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2年目 オルデキア南部編
11. 急速冷凍
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サメもどきが水揚げされた湖に一番近い街についた。街中、魚だらけだ。
『ウィオ、この干し魚買って』
「さっき買ったのと違うのか?」
『匂いが違うから、多分違う魚だと思う』
魚には詳しくないから、銀色っぽい魚は全部美味しい魚だと思っているオレだけど、高性能の鼻は匂いの違いを感じ取れる。さっきのより、こっちのほうがちょっと香りが強い。魚が違うのか、干し方が違うのかは分からないけど、せっかくだからいろいろ食べてみたい。
街に入って馬車を預け、宿へと向かう途中なのに、誘惑が多くて困っちゃう。
商人の宿リストに載っている宿へ行くと、今までと趣の違う宿だった。今まではちょっとお高めのいい宿ばっかりだったけど、ここは民宿っぽい。でも商人が書いてるってことは、きっとおススメする理由があるはず。
「いらっしゃい。噂の氷の騎士様だね。お泊りかい?」
「しばらく泊まりたいんだが、使役獣のための料理を作ってもらえるか?」
「うちはその日水揚げされた魚を生で出すんだ。それでいいかい?」
『キャンキャンキャン!』
お刺身だー。やったー!
きっと漁師がやってる民宿、みたいなところだね。ここがいい。ここに泊まろう。ウィオ、お願い!
「おやおや、嬉しそうだね。うちは風呂もないし、本来は騎士様に泊まってもらえるような宿じゃないんだが」
「ただの冒険者だ。とりあえず三泊頼む」
やったね。お魚三昧だよ。あんまり乗り気じゃなさそうなウィオが、オレのはしゃぎっぷりに三泊すると決めてくれた。ありがとう!
この世界ではお魚は火を通して食べるものなので、生魚を敬遠する人がいるのを見越して事前に確認しているらしい。じゃあやめるって人もいるけど、熱狂的なファンもいる宿なんだって。宿リストには他の高級そうな宿も書いてくれているんだけど、せっかくだったらこっちの宿でしょう。
「魚を生で食べるのか」
『あたったら治してあげるから、安心して食べて』
「まったく安心できないな」
ウィオも生魚に及び腰だけど、大丈夫だって。どんな食中毒になっても治してあげるから。神獣の治癒だよ。平気だって。
「ルジェの食への執着心は、どこからくるんだ」
『前の世界でそう育ったからじゃないかな』
執着心じゃなくて、探求心と言ってほしいな。美味しいとなれば、どんなものであろうと取り入れちゃうところに育ったからね。美味しいものを食べるのは、人生の目的の一つだよ。
お部屋に荷物を置いて、お風呂の代わりにブラッシングしてもらって、いよいよこの世界で初めてのお刺身だ。わくわく。
オレの前には、いろんな種類のお刺身が、味付けなしで盛られている。ウィオの前にはカルパッチョっぽい料理だ。
まずは白身をいただきまーす。うん、ちょっとコリコリしていて甘い。次のはどうかな。こっちは口の中でとろけるようだ。美味しいって幸せ。
お醤油が欲しいなあ。一滴、あの香りがあれば、もっと幸せになれるのに。こんなところで大豆と麹菌の偉大さを思い知ることになるとは思わなかった。ウィオの料理に使われているハーブからシソっぽい香りがしているから、余計にお醤油が恋しくなるよ。
「意外と美味しいな」
『でしょー。新鮮なお魚じゃないといけないから、ここに来ないと食べられないけどね』
「来てよかったな」
うんうん。これぞ旅の醍醐味だよね。
冷蔵技術の発達していないこの世界では、生で食べるのは余りにも危険だから、ここでしっかり味わっていこう。
三日間、お刺身だけじゃなく、あぶったり軽く焼いたりしたお魚を存分に楽しんだ。ウィオは飽きてたかもしれないけど、オレがすっごく楽しんでいるからって付き合ってくれた。
それで、そろそろこの街にはどんな依頼があるのかなと思ってギルドに顔を出すと、なぜか職員に大歓迎された。えっと、どうしたの?
