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2年目 フェゴ編
6. 狼の群れ
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王子様たちの案内で順調に森の中を進み、冒険者たちのいない辺りまで分け入ってきた。そろそろお昼ご飯にしようかと話していたときに、オレの高性能な耳が戦闘音を聞きつけた。
「ルジェ!」
『動物が魔物と戦ってる!』
いきなり走り出したオレに、ウィオが驚いて声をかけてきたけど、急いでいるから説明している時間がない。この先で動物と魔物が戦っていて、今にも負けそうだ。
ダッシュで駆け込んだ先にいたのは、満身創痍で今にも倒れそうな狼と、今にも狼を踏みつぶそうとしている大きな角を持ったシカのような魔物だった。狼って確か頂点捕食者だったと思うけど、この世界だとシカの魔物に負けてしまうのか。
狼は自分に向かってくる足を払いのけようと風の魔法を放ったけど、魔物の足にわずかに傷をつけただけで止める力はもうなかった。このままではやられてしまうと思い、とっさに狼の前に身体を滑り込ませた。
魔物の足がオレのお腹へと迫ってくるけれど、ドラゴンの角よりも硬く強化したから、痛い思いをするのは魔物のはずだ。
『グウォン!』
「ルジェ!」
あれ、オレ、空を飛んでるよ。
オレの後ろにいた狼が目の前で起きたことに驚いて吠えてから、信じられないって顔でオレを見上げている。追いかけてきたウィオが、空を飛んでいるオレを見て、遠くから呼び掛けてくれる。その後ろで王子様たちも言葉にならない悲鳴を上げている。でもオレはピューンと空を飛んでいるから返事ができない。何たる不覚。
何もできないでいるうちにオレ自身が描く放物線は着地点に近づく。だんだん近づいてくる地面をちゃんと見て、上手く着地した。と思ったら、勢いを殺しきれずにコロコロと転がってしまった。ますます不覚。
「ルジェ、大丈夫か?」
『キューン』
転がったオレのところにウィオが駆けつけてきて、抱き上げて怪我がないか確認してくれているけど、平気だよ。オレの身体は守ってたから傷はついてないんだけど、体格差を考慮していなかったから、身体が軽すぎて、サッカーボールのように蹴とばされちゃった。オレは無事だったけど、だけど。
『チョモが潰れた。あいつ、許せない。結界に閉じ込めたから攻撃して。メッタメタのギッタギタにして!』
「お怪我は?!」
「怪我はないらしい」
「よかったです。あの、あれは……?」
「ルジェの結界だ。魔法は抜けてくるので気をつけろ」
オレの結界に閉じ込められて進むことも退くことも出来ない魔物が怒って、結界にガンガン角をぶつけている。
でもこっちだって怒ってるんだ。蹴とばされたせいで、お弁当が潰れてしまったじゃないか。もう許さないぞ。
『ウィオ、お得意の氷の矢を大量に撃ち込んで、蜂の巣にしてよ。チョモの仇を取って』
「ルジェ、落ち着け」
『食べ物を粗末にするヤツに情けはいらないから、早くやっちゃって!』
ウィオの腕の中でギャンギャン騒いでいたら、口をむぎゅっと掴まれてしまった。
王子様と幼馴染の視線が、オレの口を掴んでいるウィオの手に固定されている。
「あの魔物の素材として使える部分はどこだ?」
「あ、ああ。角だ」
ウィオのオレに対するぞんざいな扱いに唖然としながらも答えてくれた王子様の返事を聞いて、ウィオが魔物の正面へと周り、氷の槍で眉間を貫いて倒した。あまりにあっけない討伐に、王子様たちは言葉を失って、倒れた魔物を凝視している。
でもオレは納得できないぞ。仇を取るためにも、もっとこう派手にやってほしかったのに。
「ルジェ、あの狼たちはいいのか?」
『そうだった。助けてくるね』
食べ物の恨みで、狼たちのことをすっかり忘れていた。あの魔物のことは後回しにして、狼たちの怪我を治してあげなきゃ。長い間戦っていたみたいで、立ち上がれない怪我をしている狼もいる。
ウィオの腕から抜け出して、オレが来たときに魔物と対峙していた狼のところへ駆け寄ると、飛ばされたときに怪我をしなかったか心配してくれた。オレは平気だよ。
『キューン?(怪我は平気?)』
『グルルル(仲間を助けてほしい)』
