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2年目 フェゴ編
1. ドラゴンの影響
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ただいま、フェゴの国境で荷物チェックを受けているけど、係の人がオレたちの荷物を見て、首をかしげている。
「この箱の中はなんだ?」
「タイロンで採取した珍しい薬草なので、オルデキアに持って帰る予定だ」
「こっちは? 商人でもないのに、なぜこんなに布があるんだ?」
「オルデキアから持ってきた、使役獣の服だ」
「使役獣の服?」
今までは冒険者ギルドの上級ランクのカードを見せたら荷物チェックされたこともなかったのに、こんな厳しいチェックは初めてだ。
聞いてみると、アチェーリの闇オークションにフェゴの貴族が関わっていて、動物たちがフェゴにも運ばれていたので、こうして馬車の荷物は全てチェックしているらしい。特に冒険者と商人はチェックが厳しいようで、オレたちの馬車の他にも、商人の荷物も確認している。
街道を外れたところなら、国境は越え放題なんだけど、馬車が走るために整備された道はこの辺りではここしかない。
そんな中、オレたちの馬車の荷物が怪しすぎて、通してもらえないのだ。
使役獣がいて、さらに冒険者にしては運んでいる荷物の一貫性がなくて、しかも高級なものが多いために、盗難したものの密輸を疑われているらしい。オレの服が衣装ケース一つくらいはあるんだけど、それも疑惑をさらに強めてしまっている。冒険者なのに、使役獣のための見栄えのいい服をたくさんもっているって、確かに普通じゃないよねえ。捕まえた動物をオークションに出すときに着せる服だと思われても仕方がない気がする。
お父さんから持たされている、侯爵家の身分を証明する書状も見せたんだけど、いくらでも偽造できると信じてもらえなかった。近くの国とはいえ隣り合っていないので、フェゴではウィオの知名度はほとんどないらしい。
アチェーリの闇オークションの摘発に協力した冒険者だと言っても、アチェーリのギルドからそういう連絡が来ていないので、確かめるまでには時間がかかると取り合ってもらえない。貴族の知り合いだとか言って通してもらおうとする冒険者が多すぎて、怪しい人間は全て追い返すことにしているようだ。
『ねえ、ウィオ、もしかして袖の下を要求されてる?』
「袖の下?」
『賄賂。お金』
「それはないと思う。そういう国もあるが、フェゴの噂は聞いたことがない」
ということは、正攻法しかダメってことだ。とっても怪しい荷物を積んだ、怪しい冒険者のオレたちは、フェゴに入国できない気がしてきたぞ。
タイロンとマトゥオーソの間には山脈があるため、フェゴに入国できないと、来た道を引き返してオルデキアに戻るしかない。そうすると、マトゥオーソの美食の街ガストーに着く前に冬になってしまう。
美味しいご飯にたどり着けないなんて、これは由々しき事態だ。監視付きでもいいから、フェゴを通り抜けさせてほしいなあ。
『王子様に連絡してもらって、入れてもらえないかなあ。マトゥオーソまで一緒に移動してもいいから』
「それは、通してもらえるだろうが、大事になりそうだ」
『というか、オレたちを追い返したって後で分かったら、この人たち大丈夫かな?』
「連絡を取ってもらおう」
ウィオも彼らの将来を不安に感じたようだ。
今ある情報で判断すれば、オレが国境警備隊でも、オレたちを追い返すと思う。厳正にお仕事を遂行した結果、後で神獣を追い返したと分かって彼らがクビになったら申し訳ない。
「フェゴで活動している上級ランクのライオネルに連絡を取ってほしい」
「何……?」
「去年、この国に来たときに一緒に行動した。次に来るときには声をかけてくれと言われている」
声をかけてくれとは言われていないけど、フェゴのギルドと王子様は、オレたちの動向を注視して情報を共有しているのだから、同じようなものだろう。
反応からすると、この人は王子様の正体を知っているようだ。王子様の名前を出したことでさらに警戒されている。怪しいと思いながらも、王子様の知り合いというのは無視できなかったのか、ギルドに連絡を取ってくれることになった。これでオレたちなんか知らないと王子様が言ったら、フェゴから永久追放されそう。
王子様と連絡が取れるまで、近くで野営しよう。タイロンの街に戻ってもいいんだけど、いつ連絡が来るか分からないから、何度も確認に来るのは面倒だ。
「貴方も通れないのですか?」
「ああ。荷物が怪しいと言われた。今フェゴの知り合いの冒険者に連絡を取ってもらっている」
