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2年目 フェゴ編
10. 狼の恩返し
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順調に薬草を採取して、十分な量を集めたので、後はこの薬草を持って街へ引き上げるだけになった。
お弁当は、今日はちゃんと潰れていないきれいな状態で美味しく味わうことができた。非常食の葉っぱは焼きチョモにもあって、サンチュで焼き肉を巻くようにチョモ包みを作ってもらって食べたけど、それも美味しかった。
王子様に「非常食をそこまで楽しんで食べるところを初めて見た」って言われちゃったけど、飽くなき探求心とたゆまぬ努力が、美味しいものを作るのだ。食は人生を豊かにするのだから、どんなときもチャレンジを忘れず、妥協せず、美味しいものを追い求める義務が、食いしん坊にはある。
それに、非常のときこそ、食という楽しみは大切なんだよ。
「なるほど。絶望的な状況でも、食に楽しみを見い出し、生きる気力を奮い立たせるということですね」
「……食い意地が張っているだけだと思うが」
幼馴染がきれいにまとめてくれたのに、なんで飼い主であるウィオがオレのこと悪く言うの。王子様がどう答えていいか分からなくて、周りの魔物の気配に集中しているから聞こえていませんってフリをしてるじゃない。
そんなふうに、非常時における食のもたらす効用について話しながら昨夜の夜営地へ向かって歩き、周りに生えている薬草が森の浅いところにもある珍しくない薬草ばかりになったころ、遠くから聞こえる音に気付いた。
『テントのところが襲われてる!』
「夜営地が襲われているらしい」
「走るぞ!」
戦闘の音や掛け声に交ざって、悲鳴が聞こえる。あまりいい状況じゃないみたいだ。
『先に行くね』
「ルジェ!」
分かってるよ。使役獣の範囲でしか手助けするなってことでしょう。でも、わざわざオレのお弁当を届けてくれた人たちを見捨てられないよ。自制心を持って、この先は出たとこ勝負だ。
戦闘しているところに着く直前、それまでとは違った声が聞こえた。
「こんなときに狼が!」
『ウォンウォン!』
「まさか、助けに来たのか?!」
急いで駆けつけると、昨日と同じシカの魔物五匹が騎士たちに襲いかかっていて、狼たちが魔物を攪乱するために走り回っている。立っている騎士は半分くらいしかいないけれど、ざっと見た感じでは瀕死の人はいなさそうだ。回復はウィオの指示を待つとして、まずは魔物をここから離そう。
オレのほうに興味を向かせようと魔物の前をウロチョロしていると、オレの意図を理解して、狼たちも騎士のいないほうへ魔物を誘導するように動いてくれた。
そういえば今年の食い倒れツアーの最初もこうやって、狼の魔物の興味を引くように走り回ったよね。今年はおとりになってばっかりだけど、今回狼は仲間だ。
「狐!」
「近くに殿下が!」
オレに気付いた騎士たちから、声があがっている。もうすぐ王子様が合流すると分かったのだろう。とりあえず魔物は連れていくから、怪我人の治療をしてね。あと、思わず殿下って呼んだのは聞かなかったことにしておいてあげるよ。
魔物さんこちら~、尻尾を振ってるほうへ~。
五匹とも、ここにいる生きものの中で一番魔力量が多くて美味しそうに見えるオレを食べようと追いかけてくるので、このまま森の奥へ、ここから離れよう。蹴られるとまた空を飛んじゃうから、追いつかれないように気を付けなきゃ。
引き離しすぎると、オレのことを諦めて人間のほうに向かうんじゃないかと慎重に走っているんだけど、狼たちが周りから追い立ててくれているので、五匹ともついてきている。
騎士たちからだいぶ離れたから、そろそろいいかな。もうすぐウィオが合流するから、ウィオに攻撃をお願いしよう。
「ルジェ、狼を下がらせろ」
『キャン!(離れて!)』
狼が離れると同時に、ウィオが魔物に向かって氷の槍を降らせた。
