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1年目 スフラル編
10. みんなで薬草採取に行こう
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準備を終わらせて船着き場に向かうと、すでにみんな揃っていた。
昨日の飲み会の四グループと、薬草採取を専門にしているグループと、新米くんにオレたちで、計七グループ二十五人の大所帯だ。
船は十人乗りなので、三艘借りていく。誰も盗らないから対岸に放置して山に登っていいらしい。けっこう大雑把だな。
「この船は魔力を込めないと動かないから、取っていくやつはいないんだ」
「魔力は下っ端が込めるもんだが、さすがに全部は厳しいだろうから、一つだけにしておけ」
新米くんたちは、チーム戦の時に知っておかなければならないことを教えてられているのだけど、実はオレたちも知らない。
へえ、と思いながら聞いていたら、不思議そうな顔で見られた。
「銀の、あんたの国では違うのか?」
「いや、私も知らないので参考になる」
みんながどういうことって顔をしているけど、オレたち複数グループで依頼を受けるの初めてだからね。
「さすが元騎士様だな」
「旅をしていてそういう機会がないだけだ」
「え、騎士だったんですか?」
「オルデキアの元貴族らしいぞ」
新米くんたちがびびっちゃってるけど、今は平民だから怖くないよ。
冒険者はいろんな人がいるから、前に何をやっていたかはあまり気にしない。探られると困る人もそれなりにいるんだろう。
だから、ウィオが元貴族で騎士だったと知っても、昨日の飲み会の参加者たちはそこまで気にしていなかったし、態度も変えなかった。
新米くんたちもそのうち慣れるとそうなるんだろうね。
この世界には魔物がいない川や湖というのが珍しいから、水遊びという概念がない。海水浴なんてもってのほかだ。
だからこそ、アーグワが水の都として有名なのだ。
お城や街に水路が入り込んでいるのに魔物がいない。
湖に小さな船を出せるのも、魔物がいないからだ。こんな大きさの船、魔物が出たらひとたまりもない。
「銀の、どうだ。これがアーグワが誇る湖だ」
「綺麗だな」
美しい湖と、美しい街。
この街の人たちにとってはこの湖が誇りなんだろう。
きっとここに住み着いた祖先たちは、その美しさに魅せられたんだろう。そしてここが安全だと知り街を作った。
この湖を作った神はきっと、この湖が荒れることを望まない。
いつかこの湖の結界が消えるまでこの美しい街が残り続けるよう、もしも時は、神に名を連ねてこの地に顕現しているものとしてオレも力を貸そう。
「ルジェ、どうした?」
『ううん、綺麗だなって。来てよかったね』
「ああ」
対岸に着くと、船を係留できる簡単な船着き場があった。そこに船を止め、森の中へと入っていく。
ここから冒険者が出入りしているので、道が出来ている。その道を進んでいくと、本格的に山登りの道になった。
「ここからは山登りだ。そろそろ魔物が出てくるから気をつけろ」
「新米は真ん中だ」
前後をベテランで囲って、新米くんと薬草採取専門のグループは戦闘しなくてもいいように真ん中だ。
オレたちは前か後か迷って、前にした。道は分からないけど、オレの耳は人間よりもはるかに良いから、魔物の接近に気付ける。
やろうと思えばこの山の魔物全部探すこともできるんだけど、そういうのは普通の使役獣の能力を超えていてズルだから、やらないことにしている。面倒くさいからやらないわけじゃないよ。
一日目は山の開けたところで野営する。新米くんたちの初日からうっそうとした森の中は辛いだろうという判断だ。
ベテランたちがテントの張り方をチェックしてダメ出しをしているのを、ウィオとぼんやり眺める。
『騎士でもああいうのあるの?』
「第一部隊から移動だと野営の経験がないからある」
『みんな元気かな?』
「変わりなくやってるだろう」
ウィオはオルデキアの人たちのことをあんまり心配していないみたいだ。信頼があるのか何にも考えてないのかどっちか分かりづらいな。きっと信頼しているんだと思うことにしよう。
飯にしようという言葉に、オレたちも新米くんが起こした火の周りに移動した。
一緒にご飯を食べると、なんとなく連帯感が生まれる。同じ釜の飯を食うっていう言葉の通り、新米くんももう仲間だ。同じ釜で作ったご飯じゃないけど、そこは言葉の綾ってことで。
「お前ら、よく俺たちに声をかけたな。他にも誘ってほしそうにしていた奴らはたくさんいたが、誰も行動には移さなかったのに」
