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2年目 アチェーリ編
6. 食パンくんを探せ
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『ウィオ、どう思う?』
「怒りを買うのを恐れてるんじゃないか?」
やっぱりそっちだよねえ。周りに人がいるからウィオははっきり誰の怒りを買うのかは言わなかったけど、恐れているのはオレの怒りだよね。オレの正体を知っているなら、オレが攫われるなんて思わないだろうし、オレが巻き込まれることで、結果的にこの国に神罰が下ることを恐れているんだろうな。
でも食パンくんを見捨てることは出来ない。せっかくできた、おともだちだ。
「ギルド長、別室でお話できますか」
「……分かった」
ギルド長の部屋に向かうウィオの肩に飛び乗ると、ウィオのとなりを歩いているギルド長がびくっとしたのが見えた。これはオレの正体を聞かされているっぽいぞ。
部屋に入ると、ギルド長はきっちりとドアを閉めて、鍵も閉めた。
「どうぞ、オルデキアへお戻りください」
「いえ、使役獣仲間が攫われたのです。捜索に協力します」
「ですが……」
この部屋に入ってからは、ウィオに話しかける言葉は敬語だし、オレのことを必死で視界に入れないようにしているし、めちゃめちゃ恐れられてるらしい。
そんなに怯えられるとショック。オレ、怖くないよ。可愛いもふもふの狐だよ。
「冒険者と使役獣として協力します。そのことで、この国にご迷惑はおかけしません」
『キャン』
悪いことしていなかったら、何もしないから、そんなに怯えないでよ。
国が使役獣を攫っているのを必死で隠しているとかじゃないんでしょう? だったらこの国に神罰を下したりしないから。
「ですが……」
「毛刈りの依頼でリンとルジェは仲良くなりました。あくまで、使役獣として協力しますので」
ということで、オレは使役獣として協力することに決まった。この国がこんなにビビってなかったらチート能力で探してもよかったんだけど、この状態でオレの能力を披露しちゃうと、この後どういう反応をされるか分からない。大人しく可愛い飼い狐でいよう。
ギルド長の部屋を出て、待っていた冒険者たちに協力することになったと告げると、みんな一緒に探してくれることになった。
食パンくんの飼い主も一緒に行くと言っているけど、彼に今必要なのは安静だ。上級ポーションは持っているけど、食パンくんのために取っておきたいからと、自分には使っていないみたいだ。飼い主さんの怪我があんまりひどいと食パンくんが帰ってきたときに心配するよ。
「ジークはここにいろ」
「だが!」
「落ち着け。お前が死ねば、契約が解ける。そうすればリンは新たな契約主を持つことになる」
そうなんだよね。この飼い主さんが助かったのは、たまたま他の冒険者が助けに入ったからで、そうじゃなければ今ごろ食パンくんは新しい契約に縛られているはずだ。そうなったら、経緯はどうであれ正式な契約だから、助けられない。相手の狙いがよく分からない以上、食パンくんの飼い主さんは無事でいないと。
食パンくんは探すから、ここで待っていて。
「それで、どうするんだ?」
「その狐が匂いを追いかけてみるのはどうだ?」
「そうだな。まずは、襲われたところへ狐を連れて行くか」
周りの冒険者によってこの後の行動が決まっていくのを、ウィオとふたりでぼーっと見ていた。ここは地元の人にお任せしたほうがよさそうだ。襲われたのは街の外だから、そのまま別の街へと行っている可能性が高そう。でもまあ、とりあえず行ってみよう。
「ここで襲われているのを見つけたんだ」
「ルジェ、リンの匂いを追えるか?」
『キャン!』
追えるよ。追えるけど、馬車に乗せられるところまでだよね。それは去年の子どもの誘拐のときに学んだ。
ふんふん、ふんふん。こっちに向かってる。ふんふん。
飼い主さんの血の匂いはするけど、他に血の匂いはないから、食パンくんは怪我をしていないみたい。一安心。
『ここで馬車に乗ったよ』
「ここで馬車に乗せられた。この車輪の跡だろう」
「やっぱりすでに別の街に行ってるよな」
だよねえ。向こうに行ったと見せかけて、街に戻ったという可能性もあるけれど、街での食パンくんの人気はとても高いから、連れているところを見られないように、なるべく早く街から離れようとするだろう。となると、多分アチェーリの王都側に向かった可能性が高い。
「この後、どうする?」
「とりあえず、向こうの街に行ってみるか?」
「それなら、一度街に戻ってギルドに報告しないとだな」
食パンくんは毎年毛刈りの手伝いに来てくれるので、この街の冒険者たちは食パンくん救出に協力的だ。
逃げるならあの道を通るんじゃないか、とか、どこのギルドに協力を仰ごうとか、地の利を活かして捜索手順を考えている。
「なあ、その狐をオトリにしたらどうだ?」
「それは……」
『いいよ』
「ルジェ、ルジェが攫われれば、この国のギルドが責任を問われる」
『オレが協力すると言ってるんだから、何があっても文句は言わないよ』
多分あのギルド長は反対するだろうけど、ここで邪魔をされる方がオレは怒るよ。食パンくんはおともだちだから、捜索に協力するのはオレの意志であり望みだ。
それにオレが攫われてもウィオには居場所が分かるし、人間相手ならオレに危険はない。ウィオと使役獣契約しているわけじゃないけど、人がオレに使役獣契約をかけることなんてできない。
むしろオレが離れたところでウィオを襲われる方が心配だけど、まあ大丈夫でしょう。オレの加護のあるウィオが傷つけられる心配はあんまりないし、あったとしても全部放り出して助けに行くから。
