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1年目 フェゴ編

1. お馬さんの美味しいもの

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 スフラルでチョモを堪能してから、フェゴへと移動している。
 フェゴに行くと花粉症みたいにくしゃみが出ちゃうんじゃないかって? それは、ちゃんと対策を考えたよ。
 オレの敏感な鼻にスパイスが入っちゃうからくしゃみが出るんだよね。
 ってことは、結界の応用で鼻に空気を入れなければいいのだ。オレ、チートだからそんなことだってできるよ。

「ルジェ、本当に大丈夫か?」
『平気だって。オレの好物のチョモをたくさん食べたんだから、次はウィオの好きなスパイスたっぷりの串焼きの番だよ』

 食い倒れツアーなのに、ウィオの好きなものを食べに行かないなんてダメだよね。
 フェゴにもオレの大好きなチョモがある。スパイス抜きにしてもらわないとオレは食べられないかもしれないけど楽しみだ。

 これからフェゴを横断して、冬になる前にオルデキアに帰る予定だ。
 スフラルで仲良くなったフェゴ出身の冒険者に、観光におススメの街も聞いて来た。
 お父さんたちへのお土産に、フェゴのスパイスも買って帰らないといけないし、オルデキアに帰る前にやることがたくさんある。


 スフラルとの国境に近いフェゴの村は、のんびりしている。
 王都へと向かう街道ではないマイナーな道を通っているから、馬車もあまり見ない。
 広がる畑には、緑色の葉っぱが茂っている。近くに森とか川とか魔物が住んでいそうなところがないので、農地になっているようだ。
 その中をお馬さんが馬車をひいてパカラパカラと進む、遠くから見ると田舎の日常とかってタイトルで絵画になりそうな風景だ。

『ウィオ、お馬さんが喉が乾いたって』
「馬車も来ないようだし止まるか」

 この辺りは休憩用に馬車が止められるようになっているところがない。道に止めたって邪魔にならないから、道以外のところはすべて畑になっているんだろう。
 馬車を端に寄せて止め、ウィオが魔法で水を満たした桶を、お馬さんの顔の下に置いた。

『のどかだねえ』
「ああ。こんなふうに、街の外なのに魔物がいないところもあるんだな」

 多分オルデキアにもあるんだろうけど、ウィオが騎士として行くのは魔物が出るところばかりだったから、あまり見たことがないのだろう。
 食い倒れツアーってことで国外に出ちゃったけど、国内旅行もしてみたいな。

 夏も過ぎて過ごしやすいので、お馬さんの休憩も兼ねて道端でぼんやりしていたら、遠くから馬車が近づいてくるのが見えた。荷台は作業道具とか収穫物を乗せるような屋根のないものだから、この辺りの畑の持ち主かな。
 その馬車はすぐそばまで来ると、止まった。

「旅のお方、馬の餌はいらんか?」
「どのようなものだ?」
「この周りに生えてる野菜じゃ」

 この周りの畑に植えられている野菜、全部お馬さんも食べることができるもので、形の綺麗なものは人用、形がいびつだったり小さいものはお馬さん用として売ってるらしい。
 収穫時期は秋の終わりから冬の始まりで今は成長途中だけど、密集しているところのものを間引きしてきたので、荷台にはまだちっちゃい人参とか大根みたいな野菜が乗っている。

「トラン、食べるか?」
『ヒヒン』

 お馬さんが食べたいと期待を込めていなないた。農家さんの馬車からは、土と新鮮なお野菜の香りがしている。
 ウィオが野菜を一つもらってお馬さんの顔の前に差し出すと、お馬さんがもぐもぐと食べ出した。それを農家さんの馬は無感動に見ている。毎日食べて飽きちゃったのかな。

「気に入ったようなので、買い取りたい」
「使い道のないものだから、金はいらんよ」

 じゃあ何か物々交換できるものをとなって、ウィオが荷台を探している。出発するときにお母さんたちが持たせてくれた荷物が減った代わりに、魔物の素材とか日持ちのする食料とか、旅先で手に入れたものが増えている。

「スフラルのスパイス、乾燥した薬草、防寒具になる毛皮、どれか好きなものを」
「では、毛皮をもらってもいいか? そんな大したものじゃないのに悪いのお」

 それはマトゥオーソ移動中に狩った魔物の毛皮だね。
 防寒具は十分持っているんだけど、寒くなったときにテントで下に敷くと良いと聞いて、買取に出さずに引き取ったものだ。夏に向かう時期だったから、買取価格もそんなによくなかったし。
 ちなみに魔物から素材を取っているとき、オレは見ないで近くで遊んでいる。現代っ子はグロいのに耐性がないんだ。

 最初は遠慮していた農家さんも、ウィオが荷台からいろいろ引っ張り出すのを見てお金持ちだと分かったようで、舞い込んだ幸運を喜んでいた。わらしべ長者になれるかもね。
 金額的には釣り合わないんだろうけど、お馬さんが喜ぶ美味しいものっていう価値を入れたら十分に釣り合うよ。

 馬車の荷台は、両側に荷物を置いて、真ん中はウィオが野営するときに寝るためのスペースを空けている。テントを張ってもいいけど、雨などで地面が濡れていたりすると、荷台のほうが楽だ。
 そのスペースにもらった野菜を載せていく。毛皮の代わりにって全部くれたから、今夜野営になったらテントに寝ることになりそうだ。でもずっと走ってくれているお馬さんのための美味しいものだ。オレたちばっかり美味しいものを食べて仲間外れは可哀想だ。

「トラン、また走ってくれるか?」
『ヒヒーン』

 美味しいものを食べたからか、心なしかいななきが力強い。
 これからも、お馬さんの美味しいものを探そうね。
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