「契約を交わしていたのを見て、この人たちなら危険はないと思ったんです。断られても困ることはないし」
どういうことだろうと思って首を傾げていたら、説明してくれた。
経験の浅い冒険者に教えてやると言いながら、ただの荷物運びとして扱ったり、ひどいときは置き去りにしたりというたちの悪い冒険者もいるらしい。荷物運びならその料金が支払われるが、指導は無料だ。
新人は身を守るために知り合いの冒険者にしか頼まないし、ベテランも余計なトラブルを避けるために知らない新人には声をかけない。
新米くんたちは一度この山に行ってみたいと思いながらも連れて行ってくれるような知り合いもなく機会がなかったので、この集団なら変なことにはならないだろうと思い切って声をかけたんだそうだ。
そしてベテランたちはなんだかんだと面倒みよく教えてあげてる。
「あの……、もしよければ教えてもらいたいんですが……」
「なんだ」
先輩と後輩って感じでいいなあと見ていたら、ウィオに質問が飛んできた。
この新米くんたち、態度は気弱だけど、けっこう度胸がある。
「貴族の依頼を受けるときに注意することって何ですか?」
「受けるな」
あまりに簡潔な答えに、みんな目が点になってる。
いやいや、そんなバッサリ切っちゃ可哀想よ。ちゃんと説明してあげてよ。
そう思ったのはオレだけじゃなかったようで、ベテランが助け舟を出してくれた。
「貴族の依頼は報酬がいいだろ? なんで受けちゃいけないんだ? オレは礼儀とかが面倒で受けないが」
「貴族は懇意にしている冒険者がいる。その冒険者に任せずにギルドに出している依頼は裏があると思った方がいい」
「普通はお抱えの冒険者にやらせるってことか」
そうだね。ウィオのお父さんも依頼出す冒険者がいるって言ってたよ。
なんでそんなことを知っているかというと、オレのスカーフに珍しい魔物の素材が使われているからだ。その素材を取ってくる依頼をお抱えの冒険者に出したって聞いたから。
そういうお抱えの冒険者に出さずにギルドに依頼を出してるってことは、滅多に手に入らないから広く依頼をかけているか、お抱えの冒険者に断られたか、あるいは冒険者を抱えられないような家だからか。
新米くんじゃその辺りの見極めが難しいから受けないほうがいいっていうのが、ウィオのアドバイスだった。
通訳が必要だよ。
昨日の飲み会の四グループと、薬草採取を専門にしているグループと、新米くんにオレたちで、計七グループ二十五人の大所帯だ。
船は十人乗りなので、三艘借りていく。誰も盗らないから対岸に放置して山に登っていいらしい。けっこう大雑把だな。
「この船は魔力を込めないと動かないから、取っていくやつはいないんだ」
「魔力は下っ端が込めるもんだが、さすがに全部は厳しいだろうから、一つだけにしておけ」
新米くんたちは、チーム戦の時に知っておかなければならないことを教えてられているのだけど、実はオレたちも知らない。
へえ、と思いながら聞いていたら、不思議そうな顔で見られた。
「銀の、あんたの国では違うのか?」
「いや、私も知らないので参考になる」
みんながどういうことって顔をしているけど、オレたち複数グループで依頼を受けるの初めてだからね。
「さすが元騎士様だな」
「旅をしていてそういう機会がないだけだ」
「え、騎士だったんですか?」
「オルデキアの元貴族らしいぞ」
新米くんたちがびびっちゃってるけど、今は平民だから怖くないよ。
冒険者はいろんな人がいるから、前に何をやっていたかはあまり気にしない。探られると困る人もそれなりにいるんだろう。
だから、ウィオが元貴族で騎士だったと知っても、昨日の飲み会の参加者たちはそこまで気にしていなかったし、態度も変えなかった。
新米くんたちもそのうち慣れるとそうなるんだろうね。
この世界には魔物がいない川や湖というのが珍しいから、水遊びという概念がない。海水浴なんてもってのほかだ。
だからこそ、アーグワが水の都として有名なのだ。
お城や街に水路が入り込んでいるのに魔物がいない。
湖に小さな船を出せるのも、魔物がいないからだ。こんな大きさの船、魔物が出たらひとたまりもない。
「銀の、どうだ。これがアーグワが誇る湖だ」
「綺麗だな」
美しい湖と、美しい街。
この街の人たちにとってはこの湖が誇りなんだろう。
きっとここに住み着いた祖先たちは、その美しさに魅せられたんだろう。そしてここが安全だと知り街を作った。
この湖を作った神はきっと、この湖が荒れることを望まない。