「怒りを買うのを恐れてるんじゃないか?」
やっぱりそっちだよねえ。周りに人がいるからウィオははっきり誰の怒りを買うのかは言わなかったけど、恐れているのはオレの怒りだよね。オレの正体を知っているなら、オレが攫われるなんて思わないだろうし、オレが巻き込まれることで、結果的にこの国に神罰が下ることを恐れているんだろうな。
でも食パンくんを見捨てることは出来ない。せっかくできた、おともだちだ。
「ギルド長、別室でお話できますか」
「……分かった」
ギルド長の部屋に向かうウィオの肩に飛び乗ると、ウィオのとなりを歩いているギルド長がびくっとしたのが見えた。これはオレの正体を聞かされているっぽいぞ。
部屋に入ると、ギルド長はきっちりとドアを閉めて、鍵も閉めた。
「どうぞ、オルデキアへお戻りください」
「いえ、使役獣仲間が攫われたのです。捜索に協力します」
「ですが……」
この部屋に入ってからは、ウィオに話しかける言葉は敬語だし、オレのことを必死で視界に入れないようにしているし、めちゃめちゃ恐れられてるらしい。
そんなに怯えられるとショック。オレ、怖くないよ。可愛いもふもふの狐だよ。
「冒険者と使役獣として協力します。そのことで、この国にご迷惑はおかけしません」
『キャン』
悪いことしていなかったら、何もしないから、そんなに怯えないでよ。
国が使役獣を攫っているのを必死で隠しているとかじゃないんでしょう? だったらこの国に神罰を下したりしないから。
「ですが……」
「毛刈りの依頼でリンとルジェは仲良くなりました。あくまで、使役獣として協力しますので」
ということで、オレは使役獣として協力することに決まった。この国がこんなにビビってなかったらチート能力で探してもよかったんだけど、この状態でオレの能力を披露しちゃうと、この後どういう反応をされるか分からない。大人しく可愛い飼い狐でいよう。
ギルド長の部屋を出て、待っていた冒険者たちに協力することになったと告げると、みんな一緒に探してくれることになった。
食パンくんの飼い主も一緒に行くと言っているけど、彼に今必要なのは安静だ。上級ポーションは持っているけど、食パンくんのために取っておきたいからと、自分には使っていないみたいだ。飼い主さんの怪我があんまりひどいと食パンくんが帰ってきたときに心配するよ。
「ジークはここにいろ」
「だが!」
「落ち着け。お前が死ねば、契約が解ける。そうすればリンは新たな契約主を持つことになる」
そうなんだよね。この飼い主さんが助かったのは、たまたま他の冒険者が助けに入ったからで、そうじゃなければ今ごろ食パンくんは新しい契約に縛られているはずだ。そうなったら、経緯はどうであれ正式な契約だから、助けられない。相手の狙いがよく分からない以上、食パンくんの飼い主さんは無事でいないと。
食パンくんは探すから、ここで待っていて。
「それで、どうするんだ?」
「その狐が匂いを追いかけてみるのはどうだ?」
「そうだな。まずは、襲われたところへ狐を連れて行くか」
周りの冒険者によってこの後の行動が決まっていくのを、ウィオとふたりでぼーっと見ていた。ここは地元の人にお任せしたほうがよさそうだ。襲われたのは街の外だから、そのまま別の街へと行っている可能性が高そう。でもまあ、とりあえず行ってみよう。
「ここで襲われているのを見つけたんだ」
「ルジェ、リンの匂いを追えるか?」
『キャン!』
追えるよ。追えるけど、馬車に乗せられるところまでだよね。それは去年の子どもの誘拐のときに学んだ。
ふんふん、ふんふん。こっちに向かってる。ふんふん。
飼い主さんの血の匂いはするけど、他に血の匂いはないから、食パンくんは怪我をしていないみたい。一安心。
『ここで馬車に乗ったよ』
「ここで馬車に乗せられた。この車輪の跡だろう」
「やっぱりすでに別の街に行ってるよな」
だよねえ。向こうに行ったと見せかけて、街に戻ったという可能性もあるけれど、街での食パンくんの人気はとても高いから、連れているところを見られないように、なるべく早く街から離れようとするだろう。となると、多分アチェーリの王都側に向かった可能性が高い。
「この後、どうする?」
「とりあえず、向こうの街に行ってみるか?」
「それなら、一度街に戻ってギルドに報告しないとだな」
食パンくんは毎年毛刈りの手伝いに来てくれるので、この街の冒険者たちは食パンくん救出に協力的だ。
逃げるならあの道を通るんじゃないか、とか、どこのギルドに協力を仰ごうとか、地の利を活かして捜索手順を考えている。
「なあ、その狐をオトリにしたらどうだ?」
「それは……」
『いいよ』
「ルジェ、ルジェが攫われれば、この国のギルドが責任を問われる」
『オレが協力すると言ってるんだから、何があっても文句は言わないよ』
多分あのギルド長は反対するだろうけど、ここで邪魔をされる方がオレは怒るよ。食パンくんはおともだちだから、捜索に協力するのはオレの意志であり望みだ。
それにオレが攫われてもウィオには居場所が分かるし、人間相手ならオレに危険はない。ウィオと使役獣契約しているわけじゃないけど、人がオレに使役獣契約をかけることなんてできない。
むしろオレが離れたところでウィオを襲われる方が心配だけど、まあ大丈夫でしょう。オレの加護のあるウィオが傷つけられる心配はあんまりないし、あったとしても全部放り出して助けに行くから。
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