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2年目 フェゴ編

3. 王子様と近況報告

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 王子様のお誘いに応じてお部屋にお邪魔すると、今回は幼馴染も一緒に部屋に入ってきた。

「トリスは、その、存じ上げております」

 王子様が小さな声でウィオではなく、オレに話しかけてきた。今日はあの消音の魔法陣を出さないから、冒険者モードでいいらしい。オレもそのほうが気が楽でいい。
 幼馴染を見ると頭を下げられたから、尻尾を振り返してあげた。チョモマップはこの幼馴染が情報を集めて作ってくれたらしい。ありがとう。

「国境では悪かった」
「いや、こちらも十分怪しいことは分かっている。引き返してもよかったんだが、ルジェが、後で知れて問題になると彼らに悪いから連絡しようと」
「……お気遣いに感謝します」

 気にしなくていいって。オレが人間の決めたルールに従う必要はないけど、前世で法令順守を叩き込まれていたから、国境の係の人たちの事情はよく分かるよ。

「魔物の討伐だが、ひとまず落ち着いた。タイロンとの国境近くの森から突然大量の魔物が出てきたので、一時この辺りは大騒動だったんだ」
「ドラゴンのせいか」
「おそらくは。ドラゴンが現れたという噂が伝わって、タイロンへと向かう冒険者が集まっていたので、なんとか討伐できたんだが」

 魔物たちがパニックになって、森から出てきたらしい。魔物には街や人を襲う意図はなさそうだったけれど、その逃げ道上にあった街は、突然の魔物の襲撃を受けることになってしまった。それがここより一つ王都側の街らしい。
 人の住むところに出てきた魔物はすでに全て討伐されていたけれど、森の中のパワーバランスが変わったために、本来なら強い魔物がいないはずの森の浅い場所に強い魔物がいて、森に入れなくなってしまった。それで、森に近いこの街を拠点にして、森の浅いところにいる強い魔物の討伐を進めていたそうだ。ひとまず落ち着いたと言っても、まだ普通の人や初心者ランクの冒険者の立ち入りは禁止している。

 ドラゴンが飛んできたのはオレのせいでもあるので、ちょっと責任を感じる。
 気付くと、ウィオだけじゃなく、王子様たちもオレを見ている。何で? やっぱりオレの責任だと思ってる?
 王子様の視線に首をかしげると、咳ばらいをしてから視線を外した。

 でも、人の噂よりも魔物が逃げ出すほうが遅いって、どういうこと?

「実際に魔物が現れたのはいつなんだ?」
「ドラゴンの噂が伝わってから、十日後くらいか。その間に森の勢力図に変化があったんだろう」

 冒険者ギルドは、強い魔物がドラゴンの気配に驚いて動いたせいで、自分より強い魔物から逃げようとする魔物がドミノ倒しのように動いて、森から溢れたんじゃないかと睨んでいるそうだ。
 ボスの引っ越しに伴って、配下が順々に前の住人を追い出して引っ越して、森にいられなくなった魔物が人の街に出てきたってこと? それに十日もかかるのかな。
 あれ? 約十日後って、もしかして、もしかして、オレがドラゴンに送ってもらった日じゃない? 送ってもらったのって、フェゴに近いところを流れている川の河原だったよね。これは、もしかしなくても、やらかした?

 ウィオも何かを案じる表情をしているから、日付の一致に気付いたのかもしれない。
 とりあえず、ウィオの首に巻き付いて、誤魔化そう。
 気のせいだよ。きっと気のせいだよね。気のせいだって誰か言って。

「ところで、タイロンから来たんだよな……?」
「ドラゴンの伝説がある村に行ったら、ドラゴンが飛んできた」
「やはり、そうか……。その、これは聞いていいのか分からないんだが、ドラゴンは何をしに?」
「今回は、ルジェに会いに来ただけだ」

 ドラゴンはオレに会いたかっただけだから、人間に対して何かをするつもりはない。もちろん人間が手を出せば、その先はわからないけど。
 王子様はそれを聞いて安堵のため息を漏らした。ドラゴンが住むのは、タイロンでもどちらかというとフェゴに近いところだから、心配なんだろう。といっても、ドラゴンにとっては人間の国一つなんて、大した距離じゃないと思うけどね。
 でもまあ、あのインドア派のドラゴンは、自分の住処を脅かされなければ、撃って出るタイプじゃないと思うけど、そこまで教えてあげる義理はない。

「ウィオラスもドラゴンに会ったんだよな? どれくらいの大きさだったんだ?」
「一踏みで人間は潰されるくらいだ」
「魔法は見たか? 爪は鋭いのか?」

 王子様は、それまでの国に影響があるかどうかを心配する表情とは打って変わって、少年のように目を輝かせてドラゴンの話を聞いている。幼馴染も興味津々という表情を隠さずに聞いているし、やっぱりドラゴンって憧れるものなのか。会いたいと言ったオレも人のことは言えないけど。

「ドラゴンを褒めると、ルジェが拗ねる」
『ギャウッ!』

 ちょっと、恥ずかしいことばらさないでよ!
 それを聞いて、そんな驚いた表情でこっち見ないでよ!

「き、狐くんは、可愛いよ……?」
『クーン』

 そんな取り繕うように言われてもね。ドラゴンのほうがカッコいいと思っているのが、バレバレだ。
 もういい、いじけてやる。ウィオのお腹に頭突き攻撃だ。オレの恥ずかしいことをばらすなんて、それでも相棒なの? ひどいよ。

「ルジェ、やめろ」
「狐くんは、可愛いだけではありませんよ。今日のスカーフはウィオラス殿とお揃いで素敵ですね。使役獣としての活躍は、この国にも伝わってきていますよ」

 幼馴染、よく分かってる! そうだよ、オレは可愛いだけじゃなくて、優秀な使役獣なんだよ。褒めてくれたから、王子様の無礼は幼馴染に免じて許してあげよう。
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