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2年目 オルデキア南部編
4. おにごっこ
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後始末を終えた兵士と共にたどり着いた街では、商人たちが心配そうに待っていてくれた。オレたちの宿も取って、オレ用のご飯もすでにお願いしてくれていた。
「ご無事でよかったです」
「明日以降、ロボの討伐に参加することになったので、共に進むのはここまでだ」
「どうぞお気をつけて。この宿は助けていただいたお礼ですので、お好きなだけお泊りください。おかげで従業員も荷も無事でした」
流石商人、太っ腹。一番いい部屋をオレたちのために取っててくれたから、お風呂もついている。ありがとう。
明日から、兵士と一緒に討伐に参加することになっちゃったから、終わったらこの宿で美味しいものを食べて、しばらくのんびりしよう。
「ここの領主様が騎士団の出動を要請すると聞きましたが」
「明日からの討伐がうまくいけば、街道の行き来は可能になるはずだ」
第三部隊のみんなにはお世話になったから、ここまで第三部隊の人たちが遠征しなくてもいいように協力するよ。何よりも、ウィオのお願いだからね。
翌朝、宿の人たちに送り出されて、いざ討伐だ。
「今日の夕食には、美味しい魚を用意しておきますので、気を付けて帰ってきてください」
「楽しみにしておく」
『キャン!』
街道が封鎖されると宿にも影響が出るから、言葉もうわべだけじゃなくて心がこもっている。オレが餌になるからには、取りこぼしなくちゃんと討伐してくるから、美味しいお魚料理を用意しておいてね。
門に向かうと、たくさんの冒険者と領兵が待っていた。ウィオにも冒険者として依頼を出してくれて、それを受けて来たことになっている。
「氷の騎士殿、今日はよろしくお願いいたします」
「冒険者として接してください」
領兵のトップから丁寧に挨拶をもらって、あの草原に向けて出発する。今日は馬車じゃなくて、馬で移動だ。
冒険者はおんぼろの乗合馬車みたいなのにぎゅうぎゅうに乗っている。あっちじゃなくてよかった。
「憧れの氷の騎士様とご一緒できるなんて、感激です」
「足を引っ張らないように頑張ります。今日はよろしくお願いします」
ウィオは、すれ違う領兵から憧れの目で見られて、声をかけられている。やっぱりこの国では第三部隊の氷の騎士として有名なのだ。冒険者からも「氷の騎士がいるなら楽勝だな」って声が聞こえる。
だけど、今日活躍するのはオレだよ。ロボを集めるのはオレだからね。そこのところ、間違えないで。
草原に着くと、みんなの注目を集める中で、オレはウィオの肩から地面に下ろされた。
「ルジェ、頼む」
『帰ったらお風呂に入れて、ブラッシングしてね。約束だよ?』
「ああ、約束だ」
『それから、いきなり攻撃しないでね』
「声をかける」
『ウィオと副隊長さんたちのためだから、行ってくるよ』
「気を付けろ」
珍しいウィオのお願いだから、お仕事を頑張ろう。これで副隊長さんたち第三部隊のみんなのお仕事が減ると思えば、やる気も出てくる。
バビューンと威勢よくスタートだ。草原を走り回ってロボの気を引こう。
草原にたくさん人間が集まってるのを察知したのか、こちらに集まってきている気配を感じる。
お、偵察部隊なのかはぐれなのか、一頭がオレに気付いて追いかけてきた。どうもオレを見ると「狩ってやる」というスイッチが入って、理性をなくすみたいだ。魔物に理性があるのか分からないけど。
向かってきている他の集団にもオレの存在に気付いてもらうように、もう少し近づくか。
狼さんこちら~♪ もふもふのほうへ~♪
尻尾をふりふりしながら、いくつかの群れの前をうろうろしていたら、オレの挑発に乗ってたくさんのロボが追いかけきた。
あんまりたくさんになると兵士と冒険者が対応できないし、そろそろウィオのところに戻ろう。狼さん、ついておいでー。
「おい、多すぎないか? あの狐、大丈夫か?」
「あんなに連れてくるのかよ」
兵士や冒険者たちがざわざわしているし、心配してくれているのがオレの高性能な耳には聞こえるけど、このまま突っ込むから、しっかり迎撃態勢を整えてよ。
「ルジェに構わず魔法を撃ってください」
「いや、それは……、使役獣は大丈夫なのですか?」
「問題ありません。ルジェ! 魔法が行くぞ!」
『キャン』
行っくよー。突入ー!