「我々は、荷物をすべて確認するまではダメだと言われてしまいまして」
大手の商会のようで、荷物の多さに手間取っているようだ。明らかに人が足りていないんだよね。
「この確認は、ずっとやっているのか?」
「いえ、闇オークションの摘発の情報が伝わってきてからですね。ただ、ドラゴンの噂で、この街道の行き来が急激に増えたために、手が回らなくなっているんですよ。我々もこんなに時間がかかるのは初めてです」
フェゴで長く活動している商会のようで、ここ最近の変化についていろいろ教えてくれた。そうか、ドラゴン会いたさに人が増えているから、混乱に便乗して怪しいものが持ち込まれないようにチェックが余計に厳しくなっているし、そのせいで人が足りなくて時間がかかってしまっているのか。
「今フェゴ国内では、魔物の活動が活発になっているという情報もあります。冒険者としては稼ぎ時でしょうね」
「活発に? なぜだ?」
「ドラゴンに刺激されたと聞いていますが、私もフェゴにいませんでしたので詳しいことは分かりません」
ドラゴンが魔力も抑えずに山から動いたから、周りの魔物がビビって逃げようとしているんだろう。あの山には強い魔物はいないから、それよりも山の周辺にいて、ドラゴンの存在に慣れていない強い魔物が影響を受けているのかもしれない。
商人がウィオに声をかけてきたのは、あわよくば一緒に移動して護衛を増やしたいという思いがあるからだ。おそらく係の人とのやりとりで上級ランクだと言っていたのが聞こえたのだ。それで惜しみなく情報をくれたのだろうけど、その情報でますますオレたちは国境を越えられない気がしてきた。魔物が活発になっているなら、上級ランクの冒険者でもある王子様は忙しくしているだろうから、連絡が取れない気がする。
「ところで、ドラゴンはご覧になりましたか?」
「いや、見ていない」
「我々もです。噂では、ドラゴンはいたずら好きの狐を捕まえるために現れたのだと聞きましたよ。その使役獣も狐ですよね? ここに来たりしませんよね?」
え、そういう噂になってるの?
でも、オレはお利口な狐だよ。確かにちょっとドラゴンに対する態度は悪かったけど、意地悪したことは反省して、あの後ちゃんと謝って和解できた。再度会いにきたオレに感激したドラゴンの涙で、滝が出来そうになってたけど。
商人さんも冗談めかして言っているので、本気にはしていなさそうだけど、ここはしっかりお利口アピールをしておこう。
「この箱の中はなんだ?」
「タイロンで採取した珍しい薬草なので、オルデキアに持って帰る予定だ」
「こっちは? 商人でもないのに、なぜこんなに布があるんだ?」
「オルデキアから持ってきた、使役獣の服だ」
「使役獣の服?」
今までは冒険者ギルドの上級ランクのカードを見せたら荷物チェックされたこともなかったのに、こんな厳しいチェックは初めてだ。
聞いてみると、アチェーリの闇オークションにフェゴの貴族が関わっていて、動物たちがフェゴにも運ばれていたので、こうして馬車の荷物は全てチェックしているらしい。特に冒険者と商人はチェックが厳しいようで、オレたちの馬車の他にも、商人の荷物も確認している。
街道を外れたところなら、国境は越え放題なんだけど、馬車が走るために整備された道はこの辺りではここしかない。
そんな中、オレたちの馬車の荷物が怪しすぎて、通してもらえないのだ。
使役獣がいて、さらに冒険者にしては運んでいる荷物の一貫性がなくて、しかも高級なものが多いために、盗難したものの密輸を疑われているらしい。オレの服が衣装ケース一つくらいはあるんだけど、それも疑惑をさらに強めてしまっている。冒険者なのに、使役獣のための見栄えのいい服をたくさんもっているって、確かに普通じゃないよねえ。捕まえた動物をオークションに出すときに着せる服だと思われても仕方がない気がする。
お父さんから持たされている、侯爵家の身分を証明する書状も見せたんだけど、いくらでも偽造できると信じてもらえなかった。近くの国とはいえ隣り合っていないので、フェゴではウィオの知名度はほとんどないらしい。
アチェーリの闇オークションの摘発に協力した冒険者だと言っても、アチェーリのギルドからそういう連絡が来ていないので、確かめるまでには時間がかかると取り合ってもらえない。貴族の知り合いだとか言って通してもらおうとする冒険者が多すぎて、怪しい人間は全て追い返すことにしているようだ。
『ねえ、ウィオ、もしかして袖の下を要求されてる?』
「袖の下?」
『賄賂。お金』
「それはないと思う。そういう国もあるが、フェゴの噂は聞いたことがない」
