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2年目 オルデキア南部編
9. 訓練の狙い
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お昼休憩をはさんでずっと冒険者の訓練をしている。
「次は魔術師か。悪いが俺には分からん」
「あの、魔力が少なくて、すぐに切れてしまうのですが、何か効率の良い方法はありますか?」
「……」
魔術師さん、その質問をウィオにしても答えは返ってこないよ。オレの加護のお陰で魔力の切れないし、もともとウィオは魔力が多かったのだ。
『魔法以外でできるところを磨く、少しの魔力で同じ効果を出せるように精度を上げる、あたりじゃない?』
「魔法の精度を上げるか、剣でも戦えるようになるか、だな」
「どうやったら魔法の精度を上げられますか?」
「訓練だ」
まあそうなんだけど、その方法を聞いてるんだよ。全くもう。仕方がないから、効率よく魔法が使えるように魔力操作訓練をやるようにと、オレが助け舟を出した。
漫画の知識によると、基礎が大切ってことだから、きっとこの世界でも一緒のはずだ。オレはチートでそんなの必要ないから想像だけど。
そのアドバイスの後は、冒険者が撃ってくる魔法を、ウィオが全部魔法で防いでみせた。
それを見ていると、魔法は剣よりも不公平だなと感じる。それを運と言うのか才能と言うのかは人に寄るだろうけど、努力ではどうあっても越えられない壁がある。どれほど鍛錬しようと、どれほど効率を上げようと、もともと持つ魔力の大きさと精霊に愛されるという特性は、その努力を易々とねじ伏せる。
剣はまだ、頑張ればあの強さまでいけるかもしれないという期待をもつ余白があるけど、魔法ではどうあってもあれには敵わないという事実を叩きつけられる。
このままでは魔術師さんの心がぽっきり折れそうだなと思ったところで、ギルド長が止めに入ってくれた。
「そこまでだ。魔法も極めればここまで固い防御になるという例を見せてもらえたんだ。そこに近づけるよう頑張れ」
「……はい。ありがとうございました」
お礼を言って離れた魔術師さんに、仲間が駆け寄った。落ち込んでしまった魔術師さんを仲間が慰めて励ましている。
あの魔術師さんはウィオの才能を羨ましく思っているのだろう。ウィオはその辺りの機微に気づいてはいないかもしれないけど、相手を落ち込ませてしまったことを後悔しているようだ。
だけど、ウィオを見ていると、突出した才能を持つことが幸せかどうかは議論の余地があると思ってしまう。
ウィオが休憩を兼ねてオレの近くに来たから、肩に飛び乗った。
「指導は難しいな」
『一流の騎士が一流の指導者になれるわけではないからね』
「そうだな。魔法は特にどう教えていいのか分からない」
騎士団でもウィオは手合わせの相手にはなっても、アドバイスはあまりしていなかったらしい。そういうのは副隊長さんの役割だったのかも。
自分が倒れれば最悪の場合は国や庶民に危機が及ぶ騎士と、多くの場合は依頼を受けてお金を稼ぐことが第一の冒険者では、戦闘に対する意識も違うから、訓練の目的も違って難しい。
あの魔術師さんのフォローは仲間やギルド長に任せて、オレはウィオを励まそう。とりあえずオレのもふもふで癒されるといいよ。
その後は剣と魔法を混ぜて戦う人はいたけど、魔法だけの魔術師を相手にすることもなく、そろそろ日が暮れるという時間に、兵士がやってきた。一緒にロボ退治に行った領兵のリーダーさんと、その部下たちだ。
「氷の騎士殿に訓練をつけてもらえるという話を聞いたのですが、我々もいいですか?」
「ギルドとしては構わないが……」
「構いませんよ」
「では、全員まとめてお相手をお願いします」
全員って二十人くらいいるけど、その全員だよね? それはさすがに危ないんじゃない?