オレはロボをつれて、魔法の弾幕の中に飛び込んだ。ウィオの氷だけじゃなくて、いろんな魔法が飛んできていて、文字通り弾幕みたいになっている。最初は戸惑っていた兵士や冒険者も、ウィオがオレ目掛けて容赦なく魔法を撃つのを見て続いた。魔法だけじゃなくて、本物の矢も飛んできているし、オレじゃなきゃ大怪我してるから、他の使役獣にはやらないでね。
オレを追いかけてきていたロボが、魔法や矢の的になってボロボロになる中、オレは弾幕を通り抜けてウィオの足元へとたどり着いた。
『この辺りにいたロボはほとんど連れてきたよ』
「よくやった」
オレはウィオの肩の上で休憩だ。連れてきた後はオレのお仕事じゃないから、高みの見物といこう。
ウィオは領兵のリーダーと一緒に、冒険者を運んできた馬車の上に立っているから、文字通り高いところから見ている。馬車の周りを兵士と冒険者が取り囲み、その外側から向かってくるロボを食い止めている。ウィオも馬車の上から冒険者の頭上を越える氷の矢を飛ばしている。
オレの挑発に集まってきたロボの集団も、あの壁を突破することはできないだろう。例え近寄ってきても、ウィオが苦労なく倒すだろうから、オレにはやることがない。次の出番まで休んでいよう。
オレが連れてきたロボが全部倒されたところで、ウィオから次の指令を受けた。
「移動して、次の群れを探そう」
『キャン』
ラジャ。草原全域を探して、全部退治してやるぞ。
行ってきまーす。狼さーん、出ておいでー。
オトリの餌として五回草原中を駆けまわり、ロボたちを引き連れて魔法の弾幕に突入した。久しぶりにいい運動だったよ。
もうこの辺りにロボはいないから、集まったロボが全て倒されるまで、オレはウィオの首に巻き付いて、ぼんやりと見学していた。
「氷の騎士殿、ありがとうございました。使役獣に怪我はありませんか?」
「ルジェ、終わったから起きろ」
『キューン』
あれ、オレいつの間にか寝てた? 気づいたら後始末も、帰る準備も終わっている。
ウィオの首に巻き付いていたはずだけど、いつの間にかウィオの腕の中で寝ていたみたいだ。
「怪我はないかと心配してくれている」
『キャン』
心配してくれてありがとう。ぐっすり寝たから疲れも取れて、お腹がすいてるだけ。
ご飯とお風呂が待ってるから、早く帰ろう。
「引き寄せてくれると討伐が本当に楽ですね。まさか一日で終わるとは思いませんでした」
「私も驚いています。ルジェ、ありがとう」
『キャン!』
今日はオレが大活躍したよね。氷の騎士様だけじゃなくて、その使役獣も可愛くてお利口ですごいんだよ。みんな覚えておいてね。
「ご無事でよかったです」
「明日以降、ロボの討伐に参加することになったので、共に進むのはここまでだ」
「どうぞお気をつけて。この宿は助けていただいたお礼ですので、お好きなだけお泊りください。おかげで従業員も荷も無事でした」
流石商人、太っ腹。一番いい部屋をオレたちのために取っててくれたから、お風呂もついている。ありがとう。
明日から、兵士と一緒に討伐に参加することになっちゃったから、終わったらこの宿で美味しいものを食べて、しばらくのんびりしよう。
「ここの領主様が騎士団の出動を要請すると聞きましたが」
「明日からの討伐がうまくいけば、街道の行き来は可能になるはずだ」
第三部隊のみんなにはお世話になったから、ここまで第三部隊の人たちが遠征しなくてもいいように協力するよ。何よりも、ウィオのお願いだからね。
翌朝、宿の人たちに送り出されて、いざ討伐だ。
「今日の夕食には、美味しい魚を用意しておきますので、気を付けて帰ってきてください」
「楽しみにしておく」
『キャン!』
街道が封鎖されると宿にも影響が出るから、言葉もうわべだけじゃなくて心がこもっている。オレが餌になるからには、取りこぼしなくちゃんと討伐してくるから、美味しいお魚料理を用意しておいてね。
門に向かうと、たくさんの冒険者と領兵が待っていた。ウィオにも冒険者として依頼を出してくれて、それを受けて来たことになっている。
「氷の騎士殿、今日はよろしくお願いいたします」
「冒険者として接してください」
領兵のトップから丁寧に挨拶をもらって、あの草原に向けて出発する。今日は馬車じゃなくて、馬で移動だ。
冒険者はおんぼろの乗合馬車みたいなのにぎゅうぎゅうに乗っている。あっちじゃなくてよかった。
「憧れの氷の騎士様とご一緒できるなんて、感激です」
「足を引っ張らないように頑張ります。今日はよろしくお願いします」
ウィオは、すれ違う領兵から憧れの目で見られて、声をかけられている。やっぱりこの国では第三部隊の氷の騎士として有名なのだ。冒険者からも「氷の騎士がいるなら楽勝だな」って声が聞こえる。
