本的な手順を教えてもらった。

「商人たちの面倒は見なくていいから、騎士の遠征と大して変わらないと思うぞ」
「そうなのか」
「他のところは分からないが、ダンテールは護衛は戦闘のみと決まってるからな。無理も言わないし、やりやすいと思う」

 参加する商会の人間が増えるほど、馬車も護衛も必要になるから、最低限しか参加しないようにしていて、だから責任者まで含めて自分のことは全部自分でやるというルールが徹底されているらしい。
 非戦闘要員を連れた遠征って感じなのかな。でも、戦えなくても旅に慣れている人たちだから、後方支援がたくさんいる遠征って感じなのかもしれない。
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