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1年目 フェゴ編
11. 牙のチラ見せ
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魔物は倒したので、救助を必要としているだろう村へと移動しようとなったときに、ウィオが王子様に離脱を申し入れた。
冒険者や兵士がサイもどきにとどめを刺している間にウィオに聞かれたから調べてみたけど、この近くに強そうな魔物はもういない。村を襲った魔物は全て倒された。
「私はここで抜ける」
「こんな時に何を言っている! ふざけるな!」
「パース、やめろ!」
『ウゥゥーッ』
護衛うるさい。最初に会った日に護衛抜きでウィオと話したあの時からオレたちのことが気に入らないみたいだけど、オレもウィオを目の敵にするお前が気に入らないよ。
「ルジェ、気にしてないから」
「パース、トリスを手伝いに行け。すぐ行け!」
オレが気にするの。オレが加護をあげているウィオに、理由も聞かずに頭ごなしに怒鳴るなんて許さないよ。
護衛はオレたちがいるのに王子様のそばを離れることを渋っていたけど、結局王子様の命令には逆らえずに、倒れた魔物の確認をしている幼馴染のところへ行った。
「ご無礼をお許しください」
王子様が周りに聞こえないように小さな声で謝った。
護衛がオレたちにきつくあっているのは王子様も気づいていて注意はしているんだけど、オレたちの正体を明かせないからか上手く通じないらしい。王子様の護衛としてそれでいいのか疑問に思うけど、そこはオレが関わる問題じゃない。
「ウィオラス、魔物の討伐に力を貸してくれたこと感謝する。君は渾身の魔法で我々だけでなく街の人々も守ってくれた。魔力を使い切ってしまったのだから、離脱するのは当然だ」
「手伝えなくてすまない」
王子様は、オレたちがこの騒動に関わることに最初から消極的だったから、すんなりと受け入れてくれた。あのちょっとやり過ぎちゃった攻撃は、ウィオの渾身の一撃ってことにして、離脱は魔力切れのためというもっともらしい理由をつけてくれた。
そして、まだ指揮をとらないといけないからと、簡単に挨拶を済ませると慌ただしく離れて行った。
ウィオが逆立った毛を撫でて宥めてくれるから、落ち着こう。
『あの護衛なんなの。ウィオのこと目の敵にしてさ。王子様は話が分かる人っぽいのに』
「護衛の座をとられると焦っているんだろう」
まったくもう。そういう的外れなごたごたは内部でやってほしい。ウィオはあげないよ。
思わず鼻にシワを寄せて牙を見せちゃったじゃないか。
オレの可愛いイメージが損なわれていないか、心配だ。
オレたちは、街で荷物を回収したらすぐに王都へ向けて出発する予定で、街へと戻っている。
冒険者と領兵は王子様の指揮のもと、一部の兵士を倒れたサイもどきの見張りに残して、襲われた村へと出発して行った。
せっかくの素材なのに、気合いを入れすぎてズタズタにしてごめんね。討伐に参加したウィオにも取り分があるはずなんだけど、その辺は王子様がいいようにしてくれるだろう。ボロボロにした張本人だから、今回はもらえなくてもごねたりしないよ。
ウィオは、魔物に襲われた村でオレの治癒能力を当てにするようなことがあるかもしれないからと、村に行くのを避けた。
別にオレは村の全員を治癒したって構わない。制約もないし、ウィオが望むなら治癒する。そうすると、ウィオが加護を持つと知られてしまって面倒なことになりそうなので、その対策だけは取るつもりだ。
けれどウィオは、人の都合でオレの力を使うことを避けている。それはオレの正体が分かった当初から変わらない。
『ウィオ、オレはいつだってウィオの味方だよ。ウィオがしたいことを、したいようにすればいいんだよ』
「ルジェ、ありがとう」
神の加護とはそういうものだから、ウィオは何も気にしなくていい。
オレはチートな神獣様で、ウィオはその加護を持っているんだから、その力を便利に使えばいい。それが加護をもらった人の特権だ。助けたい人がいたら気軽に言えばいいんだ。
『王子様たちが持って行ったポーション、効果が高いものに作り替えてあげればよかったかな』
「ルジェ、やめてくれ。万が一エリクサーになったら、どんな騒動になるか」
『そんなことしないよ!』
ひどいなあ。
ポーションをちょっといいものにってくらいじゃ、エリクサーにはならないでしょう。ならないよね?