だけど、今日活躍するのはオレだよ。ロボを集めるのはオレだからね。そこのところ、間違えないで。
草原に着くと、みんなの注目を集める中で、オレはウィオの肩から地面に下ろされた。
「ルジェ、頼む」
『帰ったらお風呂に入れて、ブラッシングしてね。約束だよ?』
「ああ、約束だ」
『それから、いきなり攻撃しないでね』
「声をかける」
『ウィオと副隊長さんたちのためだから、行ってくるよ』
「気を付けろ」
珍しいウィオのお願いだから、お仕事を頑張ろう。これで副隊長さんたち第三部隊のみんなのお仕事が減ると思えば、やる気も出てくる。
バビューンと威勢よくスタートだ。草原を走り回ってロボの気を引こう。
草原にたくさん人間が集まってるのを察知したのか、こちらに集まってきている気配を感じる。
お、偵察部隊なのかはぐれなのか、一頭がオレに気付いて追いかけてきた。どうもオレを見ると「狩ってやる」というスイッチが入って、理性をなくすみたいだ。魔物に理性があるのか分からないけど。
向かってきている他の集団にもオレの存在に気付いてもらうように、もう少し近づくか。
狼さんこちら~♪ もふもふのほうへ~♪
尻尾をふりふりしながら、いくつかの群れの前をうろうろしていたら、オレの挑発に乗ってたくさんのロボが追いかけきた。
あんまりたくさんになると兵士と冒険者が対応できないし、そろそろウィオのところに戻ろう。狼さん、ついておいでー。
「おい、多すぎないか? あの狐、大丈夫か?」
「あんなに連れてくるのかよ」
兵士や冒険者たちがざわざわしているし、心配してくれているのがオレの高性能な耳には聞こえるけど、このまま突っ込むから、しっかり迎撃態勢を整えてよ。
「ルジェに構わず魔法を撃ってください」
「いや、それは……、使役獣は大丈夫なのですか?」
「問題ありません。ルジェ! 魔法が行くぞ!」
『キャン』
行っくよー。突入ー!
オレはロボをつれて、魔法の弾幕の中に飛び込んだ。ウィオの氷だけじゃなくて、いろんな魔法が飛んできていて、文字通り弾幕みたいになっている。最初は戸惑っていた兵士や冒険者も、ウィオがオレ目掛けて容赦なく魔法を撃つのを見て続いた。魔法だけじゃなくて、本物の矢も飛んできているし、オレじゃなきゃ大怪我してるから、他の使役獣にはやらないでね。
オレを追いかけてきていたロボが、魔法や矢の的になってボロボロになる中、オレは弾幕を通り抜けてウィオの足元へとたどり着いた。
『この辺りにいたロボはほとんど連れてきたよ』
「よくやった」
オレはウィオの肩の上で休憩だ。連れてきた後はオレのお仕事じゃないから、高みの見物といこう。
ウィオは領兵のリーダーと一緒に、冒険者を運んできた馬車の上に立っているから、文字通り高いところから見ている。馬車の周りを兵士と冒険者が取り囲み、その外側から向かってくるロボを食い止めている。ウィオも馬車の上から冒険者の頭上を越える氷の矢を飛ばしている。
オレの挑発に集まってきたロボの集団も、あの壁を突破することはできないだろう。例え近寄ってきても、ウィオが苦労なく倒すだろうから、オレにはやることがない。次の出番まで休んでいよう。
オレが連れてきたロボが全部倒されたところで、ウィオから次の指令を受けた。
「移動して、次の群れを探そう」
『キャン』
ラジャ。草原全域を探して、全部退治してやるぞ。
行ってきまーす。狼さーん、出ておいでー。
オトリの餌として五回草原中を駆けまわり、ロボたちを引き連れて魔法の弾幕に突入した。久しぶりにいい運動だったよ。
もうこの辺りにロボはいないから、集まったロボが全て倒されるまで、オレはウィオの首に巻き付いて、ぼんやりと見学していた。
「氷の騎士殿、ありがとうございました。使役獣に怪我はありませんか?」
「ルジェ、終わったから起きろ」
『キューン』
あれ、オレいつの間にか寝てた? 気づいたら後始末も、帰る準備も終わっている。
ウィオの首に巻き付いていたはずだけど、いつの間にかウィオの腕の中で寝ていたみたいだ。
「怪我はないかと心配してくれている」
『キャン』
心配してくれてありがとう。ぐっすり寝たから疲れも取れて、お腹がすいてるだけ。
ご飯とお風呂が待ってるから、早く帰ろう。
「引き寄せてくれると討伐が本当に楽ですね。まさか一日で終わるとは思いませんでした」
「私も驚いています。ルジェ、ありがとう」
『キャン!』
今日はオレが大活躍したよね。氷の騎士様だけじゃなくて、その使役獣も可愛くてお利口ですごいんだよ。みんな覚えておいてね。
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