いつかこの湖の結界が消えるまでこの美しい街が残り続けるよう、もしも時は、神に名を連ねてこの地に顕現しているものとしてオレも力を貸そう。
「ルジェ、どうした?」
『ううん、綺麗だなって。来てよかったね』
「ああ」
対岸に着くと、船を係留できる簡単な船着き場があった。そこに船を止め、森の中へと入っていく。
ここから冒険者が出入りしているので、道が出来ている。その道を進んでいくと、本格的に山登りの道になった。
「ここからは山登りだ。そろそろ魔物が出てくるから気をつけろ」
「新米は真ん中だ」
前後をベテランで囲って、新米くんと薬草採取専門のグループは戦闘しなくてもいいように真ん中だ。
オレたちは前か後か迷って、前にした。道は分からないけど、オレの耳は人間よりもはるかに良いから、魔物の接近に気付ける。
やろうと思えばこの山の魔物全部探すこともできるんだけど、そういうのは普通の使役獣の能力を超えていてズルだから、やらないことにしている。面倒くさいからやらないわけじゃないよ。
一日目は山の開けたところで野営する。新米くんたちの初日からうっそうとした森の中は辛いだろうという判断だ。
ベテランたちがテントの張り方をチェックしてダメ出しをしているのを、ウィオとぼんやり眺める。
『騎士でもああいうのあるの?』
「第一部隊から移動だと野営の経験がないからある」
『みんな元気かな?』
「変わりなくやってるだろう」
ウィオはオルデキアの人たちのことをあんまり心配していないみたいだ。信頼があるのか何にも考えてないのかどっちか分かりづらいな。きっと信頼しているんだと思うことにしよう。
飯にしようという言葉に、オレたちも新米くんが起こした火の周りに移動した。
一緒にご飯を食べると、なんとなく連帯感が生まれる。同じ釜の飯を食うっていう言葉の通り、新米くんももう仲間だ。同じ釜で作ったご飯じゃないけど、そこは言葉の綾ってことで。
「お前ら、よく俺たちに声をかけたな。他にも誘ってほしそうにしていた奴らはたくさんいたが、誰も行動には移さなかったのに」
「契約を交わしていたのを見て、この人たちなら危険はないと思ったんです。断られても困ることはないし」
どういうことだろうと思って首を傾げていたら、説明してくれた。
経験の浅い冒険者に教えてやると言いながら、ただの荷物運びとして扱ったり、ひどいときは置き去りにしたりというたちの悪い冒険者もいるらしい。荷物運びならその料金が支払われるが、指導は無料だ。
新人は身を守るために知り合いの冒険者にしか頼まないし、ベテランも余計なトラブルを避けるために知らない新人には声をかけない。
新米くんたちは一度この山に行ってみたいと思いながらも連れて行ってくれるような知り合いもなく機会がなかったので、この集団なら変なことにはならないだろうと思い切って声をかけたんだそうだ。
そしてベテランたちはなんだかんだと面倒みよく教えてあげてる。
「あの……、もしよければ教えてもらいたいんですが……」
「なんだ」
先輩と後輩って感じでいいなあと見ていたら、ウィオに質問が飛んできた。
この新米くんたち、態度は気弱だけど、けっこう度胸がある。
「貴族の依頼を受けるときに注意することって何ですか?」
「受けるな」
あまりに簡潔な答えに、みんな目が点になってる。
いやいや、そんなバッサリ切っちゃ可哀想よ。ちゃんと説明してあげてよ。
そう思ったのはオレだけじゃなかったようで、ベテランが助け舟を出してくれた。
「貴族の依頼は報酬がいいだろ? なんで受けちゃいけないんだ? オレは礼儀とかが面倒で受けないが」
「貴族は懇意にしている冒険者がいる。その冒険者に任せずにギルドに出している依頼は裏があると思った方がいい」
「普通はお抱えの冒険者にやらせるってことか」
そうだね。ウィオのお父さんも依頼出す冒険者がいるって言ってたよ。
なんでそんなことを知っているかというと、オレのスカーフに珍しい魔物の素材が使われているからだ。その素材を取ってくる依頼をお抱えの冒険者に出したって聞いたから。
そういうお抱えの冒険者に出さずにギルドに依頼を出してるってことは、滅多に手に入らないから広く依頼をかけているか、お抱えの冒険者に断られたか、あるいは冒険者を抱えられないような家だからか。
新米くんじゃその辺りの見極めが難しいから受けないほうがいいっていうのが、ウィオのアドバイスだった。
通訳が必要だよ。
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