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1年目 スフラル編
6. 湖の成り立ち
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昨日はギルドおススメの高級なお宿に泊った。というか、お風呂付の時点で高級になっちゃうから仕方がない。
強引な受付の人じゃなくて他の人に聞いたら、ちゃんと親切に料理の美味しいお宿を教えてくれた。
この街の高級宿は湖の近くにあるので、宿に入るためには水路の小船に乗る必要がある。この船もおしゃれで、仮面のカーニバルが有名な観光地のゴンドラみたい。
馬車は、水路の手前に預かるところがあるので、そこにお馬さんも一緒に預ける。お金を払えばお馬さんのご飯も出してくれるし運動もさせてくれるので、ペットホテルみたいだ。
宿で早めに朝食を済ませて、小船でお城への橋のたもとへと運んでもらった。
お城には大きな橋が架かっている。その橋のたもとには明らかに観光ではない集団がいるので、きっとあれが掃除の人たちだろう。
係の人がギルドカードを確認しているのが見えたので、ここで受付のようだ。
「えーっと、ウィオラスさん、水の上級魔法が使えるとありますが」
「使える」
「では一番奥の一班に行ってください」
できることで班を分けているらしい。
一班には、水色の髪の人が多い。水属性が髪に出ているのだ。でも目まで青色の人はいない。
「あんた、氷か」
「そうだが水も使える」
「今回は楽が出来そうだな」
氷は水の上位属性だから、ウィオは水の魔法も使える。
楽ができるとはどういうことか聞くと、一班の仕事は水の流れを止めることで、その間に他の班がゴミを集めたり泥をかき出したりするらしい。
なるほど。水を止めるなら、ウィオが凍らせてしまえばいい。ただ下手をすると上流で水があふれちゃうから、その辺りは調整が必要だ。
一番上流の水門を閉じちゃえばいいのにと思ったけど、そうすると水路全部の水が止まっちゃうからダメなのかも。
「新顔だが初めてか?」
「受付に勝手に受けさせられた」
「ああ、リールか。あいつは何度もやらかしてるんだが、あんた、もしかしてこの街も初めてか」
「昨日着いたばかりだ」
それを聞いて、周りの冒険者がみんな同情してくれた。後でギルド長に言っておいてやるって言ってくれる人もいる。
でも、お城の中で冒険者に魔法を使わせるなんて、警備として問題ないんだろうか。しかも水路ってお城の中心部には通じてないんだろうか。
と思ったら、当然お城の人たちもそれくらいは考えているようで、作業中はずっと騎士の監視がつくらしい。
「あんた、説明受けてないのか?」
「集合時間と場所しか聞いていない」
周りのみんなが、今度ばかりはあの受付は減俸だなと言ってる。今までも強引に依頼を受けさせて何度も問題になってきたけど、減俸はなかったらしい。
減俸で済むといいねえ。
「ところで、その狐は何ができるんだ?」
「応援と、あとは雪を降らせることができる」
『ヒューーー』
空に向かって雪を吹き出したら、一瞬ぽかんとしてから、すごいなと褒めてくれた。
もっと派手なのを期待してたのかな。でもさすがにここでやると問題になっちゃうから、これくらいで勘弁してね。
「皆、注目してくれ。今日は城の裏の水路の掃除をしてもらうが、これより先は、我々騎士の指示に従うように。従わない場合、最悪命がないと思え」
まあお城だからそうなるよね。ちょっと探検してみたい気持ちはあるけど、大人しくしておこう。
監視の騎士について、いよいよお城に入る。
前の人に続いて歩いていたら、ウィオが止められた。
「その使役獣を決して自由にさせないように。勝手に建物に入った場合は斬るからそのつもりで」
「分かりました」
どうしよう。この依頼、面白がって受けちゃったけど、まずい気がしてきた。
「ルジェ、斬ったりさせないから」
『いや、そうじゃなくて、斬られたりしないからそれは心配してないんだけど、あの騎士さんクビになったりしないよね?』
「……一般的な注意だから大丈夫だろう」
「どうしたんだ? 狐がビビってんのか?」
「いや、問題ない」
オレの言葉はウィオにしか通じないようにしているから、他の人からはアウワウ鳴いているようにしか聞こえない。
前を歩いていた冒険者がオレがビビってウィオに何かを訴えていると思ったようで心配してくれた。ビビってはいるんだけど、理由はちょっと違うんだよねえ。
騎士はお仕事しただけなのに、後から神獣様に何かあったら斬るって言ったってことでクビになったら可哀想だ。
ま、いっか。今更考えてもしょうがない。せっかくだし、お城を楽しもう。
橋を渡って、お城の門を越えるときに、結界を通った感触があった。上手く言えないんだけど、ちょっと空気の濃度の違う層を通り抜けたような感覚だ。
この結界、人が作ったものじゃない。なるほど。
『ウィオ、ここ、神が結界を張ってる』
「今もいらっしゃるのか?」
『いないよ。多分ここの人間も知らないで使ってるんじゃないかな。湖全体に張られているから、魔物がいないのはその影響だね』
この湖自体が、おそらく神の手で作られたものだ。そして、魔物を通さない結界を張った。存在を認識して見てみれば、湖の周りに張られた結界と、その中に残る神気に気づく。
お気に入りの何かをこの湖に住まわせるために作ったんじゃないかな。その何かはもういないけど。
結界は既に役割を終え、いずれ消える。といっても人の時間で言えば遥か未来だ。
