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2年目 タイロン編
11. ドラゴンを訪ねて
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もうドラゴンに会いたいっていうオレの希望は叶ったので、会いに行かなくてもいいんだけど、約束は守らないといけない。
『山に行くの、面倒だよね。オレだけ行ってこようか?』
「ルジェ、出来れば、私ももう一度会いたい」
ドラゴンに会いたいのはオレのワガママだと思ってたんだけど、ウィオも会いたいと思ってくれていたとは気づかなかった。楽しみにしてたのなら、さっさと追い返しちゃって申し訳ない。
一緒にもう一度会いに行こう。何か欲しい素材でもあるのかな。
ということで、再度村人に道を聞いているけど、今度は教えてくれそうだ。
ドラゴンと話をしていた狐ってことで、村人たちのオレたちを見る視線が変わった。ドラゴンの声もオレの声も、人には意味をなさない鳴き声としてしか聞こえていなくても、ドラゴンと狐が向かい合って何か会話をしていたのは分かっただろう。
それにウィオが子どもたちの安全を確保したことで、村人たちの信頼を勝ち得たようだ。
「ドラゴン様に会いに行くのか?」
「使役獣が遊びに来るように誘われた」
「生贄か? 捧げないとこの村が危ないのか?」
「違う。使役獣のルジェに、興味を惹かれてやってきたようだ」
いやいや、今のウィオの話聞いてた? 生贄じゃないってば。なんで物騒なことばっかり言うの。こんな可愛い狐を生贄になんかしたら、可哀想でしょう。
ドラゴンがこの村に来たのはオレに会うためで、オレたちを住処に招いて帰って行ったから、この村や人間に危害を加えるつもりはなかったと、ウィオが説明している。
「じゃあつまり、その狐に会いにいらっしゃたが、村の混乱を見てお帰りになったということか」
「そうだ」
「やはり守り神様じゃったのか。ありがたや、ありがたや」
「でも、なんでその狐なんだ?」
「珍しい雪の魔法を使うからだ」
すごい。ウィオが嘘を混ぜながら、辻褄を合わせて説明している。
村人たちは、ウィオの迷いのない簡潔な説明を聞いて、突然のドラゴン襲来の理由に納得し、この村に影響がないと分かって安心してくれた。
ウィオは一応貴族出身だから、こういうのは必修科目として子どものころから鍛えられていそうだけど、見るのは初めてだ。やればできる子だったらしい。
「このことは伏せていてほしい。でないと私の使役獣が狙われてしまう」
「分かったが、役人に聞かれたら、話すぞ?」
「それは構わない」
ドラゴンが現れたとなれば、何が起きたのか調査に来るだろう。
それに伏せてもらったところで、人の口に戸は立てられない。いずれ広がるだろうな。
それもこれも、あのドラゴンが勝手に会いに来たりするからだ。あんな大きなサイズじゃ隠密行動も出来ないんだから、もうちょっと考えてほしいよね。
「ドラゴンが現れたことは、すぐに知れ渡るだろうな」
『この国にいるお兄さんに知らせておいたほうがいいかな? この村が巻き込まれちゃうよね』
「そうだな。ルジェに会いに現れただけだと伝えてもらうか」
村人にギルドへの手紙を預けておいて、その中にこの国の統括ギルド長とお兄さんへの手紙を入れておけば、届けてくれるだろう。
あのギルドでいろいろ教えてくれた冒険者さんが、オレが食べられちゃったんじゃないかと心配してくれそうだ。でも大っぴらにドラゴンに会ったなんて言ったら、あれこれ質問攻めにあいそうだから、山を降りたらさっさとこの国を離れよう。
今年はなんだか逃げ出してばかりだ。
山の道も聞きだして、簡単な地図も出来たので、人が集まってくる前に村を出発することにした。あの巨体は村の外からでも見えているだろうから、人が来るのも時間の問題だ。
それにのんびりしていると、ドラゴンがいる山の往復だけで夏が終わって秋に入りそうだ。
お馬さんと馬車は、村で預かってもらうことにした。臨時収入だと喜んでもらえたので、きっと村のお馬さんたちと一緒に面倒を見てもらえるだろう。
地図を頼りに進んでいると、村から少し離れただけで道は分かりづらくなって、村人に教えてもらった目印だけが頼りになってしまった。村人が迷わないように、木に印の布が巻き付けられている。
狩りや薬草採取以外ではほとんど山には入らないと言っていたから、人があまり通らないために、道が消えそうになっている。こういう道なき道を進んでいくって、冒険って感じでワクワクするよね。
「ルジェ、目印を見失った」