「やっと来たー! 氷の騎士様、ぜひとも受けていただきた依頼があります!」
「どんな依頼だ?」
ウィオじゃなければ相手にできない魔物でもいるのかな? 漁の邪魔になっている魔物なら張り切って倒すよ。
と思ったら、全く違う依頼だった。
「こちらの氷室に氷をお願いします。終わりましたら、隣の氷室にも」
「分かった」
この冬の気温が高かったから、お魚を保存するために使う氷が足りないらしい。そんなところに氷の騎士が来た、という噂が街中を駆け巡り、魚問屋から冒険者ギルドに、氷を作って欲しいという指名依頼が殺到したんだそうだ。
だけどギルドはウィオに対する指名依頼を受け付けないので、普通の依頼として受け付けた。といっても氷魔法が使える冒険者などほとんどいない。それで、依頼はまだ受けてもらえないのか、氷の騎士がこの街にいるうちに何とかギルドからお願いしてもらえないかと、依頼者が毎日のようにギルドに詰め寄っていた。
オレがお魚を堪能しすぎていたから、ギルドに寄るのが遅れちゃったんだ。ごめんね。
だからお詫びに、オレも雪を降らせよう。ピュー。
「おや、使役獣も氷魔法が使えるのですか」
「少しだけ雪を吹き出せる」
「可愛いですねえ」
『キャン!』
本当は少し吹き出すだけじゃなくて、この地方すべてを雪に埋めることも出来るけど、そうすると日常生活だけじゃなくて、漁も大変になりそうだからやめておこう。
「氷の騎士様、ありがとうございました。これで夏が安心して迎えられます」
「それはよかった」
「お礼にお好きな魚をどうぞ。そちらの使役獣は魚が好きだと聞きましたよ」
『だったら、お屋敷に送ろうよ!』
オレたちは宿の美味しいお刺身をたくさん食べたから、お父さんたちにも美味しいお魚を食べてもらいたい。
オレが冷凍するよ。急速冷凍すると美味しさが保たれるって冷蔵庫のコマーシャルでやってたから、ここはオレの雪チートを発揮する場面だよね。お魚を瞬時に骨までカチンコチンに凍らせちゃうよ。それで、冒険者を雇って王都まで運んでもらおう。
お屋敷に送るお魚全部をもらう訳にはいかないのでお金を払うと言ったら、代わりに割引してくれた。
美味しいお魚や珍しいお魚をたくさん選んでもらって、運ぶ用の箱に雪を吹き出して、そこにお魚を詰めて蓋を閉めた後、箱ごと瞬間冷凍させた。これで、美味しさ長持ちだ。
お屋敷のみんな、美味しいお魚が届くから待っててね。
「ピトリークが入ったら、王都のフォロン侯爵家に送ってほしい。料金は先に払っておく」
「珍しい魚ですのでお約束はできませんが、他の商会にも声をかけておきます。期限と、それまでに水揚げがなかった場合はどうしますか? 同じくらいの価値の別の魚を送りましょうか?」
「そうだな。この冬までの期限で、代わりの魚を送ってくれ」
そうだよね。とっても珍しい魚だったみたいだったから、また手に入るか分からないか。
オレの尻尾を湖に垂らしたら釣れそうな気もするけど、さすがにかわいそうだからやめておこう。
『ウィオ、この干し魚買って』
「さっき買ったのと違うのか?」
『匂いが違うから、多分違う魚だと思う』
魚には詳しくないから、銀色っぽい魚は全部美味しい魚だと思っているオレだけど、高性能の鼻は匂いの違いを感じ取れる。さっきのより、こっちのほうがちょっと香りが強い。魚が違うのか、干し方が違うのかは分からないけど、せっかくだからいろいろ食べてみたい。
街に入って馬車を預け、宿へと向かう途中なのに、誘惑が多くて困っちゃう。
商人の宿リストに載っている宿へ行くと、今までと趣の違う宿だった。今まではちょっとお高めのいい宿ばっかりだったけど、ここは民宿っぽい。でも商人が書いてるってことは、きっとおススメする理由があるはず。
「いらっしゃい。噂の氷の騎士様だね。お泊りかい?」
「しばらく泊まりたいんだが、使役獣のための料理を作ってもらえるか?」
「うちはその日水揚げされた魚を生で出すんだ。それでいいかい?」
『キャンキャンキャン!』
お刺身だー。やったー!
きっと漁師がやってる民宿、みたいなところだね。ここがいい。ここに泊まろう。ウィオ、お願い!
「おやおや、嬉しそうだね。うちは風呂もないし、本来は騎士様に泊まってもらえるような宿じゃないんだが」
「ただの冒険者だ。とりあえず三泊頼む」
やったね。お魚三昧だよ。あんまり乗り気じゃなさそうなウィオが、オレのはしゃぎっぷりに三泊すると決めてくれた。ありがとう!