「五人くらいにしてください。手加減が出来ません」
「分かりました。班ごとに訓練を行う。皆、準備を整えろ!」
手加減ができないとか、正直に言っちゃったよ。ちょっとむっとしている兵士もいるけど、あの草原での攻撃を見ていれば分かるはずだ。小隊を相手にしてもウィオが勝つだろうけど、さすがにウィオが本気で魔法を飛ばしちゃうと、兵士が怪我で済まない可能性がある。
「大怪我にならなければ、手加減は不要です。どうぞ叩きのめしてください」
「分かりました」
「一班、攻撃開始!」
号令でウィオに攻撃しようと五人が一斉にウィオに詰め寄ったけど、足元に氷の矢を飛ばして体勢を崩した兵士にウィオが斬りかかって剣をはじくと、もう次の兵士へとむかっている。そしてあっという間に五人を倒しちゃった。まったく相手になっていない。これなら、全員一緒でも危なくなかったかも。
「すげえ、瞬殺した」
「マジかよ。俺たち全然本気で相手されてなかったんだな」
周りで見ている冒険者が驚いているけど、第三部隊の人たちだったら、互角とまではいかなくてももっと戦える。やっぱりここの兵士たちはあまり強くない。ギルドの規模から考えても、ここはあまり強い魔物が出ないから、今まで強敵とやり合ったことがないんだろう。
「二班、連携を考えて攻撃するんだ。開始!」
まあ当然だけど、どの班もウィオの相手にはならなくて、コテンパンにやられてしまった。兵士たちがとっても悔しそうだ。だけど、リーダーは満足そうだ。
「この辺りはめったに強い魔物が出ないので、油断していました。いざというときに、今までの訓練では足りないということが、今回よく分かりました。ありがとうございました」
「そういうときは訓練に熱が入りすぎて怪我をするものが出ますので、気を付けてください」
リーダーはあの大量のロボに自分たちだけでは対応できなかったと、今の戦力に危機感を抱いたのだ。それを部下たちにも思い知らせたかったんだろう。
そしてそれは、ギルド長も同じだ。
次に魔物が大量発生したときに、ウィオはいない。騎士団が来てくれるまでには時間がかかる。その間、領民や旅人を守るのは、領兵とここの冒険者たちだ。
一日訓練をつけてもらったところで強くなるわけじゃないけど、これから訓練を頑張ろうというやる気を出させるきっかけにはなる。
冒険者たちも、オレを景品にしたりしてふざけてはいたけど、訓練自体は真剣だった。
きっと今回のことでこの街の防衛力は上がるんだろう。
日々の訓練、頑張ってね。応援してるよ。
「次は魔術師か。悪いが俺には分からん」
「あの、魔力が少なくて、すぐに切れてしまうのですが、何か効率の良い方法はありますか?」
「……」
魔術師さん、その質問をウィオにしても答えは返ってこないよ。オレの加護のお陰で魔力の切れないし、もともとウィオは魔力が多かったのだ。
『魔法以外でできるところを磨く、少しの魔力で同じ効果を出せるように精度を上げる、あたりじゃない?』
「魔法の精度を上げるか、剣でも戦えるようになるか、だな」
「どうやったら魔法の精度を上げられますか?」
「訓練だ」
まあそうなんだけど、その方法を聞いてるんだよ。全くもう。仕方がないから、効率よく魔法が使えるように魔力操作訓練をやるようにと、オレが助け舟を出した。
漫画の知識によると、基礎が大切ってことだから、きっとこの世界でも一緒のはずだ。オレはチートでそんなの必要ないから想像だけど。
そのアドバイスの後は、冒険者が撃ってくる魔法を、ウィオが全部魔法で防いでみせた。
それを見ていると、魔法は剣よりも不公平だなと感じる。それを運と言うのか才能と言うのかは人に寄るだろうけど、努力ではどうあっても越えられない壁がある。どれほど鍛錬しようと、どれほど効率を上げようと、もともと持つ魔力の大きさと精霊に愛されるという特性は、その努力を易々とねじ伏せる。
剣はまだ、頑張ればあの強さまでいけるかもしれないという期待をもつ余白があるけど、魔法ではどうあってもあれには敵わないという事実を叩きつけられる。
このままでは魔術師さんの心がぽっきり折れそうだなと思ったところで、ギルド長が止めに入ってくれた。
「そこまでだ。魔法も極めればここまで固い防御になるという例を見せてもらえたんだ。そこに近づけるよう頑張れ」
「……はい。ありがとうございました」
