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2年目 タイロン編

4. 薬草の生育地

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 森に向けて出発だ。馬車とお馬さんはこの街で預かってもらう。
 お馬さん、美味しそうな草があったら取ってくるから、街でのんびりしててね。

 森の入り口までは、冒険者ギルドが出している乗合馬車で移動だ。お姉さんたちと一緒に待ち合わせ場所に近づくと、冒険者たちの注目を一斉に浴びた。

「嬢ちゃん、新しい男を連れてるが、親父さんは大丈夫か?」
「彼の薬草採取に同行するという依頼だ」

 木で鼻をくくるという言葉がぴったりの態度で、お姉さんが答えた。
 でも、どちらかというとお姉さまと呼びたくなるようなお姉さんを捕まえて、嬢ちゃんってどういうことだろう。それに、このお姉さんのお父さんは、娘を溺愛していることで有名なのかな。
 ウィオの肩の上で首をかしげていたら、お兄さんが「サンシャはこの街のギルド長の娘なんだよ」と教えてくれた。なるほど。ということは、お姉さんに無理やり迫った過去の男どもは、その親父さんの存在を知らずに近づいたうっかりものか、その親父さんに挑む勇者か、どっちかだな。でも結局けちょんけちょんにやっつけられちゃったに違いない。
 お姉さんの冷たい態度はいつものことなのか、冒険者たちは全く気にも留めず、今度はウィオに話を振ってきた

「銀の兄さん、その肩のは犬か?」
「狐だ」
「優秀なのか?」
「薬草を探せる」

 けれど、ウィオの返事のほうがもっと短かった。怒ってるんじゃなくて、これが普通なんだよ。見かねたお兄さんが冒険者たちの間に入って、オレたちが領都で依頼を受けて来たことなどを説明してくれている。
 何気に今回の依頼は、このお兄さんがいないと上手くいかなかった気がしてきた。これは、領都のギルドから、ウィオがコミュニケーション能力に難ありという情報が知らされているっぽい。
 代わりにオレが尻尾を振ってサービスしておこう。お利口で優秀な狐ですよー。覚えておいてね。
 オレの尻尾ふりふりに、冒険者たちが相好を崩したから、イメージ回復は成功だね。乗合馬車に乗るときに、オレの横の席が取り合いになっちゃったのは、誤算だったけど。


 馬車で森の入り口まで移動して、馬車から降りると、みんなそれぞれの方向に進んで行く。
 ほとんどの冒険者は動物を狩りに行くようで、オレたちとは進む方向が違うようだ。出発してすぐに、周りから人の気配が消えた。

「さっき領兵がいただろう。隣のアチェーリで山に住む珍しい動物たちの違法オークションが摘発されてから、ああやって見回ってるんだ。使役獣も攫われたって聞いたから、狐くんも気をつけたほうがいい」
「ああ。その摘発には少し手を貸した」

 この街にもあの誘拐事件の噂が届いているらしい。対策で領兵が見回っているらしいけど、広すぎて大変だろうなあ。
 食パンくんは元気かな。もう復帰して、飼い主さんと一緒に依頼を受けてるかな。きっと溺愛が加速して、飼い主さんが片時もそばから離さないだろうな。可愛いお尻をふりふりして、周りの冒険者の癒しになっているといいなあ。

 森の中を進んで、ちょろちょろと小川がながれるところで、お兄さんたちが立ち止まった。

「この先はしばらく水場がないから、ここで水を汲んでいく」
「水は私が出すから、必要ない」
「兄さん、いいのか? それは荷物が軽くなって有難いが」
「魔力切れは平気? はぐれた時のために最低限でいいなら楽だけど」
「問題ない」

 ウィオはもともと魔力が豊富だし、オレがいるから魔力切れにはならない。
 でも非常時のために最低限の水は持っておいた方がいいね。この山にはそんなに強い魔物もいなさそうだから、はぐれても水だけ持っていれば、生き延びれそうだ。
 はぐれたときは、オレが探し出すから任せて。本気を出せば、この山どころか周辺国のどこにいてもすぐに探し出せるよ。

 森の中を進みながら、お兄さんがこの森での面白い体験や、ヒヤッとした体験を教えてくれる。お姉さんたちにも話を振って、ときどきウィオにも旅の話をきいたりと、いい雰囲気で仕事をできるように気を回してくれている。お姉さんたちも、ウィオには警戒する必要がないと分かったのか、最初とは打って変わって友好的に接してくれるようになった。お兄さんがいてくれて、本当によかったよ。

 しばらく歩いていると、覚えのある匂いがしてきたから、ウィオの肩から降りて、自分の足と鼻で探そう。ふんふん。こっちから匂いがするぞ。ふんふん。
 見つけた。少し道を外れているけど、これくらいなら人の足でも危険はない。

『キャン』
「ルジェが薬草を見つけた」
「この辺りにあると薬師ギルドは言っていなかったから、知られていないのか」
「狐くん、本当に探せるのね。偉いねえ」

 オレが見つけた薬草は、今回の依頼のうちの一つだけど、地図によるともっと森の奥の方にあるとなっていた。この辺りにあることは、薬師ギルドが秘密にしているか、把握していないかのどちらかだ。

「これって、薬師ギルドに伝えてもいい情報か? 兄さんが独占することもできるぞ?」
「旅の途中だ。そちらでいいようにしてくれ」

 もし薬師ギルドが知らないなら、オレたちが独占するれば大儲けできる。でも、次にここに来るのがいつになるか分からないから、オレたちが独占しても意味がない。むしろお姉さんたちの秘密の狩場ならぬ採取場にして、がっぽり稼ぐことも出来そうだ。
 けれどお姉さんたちは、この情報を薬師ギルドに伝えることを選んだ。

「私たちだけしか知らないと、私たちに何かあったらその情報が消えてしまう。希少な薬草の情報は、独占すべきじゃないと私は思う」
「私たちがお金に困っていないから言えることなのかもしれないけど、薬草は誰かの命を救うかもしれないからね」

 ああそうか。ギルド長の娘だからとか、お金に困ってなさそうだからとかじゃなくて、きっとこういう人たちだから、オレたちの同行者に選ばれたのだ。
 こういう新たな生育地をオレが見つけることを、薬師ギルドも予想して、期待していたのかもしれない。そうすれば、オレたちがこの地を去っても、希少な薬草が安定して手に入れられる。
 これはまだ知られていない生育地をもっと探さないとね。薬草探知獣の有用性のアピールにもなるから、張り切っちゃうよ。

 ところでオレ、薬草マップとか作れそうじゃない? オルデキアに帰ったら、お父さんに相談しようかな。
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