オレはポーションでもエリクサーでも、ポーションやエリクサーになれって思ったら出来ちゃうから、細かいことはよく分からない。でもポーションとエリクサーの間には大きな隔たりがありそうだから、きっと大丈夫だよ。ウィオが信用してくれないから、試す機会はなさそうだけど。
以前、人にはエリクサーの作り方が伝わってないとオルデキアの医務官長から聞いたから、エリクサーになったら大騒動が起きるというウィオの心配は分かる。
オレは作り方を知識として知ってはいるけど、教える気はない。それに材料を集めるのが大変だから、教えてもきっと人には作れない。
『ねえウィオ、ドラゴンに会いに行こうよ』
「また唐突だな。なんでだ」
『エリクサーの材料なんだけど、会ってみたい!』
ドラゴンこそ、ファンタジーの代表格だよね。会ってみたいなあ。
でも今から探しに行くと、冬までにオルデキアに帰れないから、来年の旅の目的にすればちょうどいいかも。冬のうちに最近の目撃情報を調べておけば、効率もいいし。
冬までにオルデキアに帰るためには、そろそろオルデキア方面に向かう必要がある。最短距離で飛ばせば一カ月で帰れるけど、急ぎの旅でもないのにそんなことはしたくない。
この国の王都から、マトゥオーソの王都に向かってゆっくり北上して、そこからオルデキアへと帰ろう。
今回の旅の収穫は、ガストーで手に入れた幻の果物と、アーグワの気に入った屋台で聞いたチョモのレシピと、スフラルとフェゴのスパイス。それに加えて、旅の楽しい思い出。お父さんたちに持って帰るものがたくさん手に入ったよ。
さらに、マトゥオーソのオルデキアとの国境の街では美味しい根菜のシチューが待っているはずだ。
楽しくない思い出もあったけど、それは教訓だけ覚えておいて、さっさと忘れてしまおう。
『ウィオ、旅楽しい?』
「ああ。こういうのもいいな」
『来年も旅に出る?』
「もちろんだ。まだ行っていない国がたくさんあるし、ドラゴンにも会いに行くんだろう?」
ウィオも旅を楽しみにしてくれているみたいでよかった。
冬をオルデキアのお屋敷で過ごしたら、春にはまた旅に出よう。
でもまずはこの国の王都までの道中、この国に来た目的であるチョモとスパイスのご飯を楽しもう。
もらったチョモマップによると、王都周辺の街にも美味しいお店がたくさんありそうだ。
冒険者や兵士がサイもどきにとどめを刺している間にウィオに聞かれたから調べてみたけど、この近くに強そうな魔物はもういない。村を襲った魔物は全て倒された。
「私はここで抜ける」
「こんな時に何を言っている! ふざけるな!」
「パース、やめろ!」
『ウゥゥーッ』
護衛うるさい。最初に会った日に護衛抜きでウィオと話したあの時からオレたちのことが気に入らないみたいだけど、オレもウィオを目の敵にするお前が気に入らないよ。
「ルジェ、気にしてないから」
「パース、トリスを手伝いに行け。すぐ行け!」
オレが気にするの。オレが加護をあげているウィオに、理由も聞かずに頭ごなしに怒鳴るなんて許さないよ。
護衛はオレたちがいるのに王子様のそばを離れることを渋っていたけど、結局王子様の命令には逆らえずに、倒れた魔物の確認をしている幼馴染のところへ行った。
「ご無礼をお許しください」
王子様が周りに聞こえないように小さな声で謝った。
護衛がオレたちにきつくあっているのは王子様も気づいていて注意はしているんだけど、オレたちの正体を明かせないからか上手く通じないらしい。王子様の護衛としてそれでいいのか疑問に思うけど、そこはオレが関わる問題じゃない。
「ウィオラス、魔物の討伐に力を貸してくれたこと感謝する。君は渾身の魔法で我々だけでなく街の人々も守ってくれた。魔力を使い切ってしまったのだから、離脱するのは当然だ」
「手伝えなくてすまない」
王子様は、オレたちがこの騒動に関わることに最初から消極的だったから、すんなりと受け入れてくれた。あのちょっとやり過ぎちゃった攻撃は、ウィオの渾身の一撃ってことにして、離脱は魔力切れのためというもっともらしい理由をつけてくれた。
そして、まだ指揮をとらないといけないからと、簡単に挨拶を済ませると慌ただしく離れて行った。
ウィオが逆立った毛を撫でて宥めてくれるから、落ち着こう。
『あの護衛なんなの。ウィオのこと目の敵にしてさ。王子様は話が分かる人っぽいのに』
「護衛の座をとられると焦っているんだろう」
