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2年目 フェゴ編

9. 宅配弁当

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 見張りは他の冒険者で担当するという言葉に甘えて、オレとウィオはぐっすりと眠った。一応オレたちのテントには結界を張っておいたけど、魔物も人も襲ってこなかった。
 さわやかな目覚めで迎えた翌朝、朝食に現れた王子様たちは、オレたちとは対照的に少し疲れた顔をしていた。遅くまで起きていたみたいだし、調整することがたくさんあって、あまり眠れなかったのかもしれない。

 オレの朝食は、市場で買った固いパンだ。前足で押さえながら、頑張ってむぎーっと引っ張らないとちぎれないけど、ちぎったものをよくかむと、もちもちしていて美味しいのだ。
 オレが固いパンと格闘しているのを、王子様を含め、周りにいる人がみんな見ているんだけど、なんか変?

「器用に食べますね」
『クーン』

 旅に出た最初のころは、食べにくいものはウィオが小さくちぎってくれていたんだけど、それだとウィオのご飯が進まない。かと言って、土の上に直接食べ物を置くのは抵抗がある。それで、お母さんが荷物に入れてくれていたマットの一つをランチョンマットとして敷いてもらって、きれいにした前足で押さえながら食べることにしたのだ。
 人の指って器用だなと、いまさらながら思う。オレの可愛い肉球は、片方だけでは押さえることはできてもつかむことができない。だから、パンをちぎるのも足と牙で頑張るしかない。

「温かいお湯は、いりますか?」
『キャン』

 ありがとう。ちょうど口の中の水分が少ないと思ってたところだったんだ。ウィオが水を出してくれたボウルにお湯をつぎ足してくれたので、ぬるま湯になってちょうどいい。ごくごく。
 王子様は自分のことは全て自分でしているので、幼馴染が気を遣ってくれるのはオレに対してだけだ。そのことを少し離れたところでご飯を食べている冒険者に扮した騎士たちが疑問に思っているから、きっと騎士であってもオレの正体を知らされていないんだろう。


 オレの鼻のお陰で、予想以上にお目当ての薬草がたくさん採れたので、今日もう一日、昨日のところよりももう少し奥まで行ったら、ここに戻ってきて、騎士たちと一緒にそのまま引き上げる予定だ。
 だったらここにテントを置いておけばいいんじゃないかと思ったんだけど、不測の事態でここに戻ってこれなかったときに困るから、重いけど持ち運ぶんだそうだ。
 ウィオとオレがいて不測の事態になることなんてないけど、人前でそういうズルはしないと決めているから仕方がない。

 朝食後、テントの片づけもして、出発の準備も終わったんだけど、幼馴染にもう少し待ってほしいと言われて待機中だ。
 やることもないので、ウィオにブラッシングをしてもらっていると、遠くからわずかに、とってもいい匂いが漂ってきた。これは、焼きチョモだ。なんで、なんで?

『キュンキューン』
「ルジェ、どうした?」
『チョモの匂いがする!』
「気のせいだろう」

 違うって。オレの鼻が好物を間違えるはずがない。これは焼きチョモだよ。ちょっと狩りに行ってくる!
 チョモの匂いに向かってダッシュしようとしたら、ウィオに抱き上げられてしまった。

「どうした? もう少しだと思うから待っていてくれ」
「ルジェがチョモの匂いがすると言っている」
「それは狐くんの今日のお昼ご飯ですよ。ここまで運ばせています」
『キューン』

 幼馴染、なんて良い人なんだ。ありがとう!
 昨日お弁当を潰してしまった悔しさが、これで浄化されるよ。ウィオが強めに抱いていなかったら、飛びついて顔をベロンベロンにしていたかも。
 待ちきれなくて、ウィオの腕の中で足が動いちゃう。エア犬かきみたいになっているのを笑われているけど、森の中で好物が目の前に出てきて、でもお預けされたらみんな同じ反応になるでしょう。

「お待たせしました。依頼の料理を持ってきました」
『キューンキュイン!』
「こら! これはダメだ。これは依頼の昼食なんだ」

 ウィオの腕から飛び出して、届けてくれた人の足元をぐるぐる回っているけど、オレに渡すまいとして、頭上に持ち上げられちゃった。

「構いません。それはその狐くんのご飯です」
「え……?」

 オレのお弁当、待ってたよー。狐のためにわざわざ食事を届けさせるなんて、信じられないのは分かるけど、本当にオレのお弁当だから、ちょうだい。必死に飛び上がっても届かなくて、そのうちうっかり宙に浮いちゃいそう。ウィオ、早く受け取って、背中に括り付けて。

「ウィオラス、運びますよ?」
「問題ない。ルジェ、これいいか? きつくないか?」
『平気。ありがとう!』
「潰すなよ」
『キャン!』

 さあ、今日もお弁当を背負って出発だ。美味しいお弁当を用意してもらったんだから、昨日以上に張り切って薬草を探さないとね。持ちきれないほど見つけるよ。

 るんたった、るんたった、ふんふ~ん。
 美味しいご飯を背負っていると、足取りも軽くなる。

 出発してしばらく歩き、周りに人の気配がなくなったところで、王子様から意外な申し出があった。

「ウィオラス、この依頼の間に知ったことを他の人に話さない、という契約魔法をかけてほしい」
「構わないが……」
「昨日のことは、父にも話すべきではないと思う」

 王子様はいずれ王様にオレのことを聞かれる。そのときに、昨日のオレのやらかしを話すべきではないと思うけれど、王様に聞かれたら隠すことはできない。だったら契約で何も話せなくしてしまうのが無難だと判断したそうだ。昨日の夜に幼馴染と話し合って決めたことらしい。
 浄化も結界もミディルの森ではオルデキアの騎士たちに見られているから、そこまで隠す必要はないと思うけど、王子様が王様とオレの間に挟まれるのも可哀想だ。
 ウィオは他国の王族に契約魔法をかけることに抵抗があったみたいだけど、本人が望むならと、パパっと契約魔法をかけた。すでに何度か行っているので、慣れたものだ。

 この依頼へ出発する前に、足の速さや嗅覚など狐としての能力以上のことはしないと約束したのに、食べ物の恨みに我を忘れたオレは、王子様たちの前で、浄化能力や高性能な結界など神獣としての能力を惜しみなく披露してしまった。
 そのことで、王子様たちも悩ませてしまった。
 失敗は誰にだってあるけど、重要なのは二度と繰り返さないことだ。
 今日はちゃんと使役獣として振る舞うぞ、と心に決めて、森の奥へ向かって歩きだした。
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