直撃して倒れたのが二匹、怪我は負ったのものの倒れていないのが二匹、ここから逃げようとしているのが一匹。
一年前、王子様たちの前でサイもどきを倒したときは、ウィオが人類の敵になっちゃうんじゃないかと心配になるくらいの威力で槍を降らせたけど、今回は控えめだ。今回のは、水の上級魔法が使える部隊長さんでも、魔法は違っても同じくらいの威力の攻撃ができるはず。
ウィオが本気なら、サイもどきのときのようにオレが精霊に頼まなくても、五匹くらいは全て倒せるから、だいぶ手加減している。
王子様たちが騎士を連れてこっちに向かってきている音が聞こえているから、オレの加護によるとんでもない威力の魔法を見せないようにしたのだろう。
冷静だなあと感心していたら、目の端で逃げようと走り出した魔物一匹を狼たちが追いかけていくのが見えた。
『狼たちを助けに行ってくる』
「気をつけろよ」
ここはウィオと、もうすぐ到着する王子様たちに任せれば問題ないから、オレは狼の手助けに行こう。
狼を追いかけると、ボスが魔物と向き合っていた。ボスは風の魔法で攻撃し、魔物も角から雷の魔法を放って応戦している。周りの狼たちは隙を見つけては魔物の足に噛みついて、魔物はそれをすごく嫌がっている。一匹一匹は強くなくて地味でも、嫌な攻撃だよね。
『クォーン(閉じ込めたよ)』
『ウォッフ!(ありがとう)』
ここには人間はいないから、見られる心配もない。
オレの結界内に閉じ込められた魔物へ、ボスが渾身の一撃を放って、魔物はドサッと地面に倒れた。
このボス結構強いぞ。今回の手助けは必要なかったみたいだ。前のときは、子どもたちを守るために攻撃に出られなくて、やられちゃっただけだったのかも。
狼たちが倒れた魔物に近づいていくので結界を解くと、前足でちょいちょいと触って生きているか確認している。動かないから、倒せたみたいだ。
『キューンキュン?(人間を助けてくれたの?)』
『ウォーン(昨日の礼だ)』
昨日、ウィオがあの魔物を倒したから、そのお礼にわざわざ騎士たちを助けに来てくれたらしい。貸し借りはなしでいたいのかもしれないけど、義理堅いね。
お弁当は、今日はちゃんと潰れていないきれいな状態で美味しく味わうことができた。非常食の葉っぱは焼きチョモにもあって、サンチュで焼き肉を巻くようにチョモ包みを作ってもらって食べたけど、それも美味しかった。
王子様に「非常食をそこまで楽しんで食べるところを初めて見た」って言われちゃったけど、飽くなき探求心とたゆまぬ努力が、美味しいものを作るのだ。食は人生を豊かにするのだから、どんなときもチャレンジを忘れず、妥協せず、美味しいものを追い求める義務が、食いしん坊にはある。
それに、非常のときこそ、食という楽しみは大切なんだよ。
「なるほど。絶望的な状況でも、食に楽しみを見い出し、生きる気力を奮い立たせるということですね」
「……食い意地が張っているだけだと思うが」
幼馴染がきれいにまとめてくれたのに、なんで飼い主であるウィオがオレのこと悪く言うの。王子様がどう答えていいか分からなくて、周りの魔物の気配に集中しているから聞こえていませんってフリをしてるじゃない。
そんなふうに、非常時における食のもたらす効用について話しながら昨夜の夜営地へ向かって歩き、周りに生えている薬草が森の浅いところにもある珍しくない薬草ばかりになったころ、遠くから聞こえる音に気付いた。
『テントのところが襲われてる!』
「夜営地が襲われているらしい」
「走るぞ!」
戦闘の音や掛け声に交ざって、悲鳴が聞こえる。あまりいい状況じゃないみたいだ。
『先に行くね』
「ルジェ!」
分かってるよ。使役獣の範囲でしか手助けするなってことでしょう。でも、わざわざオレのお弁当を届けてくれた人たちを見捨てられないよ。自制心を持って、この先は出たとこ勝負だ。
戦闘しているところに着く直前、それまでとは違った声が聞こえた。
「こんなときに狼が!」
『ウォンウォン!』
「まさか、助けに来たのか?!」