最後まで戦っていたこの狼は群れのボスで、このボスだけ魔法が使えるようだ。魔法が使えて仲間内で一番強いから、ボスになったんだろう。
周りで怪我をして倒れている狼たちは、魔法は使えないけど、群れを守るために戦ってやられたようだ。少し傷口が穢れているものもいる。
その後ろに庇われているのは群れの子どもたちのようだ。子犬みたいで可愛い。
とりあえずまとめて治癒をしてしまおう。
『クーンキュウーン?(まだ痛いところある?)』
『ギャフッ(ない)』
みんな無事元気になったようでよかった。ボスがお礼に首を擦りつけてくるのが、大型犬に懐かれたみたいで、ちょっと嬉しい。
話を聞いてみると、森の中の魔物の大移動で、今までいなかった魔物が現れて襲われてしまったらしい。
ドラゴンのこと、今この森で進んでいる魔物の討伐のことを説明していると、小さな子たちがオレの周りに集まってきた。
『ギャウギャウ(おいしそう)』
『ギュイン(たべたい)』
オレのことを食べたいのかと思ったけど、そうじゃなくて、オレの背中のチョモの匂いに惹かれているらしい。
これはダメ。人間の食べ物は食べちゃいけません。
匂いが漏れないように結界を張ったところで気づいた。最初からそうしていれば、潰されることもなかったことに。オレ、ここのところ失敗しすぎだ。さすがに落ち込んじゃう。
「匂いがしなくなったよ?」と言いながら、オレの身体をグシグシと舐める子狼たちは、この春に生まれた子たちかな。すでにオレより大きいけど、頭と足のバランスがまだ子どもで可愛い。記憶の中の匂いを味わいながら、オレの毛を舐めまわしている無邪気さに、落ち込んだ気持ちが癒されていく。
失敗することもあるよね。次にしなければいいんだよね。よし、落ち込むのは終わり。チョモは潰れたけど、食べられなくなったわけじゃない。
気を取り直してウィオを探すと、魔物の角を外し終わって、王子様たちと一緒にこちらを見ていた。えへん。もふもふ団子、羨ましいでしょう。
「狐くん、怪我は平気かな?」
『キャン』
「この魔物を燃やしたいんだが、あの狼に影響はないかな?」
さすがに群れの住処のすぐ前で燃やされるのは嫌だろうから、オレが浄化しよう。そうしたら、狼たちが邪魔にならないところへひきずって移動させるでしょう。
「ルジェ!」
『動物が魔物と戦ってる!』
いきなり走り出したオレに、ウィオが驚いて声をかけてきたけど、急いでいるから説明している時間がない。この先で動物と魔物が戦っていて、今にも負けそうだ。
ダッシュで駆け込んだ先にいたのは、満身創痍で今にも倒れそうな狼と、今にも狼を踏みつぶそうとしている大きな角を持ったシカのような魔物だった。狼って確か頂点捕食者だったと思うけど、この世界だとシカの魔物に負けてしまうのか。
狼は自分に向かってくる足を払いのけようと風の魔法を放ったけど、魔物の足にわずかに傷をつけただけで止める力はもうなかった。このままではやられてしまうと思い、とっさに狼の前に身体を滑り込ませた。
魔物の足がオレのお腹へと迫ってくるけれど、ドラゴンの角よりも硬く強化したから、痛い思いをするのは魔物のはずだ。
『グウォン!』
「ルジェ!」
あれ、オレ、空を飛んでるよ。
オレの後ろにいた狼が目の前で起きたことに驚いて吠えてから、信じられないって顔でオレを見上げている。追いかけてきたウィオが、空を飛んでいるオレを見て、遠くから呼び掛けてくれる。その後ろで王子様たちも言葉にならない悲鳴を上げている。でもオレはピューンと空を飛んでいるから返事ができない。何たる不覚。
何もできないでいるうちにオレ自身が描く放物線は着地点に近づく。だんだん近づいてくる地面をちゃんと見て、上手く着地した。と思ったら、勢いを殺しきれずにコロコロと転がってしまった。ますます不覚。
「ルジェ、大丈夫か?」
『キューン』
転がったオレのところにウィオが駆けつけてきて、抱き上げて怪我がないか確認してくれているけど、平気だよ。オレの身体は守ってたから傷はついてないんだけど、体格差を考慮していなかったから、身体が軽すぎて、サッカーボールのように蹴とばされちゃった。オレは無事だったけど、だけど。
『チョモが潰れた。あいつ、許せない。結界に閉じ込めたから攻撃して。メッタメタのギッタギタにして!』