ということは、正攻法しかダメってことだ。とっても怪しい荷物を積んだ、怪しい冒険者のオレたちは、フェゴに入国できない気がしてきたぞ。
タイロンとマトゥオーソの間には山脈があるため、フェゴに入国できないと、来た道を引き返してオルデキアに戻るしかない。そうすると、マトゥオーソの美食の街ガストーに着く前に冬になってしまう。
美味しいご飯にたどり着けないなんて、これは由々しき事態だ。監視付きでもいいから、フェゴを通り抜けさせてほしいなあ。
『王子様に連絡してもらって、入れてもらえないかなあ。マトゥオーソまで一緒に移動してもいいから』
「それは、通してもらえるだろうが、大事になりそうだ」
『というか、オレたちを追い返したって後で分かったら、この人たち大丈夫かな?』
「連絡を取ってもらおう」
ウィオも彼らの将来を不安に感じたようだ。
今ある情報で判断すれば、オレが国境警備隊でも、オレたちを追い返すと思う。厳正にお仕事を遂行した結果、後で神獣を追い返したと分かって彼らがクビになったら申し訳ない。
「フェゴで活動している上級ランクのライオネルに連絡を取ってほしい」
「何……?」
「去年、この国に来たときに一緒に行動した。次に来るときには声をかけてくれと言われている」
声をかけてくれとは言われていないけど、フェゴのギルドと王子様は、オレたちの動向を注視して情報を共有しているのだから、同じようなものだろう。
反応からすると、この人は王子様の正体を知っているようだ。王子様の名前を出したことでさらに警戒されている。怪しいと思いながらも、王子様の知り合いというのは無視できなかったのか、ギルドに連絡を取ってくれることになった。これでオレたちなんか知らないと王子様が言ったら、フェゴから永久追放されそう。
王子様と連絡が取れるまで、近くで野営しよう。タイロンの街に戻ってもいいんだけど、いつ連絡が来るか分からないから、何度も確認に来るのは面倒だ。
「貴方も通れないのですか?」
「ああ。荷物が怪しいと言われた。今フェゴの知り合いの冒険者に連絡を取ってもらっている」
「我々は、荷物をすべて確認するまではダメだと言われてしまいまして」
大手の商会のようで、荷物の多さに手間取っているようだ。明らかに人が足りていないんだよね。
「この確認は、ずっとやっているのか?」
「いえ、闇オークションの摘発の情報が伝わってきてからですね。ただ、ドラゴンの噂で、この街道の行き来が急激に増えたために、手が回らなくなっているんですよ。我々もこんなに時間がかかるのは初めてです」
フェゴで長く活動している商会のようで、ここ最近の変化についていろいろ教えてくれた。そうか、ドラゴン会いたさに人が増えているから、混乱に便乗して怪しいものが持ち込まれないようにチェックが余計に厳しくなっているし、そのせいで人が足りなくて時間がかかってしまっているのか。
「今フェゴ国内では、魔物の活動が活発になっているという情報もあります。冒険者としては稼ぎ時でしょうね」
「活発に? なぜだ?」
「ドラゴンに刺激されたと聞いていますが、私もフェゴにいませんでしたので詳しいことは分かりません」
ドラゴンが魔力も抑えずに山から動いたから、周りの魔物がビビって逃げようとしているんだろう。あの山には強い魔物はいないから、それよりも山の周辺にいて、ドラゴンの存在に慣れていない強い魔物が影響を受けているのかもしれない。
商人がウィオに声をかけてきたのは、あわよくば一緒に移動して護衛を増やしたいという思いがあるからだ。おそらく係の人とのやりとりで上級ランクだと言っていたのが聞こえたのだ。それで惜しみなく情報をくれたのだろうけど、その情報でますますオレたちは国境を越えられない気がしてきた。魔物が活発になっているなら、上級ランクの冒険者でもある王子様は忙しくしているだろうから、連絡が取れない気がする。
「ところで、ドラゴンはご覧になりましたか?」
「いや、見ていない」
「我々もです。噂では、ドラゴンはいたずら好きの狐を捕まえるために現れたのだと聞きましたよ。その使役獣も狐ですよね? ここに来たりしませんよね?」
え、そういう噂になってるの?
でも、オレはお利口な狐だよ。確かにちょっとドラゴンに対する態度は悪かったけど、意地悪したことは反省して、あの後ちゃんと謝って和解できた。再度会いにきたオレに感激したドラゴンの涙で、滝が出来そうになってたけど。
商人さんも冗談めかして言っているので、本気にはしていなさそうだけど、ここはしっかりお利口アピールをしておこう。
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