急いで駆けつけると、昨日と同じシカの魔物五匹が騎士たちに襲いかかっていて、狼たちが魔物を攪乱するために走り回っている。立っている騎士は半分くらいしかいないけれど、ざっと見た感じでは瀕死の人はいなさそうだ。回復はウィオの指示を待つとして、まずは魔物をここから離そう。
オレのほうに興味を向かせようと魔物の前をウロチョロしていると、オレの意図を理解して、狼たちも騎士のいないほうへ魔物を誘導するように動いてくれた。
そういえば今年の食い倒れツアーの最初もこうやって、狼の魔物の興味を引くように走り回ったよね。今年はおとりになってばっかりだけど、今回狼は仲間だ。
「狐!」
「近くに殿下が!」
オレに気付いた騎士たちから、声があがっている。もうすぐ王子様が合流すると分かったのだろう。とりあえず魔物は連れていくから、怪我人の治療をしてね。あと、思わず殿下って呼んだのは聞かなかったことにしておいてあげるよ。
魔物さんこちら~、尻尾を振ってるほうへ~。
五匹とも、ここにいる生きものの中で一番魔力量が多くて美味しそうに見えるオレを食べようと追いかけてくるので、このまま森の奥へ、ここから離れよう。蹴られるとまた空を飛んじゃうから、追いつかれないように気を付けなきゃ。
引き離しすぎると、オレのことを諦めて人間のほうに向かうんじゃないかと慎重に走っているんだけど、狼たちが周りから追い立ててくれているので、五匹ともついてきている。
騎士たちからだいぶ離れたから、そろそろいいかな。もうすぐウィオが合流するから、ウィオに攻撃をお願いしよう。
「ルジェ、狼を下がらせろ」
『キャン!(離れて!)』
狼が離れると同時に、ウィオが魔物に向かって氷の槍を降らせた。
直撃して倒れたのが二匹、怪我は負ったのものの倒れていないのが二匹、ここから逃げようとしているのが一匹。
一年前、王子様たちの前でサイもどきを倒したときは、ウィオが人類の敵になっちゃうんじゃないかと心配になるくらいの威力で槍を降らせたけど、今回は控えめだ。今回のは、水の上級魔法が使える部隊長さんでも、魔法は違っても同じくらいの威力の攻撃ができるはず。
ウィオが本気なら、サイもどきのときのようにオレが精霊に頼まなくても、五匹くらいは全て倒せるから、だいぶ手加減している。
王子様たちが騎士を連れてこっちに向かってきている音が聞こえているから、オレの加護によるとんでもない威力の魔法を見せないようにしたのだろう。
冷静だなあと感心していたら、目の端で逃げようと走り出した魔物一匹を狼たちが追いかけていくのが見えた。
『狼たちを助けに行ってくる』
「気をつけろよ」
ここはウィオと、もうすぐ到着する王子様たちに任せれば問題ないから、オレは狼の手助けに行こう。
狼を追いかけると、ボスが魔物と向き合っていた。ボスは風の魔法で攻撃し、魔物も角から雷の魔法を放って応戦している。周りの狼たちは隙を見つけては魔物の足に噛みついて、魔物はそれをすごく嫌がっている。一匹一匹は強くなくて地味でも、嫌な攻撃だよね。
『クォーン(閉じ込めたよ)』
『ウォッフ!(ありがとう)』
ここには人間はいないから、見られる心配もない。
オレの結界内に閉じ込められた魔物へ、ボスが渾身の一撃を放って、魔物はドサッと地面に倒れた。
このボス結構強いぞ。今回の手助けは必要なかったみたいだ。前のときは、子どもたちを守るために攻撃に出られなくて、やられちゃっただけだったのかも。
狼たちが倒れた魔物に近づいていくので結界を解くと、前足でちょいちょいと触って生きているか確認している。動かないから、倒せたみたいだ。
『キューンキュン?(人間を助けてくれたの?)』
『ウォーン(昨日の礼だ)』
昨日、ウィオがあの魔物を倒したから、そのお礼にわざわざ騎士たちを助けに来てくれたらしい。貸し借りはなしでいたいのかもしれないけど、義理堅いね。
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