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2年目 タイロン編

2. 薬草の運び方

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 匂いを覚えた貴重な薬草を探しに行こう。
 今回は、どの順路で森を回って薬草を採取するか魔女さんに予定を立ててもらった。
 どの薬草が山麓の森のどのあたりにあるのかは、薬師ギルドが集めた過去の情報から大まかには分かっている。採取してから長持ちしない薬草を最初にすると、無駄になってしまうから、最後のほうに組まれている。凍らせてもいいものは、オレの冷凍庫チートがあるからいつでも構わないんだけど、凍らせちゃいけないものは採取してなるべく早く薬師ギルドに持って届けなければいけない。そんな色々を加味して作られた、言わば魔女さん監修コースだ。

 今いる街はこの領の領都で、平野のど真ん中にある。まず森の近くの街まで馬車で移動して、そこに馬車を預け、ウィオと山の麓の森の中を移動する。予定は十日間だ。お風呂に入れないのだけが不満だけど、薬草をたくさん採ってこよう。
 ちなみに今回の採取は、トラブル防止のために薬師ギルドから冒険者ギルドへの依頼になっている。魔女さんとしては、ここまで協力したのに他のところに売られてしまったら損しかないから、保険をかけておきたい気持ちはよく分かる。

 オレたちだけだと採取した薬草を運びきれない可能性があるので、今回は荷物運びと道案内のために冒険者を雇う。オレの背中に薬草を入れる籠を括り付けたとしても、オレの身体の小ささじゃ運べる量は知れていて役に立てない。

『この前の一角獣についてきてもらったら、薬草運ぶのも楽だったかなあ』
「一角? ユニコーンか。あれを連れていたら、貴族がうるさいだろう」
『やっぱり注目を集めちゃう?』
「ああ。ユニコーンの角は万能薬になると言い伝えられているが、本当に万能薬になるのか?」
『ならないよ。あれは綺麗なだけの飾り』

 闇オークションのために捕まえられた一角獣が、移動していたら枝にぶつかるし、草を食べていたら木の根っこに引っかかるし、角は邪魔だって文句言ってた。草食だから、あの角の使い道って、高いところの果物を落とすくらいしかないらしい。地面を掘るのは足を使ったほうが早いし。
 身を守るための攻撃には使うけど、一角獣を狙うのはほとんどが人だ。角がなければ狙われないのに、狙われたら時には角がないと困るって、ちょっと悲しいね。
 人が手に入れたところで、それなりに固いから武器にはなっても、薬効は何もない。なんでそんな噂になっちゃったんだろうね。

「そうなのか。見た目が美しいから、どちらにしろ狙われてしまうだろうが」
『山も走れる頑丈な足があるから、荷物運びには最適だし、薬草探知獣として大活躍できそうなんだけどなあ』
「狙われるから、使役獣として連れ歩くのも大変だぞ」

 街の外だけじゃなく中でも狙われそうだし、宿に泊まるときに馬と一緒に預けるのもセキュリティの面で心配だ。やっぱり山で隠れ住むのが一番いいんだろう。

 荷物運びのお供がいないとなると、その土地で活動する冒険者を雇うのが一番楽だね。オレの素性がばれないように気を付ける必要が出ちゃうから、気軽には雇えないんだけど。


 山の麓の森近くの街クノンには、森での採取や狩りを生業とする冒険者がたくさんいる。領都のギルドから連絡を受けて、この街のギルドが案内と荷物運びのための冒険者を手配してくれているはずだ。まずは、冒険者ギルドに向かって、荷物運びの人たちと落ち合おう。

「私たちはシュミナとサンシャ。二人で薬草採取を専門にしている。今回は友人のシンも一緒に三人で案内する」
「ウィオラスだ。こっちはルジェ。よろしく」
「最初に言っておくが、シュミナは恋人がいる。私は冒険者は恋愛の対象外だ」
「サンシャ、君たちの美しさの前には花も霞むけど、このお兄さんならより取り見取りだろうから警戒する必要はないさ。俺はシン。よろしくな」

 おー。なんだか強烈な人たちだぞ。
 冒険者ギルドに紹介されたのは、とてもカッコいいお姉さんたちと、かなり軽い雰囲気のお兄さんだ。三人ともおしゃれだし防具も綺麗に手入れされていて、冒険者としては成功している部類だ。きっと元貴族のウィオと組むから、ギルドも気をつかってくれたんだろう。

「領都の薬師ギルドからの依頼ということで、薬草を専門にしているサンシャたちに話がいったんだ。けれど女性二人だけを兄さんに同行させるのは、どちらにとってもよくないってことで、二人の知り合いの俺も一緒に行くことになったんだ。俺には愛するハニーとエンジェルがいるからね」

 パチッとウィンクをして、ハニーとエンジェルがいかに可愛いかをのろけ始めたお兄さんは、子煩悩な愛妻家らしい。お姉さんたちが、ちょっとうんざりした顔をしている。
 うんうん、三歳になったエンジェルがパパ大好きって言ってくれるのが、何よりも幸せなんだね。そっかそっか、ハニーはお料理が上手なんだね。美味しい料理が食べられていいねえ。
 ウィオも興味なさそうだから、オレが気を遣ってあいづちを打ってあげていると、お姉さんが話を止めてくれた。

「いつものことだから、相手しなくていい。私たちはこの三年、薬草採取を専門にしている。私は剣を使う。よろしく」
「シュミナよ。よろしくね。私は風の魔法を使うけど、今回はシンとウィオラスさんがいるから、私たちは戦わずに採取に専念してよさそうね。狐くんもお願いね」
『キャン』

 お姉さんたちと一緒にいると、ギルド中から少し恨みのこもった感情で見られている気がする。ここのギルドの人気者みたいだけど、ギルドが紹介してきたってことは実力もあるはずだ。

「宿は決めているか? 決めていないなら、おススメの宿を紹介する」
「風呂はあるか?」
「この街に風呂のついた宿はない。貴族か?」
「私の使役獣が、風呂好きなんだ」

 お風呂がないのは残念だけど、仕方がない。領都に帰るまでは我慢して、清潔でご飯の美味しい宿を紹介してもらった。地元の人が一緒だと話が早くていいね。

 おススメの宿に部屋をとった後は、親睦を深めるために一緒に夕食をとることになった。地元民の案内ならきっと美味しいお店だよね。
 これから十日間近く一緒だから、お互いの譲れないことは最初に話しておかないと。

「ここだよ。クノンで一番美味しい店だよ。マイハニー、ただいま。お客さんを連れてきたよ。空いてる? 使役獣もいるけどいいかな?」
「空いてるわ。こちらのお兄さんと狐さんは初めて見る顔ね。ようこそ。サンシャちゃん、シュミナちゃん、いらっしゃい」

 ここは、お兄さんの料理上手なハニーがやっているお店らしい。ひいき目じゃないかとちょっと心配したけど、お姉さんたちが美味しいと保証してくれた。普通の家庭料理だけど、お姉さんたちもよくここで食事をするって言うから、期待が持てそうだ。
 それに、お兄さんの関係者なら、オレの味付けに関するワガママも聞いてもらえそう。
 オレのために薄味で、美味しい家庭料理お願いします!
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