『うーん、薄く人の匂いが残ってるから、こっち』
夏になって勢いを増した草に道が消されているので、草をかき分けながら進んでいる。オレよりも背の高い草だから、進むのが大変だ。
『少し休憩する?』
「そうだな。ルジェ、毛が緑になってるぞ」
『ドラゴンのところまでこれが続くのはしんどいね』
「この山を越えるのに十日かかると村人が言っていたが、その先も大変そうだ」
草に突入して道を切り開いていたから、毛に草の汁がついちゃったらしい。
今いる山のさらに奥の山にドラゴンの住処がありそうなので、まずはこの山を越えて、人間のいる村の方向から見て山陰に入ったら、対策を考えよう。
けれど、山の中で二泊したあたりで村の人に教えてもらった道も分からなくなってしまった。
今は、頂上を目指して歩きやすいところを歩いている。
周りにたくさん匂いを覚えた薬草が生えているけど、今採っても持って帰れない。もったいないなあ。
『ウィオ、疲れてない? 嫌じゃない?』
「平気だ。この森は少し変わっているから、見ていると面白い」
『ウィオが楽しんでいるなら、よかった』
「ルジェがいてくれるなら危険はないしな。ありがとう」
不思議植物がたくさんある山だから、あまり見ない大きさの葉っぱとか変わった色の花とか、見ていて飽きない。
冒険を気軽に楽しめるのは、決して命の危険がないと分かっているからだ。確かにこの山の中で遭難しようと、オレは何とでもできる。じゃないと、ウィオを連れてきたりはしない。
そういう意味ではズルをしているけど、これくらいは許して。誰に謝っているのかよく分からないけど、いざとなるまではチートは使わないから。
「春に山に入った冒険者たちは、諦めて引き返したんだろう。十分な水と食料を持ってはこの山を越えられない」
『お水が出せるって、こういう時に便利だね』
「騎士団では、部隊からはぐれたら水魔法が使えるものから離れるな、と言われる」
『じゃあ、ウィオが一人になることはないね。みんながついてきちゃう』
そういう事態に陥ったことはないらしいけど、遭難したときは水が一番大切だよね。
オレたちは出発してからまだ川や沢といった水が流れるところを見ていない。村人も教えてくれなかったんだけど、必要ないからオレたちも聞かなかった。もしかしたら水場が荒らされないように隠しているのかもしれない。
春にドラゴンを探しに行って帰っていない人たちは、遭難する前に諦めて逃げ出していると信じよう。
『山に行くの、面倒だよね。オレだけ行ってこようか?』
「ルジェ、出来れば、私ももう一度会いたい」
ドラゴンに会いたいのはオレのワガママだと思ってたんだけど、ウィオも会いたいと思ってくれていたとは気づかなかった。楽しみにしてたのなら、さっさと追い返しちゃって申し訳ない。
一緒にもう一度会いに行こう。何か欲しい素材でもあるのかな。
ということで、再度村人に道を聞いているけど、今度は教えてくれそうだ。
ドラゴンと話をしていた狐ってことで、村人たちのオレたちを見る視線が変わった。ドラゴンの声もオレの声も、人には意味をなさない鳴き声としてしか聞こえていなくても、ドラゴンと狐が向かい合って何か会話をしていたのは分かっただろう。
それにウィオが子どもたちの安全を確保したことで、村人たちの信頼を勝ち得たようだ。
「ドラゴン様に会いに行くのか?」
「使役獣が遊びに来るように誘われた」
「生贄か? 捧げないとこの村が危ないのか?」
「違う。使役獣のルジェに、興味を惹かれてやってきたようだ」
いやいや、今のウィオの話聞いてた? 生贄じゃないってば。なんで物騒なことばっかり言うの。こんな可愛い狐を生贄になんかしたら、可哀想でしょう。
ドラゴンがこの村に来たのはオレに会うためで、オレたちを住処に招いて帰って行ったから、この村や人間に危害を加えるつもりはなかったと、ウィオが説明している。
「じゃあつまり、その狐に会いにいらっしゃたが、村の混乱を見てお帰りになったということか」
「そうだ」
「やはり守り神様じゃったのか。ありがたや、ありがたや」
「でも、なんでその狐なんだ?」
「珍しい雪の魔法を使うからだ」
すごい。ウィオが嘘を混ぜながら、辻褄を合わせて説明している。
村人たちは、ウィオの迷いのない簡潔な説明を聞いて、突然のドラゴン襲来の理由に納得し、この村に影響がないと分かって安心してくれた。
ウィオは一応貴族出身だから、こういうのは必修科目として子どものころから鍛えられていそうだけど、見るのは初めてだ。やればできる子だったらしい。
「このことは伏せていてほしい。でないと私の使役獣が狙われてしまう」