「お怪我は?!」
「怪我はないらしい」
「よかったです。あの、あれは……?」
「ルジェの結界だ。魔法は抜けてくるので気をつけろ」
オレの結界に閉じ込められて進むことも退くことも出来ない魔物が怒って、結界にガンガン角をぶつけている。
でもこっちだって怒ってるんだ。蹴とばされたせいで、お弁当が潰れてしまったじゃないか。もう許さないぞ。
『ウィオ、お得意の氷の矢を大量に撃ち込んで、蜂の巣にしてよ。チョモの仇を取って』
「ルジェ、落ち着け」
『食べ物を粗末にするヤツに情けはいらないから、早くやっちゃって!』
ウィオの腕の中でギャンギャン騒いでいたら、口をむぎゅっと掴まれてしまった。
王子様と幼馴染の視線が、オレの口を掴んでいるウィオの手に固定されている。
「あの魔物の素材として使える部分はどこだ?」
「あ、ああ。角だ」
ウィオのオレに対するぞんざいな扱いに唖然としながらも答えてくれた王子様の返事を聞いて、ウィオが魔物の正面へと周り、氷の槍で眉間を貫いて倒した。あまりにあっけない討伐に、王子様たちは言葉を失って、倒れた魔物を凝視している。
でもオレは納得できないぞ。仇を取るためにも、もっとこう派手にやってほしかったのに。
「ルジェ、あの狼たちはいいのか?」
『そうだった。助けてくるね』
食べ物の恨みで、狼たちのことをすっかり忘れていた。あの魔物のことは後回しにして、狼たちの怪我を治してあげなきゃ。長い間戦っていたみたいで、立ち上がれない怪我をしている狼もいる。
ウィオの腕から抜け出して、オレが来たときに魔物と対峙していた狼のところへ駆け寄ると、飛ばされたときに怪我をしなかったか心配してくれた。オレは平気だよ。
『キューン?(怪我は平気?)』
『グルルル(仲間を助けてほしい)』
最後まで戦っていたこの狼は群れのボスで、このボスだけ魔法が使えるようだ。魔法が使えて仲間内で一番強いから、ボスになったんだろう。
周りで怪我をして倒れている狼たちは、魔法は使えないけど、群れを守るために戦ってやられたようだ。少し傷口が穢れているものもいる。
その後ろに庇われているのは群れの子どもたちのようだ。子犬みたいで可愛い。
とりあえずまとめて治癒をしてしまおう。
『クーンキュウーン?(まだ痛いところある?)』
『ギャフッ(ない)』
みんな無事元気になったようでよかった。ボスがお礼に首を擦りつけてくるのが、大型犬に懐かれたみたいで、ちょっと嬉しい。
話を聞いてみると、森の中の魔物の大移動で、今までいなかった魔物が現れて襲われてしまったらしい。
ドラゴンのこと、今この森で進んでいる魔物の討伐のことを説明していると、小さな子たちがオレの周りに集まってきた。
『ギャウギャウ(おいしそう)』
『ギュイン(たべたい)』
オレのことを食べたいのかと思ったけど、そうじゃなくて、オレの背中のチョモの匂いに惹かれているらしい。
これはダメ。人間の食べ物は食べちゃいけません。
匂いが漏れないように結界を張ったところで気づいた。最初からそうしていれば、潰されることもなかったことに。オレ、ここのところ失敗しすぎだ。さすがに落ち込んじゃう。
「匂いがしなくなったよ?」と言いながら、オレの身体をグシグシと舐める子狼たちは、この春に生まれた子たちかな。すでにオレより大きいけど、頭と足のバランスがまだ子どもで可愛い。記憶の中の匂いを味わいながら、オレの毛を舐めまわしている無邪気さに、落ち込んだ気持ちが癒されていく。
失敗することもあるよね。次にしなければいいんだよね。よし、落ち込むのは終わり。チョモは潰れたけど、食べられなくなったわけじゃない。
気を取り直してウィオを探すと、魔物の角を外し終わって、王子様たちと一緒にこちらを見ていた。えへん。もふもふ団子、羨ましいでしょう。
「狐くん、怪我は平気かな?」
『キャン』
「この魔物を燃やしたいんだが、あの狼に影響はないかな?」
さすがに群れの住処のすぐ前で燃やされるのは嫌だろうから、オレが浄化しよう。そうしたら、狼たちが邪魔にならないところへひきずって移動させるでしょう。
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