お礼を言って離れた魔術師さんに、仲間が駆け寄った。落ち込んでしまった魔術師さんを仲間が慰めて励ましている。
あの魔術師さんはウィオの才能を羨ましく思っているのだろう。ウィオはその辺りの機微に気づいてはいないかもしれないけど、相手を落ち込ませてしまったことを後悔しているようだ。
だけど、ウィオを見ていると、突出した才能を持つことが幸せかどうかは議論の余地があると思ってしまう。
ウィオが休憩を兼ねてオレの近くに来たから、肩に飛び乗った。
「指導は難しいな」
『一流の騎士が一流の指導者になれるわけではないからね』
「そうだな。魔法は特にどう教えていいのか分からない」
騎士団でもウィオは手合わせの相手にはなっても、アドバイスはあまりしていなかったらしい。そういうのは副隊長さんの役割だったのかも。
自分が倒れれば最悪の場合は国や庶民に危機が及ぶ騎士と、多くの場合は依頼を受けてお金を稼ぐことが第一の冒険者では、戦闘に対する意識も違うから、訓練の目的も違って難しい。
あの魔術師さんのフォローは仲間やギルド長に任せて、オレはウィオを励まそう。とりあえずオレのもふもふで癒されるといいよ。
その後は剣と魔法を混ぜて戦う人はいたけど、魔法だけの魔術師を相手にすることもなく、そろそろ日が暮れるという時間に、兵士がやってきた。一緒にロボ退治に行った領兵のリーダーさんと、その部下たちだ。
「氷の騎士殿に訓練をつけてもらえるという話を聞いたのですが、我々もいいですか?」
「ギルドとしては構わないが……」
「構いませんよ」
「では、全員まとめてお相手をお願いします」
全員って二十人くらいいるけど、その全員だよね? それはさすがに危ないんじゃない?
「五人くらいにしてください。手加減が出来ません」
「分かりました。班ごとに訓練を行う。皆、準備を整えろ!」
手加減ができないとか、正直に言っちゃったよ。ちょっとむっとしている兵士もいるけど、あの草原での攻撃を見ていれば分かるはずだ。小隊を相手にしてもウィオが勝つだろうけど、さすがにウィオが本気で魔法を飛ばしちゃうと、兵士が怪我で済まない可能性がある。
「大怪我にならなければ、手加減は不要です。どうぞ叩きのめしてください」
「分かりました」
「一班、攻撃開始!」
号令でウィオに攻撃しようと五人が一斉にウィオに詰め寄ったけど、足元に氷の矢を飛ばして体勢を崩した兵士にウィオが斬りかかって剣をはじくと、もう次の兵士へとむかっている。そしてあっという間に五人を倒しちゃった。まったく相手になっていない。これなら、全員一緒でも危なくなかったかも。
「すげえ、瞬殺した」
「マジかよ。俺たち全然本気で相手されてなかったんだな」
周りで見ている冒険者が驚いているけど、第三部隊の人たちだったら、互角とまではいかなくてももっと戦える。やっぱりここの兵士たちはあまり強くない。ギルドの規模から考えても、ここはあまり強い魔物が出ないから、今まで強敵とやり合ったことがないんだろう。
「二班、連携を考えて攻撃するんだ。開始!」
まあ当然だけど、どの班もウィオの相手にはならなくて、コテンパンにやられてしまった。兵士たちがとっても悔しそうだ。だけど、リーダーは満足そうだ。
「この辺りはめったに強い魔物が出ないので、油断していました。いざというときに、今までの訓練では足りないということが、今回よく分かりました。ありがとうございました」
「そういうときは訓練に熱が入りすぎて怪我をするものが出ますので、気を付けてください」
リーダーはあの大量のロボに自分たちだけでは対応できなかったと、今の戦力に危機感を抱いたのだ。それを部下たちにも思い知らせたかったんだろう。
そしてそれは、ギルド長も同じだ。
次に魔物が大量発生したときに、ウィオはいない。騎士団が来てくれるまでには時間がかかる。その間、領民や旅人を守るのは、領兵とここの冒険者たちだ。
一日訓練をつけてもらったところで強くなるわけじゃないけど、これから訓練を頑張ろうというやる気を出させるきっかけにはなる。
冒険者たちも、オレを景品にしたりしてふざけてはいたけど、訓練自体は真剣だった。
きっと今回のことでこの街の防衛力は上がるんだろう。
日々の訓練、頑張ってね。応援してるよ。
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