この世界ではお魚は火を通して食べるものなので、生魚を敬遠する人がいるのを見越して事前に確認しているらしい。じゃあやめるって人もいるけど、熱狂的なファンもいる宿なんだって。宿リストには他の高級そうな宿も書いてくれているんだけど、せっかくだったらこっちの宿でしょう。
「魚を生で食べるのか」
『あたったら治してあげるから、安心して食べて』
「まったく安心できないな」
ウィオも生魚に及び腰だけど、大丈夫だって。どんな食中毒になっても治してあげるから。神獣の治癒だよ。平気だって。
「ルジェの食への執着心は、どこからくるんだ」
『前の世界でそう育ったからじゃないかな』
執着心じゃなくて、探求心と言ってほしいな。美味しいとなれば、どんなものであろうと取り入れちゃうところに育ったからね。美味しいものを食べるのは、人生の目的の一つだよ。
お部屋に荷物を置いて、お風呂の代わりにブラッシングしてもらって、いよいよこの世界で初めてのお刺身だ。わくわく。
オレの前には、いろんな種類のお刺身が、味付けなしで盛られている。ウィオの前にはカルパッチョっぽい料理だ。
まずは白身をいただきまーす。うん、ちょっとコリコリしていて甘い。次のはどうかな。こっちは口の中でとろけるようだ。美味しいって幸せ。
お醤油が欲しいなあ。一滴、あの香りがあれば、もっと幸せになれるのに。こんなところで大豆と麹菌の偉大さを思い知ることになるとは思わなかった。ウィオの料理に使われているハーブからシソっぽい香りがしているから、余計にお醤油が恋しくなるよ。
「意外と美味しいな」
『でしょー。新鮮なお魚じゃないといけないから、ここに来ないと食べられないけどね』
「来てよかったな」
うんうん。これぞ旅の醍醐味だよね。
冷蔵技術の発達していないこの世界では、生で食べるのは余りにも危険だから、ここでしっかり味わっていこう。
三日間、お刺身だけじゃなく、あぶったり軽く焼いたりしたお魚を存分に楽しんだ。ウィオは飽きてたかもしれないけど、オレがすっごく楽しんでいるからって付き合ってくれた。
それで、そろそろこの街にはどんな依頼があるのかなと思ってギルドに顔を出すと、なぜか職員に大歓迎された。えっと、どうしたの?
「やっと来たー! 氷の騎士様、ぜひとも受けていただきた依頼があります!」
「どんな依頼だ?」
ウィオじゃなければ相手にできない魔物でもいるのかな? 漁の邪魔になっている魔物なら張り切って倒すよ。
と思ったら、全く違う依頼だった。
「こちらの氷室に氷をお願いします。終わりましたら、隣の氷室にも」
「分かった」
この冬の気温が高かったから、お魚を保存するために使う氷が足りないらしい。そんなところに氷の騎士が来た、という噂が街中を駆け巡り、魚問屋から冒険者ギルドに、氷を作って欲しいという指名依頼が殺到したんだそうだ。
だけどギルドはウィオに対する指名依頼を受け付けないので、普通の依頼として受け付けた。といっても氷魔法が使える冒険者などほとんどいない。それで、依頼はまだ受けてもらえないのか、氷の騎士がこの街にいるうちに何とかギルドからお願いしてもらえないかと、依頼者が毎日のようにギルドに詰め寄っていた。
オレがお魚を堪能しすぎていたから、ギルドに寄るのが遅れちゃったんだ。ごめんね。
だからお詫びに、オレも雪を降らせよう。ピュー。
「おや、使役獣も氷魔法が使えるのですか」
「少しだけ雪を吹き出せる」
「可愛いですねえ」
『キャン!』
本当は少し吹き出すだけじゃなくて、この地方すべてを雪に埋めることも出来るけど、そうすると日常生活だけじゃなくて、漁も大変になりそうだからやめておこう。
「氷の騎士様、ありがとうございました。これで夏が安心して迎えられます」
「それはよかった」
「お礼にお好きな魚をどうぞ。そちらの使役獣は魚が好きだと聞きましたよ」
『だったら、お屋敷に送ろうよ!』
オレたちは宿の美味しいお刺身をたくさん食べたから、お父さんたちにも美味しいお魚を食べてもらいたい。
オレが冷凍するよ。急速冷凍すると美味しさが保たれるって冷蔵庫のコマーシャルでやってたから、ここはオレの雪チートを発揮する場面だよね。お魚を瞬時に骨までカチンコチンに凍らせちゃうよ。それで、冒険者を雇って王都まで運んでもらおう。
お屋敷に送るお魚全部をもらう訳にはいかないのでお金を払うと言ったら、代わりに割引してくれた。
美味しいお魚や珍しいお魚をたくさん選んでもらって、運ぶ用の箱に雪を吹き出して、そこにお魚を詰めて蓋を閉めた後、箱ごと瞬間冷凍させた。これで、美味しさ長持ちだ。
お屋敷のみんな、美味しいお魚が届くから待っててね。
「ピトリークが入ったら、王都のフォロン侯爵家に送ってほしい。料金は先に払っておく」
「珍しい魚ですのでお約束はできませんが、他の商会にも声をかけておきます。期限と、それまでに水揚げがなかった場合はどうしますか? 同じくらいの価値の別の魚を送りましょうか?」
「そうだな。この冬までの期限で、代わりの魚を送ってくれ」
そうだよね。とっても珍しい魚だったみたいだったから、また手に入るか分からないか。
オレの尻尾を湖に垂らしたら釣れそうな気もするけど、さすがにかわいそうだからやめておこう。
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