それまでは、この美しい水の都は守られるだろう。
この世界にある神の関わったものを探して回るのも面白そうだ。
強引な受付の人じゃなくて他の人に聞いたら、ちゃんと親切に料理の美味しいお宿を教えてくれた。
この街の高級宿は湖の近くにあるので、宿に入るためには水路の小船に乗る必要がある。この船もおしゃれで、仮面のカーニバルが有名な観光地のゴンドラみたい。
馬車は、水路の手前に預かるところがあるので、そこにお馬さんも一緒に預ける。お金を払えばお馬さんのご飯も出してくれるし運動もさせてくれるので、ペットホテルみたいだ。
宿で早めに朝食を済ませて、小船でお城への橋のたもとへと運んでもらった。
お城には大きな橋が架かっている。その橋のたもとには明らかに観光ではない集団がいるので、きっとあれが掃除の人たちだろう。
係の人がギルドカードを確認しているのが見えたので、ここで受付のようだ。
「えーっと、ウィオラスさん、水の上級魔法が使えるとありますが」
「使える」
「では一番奥の一班に行ってください」
できることで班を分けているらしい。
一班には、水色の髪の人が多い。水属性が髪に出ているのだ。でも目まで青色の人はいない。
「あんた、氷か」
「そうだが水も使える」
「今回は楽が出来そうだな」
氷は水の上位属性だから、ウィオは水の魔法も使える。
楽ができるとはどういうことか聞くと、一班の仕事は水の流れを止めることで、その間に他の班がゴミを集めたり泥をかき出したりするらしい。
なるほど。水を止めるなら、ウィオが凍らせてしまえばいい。ただ下手をすると上流で水があふれちゃうから、その辺りは調整が必要だ。
一番上流の水門を閉じちゃえばいいのにと思ったけど、そうすると水路全部の水が止まっちゃうからダメなのかも。
「新顔だが初めてか?」
「受付に勝手に受けさせられた」
「ああ、リールか。あいつは何度もやらかしてるんだが、あんた、もしかしてこの街も初めてか」
「昨日着いたばかりだ」
それを聞いて、周りの冒険者がみんな同情してくれた。後でギルド長に言っておいてやるって言ってくれる人もいる。
でも、お城の中で冒険者に魔法を使わせるなんて、警備として問題ないんだろうか。しかも水路ってお城の中心部には通じてないんだろうか。
と思ったら、当然お城の人たちもそれくらいは考えているようで、作業中はずっと騎士の監視がつくらしい。
「あんた、説明受けてないのか?」
「集合時間と場所しか聞いていない」
周りのみんなが、今度ばかりはあの受付は減俸だなと言ってる。今までも強引に依頼を受けさせて何度も問題になってきたけど、減俸はなかったらしい。
減俸で済むといいねえ。
「ところで、その狐は何ができるんだ?」
「応援と、あとは雪を降らせることができる」
『ヒューーー』
空に向かって雪を吹き出したら、一瞬ぽかんとしてから、すごいなと褒めてくれた。
もっと派手なのを期待してたのかな。でもさすがにここでやると問題になっちゃうから、これくらいで勘弁してね。
「皆、注目してくれ。今日は城の裏の水路の掃除をしてもらうが、これより先は、我々騎士の指示に従うように。従わない場合、最悪命がないと思え」
まあお城だからそうなるよね。ちょっと探検してみたい気持ちはあるけど、大人しくしておこう。
監視の騎士について、いよいよお城に入る。
前の人に続いて歩いていたら、ウィオが止められた。
「その使役獣を決して自由にさせないように。勝手に建物に入った場合は斬るからそのつもりで」
「分かりました」
どうしよう。この依頼、面白がって受けちゃったけど、まずい気がしてきた。
「ルジェ、斬ったりさせないから」
『いや、そうじゃなくて、斬られたりしないからそれは心配してないんだけど、あの騎士さんクビになったりしないよね?』
「……一般的な注意だから大丈夫だろう」
「どうしたんだ? 狐がビビってんのか?」
「いや、問題ない」
オレの言葉はウィオにしか通じないようにしているから、他の人からはアウワウ鳴いているようにしか聞こえない。
前を歩いていた冒険者がオレがビビってウィオに何かを訴えていると思ったようで心配してくれた。ビビってはいるんだけど、理由はちょっと違うんだよねえ。
騎士はお仕事しただけなのに、後から神獣様に何かあったら斬るって言ったってことでクビになったら可哀想だ。
ま、いっか。今更考えてもしょうがない。せっかくだし、お城を楽しもう。
橋を渡って、お城の門を越えるときに、結界を通った感触があった。上手く言えないんだけど、ちょっと空気の濃度の違う層を通り抜けたような感覚だ。
この結界、人が作ったものじゃない。なるほど。
『ウィオ、ここ、神が結界を張ってる』
「今もいらっしゃるのか?」
『いないよ。多分ここの人間も知らないで使ってるんじゃないかな。湖全体に張られているから、魔物がいないのはその影響だね』
この湖自体が、おそらく神の手で作られたものだ。そして、魔物を通さない結界を張った。存在を認識して見てみれば、湖の周りに張られた結界と、その中に残る神気に気づく。
お気に入りの何かをこの湖に住まわせるために作ったんじゃないかな。その何かはもういないけど。
結界は既に役割を終え、いずれ消える。といっても人の時間で言えば遥か未来だ。
それまでは、この美しい水の都は守られるだろう。
この世界にある神の関わったものを探して回るのも面白そうだ。
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