まったくもう。そういう的外れなごたごたは内部でやってほしい。ウィオはあげないよ。
思わず鼻にシワを寄せて牙を見せちゃったじゃないか。
オレの可愛いイメージが損なわれていないか、心配だ。
オレたちは、街で荷物を回収したらすぐに王都へ向けて出発する予定で、街へと戻っている。
冒険者と領兵は王子様の指揮のもと、一部の兵士を倒れたサイもどきの見張りに残して、襲われた村へと出発して行った。
せっかくの素材なのに、気合いを入れすぎてズタズタにしてごめんね。討伐に参加したウィオにも取り分があるはずなんだけど、その辺は王子様がいいようにしてくれるだろう。ボロボロにした張本人だから、今回はもらえなくてもごねたりしないよ。
ウィオは、魔物に襲われた村でオレの治癒能力を当てにするようなことがあるかもしれないからと、村に行くのを避けた。
別にオレは村の全員を治癒したって構わない。制約もないし、ウィオが望むなら治癒する。そうすると、ウィオが加護を持つと知られてしまって面倒なことになりそうなので、その対策だけは取るつもりだ。
けれどウィオは、人の都合でオレの力を使うことを避けている。それはオレの正体が分かった当初から変わらない。
『ウィオ、オレはいつだってウィオの味方だよ。ウィオがしたいことを、したいようにすればいいんだよ』
「ルジェ、ありがとう」
神の加護とはそういうものだから、ウィオは何も気にしなくていい。
オレはチートな神獣様で、ウィオはその加護を持っているんだから、その力を便利に使えばいい。それが加護をもらった人の特権だ。助けたい人がいたら気軽に言えばいいんだ。
『王子様たちが持って行ったポーション、効果が高いものに作り替えてあげればよかったかな』
「ルジェ、やめてくれ。万が一エリクサーになったら、どんな騒動になるか」
『そんなことしないよ!』
ひどいなあ。
ポーションをちょっといいものにってくらいじゃ、エリクサーにはならないでしょう。ならないよね?
オレはポーションでもエリクサーでも、ポーションやエリクサーになれって思ったら出来ちゃうから、細かいことはよく分からない。でもポーションとエリクサーの間には大きな隔たりがありそうだから、きっと大丈夫だよ。ウィオが信用してくれないから、試す機会はなさそうだけど。
以前、人にはエリクサーの作り方が伝わってないとオルデキアの医務官長から聞いたから、エリクサーになったら大騒動が起きるというウィオの心配は分かる。
オレは作り方を知識として知ってはいるけど、教える気はない。それに材料を集めるのが大変だから、教えてもきっと人には作れない。
『ねえウィオ、ドラゴンに会いに行こうよ』
「また唐突だな。なんでだ」
『エリクサーの材料なんだけど、会ってみたい!』
ドラゴンこそ、ファンタジーの代表格だよね。会ってみたいなあ。
でも今から探しに行くと、冬までにオルデキアに帰れないから、来年の旅の目的にすればちょうどいいかも。冬のうちに最近の目撃情報を調べておけば、効率もいいし。
冬までにオルデキアに帰るためには、そろそろオルデキア方面に向かう必要がある。最短距離で飛ばせば一カ月で帰れるけど、急ぎの旅でもないのにそんなことはしたくない。
この国の王都から、マトゥオーソの王都に向かってゆっくり北上して、そこからオルデキアへと帰ろう。
今回の旅の収穫は、ガストーで手に入れた幻の果物と、アーグワの気に入った屋台で聞いたチョモのレシピと、スフラルとフェゴのスパイス。それに加えて、旅の楽しい思い出。お父さんたちに持って帰るものがたくさん手に入ったよ。
さらに、マトゥオーソのオルデキアとの国境の街では美味しい根菜のシチューが待っているはずだ。
楽しくない思い出もあったけど、それは教訓だけ覚えておいて、さっさと忘れてしまおう。
『ウィオ、旅楽しい?』
「ああ。こういうのもいいな」
『来年も旅に出る?』
「もちろんだ。まだ行っていない国がたくさんあるし、ドラゴンにも会いに行くんだろう?」
ウィオも旅を楽しみにしてくれているみたいでよかった。
冬をオルデキアのお屋敷で過ごしたら、春にはまた旅に出よう。
でもまずはこの国の王都までの道中、この国に来た目的であるチョモとスパイスのご飯を楽しもう。
もらったチョモマップによると、王都周辺の街にも美味しいお店がたくさんありそうだ。
応援ありがとうございます!
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