「分かったが、役人に聞かれたら、話すぞ?」
「それは構わない」
ドラゴンが現れたとなれば、何が起きたのか調査に来るだろう。
それに伏せてもらったところで、人の口に戸は立てられない。いずれ広がるだろうな。
それもこれも、あのドラゴンが勝手に会いに来たりするからだ。あんな大きなサイズじゃ隠密行動も出来ないんだから、もうちょっと考えてほしいよね。
「ドラゴンが現れたことは、すぐに知れ渡るだろうな」
『この国にいるお兄さんに知らせておいたほうがいいかな? この村が巻き込まれちゃうよね』
「そうだな。ルジェに会いに現れただけだと伝えてもらうか」
村人にギルドへの手紙を預けておいて、その中にこの国の統括ギルド長とお兄さんへの手紙を入れておけば、届けてくれるだろう。
あのギルドでいろいろ教えてくれた冒険者さんが、オレが食べられちゃったんじゃないかと心配してくれそうだ。でも大っぴらにドラゴンに会ったなんて言ったら、あれこれ質問攻めにあいそうだから、山を降りたらさっさとこの国を離れよう。
今年はなんだか逃げ出してばかりだ。
山の道も聞きだして、簡単な地図も出来たので、人が集まってくる前に村を出発することにした。あの巨体は村の外からでも見えているだろうから、人が来るのも時間の問題だ。
それにのんびりしていると、ドラゴンがいる山の往復だけで夏が終わって秋に入りそうだ。
お馬さんと馬車は、村で預かってもらうことにした。臨時収入だと喜んでもらえたので、きっと村のお馬さんたちと一緒に面倒を見てもらえるだろう。
地図を頼りに進んでいると、村から少し離れただけで道は分かりづらくなって、村人に教えてもらった目印だけが頼りになってしまった。村人が迷わないように、木に印の布が巻き付けられている。
狩りや薬草採取以外ではほとんど山には入らないと言っていたから、人があまり通らないために、道が消えそうになっている。こういう道なき道を進んでいくって、冒険って感じでワクワクするよね。
「ルジェ、目印を見失った」
『うーん、薄く人の匂いが残ってるから、こっち』
夏になって勢いを増した草に道が消されているので、草をかき分けながら進んでいる。オレよりも背の高い草だから、進むのが大変だ。
『少し休憩する?』
「そうだな。ルジェ、毛が緑になってるぞ」
『ドラゴンのところまでこれが続くのはしんどいね』
「この山を越えるのに十日かかると村人が言っていたが、その先も大変そうだ」
草に突入して道を切り開いていたから、毛に草の汁がついちゃったらしい。
今いる山のさらに奥の山にドラゴンの住処がありそうなので、まずはこの山を越えて、人間のいる村の方向から見て山陰に入ったら、対策を考えよう。
けれど、山の中で二泊したあたりで村の人に教えてもらった道も分からなくなってしまった。
今は、頂上を目指して歩きやすいところを歩いている。
周りにたくさん匂いを覚えた薬草が生えているけど、今採っても持って帰れない。もったいないなあ。
『ウィオ、疲れてない? 嫌じゃない?』
「平気だ。この森は少し変わっているから、見ていると面白い」
『ウィオが楽しんでいるなら、よかった』
「ルジェがいてくれるなら危険はないしな。ありがとう」
不思議植物がたくさんある山だから、あまり見ない大きさの葉っぱとか変わった色の花とか、見ていて飽きない。
冒険を気軽に楽しめるのは、決して命の危険がないと分かっているからだ。確かにこの山の中で遭難しようと、オレは何とでもできる。じゃないと、ウィオを連れてきたりはしない。
そういう意味ではズルをしているけど、これくらいは許して。誰に謝っているのかよく分からないけど、いざとなるまではチートは使わないから。
「春に山に入った冒険者たちは、諦めて引き返したんだろう。十分な水と食料を持ってはこの山を越えられない」
『お水が出せるって、こういう時に便利だね』
「騎士団では、部隊からはぐれたら水魔法が使えるものから離れるな、と言われる」
『じゃあ、ウィオが一人になることはないね。みんながついてきちゃう』
そういう事態に陥ったことはないらしいけど、遭難したときは水が一番大切だよね。
オレたちは出発してからまだ川や沢といった水が流れるところを見ていない。村人も教えてくれなかったんだけど、必要ないからオレたちも聞かなかった。もしかしたら水場が荒らされないように隠しているのかもしれない。
春にドラゴンを探しに行って帰っていない人たちは、遭難する前に諦めて逃げ出していると信じよう。
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