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2年目 オルデキア南部編

【閑話】オルデキア王国キュラゾの冒険者 上

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 俺はザイ。オルデキアの南部にある、キュラゾっていう田舎の小さな街で冒険者をしている。
 この街は、オルデキアの王都と南部の交易都市ナーバロを結ぶ街道沿いにあり、その街道はナーバロを越えて、隣国アチェーリにも繋がっている。小さな街だが、大きな商会の馬車も通りがかりに泊まるので、小さいなりに賑わっている街だ。

 冒険者としての依頼は、草原を越えた先にある森で魔物を狩ったり、草原で薬草を採ったりだ。この辺りには強い魔物も出ないので、難しい依頼はない。その分稼ぎも少ないので、稼ぎたい奴らはこの領の領都である二つ向こうの街に移動していくが、俺はこののんびりした街が気に入っている。大きな商会が街に泊まって宿が忙しいときは、冒険者に宿の手伝いの依頼が来るような、のどかな街だ。
 最近は、春になって森から魔物が草原に出てきているという情報があるので、街に近い草原での薬草採取の依頼くらいしか受けていなかった。
 通常は春になって活発に行き来するようになる商会の馬車も少ない。魔物の情報のせいで、冒険者をたくさん雇える大手のところくらいしか動いていないようだ。

 そんな街が騒然とすることが起きた。
 夕方、街に駆け込んできた旅人が、草原でとんでもない数のロボに追いかけられて、なんとか逃げ切ってきたというのだ。
 旅人は、一つの街に定住することなく移動している変わり者で、一応冒険者に登録しているが、本人曰くそこまで強くはないらしい。たまたま草原に入る前に、移動のために街道を歩いていた冒険者のグループを乗せたことが、彼を救った。
 その知らせが入ったギルドも大騒ぎだ。逃げ切った冒険者のグループに地元の冒険者が代わる代わる話を聞いている。

「魔法と矢でなんとか馬を守ることができたんだ。俺たちが剣しか使えないグループだったら、多分逃げ切れなかった」
「そんなにロボがいたのか?」
「ああ。見渡す限りって感じだ。冒険者稼業は長いが、あんなの初めてだ」
「ロボ以外はいなかったのか?」
「見なかったな」

 今までそんなに多くのロボが集団で草原に出てくることなどなかったのに、冬の間に、森の勢力図が大きく変わるようなことがあったのかもしれない。
 おそらく草原を通る街道は封鎖されるだろうから、この街にも、冒険者の仕事にも影響が出そうだ。

「緊急依頼になると思うか?」
「周りの街から冒険者の到着を待って一斉討伐だろうな。この街の冒険者だけじゃ、草原を逃げ回るロボの追い込みも出来ないから、行くだけ無駄だろ。この街に来たら戦うしかないが」
「だよなあ。ロボに噛まれたら、浄化が高くつくから嫌だな」

 ロボは敵わないとみるとすぐに逃げるから、討伐が難しい。素材も使えないから、冒険者は出会っても追い払って終わりだ。下手にやり合って噛まれて瘴気におかされても、教会に浄化してもらうための金はない。そうやって放置していたからこんなに増えてしまったのかもしれない。


 ロボの大量発生の知らせを受けた翌日、やることもないので、ギルドに集まって世間話だ。俺たち冒険者は、緊急依頼が出るかもしれない今の状況では、酒も飲めない。
 もしこの街にロボの集団が押し寄せてきたら、どうやって撃退するか、なんて真面目な話は、最初にちょろっとしただけで終わった。ここのギルド長は上級ランクになれると期待されながら怪我で引退した冒険者だったから、きっといい感じに指揮をとってくれるはずだ。俺たちはそれに従って戦うだけだ。

「食堂の昼飯が貧相になってた」
「もう食材を節約してんのか。昨日着いた商会が、ナーバロに引き返すって決めたらしいし、仕方ないか」
「領主様が街道封鎖を決めたから、そうなるわな」
「騎士団に派遣要請するらしいって噂もあるぞ。騎士様を間近で見てみたいなあ」

 草原はこの街から見て王都側なので、そちらの街道は封鎖されたが、ナーバロ側は封鎖されていない。だとしても、草原に近いこの街にくる商人はナーバロ側からも減るだろう。
 どれくらい長引くのかも分からないが、この街も孤立してしまうかもしれない。商人が来なくなれば、この街の周りで手に入るものだけでやっていくしかなくなる。しばらくは見慣れた野菜ばかりの食事になりそうだ。
 だけど、この街に騎士団が来るのはちょっと楽しみだ。

 そんな風にダラダラと話していたところに、知り合いの冒険者が入ってきた。

「兵士が急いで出て行った。どうやら大きな商会が今朝早くにこの街に向かって隣街を出たらしい」
「なんで門番は止めなかったんだよ」
「連絡忘れとか、なんかやべえミスしたんだろうよ。じゃなきゃ、わざわざ兵士が助けに行かないだろ」
「無事で到着してくれないと、この街の評判まで落ちるじゃないか」

 なんで昨日の連絡が入った時点で、隣街からの出発を止めなかったのか。もし何かあったら、隣街もこの街も悪しざまに言われてしまう。そうなれば、今後この街への滞在にも影響が出てしまう。立ち寄る商人たちによって潤っている街なのだから、大打撃だ。
 領からギルドに協力要請が来れば、俺たち冒険者にも救助の依頼が出るかもと、ギルドの中がざわついている。この街のためにも、いざというときは行かなければ。

 けれど次に入ってきた情報で、ギルド中は安堵し、そして湧いた。

「商会が無事に到着したぞ! 氷の騎士が同行していたらしい」
「この街に氷の騎士が来たのか?」
「兵士と一緒に残って討伐しているらしい」
「おお、だったら封鎖解除もすぐかもな」

 氷の騎士は、この国で一番有名な騎士だ。氷の上級魔法が使えるめちゃめちゃ強い騎士で、氷の騎士がいなければ数年前の魔物の大量発生は乗り切れなかったと言われている。北部にあるミディルの森の魔物が普通の数に戻ったのは、氷の騎士が住み込んで討伐していたからだという噂もある。
 最近騎士団をやめて冒険者になったという噂が流れたが、本当だったようだ。でもなんで騎士を辞めて冒険者になるのか理解できない。騎士団クビになるようなことをしたんだろうか。

「氷の騎士ってやっぱりがっちりした体格してんのかな」
「魔法使いだから、ひょろっとしてんじゃないか?」
「でも貴族だろ? 貴族のぼんぼんだったら太ってそう」
「さすがに騎士だったんだから、それはないだろ。でも貴族ってことは、話しかけたらいきなり無礼だって斬られたりするかもな」

 こんな田舎じゃ氷の騎士だけでなく騎士を実際に見たことのある奴なんていないから、噂でしか知らない。
 その日は遅くまで、氷の騎士はどんな奴かで盛り上がりながら待っていたが、氷の騎士がギルドに顔を出すことはなかった。
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